ベラ・ボルソディ:静物写真に与えるペルソナ

2007年11月16日 カテゴリー: インターナショナル, ファッション, フォトグラフィー

ベラ・ボルソディ:静物写真に与えるペルソナ

V Magazine #48に掲載されたベラ・ボルソディの「フット・フェティッシュ」(2007年9月)。まさにパワフル!オーストリア人の静物写真家、ベラ・ボルソディは、まずモデルの裸体を撮影し、それをプリントしたものを切り出し靴に差し込んでこの作品を作ったのだとか。(出版:V Magazine)

オーストリア出身のベラ・ボルソディは、かなり特殊な静物写真を撮る写真家で、ファッション雑誌にただ商品を載せるのではなく、私たちの感覚を惑わし、一つ一つの物に人格を与えていく。そしてアートとファッション写真を巧みに融合させ、商業的な娯楽でありながらその存在に疑問を投げかける作品を世に送り出している。ベラの作品としてまず思い浮かぶのは、V Magazine #48に掲載された最近の作品、「フット・フェティッシュ」シリーズ…。それから原宿のビル一面を覆っていたLeSportsacの写真…。これに好奇心をかき立てられたPingMagは、ニューヨークを拠点に活動するベラさんご本人にお話を伺ってきました…。

作:ベレーナ
訳:山根夏実


「いついかなる時もユーモアを忘れてはならない。」ベラ・ボルソディ。

あなたにとっての美しさとは写真にあるようですが、その理由は?

写真では、あらゆるものをより多くの、様々な方法で分析することができるからです。そこには無限の可能性が秘められていて、ひいては一つ一つが私たちの物の見方を変える可能性を持っていると思っています。

なるほど。一つのオブジェからいくつのバリエーションを生み出せるかが重要なのですね。それでは、どのタイミングで作業を終わらせる…というか、作品が完成だと決めるのでしょうか?

大切なのは、それが楽しくて有意義だと感じる限り、常に沢山のオブジェを相手に様々なことを試し続けることです。私が一つのプロジェクトを完成させるのは、私がそれに満足して、同時に全てがぴったりと納まって納得がいったと思える時です。終わりに至らなければいけない唯一の理由は、プロジェクトを完成させなければならいことですが…全てに答えを見つけることはそう重要ではないでしょう。本当に興味深いのは疑問を投げかけることで、それこそが人に色々なことを試行錯誤させ、分析させるのだと思います。面白いのはその過程そのもので、それが予期せぬシチュエーションや可能性に導いてくれるのです。そして結果はその過程の記録でもあるのです。


イタリアのGlamour #182に掲載された「クレイジー・アート」(2007)。

ベラさんのインスピレーションの源は、「アルテ・ポーヴェラ運動と既製品、それにポップアート」だったそう。Glamour #182に掲載。

例として何か挙げて下さいますか?

例えば、ジッポーライターのような、表面がメッキで覆われた、鏡のように映るオブジェを見たとします。その物体を本当によく知っていたとしても、それ自体を見ていることはほとんどないでしょう。人が目にするのは、それを見つめる自分自身を含む、周囲の環境の反射だからです。私にとっては、その事実こそが研究する価値のある興味深いことです。他の形がはっきりと見てとれる物体と同じように理解して認識していても、それは単にどうしてそうなるのかを理解しているからというだけでしょう。私が興味を示すのは、自分が実際に物体を理解していることを一時だけ忘れて、まるでそれを初めて見るかのような方法で研究することです。そうすることによって、私はしばしば物体に新しい性質を見出すのです。


それぞれのカバンが人格を持っているというのに、ただの商品として見せるなんてもったいない!2005年にDetails誌に掲載された「バッグメン」シリーズ。

同じくDetails誌に掲載された「バッグメン」。

その“新しい性質”とは…?

ジッポーのメッキライターを鏡に化粧をすることができる。ということは、それはもう単なるライターではないのです。そういった考えからいくと、物体の中には元々の用途以外の性質を持つ物もあるでしょう。今言ったライターも、便利な栓抜きとして使えるかもしれないし、ドアストッパーやペーパーウェイトになるかもしれない。コーヒーをかき混ぜるのに使ったペンの数々、グラグラする机を安定させるために脚の下に置ける様々な物、考えるだけでも無限ですよ。

オブジェを通常の使われ方とは違う見方で見る、ということですね。

こういった分かりやすい機能面での特徴以外に、もっと知覚の心理的な面に繋がる場合もあります。物事の関連性だけを変えることで、新しい意味に行き当たることがあるのです。物体に何かを付け加えるか取り払うだけでもいいでしょう、もしくは逆さにするだけでも。それだけでその物体が変わるのです。

例えば、逆さまに置かれたグラスは、グラスではなく単なる「物」になります。アメリカの空港でのHSBCのキャンペーンもこれを主な理念としています。ファッションの現場においては、靴一つをとっても、何がエレガントに見せるのか、つまらなくするのか、洒落て見せるのか、ダサくするのか、何が高級感、ちゃちさ、セクシーさ、下品さ、便利さ、デカダンスといったものを与えるのかを模索することもできるのです。あとは本当に素晴らしい料理のとてつもなく醜い写真を撮ったり、ゴミをエレガントで甘美に見えるように撮るのも面白いと思っています。


これは一体何なのか…?スウェーデンのLivraison #2に掲載された「ヒドゥン・オブジェクト」(2006)。

魚の頭にハサミの体!スウェーデンのLivraison #2に掲載された「ヒドゥン・オブジェクト」(2006)。

また、関連性も非常に興味深いです。ある物体のどの要素が、何を暗示して、人を特定の気分にさせるのか?それは心理学と文化の領域で、潜在意識下における個人の人格にも触れる問題です。もしかすると、思弁的で押し付けがましく聞こえるかもしれませんが…物事にユーモアを見出して楽しむことの方がむしろ重要だと思います。


ミートソースの手!スイスのチェーン店「ミグロ」のための作品(2000)。美味しい料理の醜い写真も…

…それぞれの詩的な魅力を持っている。ステーキの顔!「ミグロ」のための作品(2000)。(デザイン:Studio Achermann )

興味深いことに、あなたがこの特殊な写真を模索し始めたのは、2000年にスイスの大手スーパーマーケットのミグロの依頼で2ヶ月に渡ってゴミの写真を撮り続けたのがきっかけだそうですね。このゴミの撮影会で何があったのか聞かせてください。

ゴミは真実美しいものです。元々の目的と外見から外れてしまった物体から生まれる芸術的な物質がゴミなのです。また、ゴミは依然としてその構造を変え続けることもあります。こういった廃棄物の寄せ集めは、より複雑な次元の意味を内包していることもあります。とても詩的で誠実なものを。その段階の物体は、しばしば新品で使われていない状態の物よりも人格を発達させていることがあるのです。時として物体は、元々の用途ではない異なる現実となるのです…。


2000年にスイスの大手スーパーマーケット「ミグロ」のために撮影された廃棄物が…

…エレガントなオブジェに大変身!「ミグロ」のための作品(2000)。(デザイン:Studio Achermann)

ベラさんは美術とグラフィック・デザインの背景以外に、心理学にも興味を持っていらっしゃるそうですよね。以前他のインタビューで「“全ての行動は愛の名の下に行う”という人間は、本当にインスピレーションを与えてくれます。なぜなら、それが人が何かをするためのモチベーションの根幹に触れるものだからで…最終的には、全てが愛に、もしくはそれの欠如を感じることに繋がっているのです。“欲望を抱くこと”人々と欲望を分かち合い、それを伝えることは芸術家の仕事であり、それが人を引き付けるのも、それが欲望が人間の心理との直接時な接点となるからなのです」と仰っていますが、人間は基本的に愛されたい願望に突き動かされるものだということでしょうか?

その引用はとても重要で個人的な部分ですね。モチベーションの本質とは何かと考えると、数え切れないくらいの様々なアイディアや無限のディテール、複雑な構造といったもので溺れてしまいます。アートを創り出す、最もシンプルで最も基本的な動機とは何なのか?私にとっては人生と仕事は切り離すことができないもので、そこからこの考えに辿り着きました。愛の力について論じることができる人間などいないでしょう?

パーティーで盛り上がるクリスタルとソーセージの行方。オーストリアのUnit Fスワロフスキーのために制作された「ナイトライフ」(2004)。

確かに!その他にも、“芸術家とは他の人間の欲望の代弁者だ”と仰っていた記憶もあるのですが、ご自身の芸術の表現方法をどのように定義されているのか聞かせてください。

私が心から楽しめるプロジェクトは、私の高揚感を他の人に伝えて、ともすると触発もしてくれるものだと思います。それこそが私が分かち合いたいものなのです。ユーモア、執念、知性、好奇心、努力…そういったものを私自身の道具として使いたいと思っています。

V Magazineに掲載されたこの作品には、多くのお怒りのメールと激励の声が寄せられたそう。ベラ・ボルソディの「フット・フェティッシュ」V Magazine #48(2007年9月)。

それに軋轢も!私がベラさんの作品を知るきっかけとなったのがV Magazine #48に掲載された、あなたの「フット・フェティッシュ」シリーズだったのですが、あれを見た時に「これはかなりきわどいけれど、知的なきわどさね!」と思いました。この女性の裸身のイメージは、私たちの社会における性差別について雄弁に物語っていると思いますが…。そのことについて聞かせてください。

この写真の靴(トップ画像参照)は、足以外に女性の肉体とポーズまで成形するようにデザインされているのと同時に、こういう靴を選ぶ女性を性的に特徴付けるものです。そこで私は、どうすれば既に性的に特徴付けられた女性の身体が、この靴に誇張された方法で組み合わさるのかを模索するために、このビジュアルを研究し、最大限に生かすことに興味を持ちました。どうすればこの形同士の接点が作れるか、異なるスケールではどのような新しい比率を生み出すのか、そういった点です。

また、私は既に確立されたこういう靴の役割や関連性、この靴がいかに女性の身体を意識してデザインされているのかについても反映したいと思いました。それがこのイメージの身体に頭部がなく、どれも裸な理由です。


かなりユニークな下着の見せ方。デンマークのS Magazine #4に掲載された「フィンガード」(2006)。

どれも靴にぴったり納まっていますね…。

それから、フォトショップを使ったデジタル作業で実際の女性を靴に入れた薄っぺらな空想を作るのではなく、女性の身体をプリントから切り出して作ることにしました。その過程でより「現実感」と「肉感」を与えるために、そこから作った形を本物の靴に入れました。

本当に?それはなおさらに興味深い作品ですね。出版社はその後の反応をどう受け取ったのでしょうか?

雑誌社はあの作品をとても気に入ってくれたのですが、そこから先はかなりおかしなことになりました。記事が出た途端に複数のフェミニスト団体から強い抗議の声があがったんです。その数日後には、私を性差別と女嫌いとして書いているウェブサイトを10ほども見つけました。そのサイトでは作品が掲載された雑誌だけでなく、靴のデザイナーの作品までボイコットするように呼びかけられていましたね。ですがその後、私の作品を広告とファッション業界における性差別といった視点から、もっと真剣に議論しているサイトも見つけました。インターネットはある意味かなり民主的なので、赤の他人がインターネット上で私の作品について議論するととても面白いことになります。とにかく、私の作品を非難するフェミニスト団体のウェブサイトは沢山見ましたよ。あと、作品に好意的なフェティシズムやアダルトサイトも。


新品のバッグを舐めるキュートな悪魔!ドイツのKid’s Wear誌に掲載された「アウト・オブ・ディス・ワールド」シリーズ、2007年。

不思議な生き物がおすすめする銀色のスニーカー。Kid’s Wearに掲載された「アウト・オブ・ディス・ワールド」。

まさに痛い所を突いたという感じですね。だからあれほど意見が分かれたと…。

私は、芸術作品とは問題を提起し、人に議論されるべきものだと強く信じています。それが芸術作品の目的であり、そういった意味ではこの作品は大成功を収めました。アーティスト自身は、問題点を断ずるのではなく、問題を提起し、模索する立場にあるのです。芸術作品にとっての最大の成功とは、最終的に人の認識を変えて、思考をかき立てるような、より複雑な議論の起因になることだと思います。

「ホワイル・ユー・ワー・アウト(あなたの外出中に)」靴も喫煙コーナーで一息ついた模様…?アメリカのCity #38に掲載された作品(2005)。

その後、私を女嫌いと言った厳しい反応について熟考した結果、私はこの話のおかしな矛盾点は、「この作品を見て、人は最終的には、私たちの性差別的な社会に対する批判を解釈できるようにもなる」というものでした。もしくは、単にこの世界を自由に研究し、異なる尺度からその可能性を探すことへの私の驚嘆を分かち合うにとどめることもできるのです。

全くそのとおりです…。でもベラさんの他の素晴らしい作品も忘れてはいけませんね。例えばNuméro #2に掲載された、日焼け止めローションだけで作った「スパルマティ」のシリーズとか…

あれは雑誌社の方から、「夏のビーチでの楽しみ」という雰囲気で日焼け止めローションの話をやってほしいと言われて作りました。私にとってはかなり自由にできましたし、驚いたことに、雑誌の方では実際の商品である容器を見せなくてもいいとまで言ってくれて、それでローションそのものだけを使うことができたのです。


「スパルマティ」。日焼け止めローションのこのシリーズは…

…なんとローションそのものだけで作られている。2007年にNuméro #2に掲載された作品。

イタリアのNuméro #2に掲載された「スパルマティ」(2007)。実際の商品や容器がどこにも写っていない一枚!

このクリームに関しては、私は物語的なストーリーを描きたかったのですが…正直な話、あのローションは扱いにくくて難しかった!どうすればこのローションで「絵を描ける」のかについて、本当に色々なアイディアや仕掛けを考えなければでした。それもまた楽しかったことは楽しかったのですが、それでもかなり濃厚で緊張した経験でした…。

その他にも、Details誌に掲載された、風船をマネキンとして使った「インフレイティッド・エゴ」シリーズも私の大のお気に入りなのですが、この作品はグロテスクに歪んだいびつな形を何らかの方法でくっつけていますよね。あれも結構楽しめたのではありませんか?*

ご想像のとおり、あの時はいくつもの風船が破裂したり変形したりしていました。それも、しばしば撮影しようとした間際に。それで一つのおおまかな形を思い描いて、そこからどのような最終的な状態に発展するかを考えるというプロセスになったのです。このキャラクターたちはかなり活発だったので、バランスと忍耐が一番要求されました。私としては、このキャラクター達には、自力で最終的な形を見出して欲しかったのですが、結果としては全員がちょっとぽちゃっとしてヨロヨロした感じになることに決めたようです。


City #36に掲載された「インフレイティッド・エゴ」。皮肉なステートメントの矛先は、ファッションと…(出版:City Magazine

「インフレイティッド・エゴ」。…男性の態度。(出版:City Magazine 2005)

素晴らしいですね!この作品だけでなく、他の全ての作品が私たちの日常の経験を物語っているところを見ると、きっとベラさんは優れた観察者でもあるのでしょう…。人々のやりとりや状況を見るのがお好きだったりしますか?

お褒めの言葉をありがとうございます。確かに私は身近な物事はよく観察していると思います。それが私の最大の、そしていつまでも飽きさせずに私を魅了し続けるインスピレーションですから…。

タイポグラフィーでAIGAを受賞した一枚。オーストリアの雑誌に掲載された「ハビング・ガッツ…」(2003年)。Sagmeister Inc.との共同制作。

ベラ・ボルソディさん、今日は沢山の斬新なファッション写真を見せてくださって、本当にありがとうございました!

11 コメント

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