外国人デザイナーとして日本で仕事をするには

2008年11月28日 カテゴリー: 国内

外国人デザイナーとして日本で仕事をするには

パリッサ・ハギリアンさんの上智大学の講義では、学生達に日本拠点の海外企業に取材させ、彼らが日本で遭遇した様々な問題点や誤解についての話を集めさせた。ドイツ人イラストレーターのオダ・ルテが挿絵を付けた学生のクリスティーナ・ライトさんはその逆で、米国での撮影に四苦八苦する日本人ライターのリョウコさんのお話。そもそもアメリカ人はなんでこんなに時間にルーズなの!?

少し前に、私達は外国人が東京で会社を始めることについてをご紹介したが、本日は同じ問題をリサーチャーの視点からお伝えしたい。オーストリア出身のパリッサ・ハギリアンさんは上智大学国際教養学部の准教授としてだけでなく、慶応義塾大学大学院を含む様々な場で教鞭を執り、これまでにも日本でのビジネスチャンスについて数々の発表を行っている。そしてそんな彼女の最新の発表が、このたびドイツのみで出版された「Markteintritt in Japan(日本市場への参入)」。PingMagは上智大学でパリッサさんにお会いして、デザイナーがプロダクトを日本に持ち込むにはどうすればいいのか、外国人が上手に日本で仕事をする方法、そして海外の人間が日本で遭遇する数々の根本的な価値観の違いなどについてのアドバイスをうかがった。皆さんが想像するようなお約束的なものは除外したと思うのだけれど…。

作:ベレーナ
訳:山根夏実

パリッサさん、まずは日本市場への参入について記されたご自身の本について、もう一度簡単な説明をお願いできますか?

この本は、来日して日本で身を立てようとした私自身の経験を基に書かれた本です。私は中小企業がいかに日本市場に参入するかについてのリサーチプロジェクトや、日本人経営者がドイツ人経営者をどう思っているか、ドイツ人経営者が日本人経営者をどう思っているか、そして彼らがどうやって協力しあうかについての国際的な調査に携わってきました。要するに、私は人々がいかに日本に行くことを決断するか、起業する時にどういったことが起こるのか、日本でのパートナーをどうやって見つけるかなどの、市場参入におけるあらゆるフェーズと、彼らがそれぞれの段階で遭遇する様々な問題について調べたのです。でもほとんどの人は、日本市場に参入する際に、最初から明確な戦略といえるものを持っていないのですよ…。

学生のクリスティーナ・ライトさんの物語のために描かれたイラスト。クリスティーナさんが取材を通してまとめた話は以下の通り…。1a. 日本人ライターのリョウコさんは、普段国内で仕事をするときに、コンセプトの準備に始まりロケーションの確認、スタッフの手配などの撮影の計画を何か月も前から始めている。(Illustration by Oda Ruthe)

たとえば、もし私が日本に作品を売り込みたいプロダクト・デザイナーだとしたら、まず何から始めればいいのでしょうか?

それには様々なステージがあります。もしあなたが自国ですでに確立された会社を持っているのであれば、通常は日本でのパートナーを探します。従来であれば、これは日本の貿易会社です。しかし10年前とくらべて、今は貿易会社のパートナーを見つけるのは容易ではありません。その結果ほとんどの問題はパートナーを見つける時点で、たとえばそのパートナーとなる企業と交渉したり、情報を集めたりするときに起こることになります。よくあるケースが、パートナー側から数えきれないほどの質問を、しかも日本でのビジネスとはあまり関係のない疑問をぶつけられることなのですが、この段階が市場参入の一番難しいフェーズで、半数近いプロジェクトが頓挫するのもこの段階なんです。

1b. リョウコさんは、すべてが完璧に進行するように、入国許可から移動、舞台や小道具、執筆と編集に撮影中のトイレ休憩まで、あらゆることを入念に企画するように教育を受けてきた。(Illustration by Oda Ruthe)

もしそれが私一人の会社で、私自身が日本国外にいる場合はどうなるのでしょうか?

その場合は、現地ですでに生活している人、たとえば学生や英語教師をしている人を探すと良いのではないかと思います。その人物に一週間のうちの1日、2日を、プロダクトを日本国内に紹介したり、人脈を築いたりするのに使ってもらうのです。もしあなたが国内にいないのであれば、市場に商品を持ち込むにあたって、これは本当に低コストで簡単なやり方です。

1c. リョウコさんが一回の撮影につぎ込む仕事量は信じられないもの。その結果、各自が自分の仕事をしっかりと把握し、国内の仕事ではスケジュールを遅らせるような事態は一切発生しないのだ!(Illustration by Oda Ruthe)

では日本で働きたいと考えているファッション・デザイナーやウェブ・デザイナーはどうでしょうか?スポンサーを見つけてビザを取得するにはどうしたらいいのでしょうか?

日本に入国する場合は、スポンサーとなる企業を持つか起業家ビザを取得しなければいけないのですが、前者は本当に必要とされているスキルを持っていないと難しいですし、後者は日本で会社を興して利益を出していることを証明して、従業員も最低2人雇用しなければならないので、さらに条件が厳しくなります。しかし一番簡単な方法は、日本に来て、英語教師などのよくある仕事に就いて、その余暇に自分の仕事の売り込みをしていくことです。私も日本の様々な分野で起業した外国人にインタビューしてきましたが、彼らもみんな英語教師やどこかの会社のフルタイムかパートタイムの社員から始めて、それから起業しています。中には7年間も普通の仕事をこなして、ようやく自分の会社を興す機会に恵まれた人もいます。でも通常は2年ですね。

2. しかしLAでの米国人コーディネーターとの仕事は、日本とは全てが違った。現地入りすると、空港で待っているはずのコーディネーターの姿はなく、携帯電話を受け取るためだけに4回も話し合いが行われた時点で、リョウコさんはかなり困難な状況にあることに気付く。コーディネーターは道が混んでいたからだと説明するが、リョウコさんにはすでに30分以上遅れが出ていることが信じらない…。(Illustration by Oda Ruthe)

忍耐も必要なのですね!そういった最初の問題に加えて言葉の壁の問題、そして自分で部屋を借りることができるかといった問題もありますしね…。

マンションやアパートを借りるにはまず保証人が必要な上に、家賃も本当に高いんです。入居する前に5、6ヶ月分の家賃を敷金として入れなければなりませんから。そういった点を差し引いても、結構多くの人が必ずしも東京で始める必要はないということには思い至らないようです。東京は競争が激しいですし、物価も一番高くて、始めるにはもっとも難しい場所です。東京から千キロ離れた大阪か、もしくは福岡のほうが、ずっと穏やかな場所ですね。そちらに居を構えて、デザインの良いアイディアを出していけば、色々な人と繋がりを持つのもずっと楽だと思います。

3. さらに、米国人コーディネーターは、夕食の予約も入れておらず、リョウコさんが1ヶ月以上も前にファックスしたスケジュールにも「あまり目を通していない」と言う。リョウコさんはパニック寸前!その晩、撮影前の最後のディナーをファーストフード店で取った後、すぐに翌日の打ち合わせをするつもりのリョウコさんだったが、現地スタッフから「ゆっくり休んで」と言われてしまう。(Illustration by Oda Ruthe)

それは本当にそうですね。ですがその一方で、東京には素晴らしい外国人デザイナーのネットワークがあると思うのですが。

そうですね、それでも競争の激しさにはいかんともしがたいものがあります。もっと小さな町に行けば、そういったことをやっている唯一の外国人というだけで知名度が上がります。東京は非常に競争の激しい街で、クリエイティブなお仕事をされている方には特に厳しい場所です。日本のあらゆるビジネスのハブ的な存在であるだけに、チャンスもたくさんありますが、大抵の人はまず生活するための仕事を見つけて、それから徐々にクリエイティブな分野でのキャリアを積んでいかなければならないでしょう。それには1年か2年かかるかもしれません。日本の企業はお互いの関係を非常に重視するので、若手のデザイナーが正しい人脈を作って、自分のアイディアで食べていけるようになるには少し時間がかかるのです。

4. 全てが行き当たりばったりの状況に、リョウコさんはショックを隠せない。いよいよ海岸で撮影を始めると、今度は警察に中断を求められた。プライベートビーチの使用許可を取っていなかった為、住民が警察を呼んだらしい。リョウコさんはもはや怒りでいっぱい!無責任なコーディネーターのせいで、彼女の時間とプライドは滅茶苦茶だ。日本ならこんなことは絶対にないのに!ところが、コーディネーターは近くの家を訪ね、その家の所有するビーチで撮影させてもらえないかと聞いた。住人は快諾し、問題は解決した…。(Illustration by Oda Ruthe)

確かに理にかなっていますね!さて、実際に日本のエージェンシーで仕事をすることになった場合、欧米の企業とは社内の構成が少しばかり違うことがあるそうですが、それについて詳しく聞かせてください!

それは日本の経営陣のお話ですか?私は日本の経営陣の視点は欧米スタイルのそれとは相当違うと思いますね。ご存知のように日本社会は集団志向が非常に強く、故に日本のチームの一員として仕事をするということは、まずグループ全体のことを第一に考えて、個人の要望はその次に考えなければなりません。ですから人々の行動は非常にグループ重視となります。まず人と同じ行動をして、それに対しても全力で当たります。あとはグループ内で起こることにはあまり疑問を抱かないこと。これは、欧米人にとってはかなりの難題かもしれません。

5. これはリョウコさんのやり方ではなかったが、それでも感心せざるをえなかった。見ず知らずの人の家に行き、その上警察に逆らうとは、想像もつかないことだったが、コーディネーターの迅速で毅然とした対応は見事だと思った。リョウコさんは、「私なら気おくれしてできなかったと思います」と感想を述べたそう。とにかく一件落着!(Illustration by Oda Ruthe)

一番大きな違いは意思決定にあると思います。日本のチームは、よくアイディアについて協議します。たとえば、誰かが新しいアイディアを出した場合、それをチームメンバーが全員で協議します。結果、アイディアは改良されて、グループ全体のアイディアとなり、メンバー全員が関わることになるので、グループ心理によってモチベーションも上がります。こういったグループ作業の場合、時間はかかりますが、最終的にはそのアイディアを最初から育ててきたグループの全員がそのアイディアを支持することになります。故に日本のグループはアイディアの実践においては非常に有能なのです。

日本のグループはいくつかの特徴が有名で、例えば一度メンバーになってしまえば、そのグループはその人に対して非常に献身的であることが知られています。でも早く辞めてしまうのは良くないことだとされています。要するに、日本の企業は、今でも継続して、もしくは一生続けてくれる人を好むのです。外国人は2年ほどを目安にしているので、これが日本で仕事を探す上での大きな問題でもあります。日本の企業では、そういった人材は求められていないんです。

それはどういうことなのでしょうか?

日本の企業では人材にかなりの責任を与えて、その人を取り巻く形で会社を作っていくことに積極的なので、「新しい仕事を見つけたので辞めます、お世話になりました!」なんて言った日には、長期的な展望も台無しになり、最悪です。それ故に、日本のグループの一員となるのも容易ではなく、去るのもまた難しいのです。グループ内においては、非常に強い上下関係も存在していて、長くいる者ほど高い位置にいます。それに加えてプロセス志向も強くて、誰もが与えられた仕事をこなすことに重点を置きますから、一人でそのプロセス自体を向上させることはできないのです!

西洋人には、それはかなり厳しいかもしれませんね…。

西洋人にとっては、プロセスを向上しようと思ったら全員を巻き込むしかないので、かなり大変なことだと思います。その上、実際に行動に移るまでの協議もまた長いのです。一人だけ輪の外に出て、「これは僕が一人でやったほうがうまくいくから、勝手にやらせてもらうね!」というわけにはいかないのです。ですがそのおかげで、日本の会社では支配と呼べるものは殆どありません。大抵の場合、社員はいつも一緒にいて、お互いのすることを見ているので、会社がコントロールして何かをさせることはまずないのです。西洋人にしてみれば、これは本当に自由な環境に聞こえますが、だからといって自分のやりたいことをやったり、好きなように振舞ったりしていいわけではなく、特にクリエイティブな分野の人にとっては難しいと感じるかもしれません。そういった職場で働く人は、会社のワークフローに積極的に馴染まなければなりません。最初はこれがものすごく難しいんですよ!

また、日本の人々は仕事にとても熱心です。プライベートな生活と仕事との境界線もあまりはっきりとは分かれていないので、職場の人間同士がお互いのことをかなりよく知るようになり、多くのプライベートな時間を会社のためにつぎ込むことを期待するようになります。ですから同僚と飲みに行き、週末も彼らと顔を合わせたり、できるだけ長く会社にいることを余儀なくされるのです。

でもすべての企業がそうとは限らないのでは…?

日本の会社では、作業の多くがそういった考えを基にしています。ですから仕事のあとの飲み会に行かなければ、情報の半分は耳に入ってきません。日本のオフィスでうまく行っていないという外国人と話してみると、妻や夫が家で待っているから5時、6時か7時にまっすぐ家に帰るという人がほとんどです。ですが1週間に1度でいいから職場の同僚と飲みに出れば、状況はまったく変わって、大抵はうまく行くのです。こういった非公式の席ではあまりにも多くの情報がやりとりされているので、それを知らない人はいつか大変なことになります。ですから日本人の口が重いという態度は、職場を一歩出てしまえば大違いだと思いますよ。

従来の日本企業にはそういったことが当てはまるかもしれませんが、メディア業界や広告代理店などではあまりそういうこともないのでは…?

私はそうは思いませんね。もちろんメディアや広告業界は新しいアイディアを積極的に実践していくことで有名ですし、彼らのデザインの仕方には自由度の高い、よりオープンで、ある意味クリエイティブなアイディアが溢れているかもしれません。ですが日本の大手のデザイン会社や広告代理店に一般的な企業と同じような上下関係がないとは思えません。私自身、日本のテレビ業界で、テレビ朝日に勤めていたことがありますが、事実そこでも強い上限関係がありました。


東京の上智大学の準教授、パリッサ・ハギリアンさん。

日本市場に参入するに当たって、その他に大事だと思われることはありますか?

最初は日本の職場環境を難しいと感じられるとかもしれませんが、それを上回る最大の難関は消費者期待です。日本の消費者はもっとも豊かであるだけでなく、もっとも洗練された消費者でもありますから、大抵の欧米の企業は品質とサービスのスタンダードを日本の消費者期待に合わせることを余儀なくされます。これはクリエイティブ業界でもまったく同じです。納品の遅れ、商品の欠陥や品質の低さは全く受け入れられないのです。

サービスがすべてなのですね!パリッサさん、本日は海外から来るデザイナーのための貴重なお話をありがとうございました!

そして親愛なる読者の皆さん、この2年間、PingMagの編集者として務めさせていただきましたが、この記事が私の(ほぼ)最後のものとなります!来年からは編集者としてドイツのデザイン雑誌を盛りたてていくこととなりました。Facebookなどのネットワークは継続していますので、見かけた方は気軽に声をかけてくださいね…。それでは皆さん、本当にありがとうございました、良い夜を!ベレーナ・ダウアラー

3 コメント

  1. 昔、大塚製薬のロゴをシュミットさんだったかドイツの方がされてたのを思い出しました。

    Ich habe viel spaB gehabt.
    Gute Reise.

    Posted by: 山本 @ 11月29日2008年

  2. [...] Interview in Japanese [...]

    Posted by: Parissa Haghirian » Blog Archive » Parissa on Pingmag @ 11月30日2008年

  3. [...] Interview Pingmag in Japanese [...]

    Posted by: Parissa`s New Interviews « Parissa Haghirian @ 5月27日2009年

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