造船と建築の融合

2008年7月7日 カテゴリー: テクノロジー, 国内, 建築

造船と建築の融合

なぜシアターがガンダムのような見かけであってはいけないのか?造船業を営んでいた高橋和志さんには、ある考えがあった…。こちらは、ボルトをひとつも使わずに溶接されている、神保町シアタービルディングのファサード。(写真:高橋工業)

宮城県の気仙沼は、陸の孤島とも呼ばれ、最果ての地という空気すら漂う土地だ。では、そこに住む人々は何をして生計を立てているのか?高橋和志さんは、造船業を営む高橋工業の七代目だったが、造船の仕事の減少とともに、その技術を新たな方向へとシフトさせた。それが、建築の世界!なるほど、彼が手がけた建物がどこか宇宙船に似ているのももっともな話!今日は気仙沼にある彼の工場を訪れて、その作業の様子を拝見してみた。

作:鈴木隆文(オリジナルはPingMag MAKEより)
編集:ベレーナ


船大工、高橋和志さん。

以前は船を造っていっらっしゃったんですか?

俺は船大工の七代目ですからね。子供の頃から、祖父と親父の船造りをずっと見てるし、手伝ってきてるんですよ。25歳のときには、全長70メートルの大西洋まで行く船を一艘丸ごと設計してたから、技術はとっくに備わっていました。知識の方だけ、後から学んだんですね。

造船から建築へと、フィールドをシフトしたのはどうしてでしょう?

それは造船の仕事がなくなったからですよ(笑)。マグロの遠洋漁業が衰退すれば、造船だって出来なくなる。途方に暮れていた時に、最初に、リアスアーク美術館の建物の金属の曲面加工を造船技術を使ってできないか、って相談されたんです。

高橋社長が25歳のときに設計・製造した遠洋マグロ漁船。

お話を伺っているだけだと簡単そうに聞こえますが、造船業の方はどうなってしまったのですか?

そんな難しい話じゃないんですよ。単に、祖父と親父がやっていた会社が倒産したんです。俺が25歳かそこらだったかな。残されたのはあばら屋だけ、そのとき家族が10人もいたからね。さあ、勝手に食えって言われたらどうします?三角定規と鉛筆と段ボールだけ携えて、野生の王国で生きていかなければならない。志なんて立派なもんじゃなくて、食べていくためですよ。


東京世田谷区にある「アイロニー・スペース2」。アトリエの鉄のファサードは100年間、メンテナンス不要だそう…。

最初は戸惑いませんでしたか?

話を聞いてみたら「これは船と同じだな」と思って、家造りに挑戦してみる気になりました。

勇敢ですね!建築技術と造船技術というものに、違いはないのでしょうか?

建築は直線で構造力学、船は曲線で流体力学という違いはありますよ。それと、大工も建築家も船は造れないけど、船大工は船も家もつくれるという違いもあります。でも、算数、数学、理科の基礎科学は、どんな分野でも共通の原理。つまり、基本は同じなんですね。

埼玉にある「フォレストテラス」は…

…金属を拡張して造られたインスタレーション作品。訪問者は中を歩いて、森の中を浮く感覚を体験すべき。

高橋さんによる「フォレストテラス」のスケッチ。

船大工さんというのは、家も建てることが出来るのですか?

図面を描いて、現場にも出て、一から最後まで、全部理解しているのが船大工の棟梁なんですよ。平面から立体を頭に想い浮かべられて、自分で手も動かせて、他の衆への指示も出してね。しかも、敷地は7つの海という流体、波の上です。家は雨漏りしても許されるけど、船は沈没したら終わりですからね(笑)。船というのは、小さな生命体というか、宇宙なんです。つまり、電気、空調、水なんかの設備設計も最初から考慮しておかないと、左右の比重のバランスが合わなくなってしまうわけです。建築の世界は分業化されすぎですね。10人の会社で何でもかんでも自分達でやっていればまだ全体を見回せるけど、100人の会社だと、完全にサラリーマンの世界。全部を把握している人間なんて一人もいなくなってしまうのですから(苦笑)。

東京元麻布にあるペット・アーキテクチャー。クライン・ダイサム・アーキテクツによる「ビルボード・ビルディングは…(画像提供:KDa)© 阿野太一

…高橋さんのスレンダーで大胆な船の型を取り入れている。(画像提供:KDa)© 阿野太一

それにしても次から次へと画期的な技術提案をされていますね?

僕らがやっていることは、画期的でも高い技術でもないんですよ(笑)。ものづくりというのは温故知新、造船の世界では50年前の技術です。どんな仕事でもポイントはひとつ。そこを徹底的に考えればいい。銀座のランバンの窓枠のない窓だって、ただ鉄壁に穴が開いてるだけなんですよ(笑)。船でもやったことあるから、きっとできるだろうなって、「はめ合い」の技術を思い出したんです。


側面の準備中。

数えきれない程のアクリルの穴を埋めているところ。

「ランバン銀座店」。表面は、アクリル窓とハニカム構造のステンレスの板がが結合されて出来ている。造船業のテクニックが完全に一致!© 阿野太一

光をうまく調節した、美しいランバンのインテリア。

はめ合いの技術とは?

温度差で生まれた物質の膨張で、異種素材を接合する技術です。工場で鉄に穴開けて、マイナス30度の冷凍室で穴にアクリルガラスはめますよね。それを現場に持ちこむと、鉄とアクリルが膨張してうまく接合して、水漏れしなくなるという寸法です。

それはすごいですね!どうやってそのアイディアを思いついたのですか?

炭坑の仕事って、半年働いて半年は鍛えるって聞いたことありませんか?うちは工場を10ヶ月しか稼働させないんです。後の2ヶ月は稼ぐための腕磨きをする。その間に、ポイントを考え抜くんですね。何も、大きく難しく考えないで単純に考えればいい。だから、基本は船の技術だけなんです。


千代田区にある神保町シアターのプリズムのようなファサード。

そして、近未来的なインテリア!

素敵な考え方ですね!携わられた建築のほとんどが評価されるというのも、凄いことだと思います。

面白くない仕事、家族に見せられないような仕事は請けませんから。神保町シアタービルディングなんかも、小学校5年生の子に見せたいから、「もっとガンダムみたいに格好よくしてくれたらやりたい」ってこのプロジェクトを取り仕切っていたゼネコンに言いました(笑)。でも、そんな親馬鹿みたいなことを言いながらも、建築の技術だけでは具現化できない、造船技術が活きた提案をゼネコンのプランに盛り込んでもらい、他の建築屋が技術的にあきらめざるを得ない提案に変えてもらったりしているんですけどね(笑)。

宮城県気仙沼市の駅前にあるモニュメント。地元のライオンズ・クラブからの依頼で作られた作品。

鉄で出来たマグロやサメは子供達にも大人気!

賢いアプローチですね!

地方で生き残っている中小企業はみんな、そうやって隙間を突いているんじゃないのでしょうか?うちはそうです。込み入った技術で製造されるものは大手企業が、出来ても真似したがりません。量を確保できないからです。市場経済っていうのは、野生の王国。ウサギが狼に戦い挑むでしょうか?ウサギの食料は草、ならば天敵のいない草原に行くのが普通です。

チリのアタカマ砂漠にある天文台。高橋さんは日本で設備を準備し、船で運んだ。海抜5,000メートルでの強風と砂漠の大きな温度差にも耐えられるほか、このドームは360度回転させることも可能。

これからもドンドン仕事を請けて、さらに活躍してください!

ウチはドンドンは仕事を請けない(笑)。年に5つしかプロジェクトやりません。あんまり仕事したくないんですよ(笑)。だって、そうでしょ?人間も動物と同じ生き物、気が乗らないときだってあります。何も1000人のお客を相手にしてるわけじゃなく、1000人分のお金を使ってくれる10人のお客さんを相手にしているだけなんですよ。それに、野生の王国では、獣はお腹がいっぱいのときは獲物を襲いません。人間には理性もあって蓄える知恵もあるけど、どこかのIT企業の社長みたいに、あんまり蓄え過ぎちゃ下品です。そういうのは後が続かないもんなんです。

ステンレスや鉄が加工される高橋さんの大きなアトリエ。

確かにそうですよね!高橋和志さん、今日はありがとうございました!

5 コメント

  1. すげー…。

    Posted by: tone @ 7月8日2008年

  2. 金がありゃ建てて欲しいな。
    PingMagで紹介してもらえるような
    とびっきり変わった建物を。
    設計はザハ・ハディッド希望。

    Posted by: 山本 @ 7月8日2008年

  3. かっこいい・・

    Posted by: 匿名 @ 7月8日2008年

  4. ガンダムみたいな…なんて出てくるところからして、ずいぶんと頭の柔らかい人なんだなぁ。
    あと持って生まれたセンス。
    やっぱり職人さんは素晴らしい。

    Posted by: 詠人知らず @ 7月8日2008年

  5. ほんとに素晴らしい… 感動的でした

    Posted by: ソ @ 7月9日2008年

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