
ただのコンピュータゲーム雑誌以上のゲーム雑誌とは、一体どんなものなのだろうか?それをまさに体現したのが、ゲーム関連の話題をオシャレなアート、ファッション、デジタル文化と交えて紹介するフランスのライフスタイル・マガジン「アミューズメント」だ。本日のPingMagでは、「アミューズメント」の創刊者であり、編集長でもあるアブデル・ブナンさんに、この新感覚の雑誌についてお話をうかがった。
作:ジャン・スノー
訳:山根夏実
アブデルさんは、「アミューズメント」を立ち上げる前は、どういった活動をされていらっしゃったのでしょうか?

現在発売中の「アミューズメント#3」の表紙。
僕はずっとコンピュータゲームやデジタル・エンターテインメント業界一筋できたのですが、2000年、つまり僕が17歳の時に、フランスで共同設立したコンピュータゲームのウェブサイトが大ヒットしたんです。その後、LVMHの一部門が僕たちのサイトを買収して、インターネット・バブルが到来しましたが、このサイトはバブルと共にはじけてしまいました。それから、「ブラスト」「マックス」「テクニカート」「ヌーク」など色々なライフスタイル・マガジンでコンピュータゲームについて書くようになったのですが、その頃から僕のゲームの記事は文化的な視点を取ることが多かったように思います。2004年にはPlayStationのコンサルタントも務めて、その時にARTCADE PlayStationという、写真家やイラストレーターなどのクリエイティブな分野で活躍する人々が、PlayStationに触発された作品を作るためのギャラリーも立ち上げています。その他にも、週に1回はナショナル・パブリック・ラジオの「フランス・カルチャー」という番組のプレゼンターとして、デジタル文化について話しています。
「アミューズメント」はどういった雑誌なのでしょうか?
「アミューズメント」は、第一にインタラクティブ・エンターテインメントについてのライフスタイル・マガジンです。そもそも「ライフスタイル・マガジン」という呼び方自体が、単体では大した意味を持たない言葉なのですが、それでもある特定のタイプの雑誌として特徴づけたかったので、あえてこの言葉を選びました。その特徴というのが、第一に、僕たちが普段はファッションや写真、デザイン雑誌などの、画像に重点を置いた雑誌で活躍する写真家やイラストレーター、クリエイティブ畑の人々と一緒に仕事をしているという点で、これはテクノロジー系の雑誌としては初の試みです。それからトピックに関しても、世界初のゲーム機の開発者、ラルフ・ベアのアシスタントへのインタビューなど、普通のゲーム雑誌とは異なる、独特な視点を採用するようにしています。そして最後に、僕たちが世界的に著名な学者のハンス・ウルリッヒ・オブリストや、ジャーナリストのニューヨーク・タイムスのクライヴ・トンプソン、デザイナー、元セガで現キューエンタテイメントの水口哲也などといったハイレベルな寄稿者を求めているという点もあります。一言でいえば、「アミューズメント」はあらゆる裾野から人を集めて、コンピュータゲームとデジタル・エンターテインメントの極度の多様性を明らかにしようとする雑誌なんです。

この雑誌を創刊しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
僕は、子供時代と10代の頃は完全なオタクでした。それ以降は、なぜかは自分でもよく分からなくて、単なる好奇心からだったと思うのですが、全く違う世界の雑誌、「i-D」「ザ・フェイス」「スリーズネイション」「デイズド・アンド・コンフューズド」など、色々と読むようになりました。それからパルプからル・バロンまで、流行のクラブにも行きましたし、現代アートにも興味を持つようになりました。その結果、僕の一番の情熱であるコンピュータゲームの発明性と、それに対するメディアの扱いには大きな隔たりがあるということに思い至ったのです。ゲーム専門誌を出している会社が事実上1社しかないフランスではそれが特に顕著で、それにしたってどこもたいして代わり映えのしないものしか作っていないんです。

「アミューズメント」のような雑誌を立ち上げる際に、何か直面された問題はありましたか?
本当に新しいプロジェクトに人を集めるのはいつも難しいものですが、一番の難関はこういったプロジェクトのポテンシャルについて、広告主を納得させることでした。端的に言うと、広告主はターゲット層がどこにあるのかが理解できなかったんです。それでも幸いに、最終的には彼らもコンピュータゲームやインタラクティブ・エンターテインメントと共に育ち、その情熱をもっと高い次元で取り上げてくれる雑誌を待望する世代がいることを理解してくれました。

他のゲーム専門誌と比較してどう思われますか?そもそもアブデルさんは「アミューズメント」をゲーム雑誌として捉えていらっしゃるのでしょうか?
僕は「アミューズメント」をゲーム専門誌とは見ていません。なぜなら、僕たちはコンピュータゲームからデジタルアート、オタク度にガジェットまで、インタラクティブ・エンターテインメントのあらゆる領域を探りたいと思っているからです。記事の大部分はコンピュータゲームの話で占められていますが、僕たちはそれを女性誌にとってのファッションとまったく同じやり方で、広義でのライフスタイルを探る上での一つの視点として、そして広告主への刺激として使いたいと思っているんです。
読者層はどんな感じですか?ほとんどがゲーマーか、潜在的にゲームに関心を持っている人々なのでしょうか?
コンピュータゲームや「オタク的な話題」が好きで、それを普通とは少し違った形で、決まりきった枠から外れたやり方で取り上げられるのを見たい方なら、「アミューズメント」を楽しんでいただけるのではないかと思います。

アブデルさんは、ゲーム文化を新しい層に持ち込むことが重要だと思われますか?
コンピュータゲームに対して、例えばあまりにも専門的だったり、一般の人には理解できない言葉を多用したりする、「閉ざされた」アプローチを取るべきではないとは思います。「アミューズメント」の場合、いただいた論評の半分は雑誌を楽しんでくださった女性のジャーナリストからのもので、彼女たちの言葉をそのまま使わせていただけば、「恥ずかしい内容ではないし、普通のゲーム雑誌と比べてはるかに引き込まれた」そうです。これも僕たちの目標の一つですね。
確かに普通のゲーム雑誌と同じようには見えませんね。その原因の一つがファッション系の見開きだと思うのですが、この雑誌のアート・ディレクションはどうやって決められたのでしょうか?
アート・ディレクションは、ここ数年M/M (Paris)という非常に有名なグラフィック・エージェンシーと仕事をしてきて、高級ファッション雑誌からもインスピレーションを得ているアリス・リッシャーが率いています。事実、「アミューズメント」の#2と#3ではファッションの見開きがありましたが、今後はスタイルを忘れることなく、もっとデジタルの世界に近い写真を掲載したいと思っています。美しい写真を作りたいというのが僕たちの希望ですが、それを実現するに当たってスタイルは本当に大事ですからね。

裾野を広げるためには、あまりゲーム的ではない、むしろアート寄りの美学を提供することが重要だと思われますか?
どちらも重要だと思います。たとえば、僕たちもドット絵にインスピレーションを得たロゴを作ることもできましたが、それに何の意味があるでしょうか?「アミューズメント」はコンピュータゲームだけを扱った雑誌ではないし、ましてやレトロゲームの占める割合はさらに少ない。あとは「未来的」な書体を使うこともできましたが、未来について語る雑誌ではないし、むしろ現在について語っています。だって未来は今ここから始まるものですから!それで僕たちは、広範な分野やトピックをカバーできるように、特定のテーマに結びついていないアート・ディレクションを使っているんです。「アミューズメント」という名前も同じで、非常に総合的な言葉を選んでいます。なぜなら、僕たちは結局の所、21世紀の「アミューズメント」を探りたいのであって、それが現在はインタラクティブな形で行われているというだけなのです。
アートとゲームをミックスさせることについてはどう思われますか?もっとそうあるべきだと考えていらっしゃるのでしょうか。
そういったことは今でも沢山ありますし、僕自身もそこから生まれてくるものに驚かされっぱなしです。僕たちが今見ているものは、コンピュータゲームと双方向性の世界をリミックスし、切り刻んで問いかける、全く新しい世代のアーティストです。それでもこの動きはまだ現代アート市場に食い込んでいるとは言えません。そのことについては、有名なデジタル・アーティストで友人のミルトス・マネタスとも話したのですが、二人ともそのほうが自由があって、実験もできて、無意識にでもアート作品のバイヤーやディーラーに適応しないで済むから幸いかもしれないという結論にいたりました。

出版業界は、今世界中で苦戦を強いられているようですが、「アミューズメント」はいかがですか?
僕たちは二つの理由から結構うまくやっています。一つは、僕たちが販売ルートに乗せる雑誌の50%近くを売っているということ。これはメディア業界ではとても大きな数字です。そしてもう一つは、広告主も今ではこの雑誌のコンセプトを理解してくれているようだということです。また、僕たちは雑誌のために特定の広告を作るので、広告主との仕事のやり方もとても特殊なものです。そういった意味では、僕たちはむしろ先方の気に入ったコンセプトを練る、クリエイティブなエージェンシーに近いともいえます。

良い「アミューズメント」の記事のとはどういったものでしょうか?
今まで見たことのない、とても限定的な視点と大きな個性を持っていて、新しいトレンドについて今まで問われたことのない疑問を持ったものでしょうか。一つの記事でこの条件をすべて満たすことはできませんが、いつか実現させたい僕の理想ですね!
雑誌の寄稿者を探す時、その人が実際にゲームをするかどうかは後で聞くのでしょうか?それとも最初からゲームが好きだと知っている人にアプローチされているのでしょうか?
そこらは段階を経てやっています。僕たちは、まず僕たちが気に入った仕事をする人と一緒に仕事をしたいと考えます。それからその人と会ってみて、その人がコンピュータゲームを知っていれば一緒にコンセプトを考えられるから最高だし、そうでなければ僕たちからメインのアイディアを提示して、僕たちが作りたいと思っている芸術性と美学について話し合います。

これまでにまだ雑誌でできていないことで、これからやりたいと思っていることはありますか?たとえば特定のタイプの記事とか…。
そうですね、もっとデジタルアートやインタラクティブ・デザイン、ガジェットやオタク文化についてもっと話したいと思っています。これからの号で実現できるでしょう。
最新号の#3ではどういった内容を扱っていらっしゃるのですか?

編集長のアブデル・ブナンさん。
僕自身は、ソニー・コンピュータエンタテインメントのCEOである平井一夫氏のインタビューを特に気に入っています。その他にも、ピーター・モリニューや世界最高峰のSF作家の一人、マイケル・ムアコックとの長い会談、世界初のゲーム機を開発したラルフ・ベアの助手のデビッド・ウィンター、特殊効果の神と呼ばれ、滅多にインタビューに応じないミシェル・ゴンドリーの話など、とても盛りだくさんです。あとはきれいな写真を扱ったシリーズもありますし、本当に幅広い分野の記事に出会えるはずです!
「アミューズメント」の今後のご予定は?
「アミューズメント」は2009年に英語版を作って、アメリカとイギリスでも販売される予定です。それからiPhoneのためのゲームや、フランスの現代アート美術館の雑誌も制作しているところです。
アブデル・ブナンさん、今日は素敵な雑誌の紹介をありがとうございました。これからの「アミューズメント」を楽しみにさせていただきます!
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日本のアニメ、ゲーム雑誌でファッションを取り上げていたりするのは目にしますが、ライフスタイルという言葉からしてアプローチが全く違いますね。
ある意味では保守的(VOGUEな感じ?)なんでしょうけど、映像文化に対してとても肯定的だしモダンで、クリエイティブ。
Posted by: 斉藤 @ 12月23日2008年