澤田知子の見せる様々な顔

2008年2月25日 カテゴリー: イベント/展示会, フォトグラフィー, 国内

澤田知子の見せる様々な顔

90年代日本の若者文化をユーモラスに映し出す真っ黒に日焼けしたガングロに扮する澤田知子、「Cover/Face」シリーズの「cover」より。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

神戸を拠点とする澤田知子の写真作品には、彼女の人格の様々な面が描き出されている。日本社会のありとあらゆる女性に扮することで、彼女は社会規範やジェンダーロールを意見や批判を交えることなく揶揄しながら、むしろユーモラスなひねりをもってそういったものを模倣しているのだ。そんな彼女の作品は、去年ブルックリン美術館で行われた「グローバル・フェミニズム展」を含む様々なフェミニズム・アートの場で展示されており、現在も東京国立近代美術館(MOMAT)の「わたしいまめまいしたわ―現代美術にみる自己と他者」の一環として公開されている。本日はそんな澤田知子さんにPingMag的なアプローチを試みた。

作:ベレーナ
訳:山根夏実

若者文化に目を向ける「Cover/Face」シリーズより、「cover」。Cプリント、2002年。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

西洋にはシンディ・シャーマンのように芸能人志望や「デスパレートな妻たち」、架空の映画のスチール写真のポーズを体現し、そういった女性の願望を緻密に演じることによって、性別類型と西洋的な女性のイメージを考察するアーティストがいる。そして澤田知子は同じ系統の日本人アーティスト、森村泰昌と同様に、独自のアプローチと撮影の運び方で、純粋に日本的な題材に取り組んでいる。神戸出身の彼女は、OLやクスクス笑う女子高生、お見合い写真で精一杯良い印象を与えようと微笑む女性など、日本で日常的に見かける生活の中の制服姿で茶目っ気たっぷりにポーズを取るのだ。こういったお見合い用のフォーマルな写真には、澤田はかっちりしたスーツの事務員や華やかなピンク色に身を包んだ女性、伝統的な振袖姿など、毎回違う人間を装ってプロの写真家に頼んだのだという。

どれもみんなわたし。澤田知子の400にも及ぶ変装。自動証明写真装置による「ID400(#1-100)(部分)」シリーズより、1998-2001。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

また別のプロジェクトでは、彼女はガングロの少女として若者文化の一環とされる服装で登場している。渋谷の極彩色のネオン街にたむろする真っ黒に日焼けした少女たちは、そもそもはカリフォルニアのビーチガールを渋谷風に真似たのが始まりだったらしい。そして澤田知子はそんな彼女たちを馬鹿にするのではなく、ただ真似ることによって、その軽く皮肉な一面を表している。


日常生活における制服を取り入れた「Costume」シリーズより。野菜売り場での「Costume/YAOYA」と…©澤田知子

…と職務熱心な「Costume/FUKEI」。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

だが澤田知子とは本当は一体どういった人物なのだろうか。1998年から2001年の間に自動証明写真装置を使って制作された「ID400」シリーズには、ぽっちゃり目の女生徒、濃い目のメイクで笑うポニーテールの女子高生、いかめしい顔の新入社員など、想定できるありとあらゆる姿の彼女が写っており、全面が小さな鏡で覆われた、光を反射するミラーボールのように、どれが本当の彼女なのかわからない。そしてそれが彼女のいくつもの人格を装う策略なのである。

にこやかな姿の「Costume/OKAMI」。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

驚くべきことに、澤田は2000年にキャノンの写真新世紀に入選した際の受賞者インタビューで、「ID400」の制作についてこのように語っている

「私はコンプレックスの塊でした。自分の写真を撮り始めた頃、写真の中では美しくかわいらしい自分が大好きでした。写真の中の私はモデルのようにも女優のようにもなることが可能だったのです。しかし、そんな自分の写真を見れば見るほど現実の自分と写真の中の自分とのギャップがどんどん大きくなっていきました。言い換えれば私という人間は変わらないのに外見というものは簡単に姿を変えていくのです。証明写真というのは、それのみで写真に写っているその人の存在を証明します。つまりこの世に存在しない人でも証明写真に写れば存在したことになるのです。内面は外見に表れてくるといいます。しかし、外見が変わったところでその人の本質的なものは変わらないと思います。その矛盾がこの作品を生み出しました。証明写真の中の全ての人が私自身です。」

このデジタル全盛期に、人は「われ写る、ゆえにわれあり」と言うかもしれない。しかし澤田はそれを90年代後半に、神戸地下鉄沿線上の立体駐車場の片隅に置かれた、何の変哲もない自動証明写真装置を使ってそれを実践した。その際に、正面にあったトイレでメイクや着替えをして、時に他の利用者を恐怖に陥れてしまったこともあったようだが。

2006年の「Recruit」シリーズより。能力査定センターに送るお手本のような写真。(写真提供MEMギャラリー)©澤田知子

しかしこれは実に興味深い!益々彼女のことが知りたくなってくる!だがインタビューを申し込んでみると、澤田は自身の持ついくつもの顔についてあまり話したがらない様子だった。それでも彼女のアプローチがかなり直感的であることは明らかだ。撮影の準備と題材についての事前リサーチはどのように行っているのかと聞くと、彼女は単に、「撮影前に特に詳しいリサーチは行いませんが、撮影前には衣装をはじめ、カツラやアクセサリーなどを揃え、時には体重も増減させます。」と答えた。

2004年の「School Days/B」繰り返しによって築かれる学生時代。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

その一方で、彼女の多岐に亘る役柄の準備について、「私は感情を入れて違う人物になりきることはありませんので、俳優と似ているかどうかはわかりません。ただ、体型を変えることがあるのでそれは似ているところかもしれません。」と答えた。


良縁を求めて精一杯猫を被る2001年の「OMIAI♡」シリーズより。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

「OMIAI♡」、2001年ベストな自分を見せる。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

彼女はその役柄を演じているわけではなく、外見や服装、ジェスチャーを模倣しているに過ぎないという。では、撮影中はその役にどこまでなりきるのかと聞くと、澤田は全く演じていないときっぱり否定した。彼女がポーズをとることと演じることの境界線をどう定義するかによるのだが…。

映写面として使われた顔「Early Days」シリーズより、1996 - 1997年。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

しかし、彼女は私たちの投げかけるものを映し出す真っ白なスクリーンを演じているということにはならないだろうか?彼女が体現したOLやお見合い前の女性は日本社会のジェンダーロールに対するステートメントではないのだろうか?しかし、彼女はこの問いに対しても、「特に考えたことはありません。」と答えた。彼女のフォーマルなお見合い写真は、女性がどのように描写されるのかについて、十分啓発的だったように感じられるのだが…。


奇形化の実験、「Early Days」より、1996 - 1997年。(写真提供:MEMギャラリー)©澤田知子

澤田知子は、日本社会のまた別の一面にも目を向けている。渋谷の少女たちの間で流行したヤマンバだ。彼女は、自身が作品で映し出した真っ黒な日焼けと濃いメイクの少女たちにとって、何が一番大切なことだと感じたのだろうか?

「それは私にも分かりません。私は彼女達を知りたかったのではなく、彼女達の外見を引用しただけです。」と彼女は答えた。彼女たちの中に自分自身を見出していたのだろうか?そこは想像に任せるしかない…。

そして今後のプロジェクトについては、映像作品にも目を向けていく予定だという。最後に何か一言とお願いしてみると、彼女は「どんなに変装をしようと、私は澤田知子です」と言った。事実、このいくつもの変装こそが彼女が彼女たる所以、非常に興味深い人物たらしめているのだ。

澤田知子さん、お話をありがとうございました!

展覧会情報

わたしいまめまいしたわ―現代美術にみる自己と他者
会場:東京国立近代美術館
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1(地図はこちら
会期:2008年3月9日(日)まで。
月曜休館、10:00–17:00(金曜日は10:00–20:00)
入場料:一般420円

12 コメント

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