工房まる:もの作りから広がるコミュニケーション

2007年9月13日 カテゴリー: イラストレーション, 国内, 環境・福祉デザイン

工房まる:もの作りから広がるコミュニケーション

福岡県の福祉作業所「工房まる」のスタッフとメンバー達。「工房まる」という名は、「丸」は言葉だけでなく手でも表現でき、あらゆるものを包む強さもあるという意味から付けたそうだ。

机に散らばった絵の具や筆、壁に飾られた絵、窓際に置かれた焼きもの。光りいっぱいの木造の空間に、柔らかな時間がゆっくりと流れ、誰もが自由に足を運べるその場所では、楽しげな声が絶えず響いている。福岡県福岡市にある「工房まる」は、心身に障害のある人が、スタッフのサポートにより、創作活動を中心とした仕事に取り組む“福祉作業所”。そんな温かな場所に惹かれたPingMagは、「工房まる」の施設長、吉田修一さんにお話を伺った。

作:リョウコ
協力:亀口ゆき

クレヨンで描かれたhirokiの作品「くじら」は、驚くほど色彩豊か。

最初に、「工房まる」を開設したきっかけから教えて下さい。

大学では写真を学んでいました。その卒業制作の時に養護学校を舞台に選んだのですが、初めは「何かしてあげなくてはならない」という思いばかりで、障害のある生徒達にどう接して良いのか分かりませんでした。しかし写真を撮り続けていると、自然と会話も増え、コミュニケーションが取れるようになったのです。そうやって生徒達と写真を通じてコミュニケーション出来たことは、僕の中で凄く大きかったんですよ。

そこから、養護学校には障害のある人が大勢いるのに、なぜ街中であまり見かけないんだろう?という単純な疑問を抱くようになりました。「差別してはいけない」と言いながら一線がひかれた現実や、頭では理解できるけど感情がついてこない、そんなスッキリしない感じがとても嫌でした。障害のあるない関わらず、誰でも行き交うことの出来る空間があれば、そんなことが自然と無くなるんじゃないかと考え始めたんです。


絵を制作している工房まるのメンバー。

同じく工房まるのメンバー。ここでは工房まるに所属する障害のある利用者のことを「メンバー」と呼んでいるそう。

色鉛筆で制作されたhirokiの「あぐらの女性」。

吉田さんは写真を専攻していらっしゃったのに、メンバーは絵画や焼き物、木工などもの作り中心の制作活動を行われていますよね。それは何故でしょうか?

僕自身、写真を通じて世界が広がりましたし、表現をするということを大切に思うようになりました。それで、「工房まる」のメンバーにも好奇心や欲求など行動の元になる何かを持っていて欲しいと思ったのです。それに、自分で何かを作る方がきっと楽しめますしね。


こちらはサインペンで描かれたkousukeの「葉と木」。

木工の作品の「掛け時計」。ポップな色使いも素敵!

陶器で出来た「ピーナッツ君」。素朴でかわいいピーナッツ君が勢揃い。

こちらはkousukeの作品「クロヒョウ」。

彼らの作品が人々の目に触れる時、障害のある人の作品だというのを知らせた時と知らせない時とでは、反応に違いを感じられますか?

それは私達が気になっている点でもありますよ。展覧会を開いた時など、障害者に関することだから取り上げられるというのは少なからずあると思います。でも、障害のある人の作品という情報を与えなくても「この絵はどんな人が描いたのだろう」という好奇心を持たせる力は十分あると思いますね。だからといって、そういった考えを取っ払いたいというよりは、むしろ、障害があることを含めた上で認められるような社会になればと願います。特別な場所でしか出会えないのではなくて、彼らの絵が皆さんの中に浸透して、近所の子供達の着ているTシャツの絵がメンバーの手掛けたものだったり、そんな風に生活の一部になれば良いなと思うんです。


Nozomuの描いた真っ青な海の絵がプリントされたTシャツ。

こちらもNozomuによるお米の絵がプリントされたTシャツ。

鉛筆、水彩絵の具で描かれたhirokiの「かわいい人」。

こちらは色鉛筆によるhiroki「インコアナナス」。

工房まるの室内の様子が描かれた作品、hiroshiの「まる」。

特別な視点ではなくて、世の中には色々な人がいるように障害のある人もその中の一人という目で見て貰えたら良いということですよね。

そうです。ただ、今の社会では障害のある人、特に知的に障害のある人がそうかもしれませんが、働く場や能力があっても“居場所”となる場がなくて孤立してしまいがちです。そういった現状を考えると「工房まる」のような福祉的な支援の場は絶対に必要なんです。

今日も一日が終わり、送迎車に乗り込む「工房まる」のメンバー。

ユニークな表情のコウモリが描かれたkosukeの作品「こうもり」。

いつもスタッフ間で、どうすればこの人が社会に参加できるのかと話し合っています。目が見えなくて体にも麻痺がある、一見何も出来そうにないメンバーがいるんですが、ラジオが凄く好きでDJの真似をするんです。その姿を見ていると、だったらラジオのDJをやらせてみようというアイデアが出たりします。障害がとても重いから何も出来ないというわけではありません。皆で意見を出し合うと様々なアイデアが生まれてくるのです。そのような状況って豊かだと言えませんか?世の中は出来る人が良いとされ、そういう人たちで固めようとする傾向にあります。しかし様々な立場の人の存在を取り込んでこそ、色々な考えが生まれ豊かな社会になると思うのです。

作業道具がいっぱい!

また、近所の子供達や他の地域からも「工房まる」に遊びに来てもらって、障害のある人の存在を記憶に残して欲しいと思います。小さい頃に体感したことって、価値観の原点になると思うんですよね。そうすれば、その子供達が社会に出た時、世の中をもっと良い方向に変えてくれるのではと思ってます。


こちらはhiroshi描いた「奥田民生」の絵(!)。

こちらの段ボールに描かれているのはhirokiの作品、「ポケットを手にかっこつけてる」。

色鉛筆で描かれたkosukeの作品「ハリネズミ」。

それでは最後になりますが、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

障害のある人は生活してゆくのに様々な支援を必要としています。しかし、2006年に「障害者自立支援法」という支援の1割を自己負担しなくてはならない法律が施行されました。社会に参加するために、障害の重い人はその分多くの支援を求めます。そうすると、支援にかかる負担も増えますよね。でもそれは、障害のあることが本人の責任とされているのと同じなのです。重度の障害があるのに、食べたり寝たり、生きる行為そのものにお金がかかる。そんな社会で良いんでしょうか?

絵をかくことだけでなく、沢山の会話が飛び交う毎日。

高齢者の問題に対しては「いつか自分も年をとるから」と、関心を置く人は多いと思いますが、実際は障害者の問題の方が身近なはずなんですよ。事故に遭い体が動かなくなったり、生まれた子供が障害を持っていたり、誰もがいつでもその立場になりうる可能性があるのです。また、障害のある人には、赤ちゃんから高齢者までいます。人が生きていくこと全てに絡み、常に社会を問うている存在なのです。

僕はいつ何時、自分がどんな状態になっても“自分らしく”生きていくことを捨てたくはありません。今まで培って来たものを捨てたくはありません。でも今の社会はそれができるのか?「障害者自立支援法」の根底にある考え方を知ると、それは本当に難しいことだと思うのです。だからこそ多くの皆さんにも一緒になって考えてもらえたらと思っています。


「工房まる」の施設長、吉田修一さん。

福祉作業所「工房まる」。

吉田さん、とても大切なお話を聞かせて頂きありがとうございました。PingMagは「工房まる」のような場所がどんどん増えていくよう、応援していきたいと思います。

3 コメント

  1. KOUSUKEさんの絵、好きです!ちょっと面白くて、暖かい絵ですね!
    ほかのアーティストのもいい絵ですね。
    hiroshiさんの奥田民生の絵、今度のジャケットにつかってほしいです。。
    ピーナッツ君ほしい(>_<)!!

    Posted by: noa & ash @ 9月18日2007年

  2. guzel sıte budur

    Posted by: goruntulu sohbet @ 7月22日2011年

  3. 工房まる:もの作りから広がるコミュニケーション good post1222

    Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年

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