
特殊な和紙に描かれた美しい富士桜の絵。じっくり見てみると、その絵は細かくて小さな彫で描かれている。それは「伊勢型紙」という、職人の卓越した技で作り上げられた、日本特有の繊細な型紙。今回PingMagは皆さんに、伊勢型紙の魅力についてお話しします!
作:リョウコ
伊勢型紙は、着物や浴衣などに絵柄を染める際に用いられる型紙のひとつで、昔、伊勢(三重県)で作られたことから、その名前がついた。元々は、武士の裃(かみしも)に模様を入れる為に作られたが、全国に広まるにつれて需要が増え、浴衣、手ぬぐい、建具、照明器具、そして美術工芸品など、様々なものに用いられるようになった。現在では、その芸術性の素晴らしさに魅了され、コレクションにする人も少なくないらしい。

照明器具として利用される型紙。「渋あかり・乱菊づくし」(資料提供:伊勢型紙・専門店おおすぎ)

細かな菊の花びら!(資料提供:伊勢型紙・専門店おおすぎ)

伊勢型紙の地紙には、「渋紙(しぶがみ)」または「型地紙」と呼ばれる和紙3枚を「柿渋(かきしぶ)」という赤褐色の渋柿の液で貼り合わせたものが使用されている。柿渋には防腐・防水剤の効果があるため、昔は紙や木などによく利用されていたのだとか。そして、天日干し・燻煙を繰り返し、40日以上かけて完成するそうだ。

赤褐色の柿渋。

手間をかけ作られる渋紙。
着物などの反物には「紗張り(しゃばり)」で出来た型紙が使われることがある。紗張りとは、彫り終えた渋紙をより頑丈にするため、その型紙に生糸(絹)が織り込まれ、片面だけ漆を塗るという制作法のこと。絹と漆、日本の古くから伝わる高級な材料で出来ているなんて、何とも贅沢…。

着物や浴衣に使われる紗張り。(資料提供:伊勢型紙・専門店おおすぎ)

絹の紗と漆で出来ている。(資料提供:伊勢型紙・専門店おおすぎ)

紗張りで染め上がった反物。

彫師が使用する小刀。
伊勢型紙で作る絵ハガキ
先日、講師を務める現役の型彫師・松井喜深子さんの伊勢型紙でハガキを作る体験教室が、東京・葛飾区の伝統産業会館で開かれた。今回、教室で用意されたものは、渋紙、ハガキ、そしてデザインナイフ。前文でも少し説明したように、渋紙は、耐水性に優れている為、水性絵の具を塗っても伸縮し難く、ハガキには最適なのだとか。また、何度も重ね塗りが出来るというところも嬉しい。

少し硬めにできた渋紙。

来年はネズミ年なので、沢山のネズミ柄が用意されている。

松井さんは普段、依頼された図案を彫る仕事をしている。個人的な依頼を受けることもあるが、殆どは問屋からのものだそう。しかし、どんな仕事でも“一生懸命にやり遂げる”ことを、松井さんはモットーとしている。
「依頼される中には、似たような絵柄はありますが、同じものは一つとして存在しません。父から常に“仕事は丁寧に”と教えられてきました。だから、たとえ簡単な図案だとしても、その都度、神経を凝らして丁寧に彫っています。」(松井さん)

ピカチュウの絵もある!

慎重に丁寧に彫る…。

次は楽しい色塗り作業。使用するのは水彩絵の具。刷毛を叩いて塗るのがコツなのだとか…。

素敵なハガキのできあがり!
「もう一つ気をつけているのは、私の次に染める職人さんがいるということです。私の仕事は、図案を描く人、型紙を彫る人、染める人、など様々な人が関わって、一つのものを作り上げます。ですので、染める職人さんのことも考えて彫らないといけないんです。」(松井さん)

松井さんの型紙を使って染めた布で作られた手提げ袋。

とても細かな模様!

鏡餅の絵は、年賀状に使えそう。鮮やかな色のグラデーションがとてもキレイ。

走る犬の素敵な絵柄!
松井さんがこの教室を開くのは、伊勢型紙を通して、子供達に「ものづくりの楽しさ」を知って欲しいという思いからなのだとか。また、一次の母親としても子供たちを取り巻く環境について真剣に考えている。
「ものを作るときって、鋏やカッターなど使い、怪我をすることもあるじゃないですが?昔に比べると、今の子供って、過保護に育てられているような気がするんですよね。大事に至るのは確かに怖いですけれど、痛みを知らないと、その物の危険性も分からないだろうし、ある程度怪我をすることは、成長過程で大切な経験だと思うんですよね。」(松井さん)

伊勢型紙彫師である松井さんは、自分の仕事を愛し、誇りを持っている。しかし昔に比べ、今ではめっきり職人が減ってしまった。日本では伝統工芸の衰退がよく問われるが、松井さんはそれに対しどう感じているのだろう。
「昔のようなスタイルで職人になることは、難しくなっていますよね。せっかく“やってみたい”という気持ちを持っている子供達がいるのに、そうさせてあげられないのはとても残念なことです。私が自分の仕事を好きと思えるだけに、子供達にも好きと思えることを仕事にして欲しいんですよ。だから、職人になりたいという人々の為にも国が世の中の体制を考えてほしいと思いますね。」(松井さん)
伊勢型紙・専門店おおすぎさん、伝統産業会館の皆さん、そして、素敵な話を聞かせて下さった松井さん、ご協力して頂きありがとうございました!これからも美しい伊勢型紙を作っていって下さいね。
5 コメント
ウェブマガジン「PingMag」及び、姉妹サイト「PingMag MAKE」は、2008年12月31日をもって休刊いたしました。これまで応援して下さった世界中の皆様、またご協力頂いた皆様に、心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました。
PingMagの姉妹版、日本のモノづくり情報を世界に発信中!
PingMagから大切なお知らせ
2008年12月31日
板谷龍一郎:色鮮やかでユーモア溢れる世界
2008年12月29日
マギボン:YouTube発のネットアイドル
2008年12月26日
ベネデッタ・ボッロメティ:たくさんの元気をくれる不思議な絵
2008年12月24日
中銀カプセルタワービル:未来の建築
2008年12月22日
花村えい子:キュートでポップな60年代の少女マンガ
2008年12月19日
日本のハイテクトイレ事情
2008年12月17日
アミューズメント:アートやファッションと融合するゲーム文化
2008年12月15日
HIROCOLEDGE:現代に溶け込む新たな伝統
2008年12月12日
瀬戸正人:ビンラン売りの甘い誘惑
2008年12月10日










私はステンシル・グラフィティが好きなのですが
こういった日本の型紙も味があって素敵です
とても興味があります
「渋紙」というのもおもしろいです
Posted by: hanae @ 11月16日2007年
伝統的工芸品の産地プロデュース事業により制作した、伊勢形紙「形紙あかり」が2006年東京リビングデザインセンターozone主催「和のある暮らしカタチ展」にてグランプリを受賞いたしました。それを記念して、2007年4月に名古屋にて個展を開催いたしました。そのときの展示状況や作品の映像がブログにて観ていただけます。
伊勢形紙の美しさを幅広い年齢層の方に知っていただいて、身近に感じてほしくて制作いたしました。よろしければご覧ください。
Posted by: katagami akari 秋田 美穂 @ 11月18日2007年
初めまして、先日「オオスギ」より電話をもらって、掲載を承諾しました。日展は、見てもらいましたでしょうか?私の「あかり」も見てもライン増したでしょう?富士山の灯りもあります。30cm×60cm古川美術館の為三郎記念館で展示しました。今年は、ギャラリー「澄光」(田園調布近く)で個展をします。3月21日~31日までまた連絡します。
Posted by: 六谷春樹 @ 1月1日2008年
[...] PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » 技と心で作
Posted by: Twitter Trackbacks for PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » 技と心で作られた美しい伊勢型紙 [pingmag.jp] on Topsy.com @ 1月29日2011年
技と心で作られた美しい伊勢型紙 good post1254
Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年