
工事中の新宿駅構内に、ユニークな文字で表示された道案内。近づいてみると、それはなんとガムテープで作られた文字だった。警備員の佐藤修悦(さとう・しゅうえつ)さんにまつわるドキュメンタリー・フィルム「新宿駅案内のガムテープ・フォント」は、一人の好奇心溢れる若者によってその才能を見出された普通のおじさんのストーリー。今日は、そのおじさんにアプローチを試みて、素晴らしいドキュメンタリーを製作したトリオフォーの山下陽光さんにお話を伺いながら、佐藤修悦さんのユニークな作品の数々をご覧頂きたい。
作:リョウコ
協力:宮地成太郎
トリオフォーはお笑いパフォーマンスや映像制作など、気になる事があれば何でも追求する若者7人が集結したグループ。そんなトリオフォーの山下さんがJR新宿駅の構内に大きく描かれた案内の文字に注目したのは、2003年の冬だった。
「何度か見て、気にはなっていたんですよ。本当なら文字なんて伝わればいいじゃないですか、なのにやたら完成度が高い。しかも、何かのきっかけで間近で見たら、なんと文字がガムテープで出来ているんです!丁度その頃、トリオフォーで映像制作の計画があって、ガムテープの文字のことを仲間に話したら、“それだ!”って盛り上がって、このドキュメンタリーを作ることになったんですよ。それで、少しでも多くの人に見て貰う為に、YouTubeのインフラを利用して、そこではまだ誰も表現していない事をやろうということになったんです。」(山下さん)

山下さんは、会う人会う人にこの道案内の話をしたり、インターネットで呼びかけたりなどして、様々な方法でその製作者を探していた。するとある日、「今あの文字を作っている人が、新宿駅で実演しているよ」との連絡が。直ぐさま駅に駆けつけると、そこにいたのは警備員の佐藤修悦さんだった。
「佐藤さんがつれなかった記憶がありますね。“面倒くさい奴が来たと思った”って後で言ってました(笑)。それから2回目に会った時にインタビューと僕らのライブの出演を頼んでみたら、快く引き受けて下さったんです。」(山下さん)

最初に作られた駅のホームの番号表示。

「納涼」独自で作った看板を持つ佐藤さん。

元々、この道案内は人々が工事中の通路をスムーズに歩けるようにという目的で、警備員のリーダーである佐藤さんの独断で作られた。手始めに、ブラットホームの番号表示を貼付けてみたところ、予想以上に評判が良く、道案内図も作るようにと駅員から指示を受けたそうだ。そんな佐藤さんだが、数十年前に上京して最初に就いた職業は、なんと意外にも銀行員。その後は転職し、壁新聞のゴシック体のレタリングを担当していたが、ガムテープで文字を作るのは今回が初めてのことだったのだとか。

「第三者が祭り上げたり、もしくは誰かに評価してもらいたくて何かを作っている人は多いんですけど、佐藤さんの場合は違っていたんです。ただそこには人々の安全確保のため、分かりやすくという気持ちだけが込められてる。純度が異常に高いなって思いましたし、そこに凄みを感じます。」(山下さん)


佐藤さんの自筆。普段からこんなにユニークな文字で書いているそうだ。

展示会に置かれているエントランスの看板も佐藤さんのお手製。
佐藤さんは文字をゴシック体にすることにこだわりを持っている。きっかけは高校生の頃。自分の字にコンプレックスを持っていた佐藤さんは、授業の中でゴシック体の書き方をマスターしたことでコンプレックスを払拭し、それ以来、全てをゴシック体で書いている。しかし、現在佐藤さんの作り出す文字は、所々がアールになっていて、その特徴的な形は佐藤さんの独自のスタイルだ。


「谷」という文字が、こんなにもユニークな形に!

通路にも佐藤さんの文字。最近、巷ではこの書体を「修悦体」と呼ぶらしい。
「今迄にも色々な人にインタビューを行いましたが、考えを持たずにものを作っている人が結構多かったんですよ。けれど佐藤さんに文字を丸くしている理由を聞くと、“丸い方が混雑した駅にいる人々の気持ちを和らげてくれる”という答えが返ってくるんです。考えを持って作っているところが、また素晴らしいと思うんですよね。佐藤さんの文字は手作業ということもあり、均等じゃないんですよ。一見、何かのフォントに見えますが、一つ一つ微妙に違うんです。でも印刷された文字のように100%完璧ではないところに親しみを覚えるし、読み安さの秘訣なのかなって感じます。また、完成に向かう途中だから面白いんじゃないのかなとも思いますね。」(山下さん)
個展での実演

佐藤修悦さんご本人がステージに立ち、まずは文字の枠作り…

次は文字にするガムテープを貼付ける。

そして、カッティング作業。文字の端をカープに切り取る佐藤さん。

あっという間に最終段階。枠のテープをはがす作業。ここ迄の時間はわずか15分程度。

現在、高円寺の古着屋「素人の乱」では、トリオフォーがプロデュースする佐藤さんの初の個展が開催されている。初日の佐藤さんの実演では、「未完成」という文字が作られた。この文字はトリオフォーのリクエストで、そこには未完成を完成にするという想いも含まれているのだとか。


今の若者には未来が感じられないと言う声をよく聞くが、今回トリオフォーに出会い、彼らの言葉を聞いて、その考えや視点に感心させられた。作品というのは評価してくれる人が存在して、そしてその人たちの見せ方次第で初めてその輝きを増すものだ。小さな好奇心から一人のおじさんの才能を見出し、素晴らしいドキュメンタリーを作り上げたトリオフォーさんに私達は拍手を送りたい。

ガムテープ文字の製作者・佐藤修悦さん(左)と山下陽光さん。

こちらがトリオフォーのみなさん。本来は7名のグループだが、残念ながら今回集まったのは4名のみ。
トリオフォーの皆さん、佐藤修悦さん、ご協力頂きありがとうございました。今後の活躍も期待しています!
トリオフォー・プレゼンツ:佐藤修悦作品展「現在地」
会場:素人の乱(杉並区高円寺北3−12−1、地図はコチラ)
会期:〜9月2日(日)
時間:14:00〜21:00
入場料:無料
5 コメント
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なんだか”じぃ~ん”と心に響きました。
人のためのアート。
想いがあるから心を動かされるんだろうな。
日常にこんなステキなアートがあると思うとうっかり歩いていられないですね。
トリオフォーさんの好奇心に私も拍手!!です。
Posted by: zen @ 8月31日2007年
1つの事に対して、これだけのこだわりを持てるのって凄い。素敵なことですね。これからも、頑張ってください。
Posted by: nobuko @ 8月31日2007年
[...] PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » ガムテープ
Posted by: Webfool :: links for 2007-09-01 @ 9月1日2007年
実演は見れなかったですが僕も展示会行きました。
ネットでたまたま見ていったんですが
凄い文字に対する情熱とか感じました。
Posted by: ケン @ 9月4日2007年
素晴らしすぎます!!!
出来上がりはご自分で写真におさえているんですかね?
ぜひ作品集としてまとめて頂きたいです。
Posted by: toshi @ 9月11日2007年