
このゴージャスな大型豪華本の魅力には、マニアでなくとも心を奪われるのではないだろうか。オライリーから出版されている「Core Memory ―ヴィンテージコンピュータの美」は、メインフレームの内と外を写し出した写真集で、アメリカ人写真家マーク・リチャーズと編集者ジョン・アルダーマンがスティームパンク的なネジから整然としたうねりを見せるケーブルの海まで、70年にもおよぶコンピュータの歴史の美を紹介している。「SAGE」や「ILLIAC」、「ENIAC」などのごつい頭文字の略称で知られるスパコンからキッチン・コンピュータまで、この本には見る人の胸に懐かしさを喚起する写真がぎっしり詰まっている。PingMagでは、この素晴らしい写真集の日本版の発売に合わせて来日したマークさんとジョンさんに、コンピュータやファクシミリに囲まれながら、新宿にある大手デパートの物置でお話を伺った。なんて相応しいセッティング!
作:ベレーナ
訳:山根夏実

最初にこの本を作ろうと思ったのはいつだったのでしょうか?写真は全てシリコン・バレーにあるコンピュータ歴史博物館で撮影されたと聞きましたが…。
マーク:この博物館で開催されていた古いコンピュータを動かすオタクっぽいコンベンションを、私が偶然見かけたんです。そこで、1975年製の「イリアックIV」を見た瞬間に新しい世界が開けました。他の人は全員オタク的なことをやっている中で、芸術というもう一つの世界が広がっている。要するに、それが何をするものなのかは関係なく、ただひたすらに美しいと感じたんです。もちろん懐かしさもありました。そこからミーティングや惜しくも果たされなかった機会を経て、周囲を説得するのに2年かかりました。

今まで注目されていたのは技術的な面のみで、デザインに魅力を感じることはなかったのかもしれませんね…。改めてお伺いしますが、コアメモリとは一体何なのでしょうか?
マーク:古いタイプのメモリで、コアという言葉にはご存知のとおり、磁気コアと中核という二つの意味があります…。
ジョン:興味深いことに、コアメモリは必ずワイヤーを編み上げたものに磁化された端部がくっついたような外見で、それが山ほど連なっている装置です。基本的には1と0で出来ていて、オンかオフかみたいな感じです。
マーク:メモリを文字通り見ることができるんです。とても詩的ですよ。
ジョン:電源を切っても同じポジションのままなんです。この状態を「ルーチン・ステイト」と呼びます。

もう遥か昔のことのようで、とても懐かしく感じますね。どのコンピュータが生き残って、どのようなものがベーパーウェアとして実現しないまま終わってしまったのかもとても興味深いのですが…これはインターフェースの問題なのでしょうか、それともデザインも関係していると思われますか?
ジョン:背景は様々ですよ。キッチン・コンピュータの「ハニーウェルH316」のように、明らかにアイディア自体が悪かったものもあります。このマシンは、完全に平らですらない付属のテーブルにレシピを保存しておくためのもので、自分のレシピを入力するための2週間コース付きで販売されました。そして一台も売れなかったという…。
マーク:これは単にアメリカの超高級デパート、ニーマン・マーカスのPRですよ。色々な宣伝で未来の図として使われたんです。
ジョン:でも、このマシンを組むのに、少しは努力したと思うよ!
マーク:どうかな。これだけの年数が経過しても、このマシンは今だに我々の話題に上っている。決してニーマン・マーカスが素晴らしいと言うわけではないけど、PRとしては成功だったってことじゃないかい?

その他に生き残ったものは?
ジョン:遊び心という傾向がその一つですね。初めてMacが発売された時、世間はそれをオモチャみたいだと思ったんです。ですが、実際にそういった印象を残したのはインターフェースです。人々が求めているのはMS-DOSのような直線的なインターフェースであって、Macには真面目さが足りないと大きく非難されたのですが、それでもこのインターフェースには洗練さがあった。人々の関心を集めるものは、息も相応に長いのです。また「コモドール64」もたくさんの画像や楽しいインターフェースが特徴の機種で、かなり長い間ヒット商品として売れ続けました。プレイステーション対Wiiにも同じことが言えると思います。

おっしゃる通りですね。前書きで、コンピュータ歴史博物館のダグ・スパイサー氏は「コンピュータが私たちにとって何を意味するかは、私たちがコンピュータに何をもたらすかに大きく左右される」と述べていらっしゃいます。そして興味深いことに、この本に載っているコンピュータの多く、もしくは大半が、具体的に冷戦を意識して作られたものですよね。例えばこちらの数々の防衛システムとか…。
ジョン:基本的に、すべては世界中を震撼させた出来事であると同時に、狂おしいほどに創造的な瞬間であった第二次世界大戦から始まっています。他の人間を殺すために、この必死の歩みに技術的進歩が押し込まれ、おぞましいと同時に人間の性だと受け入れざるを得ないような発明を推し進めていったんです。その後、それが商業的な成功になると、純粋に人を殺すことよりもゲームなどのその他のものに関心が移り、少しずつ変わっていったのも伺えます。もちろんそれにしたって仮想空間で敵を殺すことが関係しているのですけどね。

マーク:例えば、1946に公開された「エニアック」、正式名称「Electronic Numerical Integrator And Computer」を見てみると、それ自体は美談と言えるでしょう。正式名称に「インテグレーター(集成する人)・アンド・コンピューター」と付くのは、それまでの弾道計算が数人の女性の手で行われていたからです。その後、彼女らが最新の大砲の弾道計算も受け持つことになったものの、それが人間のキャパシティを超えていたために、この電子計算機が完全に人の代わりをするようになりました。要するにこのコンピュータは、のっけから生産性の概念を変えたんです。言うなれば、我々が人を殺すことには変わりはないけれど、この機械はただそれをより可能にしたのです。
ジョン:繰り返しになりますが、最新のより強力な大砲が開発されていて、弾道計算は人間の女性の手によって行われていた。「弾道を計算することができる」新しい大砲の配備の要となったのはこの一点に尽きます。そこで機械的なコンピュータにやらせよう!という案が出てきたのです。

そして資金も大した問題ではなかったのでしょうね…。
マーク:資金は潤沢にある中で、すべてが漠然としていたと思います。軍のシステムでは、資金面は最後に来る問題です。問題を定義して、それを解決しようとする。同様に、要求されているスペックを満たしさえすれば、それで良いんです。
ジョン:軍を創造的な組織だと思う人はまずいないでしょうが、でももし彼らが莫大な資金をそうやって注ぎ込んできていたのだとしたら…。
マーク:現在の軍部を見てください。 アメリカ国防省(DoD)の機関、国防高等研究計画局(DARPA)は、一年おきに無人自動車による競技大会を開催することなどで知られていますが、インターネットを開発したのも彼らなんです…。


…そして小さな顔みたいな部分も。 © コアメモリ
話を戻して、1964年に作られた「CDC 6600」は主に核兵器関連の施設で使用されたそうですが、それを使って作業をしていた人たちは、自由時間にこのコンピュータを使ってゲームをしていたそうですね…。
マーク:その一方で、このコンピュータはロシアとの交渉を実現させるのにも一役買っていたんです。それまで兵器が正常に作動するかを見るには、実際に爆発させてみるしかなかったのですが、このレベルのコンピュータがあれば、実際に爆発させずに演算することや、限定的な爆発に留めることもできたんです。地下核実験禁止条約は、爆発の規模を制限することを可能とした演算能力の進歩があったからこそ実現できたと言えるでしょう。最終的にはそれが天気など、様々な予測にも使われるようになっています。

そして1954年に導入されたアメリカのあの有名な対防空ネットワーク、「セージ半自動式防空管制組織」もありますよね…。
ジョン:当時は誰もがソビエトの爆撃を恐れていたこともあって、セージには信じられないくらい潤沢な予算が与えられていました。
マーク:だけどあれだけの真空管技術のせいで、セージが国際的なプロジェクトにならざるを得なかったことも忘れてもらっては困ります。冷戦時代の末期に、このマシンの真空管を作っていたのはどこだかご存知ですか?なんとソ連ですよ!ソビエトのもののほうが安かったから、セージの真空管はあちらのものが使われていたんです。

ジョン:それ以外にも、セージはレーダー施設などの自国の空の状況に関するデータをすべて接続するグラフィック・インターフェースを考案したのですが、これは本当の意味で最初の本格的なグラフィック・インターフェースと言えるでしょう。これにはライトガンが使われていて、それがその後ライトペンになり、最終的にはマウスになったんです。ですがセージが完成した時には、ソビエトは既に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を配備していて、こちらは追跡するには速過ぎてセージでは対応できなかったんです。あれだけの資金を注ぎ込んだのに、結局まったく役に立たなかった。とは言え、そこからいくつもの新しい技術が生まれました。アメリカン航空の座席予約システムも、これをベースに開発されたものなんです。

速度はもちろん「フルスピード」!1955年に作られたWISC。© コアメモリ
マーク:ミサイルの部分は実は結構面白いんですよ。ソビエトが大陸間弾道ミサイルを開発できたのは、これらのコンピュータ技術があったからこそなんです。こうなったらもうコンピュータとの競争ですよ。また、軌道の計算や中間軌道修正には膨大な演算力が必要とされていたので、この頃にはコンピュータは大陸間弾道ミサイルに搭載できるくらいに小型化されていました。この当時は、GPSなんかはまだ国内に限定されていましたから。
冷戦時代の設定をなぞったオンライン戦略ゲーム「デフコン」や、核戦争をシミュレートするゲームを扱った映画「ウォー・ゲーム」などを見るとかなり違和感があるのですが、お二人はこういったことが現実に起こり得ると思われますか?
マーク:ミスの大半はコミュニケーションによるものです。実は私も1973年の第四次中東戦争の時に、デフコン2を経験しています。エジプトが奇襲をかけて、ロシアがエジプトに物資の空輸を行おうとしていた時に、むしろ「一線を越えているぞ」というシグナルであるデフコン2が発令されたと思います。あの時はかなりの狂乱状態だったのですが、何かが起きるとしたらああいう時でしょうね。例えば、誰かが行動を起こして、その時の計算が間違っているというようなことで…。

まさに狂乱的な興奮状態ですね。少し横道に逸れて、コンピュータの素晴らしいバーチャルな世界についても聞かせてください。お二人が「コアメモリ」の本で一番気に入っていらっしゃるコンピュータはどれですか?
ジョン:一番はセージですが、初めて同システム内の異なる機種間でプログラムを動作させることができるようになった1964年に開発された「System/360」も好きです。それまで企業は将来的なニーズが変わればすべてを一からやり直さなければいけなかったこともあって、コンピュータの購入を渋っていました。そこでIBMは仮想機械を内蔵して、それぞれの機種をシミュレートすることによって互換性を備えたシリーズを作り出したんです。

マーク:私は1937年製の「IBMモデル077コレーター・カードリーダー」が気に入っています。茶色に見えるのは実は錆ではなくて、ギアのための油なんです。この色合いが堪らないんですよ!
ジョン:それからラジオシャックの「TRS-80」も好きですね。当時発売されていた「アップルII」はお金のある子のためのマシンで、うちの両親にはそこまでの大金をはたく気はなかったので、私はTRSを貰ってそれに夢中になったんです。

お二人の本の中で自分の初めてのコンピュータを見つけた方も多いでしょうね…。
マーク:「CDC 6600」は、シャットダウンすると再起動させるのにいくつもあるスイッチを切り替えなければならないマシンで、そのスイッチ盤の大きなプリントがあるのですが(上から9番目の写真参照)、この本の写真展のオープニングで通りかかった人がそれを見て、「起動まであとスイッチ1個だね」と言ったんです。その人は、これだけ時間が経ってもまだこのマシンのバイナリコードを覚えていたんですね!

それはすごいですね。今日のコンピュータとそのデザインについてはどうお考えですか?

写真家マーク・リチャーズと編集者ジョン・アルダーマン。素晴らしい本をありがとうございました!
マーク:退屈ですね。あまりにもありふれていると思います…。
ジョン:…でもそこが面白いんですよ!私が働き始めた頃には、コンピュータはまだ比較的珍しいものでした。それが今では、誰もが一日中向き合っているときた。私たちは、世界そのものをコンピュータを通して見るようになっていますが、そのためには適切なインターフェースを開発しなければなりません。その普遍性こそが面白いんです。
マーク:私はそれは一時的なものだと思いますね。数年もすれば、Wiiのようなインターフェースで、座ってではなく、動くことで何かをする人も出てくるかもしれません。そういったことをTEDのトークでやっているところを想像してみてください、巨大なタッチスクリーンとインプラント式USBとか…。
未来のインターフェースが本当に楽しみですね。もちろん、日本でコアメモリ展が開催される日も!マーク・リチャーズさん、ジョン・アルダーマンさん、今日はありがとうございました!
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