シュリンキング・ニッポン:縮小する都市の未来戦略

2008年10月31日 カテゴリー: 国内, 建築, 環境・福祉デザイン

シュリンキング・ニッポン:縮小する都市の未来戦略

ゴーストタウンの風景。秋田県にある大館市では、2001年に主要なデパートが閉館した後に多くの商店も廃業に追い込まれ、シャッター商店街の名で知られることとなった。その後始動した「0 DATE(ゼロダテ)」プロジェクトでは、人々が空き店舗を復活させようと、シャッターの裏にあるものに目を向け始めている。こちらは廃業した椅子店の中。(写真:Masato Nakamura、鹿島出版会発行「シュリンキング・ニッポン」より。)

少子高齢化、縮小する地方都市、そして何よりも昨年の社保庁の年金問題の煽りを受けて減少する政府予算….。都市計画において、日本は多くの問題に直面している。以前PingMagでは、東京を巡回して縮小する人口に焦点を当てた「縮小する都市展」をご紹介したが、2005年に未来の日本の戦略を提示したファイバーシティ構想を発表した東京大学の大野秀敏教授もそのプロジェクトに名を連ねていた一人だ。本日のPingMagでは、先日その続報ともいえる構想集、「シュリンキング・ニッポン」を鹿島出版会から出版された大野教授に日本の都市設計についてお話をうかがった。

作:ベレーナ
訳:山根夏実

大野教授のファイバーシティ2050は、東京が直面する人口の減少と高齢化とそれに見合った都市構想に焦点を当てたプロジェクトでしたが、3年を経て発表されたシュリンキング・ニッポンは、その続編的な内容だと考えてよろしいのでしょうか?そもそもこのプロジェクトはどうやって始まったのですか?

2007年に秋葉原で3週間の展示(昨年の展示の詳細はこちら)を行った際に、週末ごとに2、3人の講師を招待して小さなシンポジウムを開催したのですが、そのカンファレンスの成果のまとめと、私たちのファイバーシティ構想への新たな解釈を本として出版すべきだと思ったのがきっかけです。その他にも、私たちの構想をLinuxコンピュータシステムのように拡張したいという考えもありました。MACとWindowsは企業に独占されていますが、Linuxはオープンソースのシェアウェアなので、人々が集合的な力で拡張・改良することができます。シュリンキング・ニッポンは、シンポジウム中にこの議論を人々と共有したかったので、そういった目的を念頭に置いて作られています。

1950年から2050年までの日本社会の変遷を表した、2枚の人口統計図。いずれも少子高齢化が進むことによって、70歳代を主体とした国になることを示している。シュリンキング・ニッポンより、鹿島出版会発行。

この本の第二部がカンファレンスの成果をまとめたものになっているのですね。こちらの戦略には、アトリエ・ワンの塚本由晴氏によるコンセプトや吉祥寺のプロジェクト、そしてアーティスト集団Kandadaアート・スペースのものなどがありますが、それについて詳しく教えてくださいますか?

目次をご覧になればわかると思いますが、この本は私が縮小の段階を生き抜くのに必要だと考えている、郊外、住宅と家族、自然を楽しむ訓練、ストック型思考、そして都市を遊ぶの5つのカテゴリーに分かれています。ファイバーシティですでに説明したように、郊外は高齢化社会によって縮小段階にあります。社会が彼らを支えられない以上、高齢者も働くというのも一つの戦略です。おそらく日本は近いうちに世界でもっとも高齢者の多い国となり、現在と同じレベルで運営が続けば、国民年金はほぼ破綻状態になるものと思われます。年金支給額が引き下げられれば、高齢者は自分でお金を稼がなければなりません。これが郊外がもっとも変化せざるをえない理由です。

秋田県大館市の商店街。2001年に一番大きなデパートが閉店した時に、商店の4分の3も廃業に追い込まれた結果、大館は「シャッター商店街」として知られることとなった。(写真:Masato Nakamura、鹿島出版会発行「シュリンキング・ニッポン」より。)

その次が家族です。現在の日本では、核家族と呼ばれるタイプが最大の割合を占めていますが、近い将来には高齢者だけでなく、若い人も含む独身世帯がもっとも大きな割合を占めることになります。そのもう少し後には、結婚や離婚を経てシングル家庭が一般的になります。そのせいで、これからの20年、30年は、人口は減少しても世帯数は増加の一途を辿ります。同時にこれはシングル家庭が地域の支援を必要としていることを意味します。そこで公共と政府がシングル家庭を支援するということになりますが、それも公共予算の不足によって実現できないでしょう。

第3章は自然の不足と、いかに人々が都市に緑が必要だと常に話しているかについてです。政府はいつもロンドンのような海外都市と緑地帯の割合の指数を比較していますが、将来的には人口が減少して、東京にもたくさんの空き地ができます!

先ほどの郊外に一旦話を戻しますが、私たちは生きている限り働くという風に考えていかなければならないのでしょうか?

2050年には、日本の総人口の40%は65歳以上で占められます。これは現在の割合の倍です。ですから高齢者を雇用しなければ、日本の産業はおそらく崩壊するでしょう。こういった人々を第一線に留め置いて、鍵となる住宅問題にも対応していけば、高齢者も定年を過ぎてから長く働けると思います。もちろん現役の若い人と同じスタイルでは働けませんから、そこは変えていかなければなりませんが、そうしなければこの国の経済は現在の繁栄を維持することはできないのです。

1955年から2035年までの人口量を面積化した日本地図。1955年には5%だった高齢化率が、2035年にはすでに3分の1にまで膨れ上がっていると予想される。また1955年には人口の40%が主要3都市に集中していたが、2035年には60%近くが3大都市圏に移り住むものと予想されている。

なるほど、外国からの労働者を雇うだけでは足りないのですね。では日本の都市構造に話を戻しましょう。世界の他の都市では、人々は郊外に移り住んで、都市の中心部から離れていっているようですが、東京は違うみたいですね…。

東京では、現在その逆の動きが起こっています。都市住宅がこれほど多い理由の一つに、お金のある若い夫婦が挙げられます。もう一つの理由は子供が独立した後の熟年夫婦で、こちらは子供が家を出た後に郊外の家を空けて、都心の小さな家に移り住むケースです。ですから地方都市は縮小し、人口と産業の半分をなくして、自治体はここでもまた破綻するのです。

シュリンキング・ニッポンでは、まるまる1章と付属のDVDのビデオリポートが北海道の函館市に割かれていますよね。これは函館が、大都市に移住する人々の数が特に顕著な街であるということでしょうか?

実は函館を選んだのは、縮小する都市のフィリップ・オズワルド氏なのです。函館、新潟、そして北九州市の門司区はどれも象徴的な町で、いずれも港町で、二次大戦前までは栄えていた場所です。それというのも、当時の日本は朝鮮や中国などのたくさんの植民地を持っていて、それ故に多くの経済活動があったのです。占領が終わると同時に港町の繁栄も終わりましたが、将来の日本は、昔植民地だった国々と新たな関係を築いているでしょう。たとえば、ロシアのハバロフスク満州北部の都市には、日本人用のコールセンターがたくさんあります。これはインドにアメリカ人用のコールセンターがあるのと同じことで、これが日本海を隔てた新しい繋がりなのです。

こちらもゴーストタウンとなった大館市の様子。「0DATE(ゼロダテ)」プロジェクトの一環として、空き店舗を復活させようとする人々。ここでは店舗の入り口を塞いでいた木の格子を外す作業が行われている。(写真:Masato Nakamura、鹿島出版会発行「シュリンキング・ニッポン」より。)

それは面白いですね!では再度、住宅に話を戻していただいて、日本の建築はそちらの方面ではかなり特殊なのだそうですね。その点についてご説明いただけますか?

第4章のストック型思考はファイバーシティでも触れたことについてなのですが、日本の建築は30年から35年という、世界でもっとも短い寿命を持っています。これは日本人の世界一長い寿命とは対照的です。しかし資源の不足や予算の減少を考慮すると、今後は今までよりも長く使える、よりパフォーマンスの高い建築物でなければなりません。

確かにその通りですね。私たちが東京の建築で驚いたことは、ここでは他の都市にはありえない、かなり突拍子もない建築が実現されているということでした…。

その理由の一つには、こちらでは西洋の国々ほど都市規制が厳しくないという点が挙げられると思います。その他にも、形に関してはクライアントが寛大だったり、そういったユニークな形の家やオフィスを欲しがる人がいるのかもしれません。私はよくレクチャーで建築を衣装にたとえるのですが、衣装には二つの役割があって、そのうちの片方は社会的な役割、もう片方は個人的な役割です。

社会的な役割というのは、たとえばビジネスマンがスーツとネクタイを着用するようなもので、国際的にもこれが信頼できるビジネスマンを表した伝統的な衣装です。個人的な役割は、自分の趣味や姿勢などを表すことです。古代においては、一般的に多くの文明で、衣装の社会的な役割が個人的な役割を上回っていたために、人々は自分の衣装を自由に選ぶことはできませんでした。現代の社会では、人々はその習慣から解放されています。ところが家に関して言えば、欧州では今でも家の外見は社会的な役割を持っています。あちらでは住宅は社会に属するものであって、所有者の個人的な趣味を表現するものとは考えられていないのです。なぜなら家が所有者よりも長くもった場合、その家は自分以外の別の誰かに所有されることになるからです。しかしそういったことは、寿命の短い日本の住宅には関係ありません。なぜなら30年という年数はあちらよりもはるかに短くて、人は人生に2回は家を建てるからです。これが表現形式の違いですね。

秋田県大館市の商店街。活気があるとは言いがたいようだ…。(写真:Masato Nakamura、鹿島出版会発行「シュリンキング・ニッポン」より。)

将来的に都市計画をする上で、そこからどんなことを学べますか?

私の主張は、未来を現在の状況に結び付けなければいけないということです。私たちが普段理想的なシチュエーションについて語る時、それは現状とは違う状況を意味しますから、理想とは常に現状の否定なのです。ですがこの国では特に、未来を現在と関連付けるべきです。その最たる論拠が、古くからある橋が首都高速に覆われてしまっている日本橋問題でしょう。小泉元首相は、橋の歴史的な価値を守るために首都高速を地下へ通すことを提案しましたが、私はこの案には懐疑的です。なぜなら現在の日本橋も、明治時代に架けられた時は、当時の街並みにそぐわない要素だったからです。明治時代には、通りにはまだ伝統的な黒い町家が軒を連ねていて、そういった意味では日本橋も異質なものだったのです。

北部の町、大館市の空き店舗をもう一枚。(写真:Masato Nakamura、鹿島出版会発行「シュリンキング・ニッポン」より。)

ですが後に首都高速が古い橋を覆い隠すように建設された時[1960年代]に、同じ議論が持ち上がりました。首都高速が完成した時は、それが日本の技術の象徴だと称えられましたが、その30年後には、昔伝統的な街並みを破壊した橋が称えられて、高速道路が非難されたのです。首都高速は、建設業界を活性化させるために地下に通されるのだと思います。私はよく日本人は「親の仕事をないがしろにして祖父の仕事を称える」というのですが、明治時代の人々が江戸時代を批判し、大正時代の人々が明治時代を批判したのもまさにそれです。

都市設計家は、小泉元首相に首都高速の移動を提案して、日本人は歴史的な記念物に対する敬意が足りないと言っています。問題は、古い構造物を壊すということは、先達から受け継いでいくものが何もないということです。そして父親の仕事をないがしろにすれば、祖父の仕事も残りません。なぜなら、自分の息子の代には父親の仕事が祖父の仕事になっているのです。これが歴史的な摩擦ですね。ですから、私としては橋と高速道路のどちらもが文化遺産であり、橋は積極的に西洋のものを導入した明治時代を象徴し、高速道路は利便性を象徴する建設の時代のものであると考えています。

それは本当に興味深いですね!東京では古い建造物はあまり残っていないので尚更に…。大野秀敏教授、今日はシュリンキング・ニッポンのお話をありがとうございました!

【お知らせ】
DVD付き書籍「シュリンキング・ニッポン」は、現時点では日本語で発売されていますが、日本におけるケーススタディ「縮小する都市」は英語のみで入手できます。

26 コメント

  1. 「シュリンキング・ニッポン」とは何とも何とも寂しいタイトルですね
    私の住む地方都市も有名な「シャッター街」を持つ町として有名なところなので このテの話には反応してしまいます
    日本の建築は30年から35年という、「世界でもっとも短い寿命を持っている」というのはショッキングな話で それは伝統的な日本建築の寿命はどうであったかも含めて掘り下げたいところです
    日本ではスクラップ&ビルドが当たり前な気風がありますがイタリアみたいなちょっと地下を掘ればジャカスカ遺跡が出てきてしまう土地柄では日本みたいなスクラップ&ビルドが羨ましいというような意見もあるようですね
    もし「日本の建築は紙と木で出来ている」という価値が短い建築寿命を当然としているなら戦略の変更を徹底させる必要があるのかもしれないですね

    Posted by: 匿名 @ 11月2日2008年

  2. [...] PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » シュリン

    Posted by: Like a Merlion » TODIE Tumbl-Run! @ 1月14日2009年

  3. [...] シュリンキング・ニッポン:縮小する都市の未来戦略 [Link] [...]

    Posted by: 物語を届けるしごと | yousakana blog - シュリンキング・ニッポン:縮小する都市の未来戦略 – Shrinking Nippon: Strategies For A Future Japan | PingMag @ 3月2日2011年

  4. 日本ではスクラップ&ビルドが当たり前な気風がありますがイタリアみたいなちょっと地下を掘ればジャカスカ遺跡が出てきてしまう土地柄では日本みたいなスクラップ&ビルドが羨ましいというような意見もあるようですね
    もし「日本の建築は紙と木で出来ている」という価値が短い建築寿命を当然としているなら戦略の変更を徹底させる必要があるのかもしれないですね

    Posted by: 山本 @ 3月28日2011年

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  7.  これから東京の住むであろう単独住居者(特に高齢者)の人々を地方へ行ってもらえるような地方の都市づくりや東京の都市の在り方を変えていかなければならないと思います。
     東京での生活は確かに快適です。家の近くにはコンビニとかスーパーとか・・・スポーツジムや銭湯(最近は少ないけど)とか・・・おそらく、東京に移り住む人たちの多くはそのような快適な暮らしを求めて移住するのではないでしょうか。

    しかし、快適さってそのような利便性のような指標だけではないはずです。いくらそのような利便性を得られたとしても、記事に書いていた都心での住宅の孤立化は、必ずその快適さを妨げる要因になると思います。
     そのような事態になる前に、地方で人々が集まって住み、そこで新たなビジネスができたりとか、地方や東京の在り方(アイデアがない)を変えていかなければならないと思います。

    Posted by: かなかなかな @ 5月30日2011年

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