モーリッツ・ウォルドメイヤー:LEDの匠

2008年9月19日 カテゴリー: テクノロジー

モーリッツ・ウォルドメイヤー:LEDの匠

これは…まさに究極の未来派キッチン!モーリッツと建築家ザハ・ハディッドのコラボレーション「Zアイランド」はデュポン社のコーリアン(熱硬化性プラスチック)で作られた半透明のタッチセンサー式のキッチンパネルにマルチメディア機能、LEDとサウンド・アクチュエータにアロマ機能まで備えた、ネットサーフィンをしながらお料理できるキッチン。この他にまだ必要な機能なんてある?

ロンドンを拠点とする発明家とデザイナー、モーリッツ・ウォルドメイヤーは、大量のLEDを使ってデザインと技術を融合させる真の名人である。このドイツ生まれの熟練のデザイナーの作品は、ファッション、ゲーム、家具、宝飾、照明や運送業界などで創造性を発揮しており、これまでにロン・アラッド、ザハ・ハディッド、イヴ・ベアール、フセイン・チャラヤンやトロイカなどのために、レーザーを放射するドレスから、変形するシャンデリア、MP3プレイヤーのビートにあわせて照らし出されるオーガンザの箱にLEDの卓球台まで、様々な作品を提供している。本日のPingMagでは、そのハイテクなアートについてモーリッツさんご本人におうかがいした。

作:ブレア・マクブライド
訳:山根夏実

ジョイライダー」では、車輪のスポークに付けられたたった一つのLEDライトがニコニコ顔を作る。内蔵されたマイクロチップが車輪の速度を計測して、回転中も顔が静止しているように見せる仕掛け。

はじめに、モーリッツさんはどういった経緯でエンジニアリングから発明に転向することとなったのでしょうか?

フィリップスでエンジニアをしていた時は、企業としては最高にクリエイティブな環境でした。そこでは5から10年ほど未来を見据えており、私の専門はネットワークで繋げたホーム・エンターテインメントでした。つまりトースターや卓上扇風機、そして特に照明などのあらゆるものをそこから操作することによって、その全てが協調して一つの体験を作るのです。本を読んだりDVDを見て、自宅のリビングにあるもので演劇を作るようなものでした。これは今でも結構未来的なままですね…。

工業デザイナーのイヴ・ベアールとのコラボレーション作品「ボヤージュ」の制作風景。4.5メートルもの長さの二重金属フレームには、52,000個のスワロフスキー・クリスタルと2,000個の動作検知LEDが埋め込まれており…

…人がそばを通ると点灯して、水の中にあるかのような微妙なゆらめきでオブジェを変化させる。このオブジェは2005年以来ニューヨークのJFK空港に設置されている。

なるほど、以前、技術自体が一つのデザインの分野になっているのが面白いとおっしゃっていたのは、だからなのですね…。

歴史を振り返ってみると、アーティストは自分の分野に邁進して、それを前進させます。たとえば彫刻なら、大理石を使う彫刻家ができるだけ実物に近く見せるべく、それを最大限に活用しようと試みましたし、画家は新しい顔料や様々な絵の具を試すことで新しい効果を作り出してきましたが、それこそが彼らの時代のテクノロジーでした。現代ではマイクロチップ、LED、そしてコンピュータがテクノロジーで、私たちもできる限りその分野を活用しようとしているのです。

こちらは、内蔵されたセンサーで座っている人間の服の色を判別して、ずらりと並んだLEDの光で後ろの壁に同じ色を投影する椅子。自分だけの鮮やかな色のオーラに包まれて、王侯のような気分になれるはず!

モーリッツさんの椅子、「バイ・ロイヤル・アポイトメント」などもその一例だと思いますが、あれはどういう経緯で作られたのだったのでしょうか?座っている人間の服の色を読み取って、LEDでその色を背後の壁に投影する椅子だそうですが…。

あれはロンドンで行われた大きなイベントのための舞踏室を作るという依頼で制作した椅子で、フランスのルイ14世時代の古風な舞踏会からアイディアを得たものです。昔の宮廷では、王座に座った国王がパーティーの中心で、その望みや気まぐれはすべて叶えられました。私はそんなシナリオでありながら、もっと民主的な、誰もがウォーホルの言うところの15分間の名声を楽しんでパーティーの主役となれるような仕掛けにしたいと思ったんです。王座なら非常に荘厳ですし、私のイメージ通りに、部屋全体をコントロールできます。ですからもし誰かがそれに座ったら、その着ている服の色を読み取って、舞踏室全体をその色にしようと思いました。残念ながら、この舞踏室の企画が実現されることはありませんでしたが、この椅子のオブジェはそこから生まれたものです。この椅子の場合、中世の王侯の絵とその中で彼らがオーラを纏った姿で描かれているのをイメージしています。また目に見える形でのオーラはないものの、この椅子は王座をイメージしたものでもあります。


シャンデリア「ロリータ」の制作風景:まずはサスペンションとなる巨大なプレート…

…そして無数のLEDが結い付けられたケーブルの山。

らせん状のシャンデリア「ロリータ」は、2,100個ものスワロフスキー・クリスタルのそれぞれに携帯電話から送られたSMSメッセージを表示するピクセルの役目を果たすLEDが埋め込まれている。

それは面白いつながりですね。ではモーリッツさんはどんなものに影響を受けてこられたのでしょうか?東ドイツで育ち、数学の学校に進学したと聞いていますが、そういったこともご自身の作品に何らかの影響を与えていると思いますか?

プログラミングという行為は、とても構造化された科学的なアプローチなので、作品に独特の数学的な思考を使うことはあります。ですから、おそらく私の作品に影響があると言えるのでしょう。ですが同時にそれに支配されすぎないようにもしています。単に興味深い組み合わせというだけなんです。

本当に興味深いですね!それ以外の影響はどうでしょうか…?

私の最大のインスピレーションの一つはMakeのブログです。それに、もちろんPingMagもよく読んでいますよ!私の場合、「この人は神!」と思う特定のデザイナーはいないのですが、それは発明というものがこのブログで読むような、グローバルでありながら小規模な、マイナーな集団から生まれるからだと思います。

ロン・アラッドのために制作されたシャンデリア「ロリータ」に始まるモーリッツさんのショーリール。イルミネーションによるディスプレイに注目!

それはたとえばどんな人々ですか…?

好奇心があって、テクノロジーで遊び、ただそのためだけに何かをする人達、でしょうか。それは時として、本当にデザインされたものではないのだけれど、素晴らしいアイディアを秘めているかもしれない。そしてただいじくりまわして作り出した何かをインターネットに投稿する。そういう人種こそが、知名度はないかもしれないけれど、真の発明家だと思います。


フセイン・チャラヤンの2007年秋・冬コレクションに登場した「エアボーン」ラインのビデオドレスには、布地に15,000個ものLEDが埋め込まれた。

制作過程の更に先で、ドレスに命が吹き込まれる!

フセイン・チャラヤンのために作られた「Airborne」のビデオドレス。布地に映像が流れるのを見ることができる。

私たちもいじくりまわすのは大好きですよ!モーリッツさんもそうやってフセイン・チャラヤンのために、「エアボーン」のビデオドレスと「リーディングス」のレーザードレスを作られたのですか?

あのアイディアはほとんどチャラヤンが出したもので、私は彼が実現するのを手伝っただけです。2008年春・夏コレクションのファッションライン「リーディングス」のレーザードレスでは、彼は確か太陽を崇拝するとか言っていた気がします…。彼の創作過程は本当に複雑で、意図を汲み取るのが難しいんですよ。彼が新しいプロジェクトをスタートさせるたびに、創作の思考回路が何回もループを繰り返すので、本当に理解しているのは彼だけなんじゃないかと思います。(「リーディングス」のキャットウォークはスワロフスキーのサイトで見ることができる。)

そしてある時、彼が私に「ビデオドレスが欲しいんだけど」と言ってきたんです。その後は、それを実現させて、できる限りエレガントに見せるための技術的な問題でした。ドレス自体は、布の下に埋め込まれた15,000個くらいのLED、電池数個、いくつもの電子チップでできていて、それぞれのパーツは非常に単純なのですが、そのパーツの数が尋常ではないだけに、全体的な構造は非常に複雑になっています…。

2008年春・夏コレクションの「リーディングス」レーザードレスは、スワロフスキー・クリスタルがレーザーの角度によって赤い光線を反射もしくは吸収する。チャラヤンの太陽崇拝のコンセプトを基にした作品。こちらでそのキャットウォークを見ることができる。

滑らかな動きで様々な時代の形を構築する。フセイン・チャラヤンの2007年春・夏コレクション「ワン・ハンドレッド・アンド・ワン」のためにモーリッツさんが開発した、機械的に変形するドレス。

それではモーリッツさんのブローチ「フロス」についても聞かせてください。このブローチはLEDの列が特定の順序で光って、それを素早く動かすと「フロス」という文字が見えるそうですね。これはどういう仕掛けなのでしょうか?

これは「残像」という非常に古いアイディアがベースになっています。これと同じようなものを工業学校時代に作った時も、もう決して新しいとはいえないアイディアだったのですが、それをジュエリーに組み込むということは斬新でした。これはすべてデザインではなく電子機器業界に特化したCADを使ってデザインされていて、それを基板メーカーに送ることで、即座にあなたが目にしているものが出来上がってきます。こういうプロセスでジュエリーを作るということが、このプロジェクトの真の発明です。

「フロス」ブローチ。ミニマルでお洒落、そしてそっと置いている間は何の変哲もないが…

…ブローチが動かされると、7つの小さなLEDがロゴを「描き出す」。

ただ置かれている間は特に何をするわけでもないのですよね?

特に何もしませんが、それは見えていないだけなんです。よく見れば文字を見ることができますが、少し見えにくいとは思います。

それでは「パンドラ・シャンデリア」のプロジェクトはどうなのでしょうか。こちらは数千個のクリスタルが分解して、魔法のように元通りになるシャンデリアだそうですが…。破壊と再生の錯覚が素晴らしいですよね!

これはロンドンを拠点とする二人組みのデザイナー、フレデリクソン・アンド・スタラードとコラボした作品です。彼らはスワロフスキーからシャンデリアの制作を依頼されてこのアイディアを思いついて、かなり精巧でリアルなコンピューター・アニメーションを作ったんです。ですがここでの難関はアニメーションにマッチさせることで、コンピュータ上では、同様の動きを作り出すことも完全なカオスを作ることも簡単にできますが、ちゃんとしたメカニズムを与えて実現することは本当に難しかったです。

フレデリクソン・アンド・スタラードの「パンドラ」。このシャンデリアは1,990個のスワロフスキー・クリスタルと…

…それを周期的にコントロールする4つのコンピュータ制御されたターボモーターで構成されており…

…なんとシャンデリアが墜落して勝手に再構築するという素晴らしい錯覚を与えてくれる!

今はどんな技術が面白いと思われますか?

より強い光、それに有機LED素子と有機LEDディスプレイ…。これらは全てエキサイティングですね。またコンピュータがよりコンパクトに、より高い知能を持つようになって、コンピュータビジョンのようなことができるようになることも興味深いと思います。こういうことも、今ではずっと身近になっていますね。その環境に対応するシステムを作ることもまた面白い分野です。私が興味を持っているのは、主にはこの二つの分野で、それを合わせると面白いことになると思います。

モーリッツさんの現在のプロジェクト。ロンドンのジョーンズ・ホテルのための「プロメチア」は、シャンデリアの布地の下に配置された数百個ものLED素子が、天井から炎が下方向に燃えているような錯覚を与える。こちらはプログラムされたLED素子が表示する炎の映像によって、暖炉の火のような自然光を再現する。

アートとエンジニアリングの融合という点においては、その他にどんなことを考えていらっしゃるのでしょうか?

今は自分のデザインの仕事をやっていて、12月にロンドンにオープンするジョーンズ・ホテルのために「プロメチア」というシャンデリアを作っています。これは本物の炎の動きをライトやシャンデリアで再現しようと思って作りました。本物の火をじっくり見ると、その光は静止しているわけではないですよね?火の光は生きて、動いて、ひらひらと揺らめきます。そこにとても興味を持ったんです。

去年のデザインタイドにあったのを覚えてるだろうか?モーリッツさんの「エレクトリック・キッド」プロジェクトに登場したのは、卓球ゲームが内蔵されたコーリアン製の卓球台。2,500個のLEDライトと2つのタッチパッドによって、卓球やルーレットを楽しむことができる!

それはすごそうですね!最後に、今後数年間の目標のようなものはありますか?

差し迫っては、スタジオを少し大きくして、人を2人ほど増やしたいという以外は具体的な目標はありませんが、基本的にはただ面白そうなプロジェクトをやって、変化をつけるために多様性を維持することでしょうか。ですからこれからの行く先に最終的なゴールがあるとは思っていません。引退して何もしない生活を送りたいとは思いますが、何もしないというのも退屈なので、きっと同じことをするでしょう。現状では、突然宝くじに当選したとしても、私の生活は何も変わらないと思いますね。それによってもっと自由が与えられることはあるかもしれませんが、私は同じことを続けます。世の中にはばかばかしい仕事に就いている人が多くて、本当に同情します。そういった方々は宝くじに当たると仕事を辞めたりしますが、私ならこの仕事を辞めることはありませんし、むしろ作業をもっと活発化させると思います。

モーリッツさん、今日は数々の素晴らしいアイディアのお話しをありがとうございました!

33 コメント

  1. 同情されていると認識する私。

    Posted by: 山本 @ 9月20日2008年

  2. 世の中にはばかばかしい仕事に就いている人が多くて、本当に同情します。

    これは誤訳ですか?
    こんなこと言う人の作品が「はばかばかしい作品」に見えます。
    久しぶりに不快な記事でした。

    Posted by: TaM @ 9月24日2008年

  3. 批判するのは簡単だ。

    Posted by: co @ 9月26日2008年

  4. いや、たしかにいろいろな意味で「ばかばかしい仕事」についている人はたくさんいるよ。
    自分も含めて。私の場合自分のせいだったりするけれども。
    そんな人に、でも世の中はもっと自由だと言ってくれているんだと感じました。

    Posted by: ka @ 10月1日2008年

  5. [...] marina de van in regarde la mer (François Ozon), 1997 &  moritz waldemeyer [...]

    Posted by: Blue 01:35 « Sorriso de Medusa @ 1月10日2009年

  6. [...] [Link]Moritz [...]

    Posted by: 魯祐の巻物 | yousakana no makimono - モーリッツ・ウォルドメイヤー – Moritz Waldemeyer @ 2月7日2010年

  7. 焼酎ボトル、かっこええー

    Posted by: ウィーク @ 3月22日2011年

  8. いや、たしかにいろいろな意味で「ばかばかしい仕事」についている人はたくさんいるよ。
    自分も含めて。私の場合自分のせいだったりするけれども。
    そんな人に、でも世の中はもっと自由だと言ってくれているんだと感じました。

    Posted by: ウィーク @ 3月22日2011年

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