
衛星画像、インターネットと連動した地図やGPSなどを活用した「地理空間技術」が、今日では監視以外の用途にも使用されているのをご存知だろうか。この技術は、アムネスティ・インターナショナルなどのNGOに協力して、人権侵害の現場の探知、場所の特定、分析において目覚しい成果を挙げているのだ。米国科学振興協会(AAAS)の地球空間技術と人権プロジェクトのディレクターであるラルス・ブロムリー氏は、ダルフール、ジンバブエ、北朝鮮、ガザ地区、そして最近ではミャンマーなどにおける民間人への残虐行為を衛星写真によって捉え続けている。しかも興味深いことに、こういったマッピングは、主にGoogle Earthのような誰もが使用できるツールを使って行われているという。PingMagは、ブロムリー氏に「地理空間技術」についてお話を伺った。
作:ベレーナ
訳:山根夏実
2005年の12月に始動した地球空間技術と人権プロジェクトは何を目的に設立されたのでしょうか?衛星画像がダルフールの民族浄化の証拠となったように、そういったきっかけのようなものがあったのでしょうか?
ほぼ同時期に行われた、アメリカ政府によるダルフールの衛星画像の再検討に影響を受けた部分はあります。しかしながら、その他の問題も同様に深刻なものでしたし、それ以上にNGOがいかにこういった問題に地図や地理空間技術を活用していないかという点に驚かされたというのが大きいと思います。
ブロムリーさんは、具体的にはどういった「地理空間技術」を使用していらっしゃるのでしょうか?
私たちは高分解能衛星画像以外の衛星画像も多く使用して、火事や森林破壊に注目しています。その他にもGPSやGPS機能を持つ携帯電話、衛星電話といったものの使用状況にも注意しています。私たちの活動の大部分は地図制作で、これを補助・実現してくれるのが地理情報システム(GIS)と呼ばれるソフトウェアです。将来的には、レーダー衛星や無人航空機(UAV)、民間のカメラ・ネットワークなども利用したいと思っています。


話を一旦ダルフールに戻しますが、後にこの地域の衛星画像をマッピングや分析してみて、どのような事実がわかったのでしょうか?
私たちのダルフール関連の作業の大半は、2005年以降もスーダン政府が民間人に対して軍事行動を行っていることの証明でした。スーダン政府は2004年の末からはそういった活動は停止していると主張しているのです。この画像はアムネスティ・インターナショナルに提供され、その後彼らのウェブサイト、ダルフールを見守る目に掲載されました。私たちも、この作業からこの地域でのマッピングと画像取得について多くを学び、その教訓がミャンマーや他の地域でも活かされています。現時点では、ダルフールにおける最近の襲撃の報告を受けて、その規模を見極めようとしているところです。
それではジンバブエの画像は、2006年にブロムリーさんが提起し、現在も進行中の弾圧について具体的にどういったことを示しているのでしょうか?
これはいかに一つの町が政府の政治的な理由によって一掃されたかを物語る、なまなましい画像です。この画像は、現在ではジンバブエ人権弁護士協会がアフリカ連合に提訴した裁判に使用されています。


昨年秋のミャンマー反政府デモでは、フリー・ビルマ・レンジャーズ(FBR)を含む、主に3つの団体から現地で何が起こっているのかの情報提供を受けて連携されたと聞きました。まず先方から特定の位置や事件の情報が持ち込まれるのだと思いますが、そこからどうされるのですか?
この作業の最大の難関はそこなんです。時にはGPS座標まで揃った報告を受けることもありますが、大抵は村や地域の名前、もしくはどこの行政区域かという情報しかなく、私たちは襲撃があるごとにそれぞれの座標の特定を試みなければならないのです。ミャンマーやダルフールのような場所では、ほとんどの場合がとても古くて粗末な地図しかありませんから、座標を見つけるまでにかなりの時間を要することもありますし、最後までわからないことも少なくないです。ですが、一旦座標が取れさえすれば、有用かもしれない情報を求めて二社の(GeoEyeとデジタル・グローブ)衛星画像記録を検索します。必要とあらば、予算と相談して特定の位置の新しい画像を取得するよう依頼することもあります。でもそれにはかなりの費用がかかるので、頻繁にできることではないですね。
…AAASの情報によると、衛星画像1枚の価格はおよそ2,000ドル(日本円で約20万円)かそれ以上だそうですが、この費用はどこから出ているのでしょうか?
新しく取得する衛星画像の費用はその程度ですが、アーカイブに記録されている画像は250ドル程度で済むこともあります。こういった費用は、現在ではマッカーサー財団の資金と開かれた社会財団の助成金から捻出されているものです。ダルフールの時の資金は、アムネスティ・インターナショナルを介してセーブ・ダルフール連合から出ていました。


なるほど。その後は?最初に画像を受け取るまでにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?
アーカイブの画像は、比較的早く数日以内には手に入れることができます。新しい衛星画像は、雲の具合や競争如何で数ヶ月かかることもあります。時には1週間以内に入手できることもないではないですが。
では運の問題でもあるのですね。特定の地域を分析するには、何枚くらいの画像が必要なのでしょうか?
作業の対象が村一つであれば、1枚の画像だけで何が起こったかを知ることも可能です。その画像が襲撃後まもない時期に撮られたものであればですが。大抵の場合は、2枚かそれ以上必要です。ですが、襲撃の情報の大半はフリー・ビルマ・レンジャーズのような現地のソースが持ってくるものだということはしっかりと理解しておかなければならないでしょう。こういう衛星画像は、単にそれらの報告を確証し、裏付けるためにあるのです…。


…いわゆる物的証拠みたいなものなのですね。地図の特定と分析にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?
それは対象となっている紛争と地域の規模や、取得する画像の数にもよります。ダルフールとミャンマーの作業の成果は、どちらも私とスタッフの数ヶ月にもおよぶ作業の賜物でした。私たちが注目するのは、軍や警察の増強、火事、道路、ダム、パイプライン、鉱山建設、隠蔽された墓や大量死の痕跡、森林破壊と落葉、そういったものです。
衛星画像の画質でもかなりのことがわかるようですね。私たちも1ピクセルあたり60平方cmというデジタルグローブ社の衛星「クイックバード」の高解像度画像にはびっくりしました。この解像度だと、どれくらいの精度で判別できるものなのでしょうか。
この解像度だと、家、塀、小道、作物の種類や乗り物といった作業に関連する細部まで見ることができます。時には牛が見えることもありますし、影が丁度良い具合とタイミングで写っていれば、人の影も判別することができます。乗り物に関しては、乗用車かトラックか、軍用車か民間の自動車か(大抵の場合において)といった細部の区別はつきます。


ブロムリーさんが使用されるツールについても教えていただけますか?他にもマッピング・ソフトがある中で、情報の階層化はGoogle EarthとGoogle regionatorのコードだけで行っていると伺って、思わず耳を疑ってしまいました!あとブロムリーさんは、インフォメーション・マッピングとこういった一般的に入手可能なツールの活用法に、どういったポテンシャルがあるとお考えですか?
私たちは一部の公開プレゼンテーションでは、作業の成果を発表するのにGoogle Earthを使用していますが、それ以外ではできればバーチャル・アースなどを使ってウェブページに画像を埋め込むようにしています。提携しているパーオナーが遠く離れた場所にいることもあるので、単に地図や画像を拡大して印刷して郵送することもあります。相手にとって何が一番効率的か次第ですね。関心を持つ人々によるより広範な利用については、結果的に前向きな行動や知識に繋がるのであれば、問題はないと思います。ですがもし人々がこういったツールを暴力行為を見る手段として扱うのであれば、率直に言ってそれは娯楽の一形態としての使われ方であって、私自身は失望感を禁じえませんね。
おっしゃる通りです。確かに政治体制の側も同じように使えるのですよね…。こういった技術の危険性はどこにあるとお考えですか?
このような技術の危険な使い方は、おそらくすでに研究されつくしているでしょう。害意を持った軍隊も、やろうと思えばこういった画像を使って攻撃を計画することができますし、それはギャングや犯罪者も同様です。ですがそういった軍隊は、大抵がはるかに有用な諜報ソースを現地に持っているものですから、衛星画像のような漠然としたツールはあまり必要とされていないのかもしれません。これらのツールは、そういった現地との直接の繋がりを持たない西洋のNGOに特にすばらしい効果を発揮するものだと思います。


衛星画像の分析は、これまでに起こった人権侵害をはっきりと目に見える形で提示するという意味においてとても大きな可能性を秘めていると思いますが、今後より迅速に対応できるようになるにはどういった改善を行うべきだと思われますか?
まず、私たちがいち早く画像を入手できるように、今あるものよりももっと多くの、より高画質の商業衛星がなければなりません。そして私たちができる限り早く画像を入手できるように、今よりも多額の予算も必要です。そういったわかりやすい条件が整いさえすれば、衛星観測はずっと迅速になるでしょう。しかしながら、「行動」ということに関して言えば、こちらのほうがもっと大きな問題です。私たちが協力しているNGOは、実際の権力という意味においては限りなく無力です。彼らは政府や国連に行動するように働きかけることはできますが、それも簡単ではありません。本当に、もっと行動に繋げることができたらいいのですが!

難民キャンプの増加が示すミャンマーの人権侵害。2002年11月に撮影されたタイのメー・ラ・ウーン難民キャンプ。この時点ではまだ建造物がいくつかあるだけのものが…。© 2007 GeoEye

…2005年2月に撮影された画像では数百の建物の集落にまで拡大している。2006年現在、推定154,000人の難民がタイとの国境を越えたと言われている。© 2006 DigitalGlobe Inc.
ブロムリーさんが個人的に、分析抜きにして衛星画像を見る時、どういった思いを地表に抱かれるのでしょうか?
私にとって、衛星画像は常に魅惑的で美しいもので、高画質でも低画質でも、それが伝えてくれる情報はかけがえのないものだと感じます。しかしながら、私が普段こういった画像の中で捜し求めるものは、住居の破壊、捕虜収容所、大規模森林破壊など、あまりにも悲痛なものばかりです。こういったものは滅多に忘れることはできませんから、概して邪悪な人間に対する静かな怒りを覚えますね。
ブロムリーさんにとって特に印象的だった画像は?
画像が及ぼした効果という意味においてなら、ジンバブエのポルタファームのものと、2007年のミャンマーでの襲撃を写し出したものでしょう。その当時、ミャンマーでは雲が厚かったので、この画像が撮れたのは思いがけない幸運でした。私たちは一瞬の雲の晴れ間から村の画像を入手することに成功し、それによって人々の住居の焼け爛れた残骸が確認できたのです。


残虐行為がはっきりと見てとれる、大変貴重な画像ですね…。地球空間技術と人権プロジェクトのラルス・ブロムリーさん、今日はありがとうございました!
本日掲載されたもの以外に、AAASのウェブサイトでより詳細な画像を見ることができます。また、Google Earthをインストールされている方は、同プロジェクトのカレン州のレイヤーも見てみてください。その他にもダルフールを見守る目やアムネスティ・インターナショナルのホームページにも詳しい情報が掲載されています。
13 コメント
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