
泣く子も黙る美大の頂点、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)。20にも及ぶ修士課程のなかで、現在ロン・アラッドが最高責任者を務めるデザイン・プロダクト科は、これまでにロス・ラブグローブやジャスパー・モリソン、日本の石黒猛など数々の優秀なデザイナーを輩出してきた。さらにそのなかでも、現在13名の学生達が在籍するプラットフォーム11は、単に美しくデザインされたものを生み出すのではなく、デザインという媒体を使って、技術的・心理的・社会政治的なアプローチから様々な問題を提起するという一般的なプロダクト・デザインとは一線を画す試みを行っている研究室だ。本日は、先月都内のTRICO GALLERYで行われたプラットフォーム11の展示「CRASHLAND >(クラッシュランド/強行着陸)」のために来日した講師のノアム・トラン氏に、プラットフォーム11についてお話を伺った。
作:チエミ
まずデザイン・プロダクト科の「プラットフォーム」について説明して頂けますか?
デザイン・プロダクト科の2年間のMAコース(修士課程)には、約70名の生徒が在籍しています。現在5つあるプラットフォームは、同じ科の中でも少人数のグループで何かに焦点を当てるためのものです。各プラットフォームにはデザインの専門家である講師が2名つき、家具デザインや工業デザインなどに注目するプラットフォームもあれば、デザインのアプローチの仕方も様々です。中には社会学、環境や素材に焦点を当てるプラットフォームもあります。

「CRASHLAND >(クラッシュランド/強行着陸)」より、ベンジャミン・メイルズ「ヘルメース」。英国は今、セキュリティ対策のCCDカメラで埋め尽くされている。そのテクノロジーの応用として作られた…

完全自動制御による人種照合システム。カメラに捉えられた目標物は即座に人種の識別をされる…。
では、プラットフォーム11のコンセプトについて教えてください。
プラットフォーム11では、社会の複雑な問題についてを述べるためにデザインという媒体を用いることをモットーとしています。これらの問題の多くは、新たに出現するテクノロジーと関係しています。それはテクノロジー自体だけでなく、テクノロジーが何らかの作用に影響を与えたり、どのように心理的に作用するかなども含まれます。ですので、ここでのひとつの要素はテクノロジー、もうひとつは社会の政治的動向です。

トニー・マリン「無題」。人々と社会、自然環境の関係にスポットを当てた作品。このバケツで作られる砂の城は…

腐朽しゆく風景などを静かに物語る。
アートではなく、デザインを通してそのような問題を提起するというのは面白いですね。
私達はアートよりもデザインの方がこのような問題を提起するのに適していると考えています。なぜなら非日常的な場所にあるアートに比べて、デザインは日常の中にある非常に分かりやすい媒体だからです。ですので、「映画や文学やアートのように、デザインという媒体を通して社会の問題を伝えられるのか?」という仮説を持ってプロジェクトに取り組んでいます。
では、プロジェクトを通して一体どのようなものが出来上がるのでしょう?
生徒達は与えられた課題に対して、美しくデザインされた作品を作る訳ではありません。私たちが注目するのは課題に対するリサーチで、社会の複雑な問題について語る何かが作られることを望んでいます。

マシュー・プラマー=フェルナンデス「アナログ・ウェブサイト」。線路の上を走るウェブカム(上)が周囲の様々な物理的な情報(下)を撮影し、それを画像に変換する…

すると、画像に変換された情報は、すぐにネット上にアップされる。デジタル化が進む人々の生活から、「メカ」の存在の可能性を探り、アピールした作品。
今回展示されていた作品で課題の一例を教えて頂けますか?
ルチア・マッサーリの作品は、今年出した「体験を作り出す」という課題で作られたものです。意味が分かりにくいでしょうが、簡単に言えば、シミュレーターを作るということなんです。まず実際の生活や環境で、個人的な体験や何か熱望していることを想像します。それを技術や動き、音、匂いなどを使って人工的に作り上げるのです。
ルチアはこの課題に対して「ハイパーリアリティ」というコンセプトに注目し、ボディビルダーに焦点を当てました。そして、その世界に一般的に理解されているものとは異なった肉体の美学が存在することに気づきました。そこで、彼女はボディビルダーを雇い、西洋人の美を象徴するダビデ像の批評を依頼したのです。彼女はダビデ像の写真が載った本を1ページずつめくりながらダビデ像の体を細かく批評してゆくボディビルダーの様子を撮影したのですが、これがすごく面白いんですよ。ボディビルダーは本当に事細かにダビデ像の体について批評していくんです。この課題からできあがったものはデザインされた作品ではありません。しかし、ギャラリーに展示されるアート作品よりももっと価値のあるものになりました。

ルチア・マッサーリ「デビット・ポンブ by イオン・ポンプ」。ルチアは、ボディビルダーがダビデ像の体を批評する様を撮影したビデオとそれに使用した本を展示した。

批評されたダビデ像の写真。このボディビルダーによればダビデは、まだまだトレーニングが足りないらしい…。


デメトリオス・カルゴティス「ドクター・ゾルバス」。ギリシャ人がギリシャの栄光の瞬間の映像を見ながら別の機械に触れると、掻き立てられたプライドの強弱で用意された風船が膨らむという作品。

ジェン・フイ・リャオ「ひと月分」。突然の災害などにより、自力によるサバイバルを余儀なくされた際に、1ヶ月相当分の必要物資の携帯を可能にする構造物。…ちなみに彼は地震の多い台湾出身の学生。
確かに展示は大変素晴らしいものでした。作品を作った本人から聞いたお話が何よりも非常に面白かったです。
そう思って下さって本当に嬉しいですね。私も非常に上手くいったと思っています。展示作品は、初めから視覚的に刺激的で、見る人がその作品について興味を持ってもらえるようなものでなければなりませんでした。今回は実験的だったのですが、現在、この展示をもう一度ロンドンで開催することを計画しています。


トム・フォールシャム「光を用いた素描に関する研究 メカニズム10番」。紙の上を動くペンの逆説は、ペンの下を動く紙…。

この作品では、ペンの代わりにカメラのレンズを通過する光を使い、紙の代わりにカメラのフィルムそ使用することで、その絵が光となって闇夜に写し出された。

生徒さんは今回の展示に対して、どのように感じていらっしゃるのでしょう?
みんなワクワクしていたと思いますし、海外で展示を行うという貴重な経験を通して、その準備や適切な展示の仕方など、学んだことは多かったでしょう。RCAの学生達はある程度のバックグラウンドを持ってるプロに近い人間なのですが、大興奮のまま来日し、東京のパワーに飲み込まれてしまうんじゃないかと、正直なところ少し心配でした。しかし、きちんと展示をやり遂げたことに対して、私はとても嬉しく思っています。

プラットフォーム11を卒業した生徒さん達は、どのような道に進むのですか?
進路は様々で、教える立場になる者もいます。
一般的なプロダクト・デザイナーになる人は少なそうですね。
そんなことはないですよ。これまでに古典的なプロダクト・デザイナーになった卒業生は沢山います。
それは興味深いですね…。
ええ、そうですね(笑)。プラットフォーム11は、ちょっと変わっていますから(笑)。ですが、私達の学生達は技術力、デザイン力、プログラミング力など、全ての力を備えていますから、プロとして世の中に飛び立つことに対して、私はとても嬉しく思っています。
ノアムさん、今日は興味深いお話をありがとうございました!近い将来、プロになった生徒さんと再会出来る日を楽しみにしています!
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