
ベルリンを拠点とするクリスティンとルカス・ファイライスの書籍、「アーキテクチャー・オブ・チェンジ(変化する建築):構築環境における持続性と人間性」は、あらゆる角度から建築を考えた大型本で、先進国における最先端の持続性や開発途上国の人道支援プロジェクト、ファンキーな実験的コンセプトに景観アートに複数の小論やインタビューなどの理論的根拠を添えた、奥深いコンピレーションとなっている。これが今後の私達の建築に対する取り組みのあり方となるのだろうか?PingMagでは著者の一人であるルカス・ファイライスさんに理論的なお話をうかがった。
作:ベレーナ
訳:山根夏実

まず始めに、この「変化する建築:構築環境における持続性と人間性」というタイトルが、お二人が様々な局面から、それも異なる分野にまたがった視点でこのテーマに取り組み、「持続性」、「人間性」そして「社会問題」について考えようとしていることを表していますが、これはもしかしたら建築の中でもまったく新しい一分野ということになるのでしょうか?
実はこのタイトルに、すでに複数の要素が盛り込まれています。チェンジ(変化)はあるプロセスが進行していることを意味しますし、サステナビリティ(持続性)は、一般的にはあるものがそのまま維持されるという意味ですから、この題名には「変化と持続」という意図的な矛盾が含まれています。ですが変化と持続を同時に行うにはどうすればいいのか?それが私たちが発信したい問題なのです。
そして私たちがこのテーマにとってのもう一つの非常に重要な要素だと考えたのがヒューマニティ(人間性)で、この本は単なる環境や技術的なソリューションのみならず、人類全体について記したものなんです。私たちの観点から言えば、持続性、人間性、そして共同で住むという問題は、この議論の核心的なポイントであり、要約すべきものではないのです。それに加えて、この本は建築家がどのようなことをしているのかの概要も述べています。

建築家に社会的な責任があるとおっしゃるっているのですね。同じような文脈で、ドイツ人評論家のヨアキム・フェストも著書で「我々がまず建物を作り、その後に建物が我々を作るのだ」と書いていますが、これも建築家がその建物に住むことになる人間について考えることの重要性を如実に表しています。またこの本の中で、国連の元事務局長クラウス・テプファーも、一般的に軽視されがちな「建築物の社会的影響」について述べていますよね。それについてはどうお考えですか?
建築は、私たちの日常生活の中でもっとも影響力の強い芸術の実践です。私たちは建物の中で眠り、食べ、飲み、一日の生活のほとんどを建物の中で過ごしますから、建築物は私たちの一部であるとも言えます。そしてクラウス・テプファーがインタビューで引き合いに出したヨアキム・フェストの引用は、「デザインが意識を定義する」というカール・マルクスの言葉をシンプルに把握したものです。私たちがどこに住み、どこで暮らすかは、私たちがどんな存在であるかに強い影響を及ぼす。ですので、こういった問題は、建築家にとって何よりも重要なのです。
建築は単なる住まいや保護施設以上の意味を持っていて、実際に人々が交流する社会的環境や都市空間、それに公共空間といったものを作るものでもあるのです。ですから建築は、社会的相互作用が機能するための触媒だと言えます。これは本当に大きなテーマで、独裁的建築から社会的関与まで、いくらでも話せてしまいますね…。


…東ドイツのプレハブ建造物、プラッテンバウのように、建築物で恐慌と孤立を作り出すこともできますしね…。ところで、本の冒頭ではパトリック・ドハティー(写真上)の見事なツリーハウスを含む風景芸術のような彫刻作品で始まりますが、これはどういうコンセプトなのでしょうか?
この本のイントロと最後はアートプロジェクトについてで、構築環境に対して自然全般と自然や自然環境を扱うこと、もしくは自然環境を構築環境にしていくことについて述べています。それで、その場所にすでにあるものを使って作品を作るアーティストや環境芸術家を探したのです。また冒頭の写真を見ていただければ、作品が徐々に建築の形に近付いていくのがわかると思いますが、私たちとしては単なる建築以上のひらめきを与えることがとても重要だったのです。

それは確かに刺激的ですね!そこからはあらゆる種類の素晴らしい建築物が続きますが、実用性の面でもっとも効果的なものはどれだとお考えですか?
まずはもう少し全体的なところから入りましょうか。この本は持続的な建築や社会的慣行において、建築や建築家に何ができるのかの概観を紹介しています。ですから、採り上げた建築物は、経済的な面においては非常にシンプルで現代的な建物から、とても流線的でアバンギャルドなもの、小さな個人の家から校舎や高層ビル、政府の施設まで多岐に亘ります。ですからある特定の区分に限定されるものではないですし、この本自体が今なお研究中であったり、取り組みが行われているアイディアで成り立っているのです。
そのアイディアも、インテリジェント・ハウジングやアーキテクチュア・フォー・ヒューマニティによるオープン・アーキテクチャー・ネットワークのようなオープンソースのインターネット・プラットフォームから、川を浄化する方法やマドリッドのエコシステマ・ウルバーノのエコブルバードのようなより都会的な取り組みまで、千差万別です。それでもいくつか選ばなければならないとしたら、ポール・モーガンがオーストラリアに建てたケープ・シャンク・ハウス(写真上)でしょうか。彼はオーストラリアでは深刻な水の問題を転換させて、水を建物のデザインに欠かせない要素として取り入れています。

これは空気力学的に加えてエレガントな形ですね!DPIクィーンズクリフ・センター(写真上)もオーストラリアの建物だったと記憶していますが…。
そちらもきれいですよね、ライオンズ・アーキテクツの作品です。自然保護に取り組んでいる建築事務所で、この建物も海岸沿いの生物学研究所なんです。この場所の環境を維持すると同時に、とても魅力的な美的な様式を持っていると思います。それかこちらのカリフォルニアを拠点とするモーフォシスのサンフランシスコ連邦ビルを見てください。このサンフランシスコの中心地に位置する高層ビルは、アメリカの建築物の環境配慮基準、LEEDのランキングでゴールドを受けたものです。
これも持続的建築の難しい問題の一つなのですが、ヨーロッパの、それも特にドイツ、オーストリア、スイスの建築が通常の作業手順としているものも、アメリカでは革命的なことです。こちらで我々が過去10年間に行ってきた持続性に関する取り組みも、アメリカではまったく新しいこととして捉えられているのです。その良い例がこのモーフォシスの建物で、これは決して持続的デザインにおける飛躍ではないのですが、それでも模範となる対象となっているのです。


まったく新しいこと、として…?
まあ、もっと多くの人々やプリツカー賞の受賞者であるトム・メインのようなアート建築家が再建問題に関わるようになれば、建築シーンに大きな功績を残すでしょうね。それから、エコ的な機能が実際に美学になるという現象もあります。これまでは基本的にまず建物を作って、そこに屋根にソーラーパネルなどを載せたりすることでエコ的な特徴を付加していました。でも現在ではそれも変わりつつあって、まず環境的な機能がありきで、そこからフォルムや美観、デザインが生まれるようになってきています。今起こっているこれは、とてつもなく大きな前進です。


確かに。お二人のおっしゃるところの機能の美学ですね。これまでのお話にヨーロッパとアメリカは出てきましたが、アジアの建築家はいませんでしたよね。これはなぜなのでしょうか?
この本は構築環境における持続性と人間性を審査するズントベル・グループ・アワードがベースになっていて、五大陸からの応募はあったものの、アジアからのプロジェクトはほとんどなく、あっても残念ながら審査を通過しなかったんです。これは今後のフォローアップ企画の課題となるもので、アジア、それも特に多様なアプローチを誇る日本は集中的に採り上げていくつもりです。例えば、私は今10月発売予定の別の本の作業をしているのですが、そちらでは多くの日本のプロジェクトを紹介しています。ですから隈研吾から…どこまでと言えばいいかな?何しろ彼自身が日本の環境建築の重要なマイルストーンですからね!ちなみに、こちらの書籍は「ストライク・ア・ポーズ」という題名で、非常に濃密な建築的視点でエキセントリックな建物や素晴らしい空間の数々について語っています。印象的な色と力強いフォルムで、まるで建築のポップブックのような感じになる予定です。


日本はそういったプロジェクトのまさに宝庫だと思いますよ!(笑)ところで、昔ながらの建築の分野以上のものに踏み込むと、やはり学際的になりますよね。それに加えて、この本にはいくつかの非常に興味深い小論が掲載されています。その中で、アメリカの社会学者サスキア・サッセンは、都市が汚染される池にも似た、独立した生態系に類似しているかについて説明していますが、同時に「都市自体の再生と再建に必要な構造とエネルギー資源を使う能力は、都市そのものに備わっている」とも書いています。ということは、やはり今後の都市の問題は、都市開発戦略に懸かっているということなのでしょうか?

インゲンホーフェン建築事務所が設計したルフトハンザ航空センター内の緑の楽園、フランクフルト。「アーキテクチャー・オブ・チェンジ」より。(写真:H. G. ヘンシュ、ヘネフ)© Gestalten, 2008
良い指摘ですね。それこそが自然が破壊されやすく、私たちが今後どうにかして扱わなければならない独自の生態系であることに対向して、私たちが築き上げてきた構築環境への理解なのです。小論に関して言えば、それがこの本の三本の柱のうちの一つになっています。この三本の柱というのは、建築家の建物やそれに関係するプロジェクトが一つ。二つ目は芸術的なインスピレーションを提供し、アートがいかにこの問題を扱っているのかを模索するイントロとアウトロ。そして三つ目が小論です。小論は建築家以外にも、社会学者のサスキア・サッセンやこの分野における最大のNGOであるグローバル・グリーンの会長、マシュー・ピーターソンのものが掲載されています。それから国連の元事務局長クラウス・テプファーの小論では、社会的、経済的、政治的な視点から掘り下げて語っていますし、その他にはウィリアム・マックダナウやケン・ヤン、この分野の先駆者として何年も活動を続けてきた建築家たちが到達した、これからどういう結果にたどり着くかの結論、未来の視点が記されています。
本当に学際的ですね!ちなみに、ルカスさんは建築家ではなく、哲学や概念研究を勉強されたとおうかがいしたのですが…?
私の専攻はカルチュラル・スタディーズと比較宗教学で、三歳の頃から母の建築ギャラリーで育ちました。今回のこの本の編集も母と行っています。建築は常に身近な存在でしたが、本当に興味を持ったのは私が哲学を勉強し始めてからかなり経ったあとで、その時に建築や建設関係の話題にすべての意識を集中させるようになりました。建築は非常に中毒性の高いテーマで、一度手をつけてしまうと、あらゆる分野のあらゆる視点から取り組むことができるので、手を引くのが難しいのです。

面白いですね!確かに、インターネットに掲載されていたルカスさんの「都市部のスラム構造」についての小論を拝見しましたが、そちらはポップカルチャー的な背景からアプローチされたものだったと記憶しています…。それでは、お母様との仕事はどんな感じでしたか?家族との共同作業というのは、決して楽ではないと思いますが。(笑)
そうですね、でも私たちは仲の良い家族で素晴らしいチームですよ!この本は、私が建築環境における持続性と人間性のツムトーベル・グループ・アワードのために行ったリサーチがベースになっていて、その賞の主催がベルリンにある私の母の建築ギャラリー、アイーデスだったのです。ですからこのプロジェクトの出発点は母とそのパートナー主導で、私がリサーチ担当でした。
そしてこの本でズントベル・アワードの受賞者を紹介していらっしゃるのですね。アーキテクチャー・オブ・チェンジで様々な論争に火を点けようとするのは勿論のことですが…。
私たちは問題を提起し、そこに至るまでの道を今も試している最中です。これは本当に深く大きなテーマなので、実際のところ質問にたどり着くことのほうが、正しい答えを見つけることよりも大切なのです!
本当に素晴らしいアプローチですね!ルカスさん、今日はお話をありがとうございました。「アーキテクチャー・オブ・チェンジ」の隣に、日本のすごい建築の数々が紹介される本が並ぶのを楽しみにしてます!

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