
デミアン・ハースト「母と子、分断されて」1993年 208.6 x 332.5 x 109cm (x2), 113.6 x 169 x 62 cm (x2) スチール、ガラス強化プラスチック、ガラス、シリコン、牛、子牛、ホルムアルデヒド溶液 アストルップ・ファーリン近代美術館、オスロ蔵
現代美術界で最も権威ある賞のひとつ「ターナー賞」。本国イギリスでは、その授賞式の様子がテレビ中継され、受賞者は翌日の新聞の一面を飾るほど。そんなターナー賞の中でも、1995年度の受賞作、デミアン・ハーストの「母と子、分断されて」は、大論争を巻き起こした作品だ。先月25日から、六本木の森美術館で開催されている「ターナー賞の歩み展」では、この話題の作品が日本初上陸!しかし、BSE問題も今だ全面解決しない中、この牛の輸送に関して英メディアは大騒ぎ!そこで本日のPingMagでは、ターナー賞の受賞者の作品を拝見しながら、森美術館の学芸部の近藤健一さんと、広報部の渡邉茂一さんに、「母と子、分断されて」の展示までの舞台裏についてお話を伺ってみたい。
作:チエミ
まず、ターナー賞がどのような賞なのか簡単に教えて頂けますか?
渡邉さん:ターナー賞は1984年から年に1度、テート・ブリテンが行っている、英国人と英国で活動する、50歳未満のアーティストに贈られる現代美術賞で、表現形態を問わないところが特徴です。1990年に一度中止されたものの、翌年、テレビ局のチャンネル4とタイアップしてから国際的に認知されるようになりました。また、現地ではノミネートされた候補者4人の作品を展示してから賞の発表が行われ、授賞式にはマドンナやデニス・ホッパーなどの著名人がプレゼンターとして登場するので、一般の方にも幅広く知られています。

デミアン・ハーストさんの「母と子、分断されて」は、最も有名な受賞作品かと思いますが、今回日本で展示されているものはオリジナルではないと伺っています。どのような経緯でそうなったのでしょうか?
渡邉さん:この作品もオリジナルですが、オスロの美術館に所蔵されている作品は、昨年、テート・ブリテンで回顧展をするにあたり、手配できず、テートのためにもう一作品作ることになりました。
牛が腐り始めたという噂は…?
渡邉さん:この作品は、ひとつのケースが約7トンもあるので、移動する度に中を取り出すのです。また時間も経過しており、その為、若干劣化することはあると思いますが、二作目を作った理由とは関係ありません。
移動の際に中を取り出すのですか!?
渡邉さん:はい。今回の場合は、現地で中のホルムアルデヒド水溶液を一旦抜き、牛は密閉容器に収め、展示の容器と別にして空輸しました。それから水溶液を国内で準備し、中に入れ直したんですよ。

それはなかなか大変そうですね…。ところで、つい最近も輸入が禁止されているアメリカ牛肉の部位が国内で見つかったとニュースになっていましたが、税関ではこれが”現代美術の作品”としての牛だとすぐに理解して頂けたのでしょうか?
渡邉さん:メディアで噂されたような入国での騒ぎは、全くありませんでした。というのも、大前提として食べる予定のものではありませんし…
まあ、確かにそうですね…(笑)
渡邉さん:それに、私達は年に何度も展覧会の為に作品を輸送する手続きを行っています。今回も、成田の検閲所でこういう作品が入ると事前に相談していたんですよ。

黒人初のターナー賞受賞者クリス・オフィリは、象の糞を使った作品で賛否両論を巻き起こした。1998年度受賞、クリス・オフィリ「ノー・ウーマン、ノー・クライ」1998年 243.8 x 182.8 x 5.1cm アクリル、油彩、ポリエステル樹脂、紙のコラージュ、地図用ピン、象の糞、カンヴァス、テート蔵

日本でも人気の高いドイツ人写真家、ヴォルフガング・ティルマンスは日常を切り取った作品で知られている。2000年度受賞、ヴォルフガング・ティルマンス「君を忘れたくない」2000年(Courtesy: The artist and Maureen Palay, London)
では、森美術館は高層ビルの53階という特別な立地にありますが、館内への輸送もスムーズに?
渡邉さん:館内には美術品専用の巨大なエレベーターがありますので、移動も特に問題ありませんでした。ただ、抜かれたホルムアルデヒド水溶液を再び入れる作業の為に、展示室を包むテントのようなものを作り、特別な換気装置を付け、非常に気密度の高い空間で作業しなければならず、それはなかなか大変でした…。
設置の為だけに、現地から専門の方が来日されたというのは本当でしょうか?
渡邉さん:美術品の輸送や保管、設置の専門業者でデミアンの作品を長年扱っている英国のモマートとテートからこの作品の担当者が4名来日し、東京のスタッフを含めて15名程度が設置にあたり、作業に3夜を費やしました。念のため消防にも相談して、作業する人達は全員防護服を着用しました。
近藤さん:来日した技術者はかなりのプロなので、詳細にまでこだわっているのが非常に印象的でした。例えば、小さなゴミのようなものがケースの底に落ちていると、それが許せないらしく、細長いノズルのようなもので必死に取り除いていましたね…。

さすがですね…。作品の重さに関しては何か問題はなかったのでしょうか?
近藤さん:美術館の床にも耐荷重がありますので、1ケース7トンですと床のハリの部分でなければ支えきれないんです。ですので、建築の構造上、耐えきれる場所を探して展示しています。
色々とご苦労されているんですね…。では、回顧展とは言え、この作品をどうしても日本で展示したかった理由とは何でしょう?
近藤さん:今回は英国美術の約四半世紀の流れを見せるという展示ですが、その間には80年代のニュー・ブリティッシュ・スカルプチャー、90年代のヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)という大きなムーブメントがあり、その中でもデミアン・ハーストはYBAの代表格で、この作品は90年代の英国美術のアイコンとも言える本展には欠かせないものでした。

では、作品自体の魅力についてはどのようにお考えですか?
近藤さん:中の牛は生物学的には死んでしまっていますが、美術作品としては永遠に生き残ります。その生と死のパラドックスが作品の魅力の一つだと思います。そして、人間は医学という名の下に人や動物を解剖・実験し、それによって生きながらえている。その事実を非常に力強い形で、私達に気づかせてくれている作品でもあると思います。
それでは、これから来場される方達にメッセージをお願い致します。
近藤さん:この作品に怖いイメージを抱いていらっしゃる方もいると思いますが、実物の牛の親子は、まだ生きているかのような印象を与えるとても美しい作品です。本物の迫力を実際に感じて頂いて、この作品が私達に何を語りかけているのかを考えて頂きたいと思います。そして、ぜひ自分なりの答えを見つけ出して下さい。
森美術館の近藤さん、渡邉さん、ありがとうございました!

「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」
【お知らせ】「ターナー賞の歩み展」は7月まで開催中です。お見逃しなく!
「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」
会期:2008年7月13日(日)まで
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53F
入場料:一般1500円、学生1000円
21 コメント
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ついにデミアンが日本じょうりくですか!
デミアン大スキです!
Posted by: 匿名 @ 5月29日2008年
ターセムという映画監督の作品「セル」の中に、ガラス板で輪切りにされる馬が登場しますが、この作品にそっくりで面白いですよ
Posted by: Yako @ 5月31日2008年
[...] 『母と子、分断されて』が展示されているそうですが、PingMag [...]
Posted by: デミアンの牛 | VK test @ 6月1日2008年
デミアン単純明快、陳腐で出来がいい、ニヤけてしまった。でもホワイトリードとゴームリーの作品には奮えました。こりゃ、凄い!!って、[house]と[immersion]、1500円払った価値があってよかったあ、って思ったのは私だけ?
Posted by: boop @ 6月10日2008年
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Posted by: find out if your having a boy or girl @ 5月30日2011年
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