宇治野宗輝の音楽が詰まったエレキ弁当

2008年3月10日 カテゴリー: 国内, 音楽

宇治野宗輝の音楽が詰まったエレキ弁当

楽器として生まれ変わったキッチン電化製品。宇治野宗輝氏の「ザ・ロテーターズ(トリニティ)用プラットフォーム」(撮影:2004年、池田晶紀氏/提供:宇治野宗輝氏)

おばあちゃんの居間とはちょっと違うこの部屋。なんとこの家電製品のオーケストラは、「ゴージャラス」の活動でも知られる宇治野宗輝(うじの・むねてる)氏が作り出したサウンド・スカルプチャー。しかし、今回は珍道具についてあえて触れないでおこう…。宇治野氏はまず楽器を創作してから、それを几帳面にアレンジして、きれいに配列された音の弁当箱のような作品を作り出す。家庭で使われる電化製品や道具、家具はそのまま宇治野氏のインスタレーションに組み込まれ、宇治野氏が考案したクールなターンテーブルによって自動演奏される。このノイズアーティスト、宇治野氏にアナログ、デジタルに関する話や音楽作りに対する彼のアプローチについて伺った。

作:ビセンテ・グティエレス
訳:坂井由紀

様々なロテーターとザ・ロテーターヘッドの組み合わせで出来た「アバンギャルドなプラスチック生け花」。(撮影/画像提供:宇治野宗輝、2007年)

宇治野さんは、何がきっかけでこういった素材で作品を作り始めたのですか?

実を言うと僕がもっと若かった時、家電製品や道具のようなもので創作することにあまり興味がなく、大学時代はいわゆる正統派の生徒だったんです。2つのバンドでベーシストをかけもちして、染色や織物について学ぶ伝統繊維学を専攻していました。2001年までは中古製品を使った実験的作品は作っていませんでしたが、ある日友人のアートスタジオでそういった道具が転がっているのを見た時、ちょうど電気ドリルが僕の目に留まったのです。電気ドリルの作り出す音がすごく気に入りました。その頃から、ディーヴォに影響を受けたグループのバンドでベースを弾くようになり、音楽やノイズミュージックに対する興味を持つようになったことで、その友人のスタジオにあるすべての道具の音を調べるようになりました。

ということは、その電気ドリルがきっかけだったのですか?


「ラブアーム 3」(写真提供:宇治野宗輝、1996年)

そう言えますね。1995年頃から実験を始めて独自の楽器を作ったり、ラブアーム・シリーズを開発したりしました。例えば、周波音を出しながら取り付けられたミラーボールが回るラブアーム3は、電気ドリルからアイディアを得たのです。結局ラブアームを4つと、ミキサーとヘアドライヤーで出来た楽器を数個作りました。最後に作り上げた楽器のコントローラーとしてヘッドユニットを組み立てたわけです。

楽器創作についてですが、ベース、ドラムやシンセサイザーのようにどちらかというと様式的な楽器をまねて作ろうとしていますか?

本物の楽器を見て感じるのは、物質的な重さと質量があるということ。そしてそれを避けて通ることは難しい。だから独自のデザインを作ることや既存の楽器を構成するパーツを変えることはとてもやりがいがあります。基本的に僕が作品を作る上で一番重要なのは観察力です。例えばラブアームは楽器として考案されているし、ロテーターヘッドのアイディアは日本製ドラムマシーンのAkai MPCが元になっています。


「ラブアーム・ユーザーマニュアル」(写真提供:宇治野宗輝、2001年)

(つづき)「ラブアーム ユーザーマニュアル」(写真提供:宇治野宗輝、2001年)

本物の楽器を複製しようとは考えていないです、僕はひらめきを信じているから。そういったひらめきから休みなくアイディアを引き出していてわかったことは、ヘアドライヤーの音がエンベロープ・フィルター(エフェクター)を通したエレキギターの音にそっくりだったということです。ヘアドライヤーを取り入れた結果、クールな音を出してくれたので僕は自分の耳を信じることにしました。

宇治野氏が考案したターンテーブル「ザ・ロテーターヘッド」。(撮影:池田晶紀/提供:宇治野宗輝、2005年)

各ロテーターに繋がれたロテーターヘッドのイラストレーション。(提供:宇治野宗輝)

それでは、作曲についてお聞きします。曲作りにリズムは重要ですか?

コンテンポラリー・ミュージックになくてはならないものだから、「リズム」は必ず最優先項目におきますね。配置を入念に考えながら使い古しの色鉛筆をレコード盤へ刺し込み、リズムをセットします。僕にとってはドラムマシーンを使ってリズムを打ち込むのと同じです。

ライブで使われるとき、他の楽器はどのようにセットしますか?

パフォーマンスで使うものは全てテーブルにセットして、ロテーターヘッドを使って演奏します。見た感じテレビの料理番組みたいになりますよ。重量感のある低周波音を作り出すミキサーは、パンチの効いたキックドラムのような役割で、スピード感があるタイトなスネアドラム音を作り出すのは、電気ドリル。ファジーなベース音を出してくれるヘアドライヤーは僕のパフォーマンスにいつも登場して、時々ヴォーカルをやったりもするんです。この道具達が揃ったら、僕はロテーターヘッドを操作して、色々な方法で演奏するようにプログラムを組みます。

「アバンギャルドなプラスチック生け花」。様々な電化製品が不思議なリズムを作り出す…。中国広州、広東美術館にて。(2007年12月)

即興ライブをやられることはありますか?

いや、ないです。だって僕は即興演奏者じゃないですから。実際、即興音楽の大ファンでもないですし、聞いていても僕自身つまらなく感じます。もちろん、音楽的にもっとも素晴らしい作品が即興の中で生まれることがあるのは認めますが、僕のライブパフォーマンスはそこまで計算されてないですよ。

「アバンギャルドなプラスチック生け花セッション」2007年、中国北京・美麗新世界にて。(撮影:池田晶紀/写真提供:宇治野宗輝)

楽器創作に話は戻りますが、使用するのは古い機械や道具だけですか?それとも、古さに関係なく良いと思ったものに出会えればそれを使うのですか?

中古品のほうが好きですが、見つけられない場合は新しいものを買います。最近中国で参加した展覧会がわかりやすい例でしょう。普通、僕の作品は中古品で作られていますが、その時は新品の電気ドリルが必要だったんです。より丈夫な素材と耐久性のあるパーツから成る新品のドリルの方が、より現実味があると考えたから、そうしました。どうやって動いて、機能するかがわかりやすいから、魅力を感じるのだと思います。僕は中がどうなっているのか興味津々なんです。それに技術が進歩すればするほど、サイズは小さく薄くなっていくので、どういう風に動いているか分からなくなるでしょう? その上、新製品は中古品とは異なる素材やパーツ、しばしばより安価なものから出来ていることもあります。ビンテージギターと新品ギターが違うのと同じです。フェンダーがいい例ですね。

2007年10月に東京のオーエススリーで行われた宇治野氏、ライブパフォーマンスの様子。必見!!

興味深いお話ですね。宇治野さんの作品は日本の人達の目にどんな風に映っていると思われますか?

僕の作品って、「エレキ弁当みたいなもの」だと思っています。準備はじっくりと、うまくまとめられて、清潔でたぶん見た目にも美しい。でも、日本人には奇抜すぎて「別世界」と思われているか、家庭的過ぎて、つまらないと思われているかのどちらかじゃないでしょうか。一部の日本人には僕なんて、おもちゃ好きの中年男か変なおじさんと思われていますよ。でも、日本人は家電を家庭と同レベルに扱ったり、家の象徴としたりすることがあります。つまり作品の中に、こたつを見つけたとたんにそこが家だと認識する傾向があります。

やや性的な「ラブアーム」シリーズより、「ラブ・アーム2」。宇治野氏は、特別な革ひもを使い、興奮している男性の局部のように見えるように体に装着させ、各ハンドルを握って、エレクトロニック・サウンドを奏でる。(撮影:谷本夏、© 宇治野宗輝、1995)

何か具体例はありますか?

一度、友人の友人で有名な日本人デザイナーから「ヨーロッパ製の上質な製品を使ったら、君のインスタレーションはもっと素晴らしくなるんじゃない?」と言われたことがありました。まず、なんてありふれた意見だろうと思い、それからきっと彼は製品の実際の品質のことを考えてコメントしたと思ったので、その意見は聞かないことにしました。でも、実はそこから得たものがあったんです。その地域の製品を使うことでその地域の人々とより繋がりを持つことができる、と考えるようになり、実際のデザインの質よりも本質的な質にフォーカスするようになりました。

1996年「ラブアーム 3」マキタ製ドリル、シルバーメッキされたスチールと複合メディア(撮影:谷本夏、©宇治野宗輝、1995年)

全て新品の部品を使ってロテーターを作っても、今と同じものになると思われますか?

いや、新品の部品は中古品と同じようには動かないから違うものになります。年数がたって不要になったものは実験用に向いていると思うんです。誰も必要としなくなったときこそ、新しい用途を見つけるときだと考えます。新しくて、もともとその製品を発明した人やデザインした人が思い描いていた用途とは異なるものを見つけるんです。物理的あるいは文化的に考えると、どんな製品にも寿命があります。流行から外れたり、魅力的でなくなった製品は、フリーマーケット行きといったように。その時代と縁が切れると、また自由になるのです。無関係になったことで新しい用途を見つけるチャンスがでてくる訳です。

「PRO JR.(Fur)」複合メディア、2001年。(撮影:Keizo Kioku、©宇治野宗輝、2001年)

思い出や郷愁に弾みをつけようとしていますか?

現代はプラスチックやデジタル製品で溢れているけれども、僕は自分のインスタレーションやパフォーマンスで懐かしい思い出を呼び起こさせ、みんなをそこに惹きつけたいんです。まるでフリーマーケットに行って、懐かしいものを見つけて「おっ、これ子供の頃使ってたよ」というような感じですね。

宇治野氏、ライブパフォーマンスの様子。カナダ、バンフのウォルター・フィリップス・ギャラリーにて。2005年5月。

宇治野さんのパフォーマンスやコラボレーションについて、もう少しお話いただけませんか?

他のミュージシャン、具体的にはベーシスト兼ギタリストの浅野達彦さんや東京スカパラダイス・オーケストラのパーカッション担当であり創始者の一人だったドラマーのAsa-Chang(朝倉弘一)とのコラボもやりました。お互いにスーパー・デラックスで行われたイベントで演奏していて出会ったんですが、その後コラボレーションを企画し、去年の12月、ラフォーレ原宿でやりました。現在、別のコラボも企画中です。ZAKとバッファロー・ドーターの大野由美子さんとも一緒にコラボやっています。このお二人はとても才能があり、いい経験にもなったし僕の作品に多くのものを与えてくれました。それから、ダンスユニットの珍しいキノコ舞踊団とのコラボも忘れてはいけませんね。

御存荘(おぞんそう)、こんな戦車見たことない!(撮影:池田晶紀/画像提供:宇治野宗輝、2004年)

2008年のご予定を教えて下さい。


「デコラトーン」。このピアノのキーを押すと、様々な女性の叫び声と拍手の音がする。(©宇治野宗輝、1994年)

3月にベルリンのハウス・オブ・ワールド・カルチャーで行われるグループエクジビション、リ・イメイジング・アジアに参加します。このエクジビション以外にもパフォーマンスをするかもしれません。「御存荘」もベルリンで展示されるため、現在の設置場所から別の場所へ移動します。エクジビションのスタートは3月13日です。

4月に入ったらニューヨークへ。これはディッチ・プロジェクト・ギャラリーで催される「アフターリアリティ2」(仮題)というショーのためです。このショーの後、ロテーターは中国の広州からインドネシアへ移動し、国際交流基金が主催するジャパニーズ・アーティスト・ミート・インドネシアでパフォーマンスします。

今年はかなり忙しい年になりそうですね!宇治野さん、お忙しい中、ザ・ローテーターズに代表されるクールな作品を紹介して下さってありがとうございました!

28 コメント

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