
アート、ファッション、コスチューム・デザインやアニメーション…。ブラジル出身のジュン・ナカオの活動は多岐にわたり、そして何よりも遊び心に満ちている。例えば自身のファッションショー、「ア・コストラ・ド・インビジヴェル」では繊細を極める紙のドレスが引き裂かれるというハプニングを演出したり、高名なアニメーション映画製作者であるブラザーズ・クエイへの敬意を表すラインを丸ごと作ったりと、枚挙にいとまがない。そして今回、卵形の洗濯機エゴー(!)の発売に際しては、紙でできた翼を広げた鳥と同じく紙製の巣のインスタレーションを制作している。PingMagでは、このフレンドリーでオープンな日系デザイナーのサンパウロのスタジオにお邪魔してお話を伺ってきた。
作:アロルド・カルドーゾ・Jr
訳:山根夏実

まずは卵形の小型洗濯機「エゴー」のために制作したという、最新のインスタレーションについて聞かせてください。

ナカオさんがエゴーのために作った紙の巣。
エゴーはブラジルのブラステンピ社の製品で、そちらから発売コンセプトを手がけてくれないかというお誘いをいただきました。私は、エゴーは卵形をしていますから、誕生の意味を提示することでこの商品を紹介したらどうかと考えたんです。そうすると、赤ちゃんを届けるといわれるコウノトリは明確な象徴ですよね。
まずは、ブラジルの人気テレビ番組で活躍するパペット・デザイナーのナナ・ラバンダ、ファッション・デザイナーのアグスティーナ・コマス、エージェンシー「POP」で私と長い間一緒に作業をしてくれたアナと、野菜繊維から作られた1,000枚以上もの白い紙を使ってこのコウノトリと巣を作りました。その後、くちばしに卵を下げて空を飛ぶ、機械化されたコウノトリに形を与えて、地面にもいくつか卵を置き、次にコウノトリが動けるように、部品や構造技術を見ていく作業に取りかかりました。同時に、アーティストのパウロ・ベトに、出生前検診の時に聞こえる「水の音」とも「風の音」ともつかない超音波の感じも再現してくれるようお願いしました。

タイトルの意味は「目に見えないものを縫う」、2004年。

この紙のファッション・ラインは…

…なんとショーの最中に引き裂かれる運命に。

コウノトリというのは、空を飛ぶために体重も軽い生き物ですが…重力を感じさせない「軽さ」みたいなものも求めていらっしゃるのでしょうか?
「ア・コストラ・ド・インビジヴェル」の紙でできたファッション・ラインもそうですが、私の作品はどれも観客とより茶目っ気のある関係を築いているものばかりです。この軽さというものは、現実と距離を置いて見えないものとの繋がりを得るのに、そして想像の力によって別の視点から。もっと非現実的な視点から作品を見てもらうのに必要なものです。ですから、これらの作品には観客の個人的な解釈を阻害する具体性と明確なフォルムを持たせていません。私は、むしろ作品を見る人間が誰でも参加できて、自分だけの意味を見つけることができるようなインターフェイスだと考えているのです。


そして「リボルバー」展では、極小の紙のドレスを着たパペットをネズミが攻撃して…
なるほど。では具体性を回避しているのは解釈の余地を与えるためなのですね…。
ジャン・カルヴァンが言うところの漠然性の的確な使用です。それによって世界がより楽しく考えられるという。それでも、人は年を取るにつれて具体性と明確性に絡め取られていきます。例えば、今年私がフリオ・ドイクサーやキコ・アラウージョとクリティバのオスカー・ニーマイヤー博物館で開催したリボルバー展を見てくださいポルトガル語の「リボルバー」は、「遊ぶ」もしくは「ちょっかいを出して別の形にする」という意味。この展示の遊びの要素は、人々の心を少し和らげてさほど制限も形式化もされていない、もっとずっと豊かな実験に人々を誘います。それは単なるカタリストとして遊びの要素を持つ一つの実験なのです。


ナカオさんは、このオペラのためにストラップからなる…

…拘束衣のようなドレスを制作した。
リボルバーは、2004年に行われたあなたのファッション・ショーがベースになっていると伺いましたが…。
そうです。その後、映画監督のキコ・アラウージョと都市計画と空間演出芸術家のフリオ・ドイクサーと一緒に、あのショーをベースにしたインスタレーションを提案しました。私たちはオスカー・ニーマイヤーが造った建築的空間と対話するものを作りたかったのです。よく見ると、この空間は天井と凹凸状の床に囲まれていて、その中間にはサッカーのピッチ的なスペースを持つ巨大な建物です。ですから、ピッチに上がっていくための通路には、先ほど話したような「軽さ」の要素として、「オ・ラト・ローエウ・ア・ローム・ド・レイ・デ・ローマ」というフレーズを中央の壁に入れました。これはおおよそ「ネズミがローマの王様の服を噛んじゃった」という意味の言葉です。この状況において、この言葉は人々に疑問を抱かせ、何がしかを想像させるものとなります。

その後にもう一文、「オ・レイ・エスタ・ヌ」…「王様は裸」という文章が続いていて、それが最初のフレーズとの対比を成しています。その下には、この展示の象徴として選んだ2m近い大きさのネズミが立っています。ネズミというのは、疫病や無差別に広がるウイルス性感染と深い繋がりを持つもので、それはある意味自然の法則を混乱させるものでもあります。そこから階段を上がると、それぞれのフロアでファッション・ショーの過程の一幕が繰り広げられています。最初のフロアでは、モデルの服がすべて引き裂かれるラストの部分があり、最後のフロアで傷一つない、完璧な状態の服を纏ったモデルの一人を見ることになります。脱構築から半構築へ、そしてそこから原型の服へと戻るのです。


こちらも03/04年のファッション・カタログ…

…その名もブラザーズ・クエイから。
なるほど。何層かに分かれた構造になっていて、複数のステージにモデルがいたり、人形のレプリカを撮った写真や衣装を着た人形の投影があったりと、盛りだくさんな作品なのですね…。
中間のフロアにはサンドラ・ボーディンの服の写真展があって、そこにはその画像の損傷そのものを示すために、人為的に損害や傷が加えられています。その次のフロアには原寸大の人間の服の記録があり、サロンとなるメインのフロアには、実際には高さ30cmしかない人形のレプリカが4mもの大きさの映像として投影されています。最後にもう1フロアあって、そこでは別の写真家、アレクサンドル・ペロカが服を制作するためのすべての工程を記録したものが展示されており、一つ一つの作業が要する複雑さがはっきりと見られるようになっています。

キャットウォークから。ブラザーズ・クエイのファッション・ラインは…

…同名のアニメーション映画監督にインスピレーションを得ている。

ネズミが服を壊すのはどういう…?
ピッチというか巨大サロンにあるやつですね。一方にはガラスの棚に入れられた小さな紙のモデルの人形があって、もう片方にはそれを撮ったものが壁に投影されています。そちらでは、本物のネズミがミニチュアの紙人形の周りを走り回って、服をことごとく噛み千切って引き裂いて、すべてを破壊していくのです。

なるほど。私個人としては、ナカオさんの他の作品にも様々な階層や反射の舞台があるように思えますね…。本当に興味深いお話でした!ジュン・ナカオさん、今日は本当にありがとうございました!

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