
PingMagが実験的な電子音楽レーベル、オーディオ・ドレッグスについてもっと詳しく調べようと決意したのは、まさに今年のソナー・フェスティバルで彼らのビデオ・セレクションが発表されたその時。このレーベルは、拠点はポートランドなのに日本と密接な繋がりを持っており、所属アーティストにはマンブルボーイやララトーンなども名前を連ねている。その理由を知るためにも、PingMagはレーベルの共同創立者であり、共感的なミュージシャン、デザイナー、PVディレクターに様々なジャンルのアーティストとして活動するE*Rockことエリック・マストさんにお話をうかがった。
作:ナナ・A.T. レイバン
訳:山根夏実

オーディオ・ドレッグスに所属するストラテジーの「ミュージック・フォー・ランピング」のアルバム・カバー。アートワークはトリシャ・シュロボーム、デザインはティム・シャーの作品。
まずはじめに、エリックさんのレーベルも10周年を迎えられたそうでおめでとうございます!レーベル設立のきっかけは何だったのでしょうか?
まだ若い頃に、友人たちの曲のテープを作り始めたのがそもそものきっかけだったのですが、私は商業的な利益にはあまり魅力を感じない人間なので、レーベルを始めてからもそれが楽しく感じられなくなるほど大きくしたいとは思いませんでした。今あるオーディオ・ドレッグスの始まりは、私が兄弟に彼の初期のエレクトロニック曲の7インチ盤を出してもいいかと聞いた時で、それをきっかけにもっと本格的なCDやレコードを作るようになりました。その後、当時私がやっていたロックバンドが解散することになったのと同時に愛車も駄目になったのですが、ポートランドでは車なしでも生活できることに気が付いて、自分は自転車で移動して、それまで修理やガソリン、保険にかけていた費用をレコード制作に注ぎ込むことにしました。そのほうが自分の健康のためにも良かったし、環境にも良いし、新しいことを学ぶ機会にも恵まれると、関係者全員とっても良いこと尽くめでした!
それは素晴らしい決断ですね!ご兄弟もまだ一緒に活動されていらっしゃるのですか?
彼もバンドがほとんど本業になっていますね。デザインやPV制作、新曲の作曲やリミックス、そして他のバンドのプロデュースに加えて一年の約半分をツアーに費やしたりと、常に忙しくしているようです…。私は今でも彼に作業中のデザインを見せて感想をもらっているのですが、彼はどちらかというと表に出たがらないパートナーみたいな存在です。

以前から不思議だったのですが、ポートランドに拠点を置くレーベルに、なんでこんなにも多くの日本人アーティストが所属しているのでしょうか?
実を言うと、私自身もどうしてそうなったのかわかっていないんです。どういっためぐり合わせか、マンブルボーイやララトーンを通じて日本で良い友人に恵まれたんじゃないでしょうか。あとは古い友人のイアン・ライナムもあちらに住んでしばらくになります。個人的には、日本人のほうがこちらの人々よりも、メロディックで実験的な音楽に寛容だという印象です。アメリカでは、なんでも特定のジャンルの型にはめないと理解できないという人種がいますから。だから日本は、このレーベルができたばかりの頃からずっと私たちの音楽を受け入れてきてくれた国なんです。
それは嬉しいお言葉ですね!E*Rockさんは、日本の電子音楽シーンの特徴はどんなところにあるとお考えですか?
日本のシーンについて私が知っていることは、一緒に仕事をしたことのある人々、それもほとんどがララトーンを通じて紹介された方々に限られているのですが、それでも何人かのアーティストのゆったりとした音楽の作り方はとても良いと思ってます。ミロクは本当に格好いいものを作っていますし、藤本雄一郎も優しい、オーガニックで実験的な音楽の素晴らしいレーベルを運営していると思います。あと「アフターアワーズ」という雑誌とレーベルも格好いいですね。こちらは主に日本国外の音楽をメインにしているのですが、本当に積極的で、私が初めて日本に行った時も色々と手助けしてくれて、ショーの企画も手伝ってくれました。「OK Fred」と「Map」も、私がこれまでに連絡を取った中で同じくらい素晴らしいアングラ音楽雑誌でした。
なるほど。以前、E*Rockさんはオーディオ・ドレッグスは単なるレーベルではなく、それ以上のものとおっしゃっていましたが、このそれ以上というのは…?
私としては、オーディオ・ドレッグスにはむしろクリエイティブ・コミュニティのような存在になってほしいと思っているんです。何人ものミュージシャンがここで最初の一曲をリリースしていて、私は常に彼らの成長や、アイディアや作品の後押しをしたいと思っているんです。Flickrができる前は、アーティストのビジュアル・アートや映像やアニメーションを掲載するイメージ・ギャラリーや紙面の雑誌もやっていたのですが、そういったもので直接関わっているアーティストを支援するだけでなく、それを見る人にも自分のものづくりをするインスピレーションを与えたいですね。
オールマイティなE*Rockさんは、一時に本当に多くの作品を制作していらっしゃるそうですが…。
ちょっと多すぎて、実際には全然できていないのかもしれないんですけどね!本当はもっと的を絞るべきなのでしょうが、私は一つに専念することができないんです。一つのことだけをするというのは、どうしても性に合わなくて…。とは言え、ビデオをたくさん作れば、曲作りの時間が削られてしまうんですけどね。今は、先日、ラタタットとの短いツアーを終えて、ロスでトゥルーディとのコラボレーション作品の制作にあたっています。それからポートランドの31Knotsとシェイキー・ハンズというバンドの新しいロック風のビデオも作っていますし、進行中の展覧会の話が一つ二つ、あとはレーベルに所属していない人たちのアルバムカバーの作業もしています。その他にもイェティ・マガジンのためのイラストも描いていて、絵のファンザインも制作中のものが二つ…それを終わらせたら自分の曲のアルバムを完成させることができます。ここのところずっと色々なことに手を出していたので、もう7年もアルバムを出せていないんですよ。
本当にお忙しそうですね!全般的に見て、E*Rockさんはこれだけのビジュアル作品のインスピレーションをどこから得ているのでしょうか…?
インスピレーションのほとんどは音楽ですね。自分のために絵を描いている時も、音楽がモチベーションになっていることが多いです。ですがレーベル自体も私のデザインにとって良い経験となりました。レーベル関係のデザインがあったからこそ、そこで実験してデザイナーとして成長することができたんだと思います。私は昔からデザインに興味を持っていて、学校でもその勉強をしてきましたが、どちらかというと画家としてデザインしてしまう傾向があって、それ故に独自のルールに従っているんです。そんな中でこのレーベルが新しいアイディアを練り、それなりに一貫したカバーを作るための媒体になってくれました。
ではビデオを制作する時は、どうやって作業されていますか?
その時々ですが、いつもオーディオから入って、大抵は初めて聞いた時の直感と何を連想したかに従うことにしています。以前はすべてフラッシュで作っていて、これは波形を見てそれぞれのフレームに対応できるので、オーディオ・トラックにシンクしたアニメーションには最適でした。このプログラムは、1998年頃に友人のマンブルボーイのアニメーションのサウンドを受け持った時に彼に教えてもらったもので、彼からいくつもの技術やコツを学ばせてもらいました。最近の新しいビデオはフィルムで撮影していて、アフターエフェクトやファイナルカットなどを使ってアニメーションに実写映像を組み合わせています。

E*Rockさんが一番好きなクリップと、その理由を教えてください。
おそらくベン・ジョーンズと一緒にベックのために作った「ゲームボーイ・ホームボーイ」のビデオだと思います。あれは本当に一生懸命に、そして急いで、新しい技術とスタイルで取り組んだ作業で、気合の入りようも本当に良かったです。私はコラボレーションが大好きなのですが、この作業の時はお互いに一人でなし得ることの遥か上の力が出せたので、その最高の例だったと思います。二人とも、何年も前から一緒に仕事をしたいと言っていたこともあって、この時は念願を成就したような気分であるのと同時に、私たちのワイルド・ファイルの始まりでもありました。
最後に、レーベル関連では、今後どんな計画を考えていらっしゃいますか?
理想としては、レーベルの運営とプロモーションを手伝ってくれる人を見つけて、私自身は音楽とビデオにもっと時間を割けるようにしたいですね。このバランスが本当に難しいんです。
早く助っ人が現れるといいですね!オーディオ・ドレッグスのE*Rockさん、今日はありがとうございました!
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