VEBタイポアート:東ドイツの活字鋳造所

2007年10月5日 カテゴリー: インターナショナル, タイポグラフィー

VEBタイポアート:東ドイツの活字鋳造所

東ドイツの公営活字鋳造所だったVEBタイポアートの書体とデザイナーの記録の集大成。限定版の「タイプアート・フレンズ」は、懐かしい雰囲気が漂う木製の化粧箱入り!ハインツ・ウォーラー社から出版されている。

「VEBタイポアート」は、ドレスデンにあった東ドイツの活字鋳造所だ。国営化された鋳造所の統合により生まれたこの場所は、第二次世界大戦後の1940年代後半から旧ドイツ民主共和国が消滅する1990年まで稼動していた。ドイツ民主共和国は消滅して久しく、ここで生み出された書体を含む多くのものが人々の記憶から薄れていく中、今徐々にその評価が見直されつつある。この動きは懐かしさだけでなく、無数の類稀なフォントとその制作者たちへの敬意が原動力となっているようだ。ワイマール・バウハウス大学の学生からなるタイポアート・フレンズも、VEBタイポアートの特異な歴史の記録を限定版の書籍、「タイポアート・フレンズ」として集約した。PingMagでは、この若きタイポアート・フレンズにどうやってこれらの書体を再発見することになったのかを聞くと同時に、実際にVEBタイポアートでデザイナーとして勤務していたというカール・ハインツ・ランゲさんから、彼の東ドイツでの体験についての話を聞くことができた。

作:レスリー・クオ
訳:山根夏実

カール・ハイツ・ランゲ氏による最も有名な「Minima」フォント。電話帳用に、”長体をかけた状態で、6ポイントという小ささでも読みやすい書体”を、という課題の彼の答えがこちら。エレガントな「Minima」は、ベルリンの印刷所がこの書体を聖書に使用したがったくらいだ。

東ベルリンにあるカール・ハイツ・ランゲ氏のアートで溢れるアパートメント。壁は彼のフォントだらけ。

2006年に、タイポアート・フレンズは社会主義体制にあった東ドイツで唯一の活字鋳造所「VEBタイポアート」の正当な認識を求めるマニフェストを発表した。1989年にベルリンの壁が崩壊した後に東ドイツは消滅し、有限会社となったタイポアートもまもなく同様の運命をたどった。その閉鎖の理由やそこで制作された書体の著作権の行方は今日に至るまで明らかにされていない…。しかし10年以上が経過した今、若手のデザイナーたちは再びこの閉鎖された書体制作会社に関心を示し、その作品を再統一されたドイツに紹介しようとしている。それでは、そのVEBタイポアートとは実際にはどういった場所だったのか、そしてそこでの仕事はどのようなものだったのだろうか?

タイプセッティングの技術が発展するにつれて、VEBタイポアート社もその技術についていかなければならなかった。ランゲ氏もまた、「Super Grotesk」などのメタル・タイプフェイスをフォトセティングに取り入れることに協力した。「Super Grotesk」では、太さのバリエーションをなんと6段階まで広げている。

カール・ハインツ・ランゲさんは、学生だった1950年代から1990年の東ドイツ崩壊の時までタイポアートの現場で働いていたというベテラン書体デザイナー。事実、彼は今でも本とアートに溢れた東ベルリンのアパートで書体を作り続けており、PingMagに20世紀の激動の変化、ドイツの歴史的な変化のみならず、金属活字から写真植字、そしてDTP化に至るまでの印刷技術の変化の中での書体デザインについて語ってくれた。

1949年、戦後のドイツを占領していたソ連と米・英・仏の関係悪化によって国家が分断されたその年にランゲさんは美大を受験した。東ドイツはソ連の管理の下に、一党独裁制の政府と、政策から生産、そして教育までのあらゆるものを左右する計画経済を戴く、社会主義体制の労働者と農民の国家として建国された。「私は進学を許されていませんでした」 ランゲさんはそう振り返る。「私は教師の息子で、労働階級にも農民階級にも属していませんでしたから、労働階級の敵である中流階級の人間だと思われていたのです」。 それでもランゲさんは、「非凡な芸術的才能」を理由にすんでのところで入学することができた。しかし、1963年にランゲさんが博士課程を始めるのと時を同じくして、政府は広告業の仕事を大幅に削減し、デザイン学校の大半を閉鎖してしまった。

カール・ハインツ・ランゲさんがVEBタイポアートで作った書体の一つ、「Publica」。

こちらは、ポスターに使うフォントについて書かれた1ページ。右下にある5種類の「an」には、コメントが書いてある。一番左は「丸過ぎ」、次は「とがりすぎ」、それ以外がバランスの良い太さのバリエーション。

また新しい社会主義政府は、民間の企業を「人民の事業」を掲げる国営の人民公社(VEB)へと統合し、一元管理下に置いた。ランゲさんの説明によると、「タイポアートは、ベルリン、ライプツィヒとドレスデンにあった3つの鋳造所が統合されてできたもので、唯一残されたこのドレスデンの合同鋳造所がタイポアートと命名されたのは、東ドイツになってからでした。タイポアートは、全ての印刷と出版事業の調整と出版社が必要とする書体の開発を担当していた“ゼントラグ”の指示で動いていました。ここまで細かい企画が必要とされていたのは、予算と資源が限られている上に、東ドイツが生産するものの大部分がソ連に輸出されなければならなかったからです」 ランゲさんはそう語る。「例えば、紙不足の上に薄利ということで、どの日にどの本を印刷するかが印刷所であらかじめきっちり決められていました。この期限に従わない人間は罰金を支払わなければなりませんでした」。

「タイポアートでは、文学作品にはGaramondのようなルネサンス・スタイルのローマン体、BodoniやDidotのようなクラシカル、Clarendonなどのスラブセリフといったすべての重要な条件を満たすフォントを開発するために、「倹約と効率」を原則に様々な印刷会社の代表と一緒に作業をしました。もちろん、HelveticaFuturaといった様々なスタイルのサンセリフも同様で、代表的なスタイルは一通り要求されました。許諾料を払えない時は、ゼントラグの方から西側で作られた特定の書体を模倣するように依頼してきたこともありました」。

「宇宙、星、そして惑星」と「ロケットの中の余分な乗客」。東ドイツの限られた資源の中で、素晴らしいデザインと絵本を世に送り出してきたベルリンのキンダーブルーフバラーグ社の本。

…素敵な挿絵の絵本がもう一つ。

アルバート・カップルとデットレフ・シェファよる1989年出版された「写植書体」。この年、ベルリン壁は崩壊した。(Photo:Typowiki

そんなに厳しい環境の中で、どうやって個性的な書体をデザインすることができたのか。ランゲさんによれば、タイポアートのデザイナーたちは、第一にオリジナルで美しい書体を作ることに情熱を抱いていた。プレッシャーの中で独創的なものを作ることはもちろん難しく、タイポアートの有能な制作主任、アルベルト・カプル(ヘルベルト・タンホイザーの後任)も一度は「Times New Roman」の代用品の要求に対して「Timeless」という粗末な模倣書体を量産したことがあったそうだ。それでもタイポアートのデザイナーたちは、基本的に独自のセンスを加えてそれぞれに割り当てられた標準フォントを生み出していた。

ランゲさんも、1950年代にヘルマン・ツァップの新作の書体、「Palatino」が制作中の自分の書体、「Akademie Antiqua」に酷似していることを知り、作業机に戻って自分の書体にペンからインスピレーションを得た上向きの払いを加えたことがあったそうだ。その後、タイポアートがツァップの「Optima」の模倣を求められた際にも、ランゲさんはツァップのものとの違いが十分に認識できる、独自の先細のサンセリフを作ることを誓っている。事実、ランゲさんが後に西ドイツでツァップとの対面を果たした際、ツァップはランゲさんの「Publica」を認め、この書体は後に国際的なデザイン賞を受賞することになった。

「タイポアート・フレンズ」企画のきっかけとなったアルベルト・カプルの大要、「写植書体」の1ページ。この書体はタイポアートの傑作の一つである、ヘルベルト・タンホイザーの「Leipziger Antiqua」。ルネサンス式のローマン体がドイツ文字のフラクトゥール(ブラックレター)的な六角のエッジで装飾されている。

「東ドイツの書体デザイナーは、政府や同業者から尊敬されてもいました」ランゲさんは振り返る。「東ドイツ政府は、広告業界でのデザインの仕事は削減しましたが、ライプツィヒやドレスデンに長い出版の伝統があったこともあって、ブックデザインだけは強く支持し続けたのです。1600年代にまで遡るライプツィヒ・ブックフェアは、東ドイツの統治下でも毎年開催されていました。ここでは「最も美しい本」という賞があって、政府も受賞者がタイポアートに入社して独自のデザインを作ることができる書体のデザイン・コンクールのスポンサーになっていました。一番大事なのは、デザイナーたちがお互いに競い合うのではなく、一致団結して作業していたということです」ランゲさんはそう説明する。

「フリーランスのアーティストとデザイナーは、ビジュアル・アーティスト組合の採決を通して標準料金を決めていたので、報酬は誰でも平等でした。私たちは全員アーティストでした。“下値入札”などというものもなく、私たちは全員が仲間で、お互いを助け合っていました。そこが社会主義の良いところでしたね、団結力が強くなるんです。あと映画製作者や建築家が政府の検閲に対応しなければならなかった中で、書体デザイナーはある種の芸術的な自由を与えられていました。書体は生産の手段であるが故にイデオロギーとは無縁のものであるとされていました。書体には文章という中身があって、読むものではあるけれど、読んだ時に意味があるのはその中身でした。だからその書体がどう使われても、私たちが責任を問われることはなかったのです。」

東ドイツのデザインから得たインスピレーション。タイポアート・フレンズが見せてくれたジャガイモの団子用の冷凍生地とジュニパーベリーのパッケージ。薄めの色と透過効果、そしてシンプルで正確なタイポグラフィーに注目。重ねてプリントされた野菜柄が可愛い!

「1989年11月9日に、全てが変わってしまいました。ベルリンの壁は壊され、ドイツ民主共和国政府の権力も崩壊しました。翌年には、東西ドイツは西側の法律の下に再統一され、“社会的市場経済” には“人民公社”などの社会主義的な概念が存在する余地は残されていませんでした。旧東ドイツの人民公社(VEB)が民営化され、信託公社、トロイハントによって次々と売却されていく中で、VEBタイポアートも「タイポアートGmbH」(有限会社)になり、カール・ホルツァーという人物の手に渡りました。」

「彼は広告業の人間で、書体の制作にはあまり興味がなかったようです」とランゲさんは回想する。この頃にはランゲさんも65歳というドイツの一般的な定年年齢に近づいており、もうタイポアートに勤務してはいなかったそうだ。1995年になると、タイポアートはホルツァーによって倒産寸前にまで追い込まれていた。その2年後に、ランゲさんはタイポアートの書体が消えてしまうのを阻止するために、ライノタイプ会社にホルツァーと書体の許諾交渉を行ってくれるよう説得し、最後の努力を傾けた。ところがホルツァーは次第に交渉から遠ざかり、それが二人が話した最後の機会となった。

先ほどのパッケージ・デザインと同様に、少しあせたようなインクの色で彩られたベルリンの町並み。未来的なデザインの東ベルリンの中心地、アレクサンダープラッツは、旧東ドイツ建築が誇る自慢の名所。14歳になった子供には必ず配布された東ドイツの広報冊子「宇宙、地球、人間」の見開きより。

ホルツァーがタイポアートの書体に関心を示さないことの一番の問題は、会社を買収したことによって、法律的にはホルツァーが書体の著作権の所有者となっていることだった。ホルツァー自身にデザインを商売に使う気がなくとも、理論上はフォントを利用しようとする人間(それが書体を作ったデザイナー本人であったとしても)を著作権の侵害で訴えることができるからだ。そこで万全を期するには、まずホルツァーに話を通さなければならないのだが、ここ何年も彼の姿を見かけた人はいない。ところが、ワイマール・バウハウス大学デザイン学部のジェイ・ラザフォード教授がホルツァーに偶然遭遇した。

インクが不足していた時期は、モノクロで印刷するという手段が採られることもあった。この2枚は、社会主義だった東ドイツの広告とブランディングの典型的な例。こちらのタイヤとアリ駆除剤のポスターは、1975年に出版された書籍「東ドイツの広告芸術」で紹介された。

教授が部屋を貸していた音楽教師が、なんとカール・ホルツァーの恋人だったのだ!ジェイ・ラザフォードはホルツァーが著作権を有する書体の芸術的価値を本人に教えようとしたが、その道のりは困難を極めた。「カールは、最近つきに見放されているから、あの書体をCDに焼いて家電量販店のメディア・マーケットで売ろうと思っていると言ったんです!」教授はホルツァー氏がタイポアートの財産を処分品同然に売り飛ばすことに耐えられず、講座を設けて生徒を集め、もっと有意義な方法で作品を世に知らしめることを提案した。しかし、書体の再発掘の障害はホルツァー氏だけではなく、数々の相反する要求を訴える関係者も行く手に立ちふさがったのだった…。

ハインツ・ウォーラー社から出版された書籍、「タイポアート・フレンズ」より。VEBタイポアートの書体やデザイナーを紹介するこの本は、黒と赤の大胆なデザインで綴られ、東ドイツでは一般的だったわら半紙のような目の粗い茶色の紙に印刷されている。

タイポアート・フレンズによるタイポアート・ロゴのデジタル・スケッチ。このロゴが彼らのデザインのインスピレーションとなった。右側は東ドイツ産の物品に挿入されていた一般的な納品書を素にしたもの。「タイポアート・フレンズ」コレクションより、ハインツ・ウォーラー社。

PingMagでは、歴史的な書体資料を集めて限定版書籍、「タイポアート・フレンズ」の出版にまでこぎつけた8人の内の4人、フロリアン・ヴェーキング氏、アンドレアス・ハインツェル氏、セバスチャン・ヘロルド氏とロバート・ミュラー氏に話を聞いた。

「タイポアート・リローンチ」の講座を選択するまで、東ドイツのデザインについて何かご存知でしたか?

フロリアン:このプロジェクトに参加する前は、東ドイツのデザインとの接点はあまりありませんでした。友達が子供の頃に読んでいたといって見せてくれた東ドイツの本を何冊か知っていたくらいでしょうか。ですが、東ドイツが独自の活字鋳造所を持っていて、そこが東欧圏で使われていたすべての書体を作っていたということは知りませんでした。これらの古い書体は10年以上もの間「失われた」と考えられていたので、それがもう一度日の目を見られるようにする取り組みはとても興味深いものでした。

ハインツ・ウォーラー社から出版された「タイポアート・フレンズ」コレクションの見開き。タイポアート・フレンズに参加するフロリアン・ヴェーキングさんは、ディスプレイ関連には「Quadro」、長文には「Magna」がお気に入りだという。

リサーチと書体のトレースはどうやって始められたのでしょうか?

タイポアート・フレンズ全員:最初にラザフォード教授がアルベルト・カプルの書籍「写植書体」を教えてくれて、その中にタイポアートが写真植字用に制作した書体のほとんどが載っていました。場合によっては文字セット一式とサンプル・テキストのデジタル・イラストレーションが入っていることもありました。それからVEBタイポアートの組織的な歴史が記されている本を見つけて、80年代にデジタル・フォントに移行されたものは、そこで開発された書体の一部だけだと知りました。タイポアートはたくさんの書体を作りましたが、その多くは組見本が存在しない、元々の金属活字としてしか存在しなかったようです。ライプツィヒにある 印刷技術博物館がそれらの金属活字のほとんどを所蔵していて、グラフィック&ブックアート大学(HGB)にも所蔵されているものがあるようです。こちらに関しては、HGBのタイポグラフィー課の教授、ライアン・アブドゥラ教授ともお話ししたのですが、それ以上のご支援はいただけませんでした。

VEBタイポアートで制作された数々の珍しい書体の一つ「Biga」による試用。各ページはタイポアート・フレンズのメンバーがその書体の形式や歴史に合わせてデザインしたもの。ハインツ・ウォーラー社から出た「タイポアート・フレンズ」コレクションより。

その他にはどんな障害が?書籍の前書きには、「貪欲」や「秘密主義」など、かなりドラマチックな言葉が並んでいたのですが…。

このプロジェクトは事実ドラマチックで緊張感に溢れ、そしてとても不思議なものでした!タイポアートの遺産に興味を持ったのは、もちろん私たちが初めてというわけではありませんから、タイポアート書体の販売を再開するために今回の試みを始めたものの、すぐに壁に突き当たってしまいました。一方には書体の著作権の所有者であるホルツァー氏がおり、そしてもう一方には書体の販売を希望していたエルスネル+フラケという会社、そしてライプツィヒにあるHGBが書体と著作権の正統な所有者だと考えるライアン・アブドゥラ教授。そしてその真ん中で、書体のデザイナーたちが宙ぶらりんになっていました…。

私たちはこの中の誰かと手を組みたいわけでもなければ、誰かの販売戦略を作りたかったわけでもありませんでしたから、最終的には誰にも応えず単独で事を運ぶことを選びました。私たちの活動の目的はマニフェストにはっきりと書かれています。「書体デザイナーの仕事に敬意を表し、その遺産を保存すること」。タイポアート・フレンズという名前からも分かるように、私たちは書体を販売したり悪用するつもりはまったくなく、もっと書体に関心を集めたかっただけです。実際のところ、東ドイツの社会主義的な思想的には、書体は厳密には人民のものであって、特定の個人の所有物ではありませんからね。

ハインツ・ウォーラー社の「タイポアート・フレンズ」コレクションの見開きより。ライプツィヒにあるHGBの書籍デザイン部門の創設者であり、「Leipziger Antiqua」などの数々の美しいフォントやデザインに関する著作を世に送り出したアルベルト・カプルに敬意を表して。

完成までの道のりで一番驚いたことは?

それは、ドイツ再統一の中で旧東ドイツの企業の多くが辿った運命そのものである、VEBタイポアートの歴史ですね。またタイポアートの作業過程は、その最後の最後まで最新式で高度なものでした。西ドイツとは違って、東ドイツの書体デザインは経済的な競争のプレッシャーに晒されることなく行われてきましたから、より細心の注意と技をもって書体を作ることができたようです。最先端を走り続けるために、努力もコストも惜しまない。これはまさに“活版印刷の芸術”です。

タイポアート・フレンズは本以外にも、各フォントを社会主義体制時代の英雄である労働者に見立ててデザインした木箱入りの個別の書体(右)も提供している。CDケースのデザイン(左)は、タイポアートの最後の商品が5インチのフロッピー・ディスクだったことに由来している。

それでは、すべてを「タイポアート・フレンズ」の一冊にまとめようと思ったのはいつだったのでしょうか?

その考えはかなり早い段階からありました。書体のコマーシャルを作る、金属活字で印刷してみる、レトラセットを作ってみるなど、アイディアは他にも色々とありましたが、8人のグループが共同で作業することは時に難しくもあり、最終的には分担してそれぞれが3~5枚分の見開きをデザインするということに落ち着きました。東ドイツ的なデザインと照らし合わせた上で、一人一人がそれぞれの書体とその由来に独自のスタイルでイラストレーションや解説を加えています。

茶色の紙を使用して黒と赤のインクを主体としているのもそれが理由なんですよね?

私たちは、旧東ドイツの印刷素材を使ったシンプルなデザインを基調に今回のデザインを作りました。あちらでは植字は常に正確且つシンプルで、非常に高い完成度を達成していましたから。東ドイツ的な雰囲気のほとんどは目の粗い自然紙からくるもので、配色も重要な役割を果たしています。インク不足が深刻だったことから、東ドイツではインクを極端に薄めて、まるで色が抜けてしまったのではないかと思われるような薄い色合いが一般的だったんです。さらに、インクは単純に重ねてプリントされることが多く、面白い透過エフェクトも多かったと思います。私たちのデザインは、こういった日常の様々なものに影響を受けています。私たちが本と一緒に発行したチラシも、東ドイツ産の物品に必ず挿入されていた、産地などを示す伝票がベースになっています。

VEBタイポアートに敬意を表すためにタイポアート・フレンズが当初考案したアイディアの数々。レトラセット、Tシャツ、そして色見本風の書体カタログの原案。

色彩はもちろん社会主義の赤を基調にしていますが、昔のタイポアートのロゴ自体が赤だったので、私たちのロゴも同じく赤ということになりました。それに加えて、赤いTを支点に、タイポアート・フレンズを背景とした可変ロゴも作りたかったんです。これの原案はそれぞれの書体に人物像を当てはめるというものでした。社会主義の英雄的な美学はもちろんブランド認知と大きく関係しており、特に旧ドイツ民主共和国の労働者と農民の国家という部分に触れるものですが、タイポアートや東ドイツについて何も知らない方でもこの社会主義のシンボルには気付くだろうと思っています。

それでは、皆さんが一番気に入っているVEBタイポアートの書体は?

フロリアン:僕の個人的なお気に入りは「Quadro」ですね。ディスプレイ的な用途にしか使えませんが、70年代風の魅力とエレガントな現代っぽさがあります。文章用の書体では、シンプルでいて、長い文章では非常に読みやすい「Magna」が特に良いと思います。

2005年のバウハウス大学の一般公開では、タイポアート・フレンズはこの本の最初の9冊を紹介するスタンドを作った。そこでの反応が非常に良かったおかげで、彼らはより大規模なものを作るための資金を調達することに成功した。この本は2006年にハインツ・ウォーラー社から出版された。

最後に、東ドイツのデザインからは何を学べるでしょうか?

フロリアン:先ほどの答えと被りますが、東ドイツの書体デザインがアートとして認識されており、デザイナーが本当に秀逸な書体を作る余裕を持っていたということが素晴らしいと思います。近年のデザイン・シーンは、流行と絶え間ない変化によって繁栄していますが、それでも僕たちはいつも古いクラシックなデザインに戻ってきます。そこから学び、得るものは大きいと思いでしょう。タイポアートと東ドイツの話題には、明らかに懐かしさや古いものへの魅力があります。それでも、決してそれだけの言葉で片付けられるものではないと思うのです。僕としては、多くの最近のデザインよりもよほど中身があると思いました。

締めくくりにはぴったりの言葉ですね!タイポアート・フレンズの皆さんとカール・ハインツ・ランゲさん、東ドイツの歴史とその遺産についての興味深いお話をありがとうございました!!

様々な書体に囲まれる日常:VEBタイポアートに勤務していたベテラン・デザイナー、カール・ハインツ・ランゲさん、アートに溢れる東ベルリンのご自宅にて。

さて、本日ご紹介したVEBタイポアートの書体は今でも入手できるのだろうか?いくつかの書体は不透明な著作権の問題にも関わらず、今でも入手可能だそうだ。その他にも再解釈される予定のものもあるとのこと。

カール・ハインツ・ランゲさんは、現在自身がデザインした5つの書体の新しいバージョンを制作している。「Publicala」「Suprala」「Minimala」はランゲさんのタイポアート時代のデザインである「Publica」「Supra」「Minima」がベースになっており、プライム・タイプから発表される予定。「Rotola」と「Diplom Antiqua」はエルスネル+フラケから発表される。

その他のタイポアート書体
「Stentor」「Maxima」「Magna」は、URW++エルスネル+フラケが提供している。

再解釈
eBoyのスヴェン・スミタルの「FF Super Grotesk」は、東ドイツで「Futura」の代替品として使用されていた「Arno Drescher」の「Typoart Super Grotesk」がベースとなっている。インゴ・プレウスの「Rosalia」も、ハインツ・シューマンの「Typoart Stentor」を基にしている。最後に、ティム・アーレンスの「Lapture」はアルベルト・カプルの「Typoart Leipziger Antiqua」をベースに作られている。

21 コメント

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