
子供の頃、こんなに楽しそうな仕事で給料をもらう人がいるなんて信じられない!と思ったことはない?例えばチョコレート工場で働く人、フェラーリのテストドライバー、それにジェットコースターをデザインする人とか?イギリス出身のブレンダン・ウォーカーは、まさにそれを生業としている。彼はなんとジェット戦闘機の設計を経て(!)、今では世界トップクラスの遊園地のためのアトラクションを開発しているのだ。PingMagでは、ブレンダンさんに興奮と楽しさで算出する、微妙なスリル学について語ってもらった。
作:マット・シンクレア
訳:山根夏実

「スリル・エンジニア」の装備でたたずむブレンダン・ウォーカーさん。冗談じゃなくて!©ブレンダン・ウォーカー
ブレンダンさんは、スリルのデザイナーだそうですね!一体どうやってそのお仕事に就くことになったのでしょうか?花火が関係しているというお話も聞いたのですが…。
ええ、あの手作りの花火ですね…。私が最初にブリティッシュ・エアロスペースで見習いの仕事に就けたのは、まさにあれのおかげだったような気がします!面接で、他の人は全員が色々な航空エンジンの性能の違いについて話していたのに対して、私は自分がどうやって市販の花火を解体・復元して3段ロケットを作ったかについてだけ話し続けたんです。もしかしたら、それ自体が既に私が数値流体解析に向いていないという兆候だったのかもしれません。その後、場合によっては20年も要する航空機のデザインに嫌気が差して、仕事を辞めてロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で工業デザインを学びました。
その後、どうされたのですか?
願書を出した時点では、私の考えるところの工業デザインの何たるかはごく一般的なものだったと思うのですが、師事したアンソニー・ダンに頭の中をちょっといじられて、「工業デザインとは実験と遂行である」と説得されました。ですからRCAを卒業した時には、私の関心はすでにアート系のプロジェクト、それも特に大規模の、動く電気機械系の彫刻に向いていました。でも私が特に興味を持ったのは、人々が私の作品にどう反応するかを観察することで、人が自分の作ったものを見るところを見ることに興奮しました。それと同時に、オーストラリアにはシドニーのハーバーブリッジを違法に登ることを趣味とする人たちがいるという話を聞いて、人は作品や製品からそれぞれ異なる体験を得るのだと、しかもその中には時としてデザイナーが決して意図、予想しなかったやり方もあるのだということを認識し始めました。その後、私の作品は人がいかに物体を体験するかの心理を研究する方向に向かい始めたのです。
それはスリルを求める人々の遺伝学に関係しているのでしょうか?
それもありますが、そちらはもう踏破された道でしたから。人類の5%はD4DR遺伝子に欠陥があって、スリルを得るにはかなり極端な行為に走らなければならないという知識は興味深いものですが、それ自体はより良い製品をデザインする助けにはなりません。そこで私は人がいかに自分自身にとってスリリングな経験を作り出すかに着目したんです。

具体的にどうされたのでしょうか?
要するには、スリルについて話していたオンライン討論会に乱入していったんです。最初はグーグルで「スリル」に適当な言葉をくっつけて検索して、誰がこういうことについて話しているのかを調べました。例えば、「テニス+スリル」と「料理+スリル」は検索した中にありましたね。そうやって、かぎ針編みで自分のウェディングドレスを作っているという女性から密かに女装を趣味としているという男性まで、自分のやっていることがスリリングだという人々を相手に、およそ50回ほどのインタビューを行いました。
驚くべきことに、その結果ほとんどすべてのケースにある共通点があることに気付いたんです。例を挙げると、スリリングな体験には内臓刺激の要素がなければなりません。それに力と制御の要素も、制御可能か不可能かに関わらずあって、そして時として他人が自分をどう見ているかという、人に評価される感覚も関係していることがわかりました。

ブレンダンさんの飛行機事故内での自画像。©ブレンダン・ウォーカー
ではスリルの決定的な定義というものがあるのでしょうか?
ええ。私は人が人生を耐え忍ぶことの見返りとしてスリルを得るのだと考えています。もちろん、人は危険を察知し、回避するためにスリルを感じるようになったという進化的な要因もあります。ですが現代の生活はより複雑になっていて、私たちは滅多に本物の危険に晒されることはありませんから、その見返りを体験するためには人は人工的にシチュエーションを作り出さなければなりません。エクストリームスポーツは言うまでもなくライオンから逃げることの代わりですが、ボンデージやその他のフェチズムのような体験は、心理的な面で非常に複雑なものです。これは陳腐な表現と思われるかもしれませんが、実際のところ、私は人間がスリルを求めるのはその瞬間が生きている実感を最も強く得られるからだと思います。
まさにおっしゃるとおりです。では、次はウォーカー式スリル因子について聞かせていただけますか?
あれだけのインタビューを行ってみて、私はある疑問を持ち始めたんです。私はデザイナーのはずなのに、この半年を「スリル」の定義を考えることだけに費やしてしまった!手元にはインタビューを起こした原稿が山ほどあるにはあるものの、これからどうすればいいのか?そうしたらある日飼い犬とジョギングしている時に、「ユリーカ!」的な瞬間が舞い降りてきて、スリルをエンジニアリングで教えられたのと同じように考えればいいのだと気付いたんです。要するに、楽しさと興奮の要素は、両者の関係から数学的に定義できる。そしてそこからある仮説というか数式にたどり着いたんです。楽しさと興奮の度合いと、その一つずつが変化する速度によって定義される「スリル」。それがウォーカー式スリル因子なのです。

これは実はまだ証明されていない公式です。まあ、反証もされていませんが。でも今では仕事でジェットコースターを設計する際に、例えばお客さんの楽しさの度合いを維持しながら、興奮度は減らして次の刺激の増加に準備するといったことを決められるので、本当に役に立っています。他の人になぜこのアトラクションのこの場所にこの要素が設置されているのかを説明して、それについて単なる直感や勘ではなく、共通の認識を持って話し合うことができるようになりました。

それではブレンダンさんは、「スリル」の定義とそれを説明する公式を考案されたのですね。ですが、実際にジェットコースターを設計した経験がないにも関わらず、どうやって関係者にまじめに受け止めてもらえたのでしょうか?
「スリルの分類学」を発表した当時、私はロンドンのサイエンス・ミュージアムの「ウェルカム・ウィング」に設置されるインタラクティブ展示のデザインにも取り組んでいて、その作品の数学的な要素に注目されたんです。正直に言うと、私にはそこまで綿密な科学的研究の作品にするつもりはなくて、面白い体験をデザインするのに使える経験的なものという感じで作ったのですが。

ロンドンのサイエンス・ミュージアムのウェルカム・ウィングにある、ブレンダンさんが制作したインタラクティブ展示。©サイエンス・ミュージアム

同じくロンドンのサイエンス・ミュージアムのブレンダンさんの作品。©サイエンス・ミュージアム、ロンドン
「スリル・ファクター」(スリルの因子)という言葉だけは誰もが聞いたことがありますが、そんな中で私がナイーブにもそれが何たるかを知っていると主張していたわけで。それまでジェットコースターというものは、急降下のあとにどうバレル・ロールを持ってくるかというような、アトラクションを演出する直感と経験の組み合わせ、そして重力加速度、いわゆる「G(重力)の力」の計算で設計されてきました。Gのプラスからマイナスへの変化はコンピュータで非常に正確にシミュレートできますが、それはそのアトラクションでどれだけの興奮が得られるかを表すもので、楽しさの度合いは算出できないんです。それで、サイエンス・ミュージアムはこの仮説を証明するような、興奮と楽しさを計測する実験を作ることに興味を持ちました。メディアの注目を浴びた最初の「スリル・ラボラトリー」はこれがきっかけで作られたんです。

同時に、私はアルトン・タワーズのアトラクションを設計するタッソー・スタジオにもアプローチしていて、支配人のサイモン・オピーに会ってもらえることになりました。あれは結構怖かった!それというのも「スリルの分類学」で、私は自分の作品を脚本や振り付けに関連付けて書いていたのですが、サイモン・オピーは演劇の出身で、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのプロダクションなどで仕事をしていた方だったので、もし私のアイディアを打ち壊せる人がいるとしたら彼だろうと思ったんです。結局厳しい質問攻めにたじたじにされましたが、会見の最後には彼はクリエイティブ・ディレクターに渡すための本を13冊注文してくれたので、うまく出来たとわかってほっとしました…。それがタッソー・スタジオとの契約につながって、自分のチームを率いて将来的なアトラクション、それも5年、10年先のものを考えるようになったんです。

楽しさの度合いを算出。装備を整えて「ザ・オブリビオン」に乗る準備をするスタッフ。アルトン・タワーズのスリル・ラボラトリー2より。©ブレンダン・ウォーカー
このプロジェクトがうまくいったので、私は常任コンサルタントになるオファーをもらいました。その後、タッソーがマーリンに買収されて世界で2番目に大きなテーマパーク・グループになった時に、私はアルトン・タワーズ、レゴランド、シー・ライフ、ロンドン・ダンジョンなどを含む、ブランド全体のコンサルタントになったんです。ここでの私の仕事は、専門的な見解と知識、そしてどうすればアトラクションをもっとスリリングにできるかを理解するためのノウハウをもたらすことです。それ以外にも、ディズニーランド・パリを含む他の会社からも同様の仕事を請けて、そういったものを伝えています。
それはすごいですね!それではブレンダンさんは、机に向かってジェットコースターの図面を描いたり設計したりしているのでしょうか?
最近ではそうですね。最初の頃は、私の仕事はもっと概念的、戦略的なものでした。ですが最近では、設計やアトラクションの演出をしなければならないような仕事も請けています。でも私がやっているのはどんな外装のアトラクションを作るのかというようなことではなくて、アトラクションに乗った感触の絵コンテを作るようなものです。実はアルフレッド・ヒッチコックのDVDを見ていたら、ボーナス映像で映画の絵コンテの一部が収録されていたのですが、絵自体はそこまで上手に描けているものではないのに、一つのシーンがどう進行して、緊張感や興奮がどう盛り上がるのか、鎮まるのかが本当にはっきりと伝わるものだったんです。私もそういうことができるようになりたいですね!

ヒッチコックは「サスペンスの神様」とまで言われましたが、ブレンダンさんはスリルと怖さの違いはどこにあると思われますか?
辞書的な意味で言えば、違いはごくわずかだと思います。ですが私の個人的な定義で言えば、スリルには興奮と楽しさの両方が多分に含まれているのに対して、怖さは高い度合いの興奮と少量の楽しさで成り立っていると思います。楽しさという点においては、怖さはスリルの正反対なのです。もっとも興味深いのは、ホラー映画の場合、緊張感と恐怖がむしろ不愉快なものだということです。ですが「正常」に戻るには、その不愉快さから楽しさが増加しなければなりません。この場合、人は恐怖からの解放感をスリリングだと感じるのです。
ブレンダンさんは商業的なプロジェクト以外に、芸術的なインスタレーションも作り続けていらっしゃるそうですね。それがブレンダンさんにとって重要な理由を教えてください。
思うに、実験の機会だからじゃないでしょうか。ロンドンのシャント・ラウンジで制作した前回のパフォーマンス作品は、エアフォリアという現在進行中のプロジェクトの一環で、ロンドン東部のエッピング・フォレストで起こった大韓航空の墜落にインスピレーションを得たものでした。

飛行機の墜落事故から芸術作品を作られたのですか?
テーマパークが航空事故をベースにしたアトラクションを依頼するはずがないことは、私もよくわかっています。ですが「アート」と呼ばれるものに対しては限度も変わりますし、純粋なエンターテインメントであれば悪趣味と分類されるものでも、観客は概ねにおいてよりオープンだと思います。特に小規模の現代アートのギャラリーでは、観客はそこにいる時点ですでに商業的な意味での許容範囲のギリギリのところに立たされていると思います。そこでこの最新の作品では、私は空から火の玉が降ってきて、それに目を奪われて興奮したという目撃証言を語った墜落の目撃者が、それが飛行機の墜落事故だとわかると、それ以上自分の感情を話したがらなくなったことに興味を持ちました。

なるほど!ですが飛行機事故の映画を制作することや、それをエンターテインメントとして映画館に見に行くことは容認されているのに、その内容のその他のエンターテインメントは認められないというのはおかしいですよね…。
そうなんです。エアフォリアでは、「内臓を刺激する体験を再現する可能性」、そして「飛行機の墜落時に感じるスリルと高揚感」に興味を持ちました。この大韓航空事故のもう一つの興味深い点は、墜落した森が自然保護区域で、鹿などの動物がたくさん死んだということです。ですからエアフォリアの次のステージは、動物と飛行機が融合した機械的な空想上の彫刻を作り、墜落の生存者がこういった生き物に遭遇した時の気持ちを想像してみることでした。

これはかなり気持ち悪いですね!
エッピング・フォレストには、その他にも本当に不思議な偶然の一致があるんです。ここには以前遊園地があって、それが第一次世界大戦中に兵舎になり、ドイツの戦闘機が落とした爆弾によって遊園地は破壊され、数人の兵士が命を落としたそうです。この土地には、すでにエンターテインメント、飛行機、そして死の関連性が存在していて、アートの観客であればその繋がりについてより詳しく知りたいと思うでしょう。ただし、テーマパークに遊びにきた家族連れにとっては、ちょっと気分の悪くなる話かもしれませんが!

おそらくそうでしょうね。ですがそのつながりは確かに不思議で興味深いものですね。それでブレンダンさんの芸術方面での仕事が商業面での仕事と交差することはあるのでしょうか?
ええ、アートの修練はデザインを豊かにしますし、私にとっても色々なことを試して、何が上手く行くのかを見極めて、時にはその要素を採り上げて自分の商業的な仕事に使うことがあります。でも将来的には飛行機墜落の映画と、その映画とタイアップしたマーケティングのアトラクションをテーマパークが依頼することを夢想してしまいますね…。もしそれが現実になったら、そのアトラクションのデザインをする人間はぜひ自分であってほしいと思います!

ブレンダン・ウォーカーさん、今日はありがとうございました。なんとなく、ブレンダンさんが設計するのが飛行機ではなくジェットコースターで良かったかもと思ってしまいました…。そしてブレンダンさんの今後の研究に参加したい方は、「クロモ11」でご自分の体験を語ってみてください!
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ブレンダンさんありがとう!!僕の全ての悩みが解決した!!!!!
Posted by: ちん @ 3月30日2008年
ブレンダン・ウォーカー:本職のスリル・デザイナー good post1311
Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年