コーリー・アーノルド:漁船で乗り出すアラスカの海の冒険

2008年2月22日 カテゴリー: インターナショナル, フォトグラフィー

コーリー・アーノルド:漁船で乗り出すアラスカの海の冒険

写真家コーリー・アーノルドの第二の情熱。それはローフォテン諸島付近の荒海で漁師として過ごすこと。© コーリー・アーノルド

写真家のコーリー・アーノルドは、オレゴン州のポートランドをその活動の拠点としているが、なんと2、3ヶ月に一度は荒海に乗り出すのだという。アーノルドは、実はアラスカやバレンツ海の極寒の波間で屈強な漁師としても働いているのだ。そして一夏のアルバイトとして始まったものは、いつしか愛憎の絡み合った複雑な関係になっていった…。なんて冒険的!本日のPingMagでは、アラスカの漁船に乗ったアーノルドさんと一緒に荒々しい自然を体験したい。

作:ベレーナ
訳:山根夏実

しじまの海面。フィンマルク近海で撮った芸術的な魚網の構図。©コーリー・アーノルド

まず他のどんな仕事でもなく、漁船で一夏を過ごすことになったきっかけは何だったのかを聞かせてくださいますか?スリルのためだったのか、それともヘミングウェイの「老人と海」のような感じだったのでしょうか…?

そもそもの始まりは私の子供の頃の性格で、探検や旅行、動物の研究に夢中だったんです。まあ、動物の研究といっても鳥やウサギ、リス、トカゲ、そして特に海の生物なんかを解剖して細かく調べることだったんですが。私は世界のあらゆるものの内側も外側も、徹底的に知りたがる、好奇心旺盛で残酷な子供でした。その一方で、父はスポーツ・フィッシング狂でした。私はほとんどの週末を父とカリフォルニア沖の釣りに出て過ごし、その合間の日々はサーフィンといった具合でしたから、ある意味海で育ったとも言えます。

大学の一年目を終えたばかりの1995年に、私は夏のアルバイトを探しにアラスカまで車を走らせました。アラスカの漁業で手っ取り早く稼げるという話は昔から耳にしていたので、自分で確かめてみようと思ったんです。純粋にお金のために行ったというわけではなく、自分が好きなことをやって大金が手に入るなんてうまい話があるわけがないというような感じでした…。それでも、私はすぐにサーモン漁の仕事を見つけて、6週間で1,500ドルくらいを稼ぎました。今にして思えば大した金額ではありませんが、それでもお金をもらって人生最大の冒険ができたんです!

不気味な姿の魚と出くわすことも。ベーリング海でのカニ漁にて。©コーリー・アーノルド

それから毎年アラスカに行かれるようになった理由は何だったのでしょうか?

大学時代の5年間の夏は、毎年サーモン漁をしに戻りました。その後はサンフランシスコで写真家のアシスタントとして働くために数年休んだのですが、大した貯金もなしに独立するのはかなり厳しいものがあったので、またアラスカに戻ることにしたんです。でも今回は、危険度は高いけれど実入りの良い、そして写真のプロジェクトとしても取り組んでみたいと思える仕事を選びました。それで2002年にはベーリング海でカニ漁船の「ロロ」号で働き始めたんです。他の漁師に認められて、今の居場所を勝ち取るのは本当に長くかかりました。

こちらもベーリング海にて。「大海原での20時間勤務をやり遂げるたびに達成感のようなものを感じるんです」とコーリーさんは話す。©コーリー・アーノルド

コーリーさんが仕事を始めた時に、他の漁師の方々はコーリーさんがなんでそんな仕事をやりたいと思ったのかわからなかったのでしょうね…。最初の頃の彼らとの関係はどんなものだったのでしょうか?

あなたはおそらく漁師という人間に特定のイメージみたいなものを持っていて、私自身は芸術家気取りの写真家だからその中で浮いていたのではないかと考えていると思いますが、漁船には驚くほど多様な人間が乗っているんです。とても創造的で頭の良い、私と同じような考えを持ったノルウェー人の船長にも出会って、彼とはすぐに意気投合しました。とはいえ、他の船員の中には色々と問題のある人もいましたが。一人の漁師は基本的に何もかもが気に入らない人で、もう一人は私の経験量からしたら私の給料は高すぎるといってこちらを嫌っていました…。ですが新入りは、この職業では必ずある程度の嫌がらせにはあわざるをえないんです。すぐにたくましくならないとやっていけませんから。

外洋では激しい孤独感にさらされることも…。抱きつくものに事欠かないのはありがたいけれど…©コーリー・アーノルド

その人たちは、今ではコーリーさんのことをどう思ってらっしゃるのでしょうか?

そのろくでなしどもはクビになりましたよ。2年ほどたった後に、私が最後通牒を叩きつけたんです。彼らが辞めなければ私が辞めると。そうしたら船長が次のシーズンに彼らをクビにしました。今は古株の3人と頭の良い若いのと一緒にやっています。私はナスカーやサッカーの話題には関心がないので少し変わってはいるのですが、それでもナショナル・フィッシャーマン誌やアラスカ・フィッシャーマン・ジャーナルに掲載された私の写真や話のおかげで、目が合うと沢山の人がうなずいてくれます。皆それが私のやりたいことだと知っているから、それを尊重してくれるんです。


…近付きすぎると危険かも。ベーリング海にて。©コーリー・アーノルド

確かに。コーリーさんのアラスカ行きが習慣になったというお話に戻りますが、大自然を体感することがある意味やめられなくなったということでしょうか…?

ハードな肉体労働が?それとも大海の真ん中を漂う解放感?当初、カニ漁は2年やってやめる予定でしたが、なんともう6年目に突入するところです!これは確かに中毒と言えるでしょうね。愛憎の絡み合った関係でもありますが…。

それについてもっと詳しく聞かせてください…。

颶風(ぐふう)の中で海に出て、小さな船の中から40フィートもの波が砕けるのを至近距離で見るのは、それだけで人生観が変わる体験です。寒くて長い作業時間や過酷な重労働は跪いて慈悲を請いたくなるほどですが、概して悪い体験ではないでしょう。つぶれてしまわない限りは。私自身は、この仕事を辛くて苦しい危険な存在というよりは、むしろ教育だと考えています。大海原での20時間勤務をやり遂げるたびに達成感のようなものを感じるんです。この経験によって、私はアラスカから帰ったあとも以前より強く、自信に満ちた人間になりました。カニ漁師にはある種の無敵感のようなものがあって、地元のバーの喧嘩を見ればはっきり見てとれると思います。それから、自然の持続的な食料品の収穫者であるということにも重きを感じますね。どう考えてもこちらの仕事のほうが、ビデオゲームのデザイナーよりも人類の存続に貢献していますから。別にゲーム・デザイナーに悪気があるわけではないんですが、私はどんな仕事であれ、モニターの前に座りっぱなしというのが駄目なんです。

北極の平原を覆う魚の干し台…。©コーリー・アーノルド

アラスカ行きをためらうことはないのですか?

このインタビューも、私は今まさにアラスカの船の中でやっているのです。そして今でも漁師として働いています。今では写真のほうがずっと重きを持っていますが。要するに、私は二つの仕事を両立させながら、それをお互いに交錯させているのです。アラスカのダッチハーバーは、今では故郷のような感じさえしますよ。ここでは友人や志を同じくする冒険家に囲まれていますから。あと、少なからぬ人数の馬鹿どもにも。

ここでは誰もが自分の船を持ち、家の目と鼻の先に停泊場を持つ。ローフォテン諸島。©コーリー・アーノルド

アラスカ以外で航海された場所はありますか?

アラスカで漁業をしながら一年の3、4ヶ月を過ごすようになって6年、それにサーモン漁をした夏を5回経験しましたが、ベーリング海の他には、ロシアとの国境付近のバレンツ海で働くノルウェーの漁師たちの写真もかなり撮っています。

ロンリー(ウォーター)プラネット。ローフォテン諸島の近海。©コーリー・アーノルド

ということは、北方の海はかなり色々な場所を航海されているのですね!この仕事をしていてコーリーさんが体験された最も印象的な出来事は何だったのでしょうか?コーリーさん自身が強くなったこと以外に、そういった体験からご自分の体への認識が変わったということはないのでしょうか?

私がカニ漁を始めた時は、4日から10日くらいの期間で捕れるだけのカニを捕るという競争のような感じで、私の体は、当時は絶対に無理だと思った疲労を何とか耐え抜きました。毎日の平均睡眠時間は3~5時間で、19時間かそれ以上を働いて過ごします。熱が出ようと船酔いしようと、腕の筋を違えようと、船足を緩める理由にはなりません。ただひたすらに我慢をして突き進むだけです。出っぱなしのアドレナリンのせいで、一日が終わっても中々リラックスできなくて、とんでもない夢を見ることもあります。それも眠れればの話なんですが。

「熱が出ようと船酔いしようと、腕の筋を違えようと、船足を緩める理由にはなりません」とコーリーさんは振り返る。©コーリー・アーノルド

なんと!では眠るためには何をなさったのでしょうか?漁師の方が夜何をしているのか不思議に思ったのですが、映画でも見て過ごすのでしょうか…?

映画はよく見ますし、本も読みます。実はお涙ちょうだい的なロマンスものが多いのですが…「ロスト・イン・トランスレーション」は船内の定番ですね!睡眠時間は貴重なので、私は出来るだけ早く寝袋に入るようにしています。それから15分ほど、一日の間一髪の出来事を思い返したあとに、カニを数えて眠ろうとするんです。

「…4日から10日くらいの期間で捕れるだけのカニを捕る競争のような感じで、当時は絶対に無理だと思った疲労を耐え抜いたのです…」とコーリーさんは説明する。フィンマルク近海にて。©コーリー・アーノルド

カニとは可愛らしいですね!では、魚との仕事というのはどんな感じですか?

最近では、私の仕事はむしろカニとなのですが、それでも餌には何百キロものタラやニシンを使います。カニは陸ではあまり早く動けないので、挟まれずに捕まえるのは難しくありません。私としては、それが生きていようと死んでいようと、海の生物と仕事をするのが好きなんです。自然界と触れ合っていられるのは良いものだと思います。

「ロスト・イン・トランスレーション」は船内での夜の定番!ローフォテン諸島近海にて。©コーリー・アーノルド

まあ、そう言いつつも単にペットを撫でるだけという人も多いですが…。海の生物に触るのはどんな感じですか?

その質問にはなんと答えたらいいのか迷いますね。魚はヌメヌメしていて滑りやすく、掴むことが難しい生物です。カニはトゲトゲで、掴みやすいけれどトゲで怪我をしやすい、実際に私も頻繁に傷を作っています。私にとっては、別に嫌な気分になったりはしません…。


熟練の手つきで行う骨抜きの作業。©コーリー・アーノルド

…フィンマルクにて。©コーリー・アーノルド

船で海に出ている時にコーリーさんが最も恐れることは何なのか、教えてくださいますか?

私が一番心配しているのは、カニ捕り篭に押し潰されることです。海に転落するよりも、回転する500キロ近いカニ捕り篭に押し潰されることのほうが可能性としてはずっと高い。これまでにも危機一髪的なことは何度もありましたが、大怪我にだけはならずに済んでいます。やっぱり一番気にかかるのは、ラインが切れたり機械が故障するといった、予測不可能な偶発的アクシデントですね。それでもこの仕事を長くすればするほどアクシデントへの不安はなくなって、自然と安全性が身についてくると思います。


ハードな仕事もファインダーを通せばこんなにもロマンチックに!フィンマルク近海にて。©コーリー・アーノルド

困難な状況、例えば嵐や事故などに遭われたことはありますか…?

大嵐にはほぼ週ごとの頻度で遭遇していますし、大抵の場合は嵐が来ても漁を続けます。嵐が過ぎるのを待っていたらキリがないので。私が今までに見た一番高い波は40フィート以上でしたが、20フィートくらいは日常茶飯事ですし、「ロロ」号に乗っていればほぼ安全です。幸いに、私は重大事故には遭ったことがないのですが、一度だけエンジンの油性洗浄剤を目にぶっかけて失明しかけたことがあります。とはいえ本当に恐ろしい事故は毎年絶えず起きています。もっと知りたければ、ディスカバリー・チャンネルの「ベーリング海の一攫千金」を見てみるといいでしょう。カニ漁師の死亡率と負傷率の話がバンバン出てきますよ。

かなり危険そうに聞こえますが…。漁業以外の面では、今後どんなプロジェクトを考えていらっしゃるのでしょうか?

秋にはシカゴでコーディー・ハドソンと2人でショーをする予定で、オレゴン州のポートランドで個展を開くことも考えています。あと、2009年の3月にはサラ・テキア・ローマ・ニューヨークでもニューヨーク・デビューとなる個展があります。アラスカの他の漁場やノルウェーの捕鯨の写真も撮り始めるかもしれません。いつかロシアの漁船にも乗ってみたいですね…。

カニの山の上で集合写真。手前で寝そべっているのがコーリー・アーノルドさん。座り心地はいかが?ベーリング海にて。©コーリー・アーノルド

なぜロシアの漁船なのでしょうか?それと、言葉の問題はどうするのでしょうか…?

2年ほど前に、ノルウェー北部に停泊していたロシアのトロール漁船の中を案内してもらったことがあるんです。この船は1988年に造られたものだったのですが、コントロールや電気系統は1940年代か50年代のような丸みを帯びたスタイルでした。船内は錆だらけで、30人の田舎くさい男たちがどこのものともしれない色あせた服を着て働いていて。この男たちは本当に貧乏で、おそらく一年の大半を海で過ごして船のオーナーに富をもたらしながらも、ノルウェーで一回外食するほどのお金も持っていなかったと思います!これは私にとって開拓すべき新境地でしょう。あと、ロシア人は外海での密漁でも悪名が高い…これについても、内部ではどうなっているのかを見てみたいと思っています。言語に関しては通訳を連れていかなければいけないでしょうが、できれば一人旅のほうが好きですね。うーん、まだ全然計画していないんですが…。

新しい友達!ベーリング海にて。©コーリー・アーノルド

もし屋外での荒仕事をしたいという人がいたら、コーリーさんはこういった仕事についてどんなアドバイスをされますか?

あえてリスクを冒してみること、仕事のほうからやってくるのを待っていては駄目!そこに行ってみて、アラスカではどういうやり方をしているのかをまず理解すること。必要とあらば、最初はただ働きでもやってみればいいし、上に行くのに必要な知識を得るためなら何でもしてみること。二ヶ月くらいは姿を見せられると思わないこと、そしてしっかりとお金を握りしめて家に帰る。生計を立てられるような一端の地位を得るまでには何年もかかります。忍の一字で不平を言わないこと!

まさに至言ですね!コーリー・アーノルドさん、今日は荒く厳しい海の生活についてのお話をありがとうございました!

3 コメント

  1. 漁船にのりたくなった!!経験してみたい!

    Posted by: yugo @ 2月22日2008年

  2. カニ数えておねむになるってのがステキ
    悪い夢見そうだけど

    Posted by: dang @ 2月26日2008年

  3. 僕も手伝いさせて下さい
    連絡お待ちしてます

    山本

    Posted by: 山本一平 @ 11月30日2008年

  • Share and Enjoy:
  • del.icio.us
  • digg
  • Fark
  • NewsVine
  • RawSugar
  • Reddit
  • YahooMyWeb
以前の記事