
チン・ミュージックとは、アメリカの小説家、マーク・トウェインが牧師の能弁な説教を表すのに使った言葉。その言葉を社名に冠するチン・ミュージック・プレスは、この6年間に非常に素晴らしい書籍の数々を作り出してきた、東京とシアトルに拠点を置く出版社。詳細にまでこだわって装丁された日本製の本4冊は、西洋の読者に日本をより身近に感じてもらおうとするだけでなく、高品位印刷やエッチング、ハードカバーのデザインなどのあらゆるディテールへの情熱で読者を虜にしている。本日の記事の後半では、彼らの最新作「アート・スペース・トーキョー」についても紹介していくが、まずはシアトルにいらっしゃるチン・ミュージック・プレスの創立者、ブルース・ルートリッジさんと東京勤務のアート・ディレクター、クレイグ・モッドさんと交わした大陸間インタビューをお届けしよう。
作:ベレーナ
訳:山根夏実
最初に出版社を作ろうと思われたのは、いつ頃だったのですか?そしてそのきっかけとなったのは何だったのでしょうか?

チン・ミュージック・プレスのロゴ。© 2003-2008 チン・ミュージック・プレス
ブルース:思いついたのは、私の15年間にも及ぶ日本滞在が終わりに差し掛かった頃で、キャリア的な意味で今後何をしようかと考えていた時期でした。日本にいる間、私はあらゆるメディア関係の仕事を経験して、そのほとんどに疲れてしまっていたのですが、それでも日本について書いたり読んだりするのは好きでした。それで妻のユウコと当時大学生だったクレイグと話して、思い切ってシアトルに小さな出版社を作ることを決心しました。私は共同体を求めていて、それを手に入れるのに、もしくは作るのに最善な手段は、チン・ミュージック・プレスのような小さな出版社を作ることだと思ったんです。また、このようなベンチャー事業を支援してくれるアメリカの都市も必要だったのですが、シアトルがまさにそれでした。シアトルの人々は純粋に日本に興味を持っているのに加えて、ここには素晴らしい個人経営の書店と、盛んなカフェ文化があるのです。シアトルは本を愛する町なんですね。結局のところ、私には思い切ってそれをするだけの自惚れとナイーヴさがちょうど良い加減であったのだと思います。

ではクレイグさんは?
クレイグ:私はこちらでブルースと同じ雑誌社のジャパンインクでジャーナリストとして勤務していました。その年の夏の終わりに、彼が「出版社を作ろうと思っているんだけど、手伝う気はないか?」と言ってきたんです。2002年のことでした…。

…それで経験もないまま始められたのですか…。
クレイグ:本の出版については何も知らなかったので、「実地学習」みたいなものでした。5年計画もなかったし、営業や販売についてもほとんど素人でした…。本や文学は昔から大好きで、良い本とはどうあるべきかのイメージのようなものはありました。ウェブやデジタル的なものとはずっと親しんでいたんですが…。
私達がこういうやり方で本を作っている理由の一つに、新聞のオンライン化や電子書籍などのデジタルへの転向の波を感じているということがあります。私たちが慣れ親しんできた、実際に手に取れる、形のある本が死にかけているんです。これは非常に大きなものの死だと思います。
でも、手に取れる美しいものへのニーズは常にありますよね。インターネットやモニタの画面がそれに取って代わることは絶対にないのではないでしょうか。そこまで心配されるのはなぜなのでしょう?
クレイグ:心配ということはないですよ、むしろ享受しています。私たちはカンコーヒー(日本の缶コーヒーにまつわる文学やレビュー)やAQ事務所とのコラボーレションである「ヒトトキ」(特定の場所、特定の瞬間についてのユーザー参加型コンテンツ)など、オンライン関連の進歩的な文学にも可能な限り取り組んでいます。特定の事柄に関しては、本は素晴らしいものです。本のフォーマットは、それは美しいもので、美学的な観点から言えば視覚的なリズムがすべてです。それはオンラインでは無理なことですからね。

ではコンセプトについてお伺いしますが、何を出版するかはどう決めていらっしゃるのでしょうか?
ブルース:チン・ミュージック・プレスはニュース編集室の考え方を兼ね備えた文学出版社で、つまり、世界に知らしめてほしいと語りかけてくるような、直感的にピンとくる作品を出版しています。私たちが求めているのは、時代精神を捉えるような作品、大手出版社が語ることのない物語なのです。

「ニューオーリーンズ」の本の表紙。© 2005-2008 チン・ミュージック・プレス
また、私たちはあることがどう伝えられているかを見て、それを人々の頭の中でひっくり返そうとすることもあります。私たちの最初の2冊である「クウハク」と「ドゥ・ユー・ノウ・ホワット・イット・ミーンズ・トゥ・ミス・ニューオーリンズ?」がまさにそれでした。「クウハク」を例に挙げると、私は外国人作家が日本に来て、すべてを綺麗に締めくくって外の世界に日本を語っていると感じることがよくあります。ですから、私たちはお互いに矛盾した話や、曖昧な終わり方の物語、もしくはより日常的な観点から見た日本を紹介することで、その真逆のアプローチを取りました。綺麗なアプローチが一般的であるなら、私たちは乱雑で行こうということにしたのです。もちろんクレイグのデザインが乱雑であることは決してないのですが(笑)。
クレイグ:「ドゥ・ユー・ノウ・ホワット・イット・ミーンズ・トゥ・ミス・ニューオーリンズ?」は、プランのようなものも大してないまま、自然発生的に生まれたんです。誰にも縛られずに、状況に応じて動ける。これが零細であることの利点ですね。ハリケーン・カトリーナが直撃してブルースの兄弟が被災し、ブルースとデイビッド (ケイディー、取締役)の会話の中でこのアイディアが出てきました。そしてアイディアを得たところからほぼ1ヶ月半で、作家の方々に連絡をとって、装丁も印刷も整った完成版の本にもっていきました。とてもきつい作業でした。
その他にも、グッバイ・マダム・バタフライに見られるような、日本の話題や社会にも重点を置いていらっしゃいますよね。英語で出版されていらっしゃることを考えると、日本と西洋社会の橋渡し的な役目を目指していらっしゃるのでしょうか?
ブルース:まさにそれをやれたらと思っています。カリフォルニア州のバークレーにあるストーンブリッジ・プレスなどがこれまでやってきたように、日本についての新しい話を西洋に紹介していきたいと考えています。

以前、英語でしか出版しないのはお金の問題だというようなことをおっしゃっていましたが…。
クレイグ:はい。あとは日本のルートがないので、流通の問題ですね。こちらでは、出版社が本を売りたいと思ったら、ほとんどライセンスが必要なくらいなんです。ですから一番簡単な方法はこちらの出版社と繋がりを持つことで、私もあちらの出版コードと流通コードを使っています。しかし個人経営の書店は、受容力はあるものの時間がかかります。担当の営業がいるのではない限り、ほとんど割に合わないのです。私としては、今回の「アート・スペース・トーキョー」で出版社と繋がりができるといいと思っているのですが…。

それでは2つの大陸の間でどうやって連携していらっしゃるのでしょうか?誰が何を担当しているのかについて教えてください。
ブルース:理想としては、日本で作家やアーティストを見つけて、クレイグが東京でアートワークを担当する間に彼らの作品をこちらシアトルで翻訳します。印刷も日本でやっています。ですから編集作業や日常業務を除けば、私たちの出版作業はすべて日本で行われています。
では大人数で作業に当たっていらっしゃるわけではないのですね。それでどうしてやっていけるのでしょうか?
クレイグ:かかりきりですよ。本を作っても支払いはできないし、家賃も払えない。だからいつもデザインや編集を問わず色々なことをやっています。ですが今年は4冊本を出す予定で、これはかなりの量ですね!今年は経済的に維持できるように力を入れています。

これらの素晴らしい装丁デザインや印刷はどうやって選ばれたのでしょうか?
ブルース:大半の出版社と比べると、私たちはそもそものスタート段階からデザイナー、訳者、編集者、作家、イラストレーター、校閲などの関係者全員を、ベースキャンプのようなプロジェクト管理ツールを使って話し合いに参加させていきます。私たちが本のアイディアを話し合うと、イラストレーターかデザイナーが表紙のデザイン案を練り始めます。全員が批評をしてかなりのカオスになることもあります。ですが最終的には、一冊の本として強く語りかけるものができあがると考えています。

それにはどういったアプローチをされているのでしょうか、クレイグさん?
クレイグ:デザインに関しては、昔の出版方式を振り返りたいと思っています。「クウハク」では、タイトルページに奇妙な地図や箱をあしらって古いタイトルページを模していますし、「ドゥ・ユー・ノウ・ホワット・イット・ミーンズ・トゥ・ミス・ニューオーリンズ?」では、早稲田大学の図書館で見つけた、美しく繊細な銅版画が掲載されている150年前のニューオーリンズの旅行ガイド、それも初版のものから採っています。自分の目が信じられませんでしたよ!その本は豪華で、革表紙で装丁されていて、そしてバラバラになりかけていました。

こちらが表紙。© 2005-2008 チン・ミュージック・プレス
内容だけでなく、装丁などのあらゆる細部にまで気を配るのがチン・ミュージックの特色ですよね。これは日本の製造業の特徴でもあると思うのですが、どうでしょうか。
クレイグ:日本人は、西洋人ほど私たちの本に強い反応を示すことはないですね。この類の本は、特にアメリカの大量市場ではかなり珍しい部類に入るからだと思います。
それはなぜですか?ペーパーバックが主流だからとか?
クレイグ:そうですね。ハードカバーとなると、どうしても大きくなります。美しいデザインは結構あって、1990年代にはルネッサンスさえありました。昨今のアメリカでは、チップ・キッドのようなブックデザインのスーパースターまでいます。ここ20年で、ブックデザイナーは無名の誰かから顔の見える個人になったと思いますね。
概して、アメリカでこういったものを見かけることはまずありません。個人経営の書店なら可能性はありますが。例えば、マックスィーニーズは素晴らしいものも置いています。彼らは当初、固定である必要のない季刊誌のフォーマットをいじることで、本のデザインを大衆の目に見える形にまで押し上げました。私たちも駆け出しの頃、彼らにいたく刺激されています。


…他にも、皆さんの本には「マダム・バタフライ」の背表紙のような、美しい型押しもありますよね。
クレイグ:コネチカットには、「ブックバーン」という、文字通り本で埋め尽くされた納屋があるんですが、そこに年代物の古本のセクションがあって、そこで「ザ・オーバーランド・ガイド・トゥ・アジア」というガイドブックを見つけました。1800年代にロシアのボブスレーで中央アジアを旅した人物の記録なのですが、ゴールドで型押しされたこの本のデザインがそれは素晴らしかったんです。ですから「マダム・バタフライ」の型押しは、出版社のスタンプを本に載せるという、このアイディアの流用ですね。
本当にきれいですよね!最後に、チン・ミュージックの今後の予定について聞かせてください。

チン・ミュージックのイニシャルが上品にエンボスされた「グッバイ・マダム・バタフライ」の背表紙。© 2005-2008 チン・ミュージック・プレス
ブルース:私たちの目標は、持続性があって、常時3から4人の従業員を雇いながら、一年に4、5冊を出せるくらいの規模の小さな出版社となることです。ささやかな目標ではありますが、まだまだ道のりは険しいですね。今年は、新刊を3冊と再版を1冊出す予定ですから、徐々に目標に近付きつつはありますが、それでも主要スタッフを2人ほど、特に営業とプロモーションを担当する人材を連れてくるには、それぞれの本が成功しなければなりません。思うに、私たちがこういったことをやっているのは、零細出版社というものが常に文化の最前線にあるからだということはお伝えしておきたいと思います。小さな出版社こそが矢面に立って、経済的なリスクを負いながら、新しい意見を届けているのです。偉大な作家の経歴に、小さな出版社に所属していた時期があることは少なくないですが、主としてその時期こそが作家を波に乗せるものなのです。
まさにおっしゃるとおりですね!次に来る予定の、7月発売の日本の政治に関する本も楽しみにさせていただきます。チン・ミュージック・プレスのブルースさんとクレイグさん、今日はどうもありがとうございました!
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Posted by: goruntulu sohbet @ 7月22日2011年
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Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年