
「ビジュアル・キッドナッピング(視覚的な誘拐)」とは一体何のこと?フランス人ストリート・アーティストのゼウス。そう、先々週も登場したあの人は、いまやアートの世界にも拠点を築き、香港のアートステイトメンツ・ギャラリーでアジアでの初の個展、「ポストキャピタリズム・キッドナッピング」を開催した。PingMagでは、ゼウスさんにロゴの持つビジュアル・パワーについてうかがった。
作:ベレーナ
訳:山根夏実
ゼウスさんは、若い頃にパリで最初にタギングした時のことを覚えていらっしゃいますか?
私が初めて描いたのは90年代初頭のパリでした。閉鎖された線路沿いと通り、それにパリ東部にある20区のグラフィティ・アーティストの「殿堂」とも言える場所が始まりでした。
その時のご感想は?
地下鉄で路線めぐりをして戻ったあとに、初めて自分のグラフィティを見た時の気持ちをはっきりと覚えています。最高の、まるでブーメランみたいな感じでした!当時、タギングは街のいたるところに残されていて、タギング以外で人目を引くのはとても難しいことでした。そこで、自分の名前をベースにしたロゴを作ることを思いつきました。それ以来、私はスローアップ(タギングと作品の中間の誇張した文字)とそっくり同じ雲と雷のロゴを、パリ中に描き始めたんです。
警察が怖くはなかったんですか…?
もちろん怖いですよ。でも危険もまた楽しみの一つですから。初めて逮捕された時は、私がタギングした色々な場所に戻って、自分のタグとすべての証拠を消すはめになりました。罰金を払ったり、刑務所送りになるよりは、良い方法だったと思います。現在、私が模索しているまっとうなグラフィティのアイディアは、この経験から生まれまたものなんです。それは、グラフィティに対する考えを真逆にしたもので、つまり、汚れた壁に高圧ジェット洗浄機を使って描いていくのです。こうすることで、グラフィティは清潔に見え、逆に壁が汚く見えてしまうという…。
それはステキなアイディアですね!ところで、ゼウスさんの名前はどこから来たのでしょうか?
1992年に、パリの地下鉄のトンネルの中でグラフィティを描いている最中に、列車に轢かれそうになったことがあって、その電車の認識名が「ZEUS(ゼウス)」だったんです。その名前は私の脳裏に強く焼きついて、自分の中に大きな跡を残したので、状況を逆手に取ってその名前を自分のアイデンティティとして使うことにしたんです。

「ビジュアル・キッドナッピング(視覚的な誘拐)」という言葉はゼウスさんの造語ですが、これはどういう意味なんでしょうか?
ビジュアル・キッドナッピングは、インタラクティブなゲームに参加するようなもので、広告看板のブランドが消費需要を目的として人々の意識を誘拐するなら、私がそのポスターのモデルを誘拐して、50万ユーロの身代金を要求することでシチュエーションを逆転させるという意味です。金額は、そのブランドにとっての広告キャンペーンの象徴的な金額です。
それにも何やら色々な経緯がありそうですね…。
2001年の夏の夜、ヒッチコックとアートについての展示会の会期中に、建物の正面にあった巨大なヒッチコックのポスターを視覚的に攻撃しました。
裏側からファサードをよじ登って、メスでアルフレッド・ヒッチコックの顔に赤いインクを一筋垂らすための穴をあけたんです。そこで警備員に不意を衝かれて、非常口から全速力で逃げました。幸いなことに、下では友人のアーティスト、アンドレがスクーターで待っていてくれました。でもポンピドゥー・センターは、私が視覚的に攻撃した作品を取っておいた唯一の施設で、ヒッチコック展が終わるまでの間ずっとそのまま掲げられていました。

ゼウスさんは広告に目をつける時、それをどう「誘拐」するかを事前に計画するのでしょうか、それともその場で突発的に行動に移されるのでしょうか?
突発的ということは滅多にありません。それぞれの芸術犯罪には、正確なタイミングがあります。
それはエキサイティングですね!ではゼウスさんが描いたロゴの下の、グラフィティっぽさを出すためのペンキの滴りにはどんな意図があるのでしょうか。あれ自体がアートということですか?
私のアートにはもちろんグラフィティ的な美学もありますが、視覚効果で遊ぶのが主です。私はオリジナルの色を使ってロゴを過剰のペンキで塗りなおしますが、重ねてペンキを注ぎ、ロゴを見る者の目の前で溶解させることで、至るところに点在し、常に目に飛び込んでくるトレードマークに注目を集めて視覚的に阻害しているんです。そうすることによって、私はそのロゴの持つ視覚的なパワーを探っているのです。それはシンプルな行為ですが、合気道と同様に、力を反転してエネルギーの流れを変えることができます。

それと関連した話で、ナオミ・クラインが著書の「ノー・ロゴ」で巨大ブランドの活動を批判してから8年になります。ゼウスさんは、ご自分が視覚的な方面から彼女と同じような活動をしていると思われますか?
実のところ、私のアプローチは政治的なプロジェクトを指針としているわけではなくて、関心があるのはむしろ私たちの街並みのビジュアル面です。グラフィティの経験から、私が興味を持つのは広告やサイン、スローガン、日常的に目にする様々な物や照明です。私は市中でアイディアを練るために自由に動き、その結果政治的な局面も自然に私の作品の一部になるんです。私のアイディアは反広告主義や反反広告主義ほど極端ではありませんよ!

「警告、イメージは死ぬ」身代金をお願いします!(画像提供:パトリシア・ドーフマン・ギャラリー)
ですがゼウスさんは2002年にベルリンで、アレクサンダープラッツの真ん中に掲げられていた巨大なラバッツァーの看板のモデルを切り抜いて「人質」の身代金を要求するという、かなり活動家的なアクションを起こしていますよね?それ以来、ゼウスさんのブランドに対する意識は変わったのでしょうか?
私は今でも映像業界やテレビ、それに広告のメカニズムに関心を持っていて、それらがこのシステムをどう利用しているのか、そしてこのシステムの穴はどこにあるのかを理解するために、私自身もそこに参加しています。そういった世界とは常に一定の距離を置いて、自分の翼を焼かれてそのシステムの内側に墜落しないように気をつけながらね。
確かに、紙一重かもしれませんね…。2002年以降、ブランドは戦略を変えてきたと思いますか?
個人的には、昨今のブランドは「良い振る舞い」の基準を採択している気がします。それによって鋭さが衰えなければいいのですが。

「アーバン・シャドウス:Feux de signalisation, rue Jean-Pierre Timbaud, Paris 2000」。(画像提供:パトリシア・ドーフマン・ギャラリー)

「アーバン・シャドウス:Sculpture, place Zeus, Montpellier 2001」。(画像提供:パトリシア・ドーフマン・ギャラリー)
ではゼウスさんのシャドウ・シリーズについておうかがいしますが、影を描き始めた意図は何だったのでしょうか?
これは目の錯覚のせいで、白いペンキが暗闇を強調して、影までもが描かれたもののように見えるんです。私がこのアプローチで面白いと思ったのは、道路の白線用のペンキで白いアウトラインを入れることによって、夜の影を目に見えるものして、日中までそれを永らえさせられるということでした…。
命のない物体にアウトラインを施すということは、警官が命を奪われた犯罪被害者の周りに線を引くことの比喩でもあるのでしょうか?
そうですね、一本取られましたね。私は犯罪的な符号が好きですから、よくその世界観で遊ぶことはしています。

ゼウスの「トライアングル」。(画像提供:アートステイトメンツ)
最後に、今現在はどんな作品を作っていらっしゃるのでしょうか?
今はちょうど、香港で最近行われたパフォーマンスを記録した3分33秒のフィルムを編集し終わったところです。これはもうじきアートステートメンツのホームページで公開できると思います。今月は「ビューティフル・ルーザーズ」とデンマークのオーフス・クンストビグニンで開催されるフェスティゲンフェスティバルに関連したヨーロッパのストリート・アート展に参加しています。
そしてゼウスさんが香港に残されたマークはどこで目にすることができますか…?
それは目を光らせて探してみてください…。
わかりました!ゼウスさん、ありがとうございました!東京でもゼウスさんのビジュアル・キッドナッピングをお目にかかれるのを楽しみにしています…。
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・『パリでサンパウロでNYで、逮捕の危険をおかしつつ、なんの儲けにもならないアート活動を続けるアーチストの姿が本当に魅力的。しびれる。「アートなんてエゴと金と名声に溺れてる連中のやることさ。俺がやってることがアートである必要なんかない」と言う路上のゲリラ芸術家は、ひとことで言って『偉い』! ready made by いとうせいこう
・『金銭的な見返りをせず発表』 by 『インサイド/アウトサイド』監督アンドレアス・ジョンセン
http://jp.youtube.com/watch?v=Ut49FPCEB14
ということだけど、 『インサイド/アウトサイド』のドキュメントが出来たのが2005年、今から既に3年前。
どんどんと注目されるようになったゼウスさん、結局は色んな意味で危険が伴う道端より、ギャラリーなどで発表するようになり、ギャラリーのサイトに Price: Please contact the gallery for updated pricing と表示されているのを見ると、ちょっとガッカリ。
ここではゼウスさんは『路上のゲリラ芸術家』ではないのは言うまでもない。
グラフィティーがギャラリーや美術館で見せるというのがダメだといっているのではなく、ゼウスさんが地下鉄に轢かれそうになった事があったり、いとうせいこう氏が言っているように『逮捕の危険をおかしつつ』の中で生まれてくるものとは、精神的にも作品的にも違って行くことが残念だと言うこと。
お金とは切り離されない世界である以上、グラフィティーの世界も、そういう意味では避けられない事実なのでしょう。
Posted by: じゃむ @ 8月11日2008年
アートとかよくわからんけど
かっこいい。
Posted by: O! @ 8月12日2008年
50万ユーロ寄付しちゃうコーヒー会社も最高にクールですよね
Posted by: menta @ 8月21日2008年
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Posted by: Brand divinity « sarah badr | pieces at random @ 10月12日2008年