
日本の少年・少女マンガ界において、現在トップの人気を誇る「エア・ギア」、「Bleach」、「Steel Ball Run」、「桜蘭高校ホスト部」、そして「Nana」といったマンガをシモーナ・ピーニがイタリア語と英語に翻訳し始めてもう15年になる。かなり特殊な仕事ではあるけれど、そんな彼女の仕事を羨ましく思う人も多いだろう。イタリア人である彼女は、一体どうやってその職業についたのだろうか?PingMagは、東京・中目黒に滞在中の彼女を訪れ、話を聞いた…。
作:べレーナ
訳:ジュンコ

マンガ翻訳家、シモーナ・ピーニと、彼女のお気に入りの2作品「Bleach」と「Air Gear」
シモーナさん、まずは素朴な疑問からなんですけれど、どのようにしてマンガ翻訳家という現在の職業に就いたんですか?
子供の頃、イタリアのテレビで日本のアニメが放送されるようになったの。「アルプスの少女ハイジ」とか、スウェーデンと日本の共同制作の「バーバ・パパ」とか、「小さなバイキング・ビッケ」とかね。でも、実際はその頃アメリカのコミックやフランスのアニメーションを見慣れていたから、それが日本のものであることが分からなかったのよね。でも、何よりも私を興奮させたのは、70年代の巨大ロボブームの生みの親である永井豪の作品の「グレートマジンガー」の続きで、「UFOロボ・グレンダイザー」っていうアニメだった。そしてその後、私もアニメのキャラクターとコミックを描き始めたのよ。14歳の頃の私の夢は、日本へ行きマンガ家になることだったし。そして、17歳になる頃には、私は日本語の勉強を始めてた。

17歳ですでに日本語を?
私は高校を中退したの。でも、ボローニャには日本語のコースを持つ学校があるって知ってた。だから、その大学へ行って教授に直談判したのよ、「私はどうしても日本語が勉強したいんです!」って。そしたら、彼はなんと「OK!」って言ってくれて、2年間勉強することができちゃったのよ。当時、日本のアニメやマンガに夢中になってる若者が多かったから、彼らはちょっとしたコミュニティを作ってたわね。皆それぞれ出身が違うけど、互いのことを知っていて、いくつかの異なったグループが存在してた。そしてついに彼らの何人かが、大きな出版社のサポートで、マンガを発行する会社を設立すると決めたんだけど、1992年、ちょうど私が2年間の日本語コースを修了する頃に彼らが私のところに来て声を掛けたことから、一緒にそこで働く事になったの。なんといっても、私にはマンガについての知識が既にあったしね。私の本業は文章を書くことなんだけれども、私自身が漫画家でもあり、実際、私にとってコミックって自分自身を表現する上でとても自然な方法なのよ。

出版を始めたそのグループの名前は何だったのですか?
その編集グループは「カッパ・ボーイズ」って名前で、4人の作家から成っているの。彼らは、イタリアで多くの新ルパン三世のコミックをリリースしたんだけどね、それは、作者のモンキーパンチ氏の許可の下、イタリア人アーティストや、時にはヒロモト森一のような日本人アーティストによって描かれたものなのよ。フリーランスの彼らは主にマンガを専門としていてね、パニニ・コミックとか、その日本語部門であるプラネット・マンガに次いでイタリアで最も大きいスター・コミックのような出版社の仕事を請けているのよ。

マンガを翻訳し始めたのも1992年なんでしょうか?
基本的に彼らと仕事を始めてからずっとね。
たった2年間の勉強で翻訳とは、すごいですね!
その2年間は、とってもキツかったもの。ボローニャ大学の竹下利明教授は、彼独自の教育システムを開発して、2年の間に、私の頭の中に物凄い量をすし詰めにしたのよ…。あとは全て経験によるわね。例えば、80年代には、私がその頃聞いていた音楽、例えばデュランデュランやカルチャークラブに関する日本の雑誌を見つけたの。その雑誌には、文通コーナーがあったから、私は「日本語と英語で書いた手紙を下さい」って載せたわ。そしたらなんと、250通もの手紙を受け取ったのよ!突然、私には50人の日本人のペンパルが出来たってわけ。その頃はほぼ毎日手紙を受け取ってたわね。それから、日記を日本語で書くことも続けたし、沢山のペンパルが、マンガやアニメ、音楽なんかを送ってくれたお陰で、私は20年前の日本のヒット曲を全部歌うこともできるのよ!

そうやって日本語を体得したってわけですか!?凄い!
それに、2001年まで私はロンドンのセント・マーチンでコミュニケーション・デザインの修士課程を取っていたんだけど、その時、日本の会社でウェブデザイナーとして働いていたの。その後イタリアに戻って、バイク好きな私は一時ドゥカティで働いたんだけど、日本語・英語のミュージアムガイドとして働いてもいた。この仕事は凄く楽しかった!でもそれから約4カ月後に、イタリアのアニメDVDにおけるマーケットリーダーで、マンガ会社としては3番目に大きなDynitでのポジションを手に入れたの。そこでは、内容のプランニングと生産指揮に従事するDVD部門のプロダクトマネージャーだったわ。でも、ここ3年はまたフリーランスに戻ってやってるのよ。今でも、集英社の週間少年ジャンプに掲載されている「Bleach」、「D.Gray-man」とか、講談社の少年マガジンの「エア・ギア」の翻訳をしてるけど。ちなみに、「エア・ギア」の作者の大暮維人は、「天上天下(テンジョウテンゲ)」の作者で既に有名なのよ。

シモーナの毎日の仕事の1つ、「エア・ギア」をイタリア語に翻訳。©2003 Oh!great All rights reserved

そして、アクションマンガ「Steel Ball Run!」も。 © 2004 LUCKY LAND COMMUNICATIONS All rights reserved
どうして、ティーンエイジャー向けのマンガを専門にされたんですか?
市場は、基本的にほとんど少年・少女マンガものが占めているの。私は主に少年マンガを翻訳するけど、多分私がおてんばだからかな?ハンドバッグを買うよりスケートボードに乗る方が好きだし、少年漫画は、沢山のアクションと少ない会話で出来ているところが好きなのね。でも、プラネット・マンがで3年前に働き始めたときから、少しは少女マンガも翻訳するようになったんだけどね。

30代となった今でも、まだそれらを変わらず好きですか?
基本的に、私はいつもキャラクターに恋するのよ。多分今でも、心は14歳のロマンティックで夢見がちな少女のままなのかも。隣人の従兄弟か何かを夢見る代わりに、「Bleach」のキャラクターを思うことが出来るってわけ。それって、頭の中で彼らに何でも好きなことをさせることが出来て、実はずっと楽しいのよ。
これは何のDVDですか?Nana?
私が最初の25エピソードを翻訳した「Nana」は、イタリアでもかなり有名なアニメよ。知っていて欲しいけど、通常アニメの翻訳は仕事内容が大変な割にはそれほどお金にはならないの。台本を翻訳して、次に、チェックするために漫画を読んで、その後二度も台本を読み直すからマンガの翻訳よりずっと長時間かかるのよ。私も、いつもはマンガの仕事だけで手一杯なんだけど、この話は本当に面白かったのよね!パンク少女に関するもので。もし私が14歳の時にこのマンガと出会っていたら、たぶん凄く喜んだと思う。それから今回の仕事は挑戦でもあったわね。マンガの方は既にイタリア語で発行されていたから、そのコミック版と競争でしょ。問題は、アニメでは途中で何かについて説明したくても止めることができないってことで、だから内容がスムーズに進むように全てを一つの言葉に詰め込む必要があるってわけ。

「Steel Ball Run」の翻訳の仕事についてはどうですか?
これは、「ジョジョの奇妙な冒険」という長いシリーズの7番目なの。日本で大流行したシリーズで戦闘コンセプトとかファンキーな音、それから人々の話し方がとても革新的なのよ。
**そこで質問なんですが、日本語の音をどのように翻訳するんでしょうか? **
基本的に、イタリア語における音の表現は、アメリカの翻訳をそのまま使うの。でもそれは、実際の音を適応させたっていうわけではなくて、つまり音を英語からイタリア語に翻訳する時に、グラフィックスに手を加えないことを意味するの。だからイタリア人は「Bong、Bang、Smack」っていう表現に慣れているのね。もし、適応するような英語の表現が存在しなかった場合は、まず私自身で考え出すの。例えば眼球が壁に対して押しつぶされる音ってどんなんだろう?とかね(笑)。そして次に、それを英語に翻訳するのよ。「エア・ギア」の仕事は例外だけどね。「エア・ギア」では、音を適応させる事はしなくて、作者がアートの一つとして描いた音の横に単にイタリアの翻訳を書くのよ。ストリートカルチャーがベースとなっていて、グラフィティ・アートのように見えるから!ちなみに日本語ってね「沈黙を表す音」を持つ世界で唯一の言語って知ってた?

それはどんなところから来ているんでしょう?
日本の概念にある、言葉の魂という意味を表す「言霊」から来ているみたい。「神道」に見られるように、言葉もそれ自身、魂を持っているという考えで、アニミズム論ね。全ての生き物と言葉が魂を持っているということ。だから、何か言葉を発するということは、その言葉に対して命を与えているということなの。つまり全てのものは命を持っていて、だからその結果全てのものは音を持っているってこと。
**どのようにして、「音」を思いつくんですか?
それを説明する唯一の言葉が日本語にあるわ!「適当!」(笑)ただ単にタロットリーディングみたいなものよね。ただそれを感じて、頭を使わずに直感で理解するの。例えば鼻を使うのと同じ感じ。あとは、例えばイタリア語に、同じ事を表す言葉が存在しない何かを伝えようとする時、とにかく最も近い何かを使って表すわよね。それと同じよ。

少し実用的な話に入ります。マンガ翻訳者の典型的な1日ってどんなものでしょうか?
そうね、私は大抵午後4時に起きて、まずコンピュータを立ち上げて、メールを読んで、インターネットの中をしばらくさまようかな(笑)。読者たちがどういう風に思っているのか知りたいから、パニ二・フォラムっていうブログを読むの。それからMIXIをやって、最終的に仕事にかかって、それからだいたい朝まで働くわ。
通常、翻訳しなければならないマンガの量はどれくらいなんですか?
元々発行される雑誌に応じて、189~220ページくらいね。
いくつかのエピソードがある1冊の本ですか?
それは雑誌によってだけど、週1もしくは月1で一つのエピソードが発行されるの。少年ジャンプと少年マガジンは色んなコミックが一つに詰まったもので、毎回、彼らはそれぞれのマンガの一つのエピソードを発行しているわけ。通常、各30~60ページの10個のエピソードを集めてる。エピソードが十分に溜まってくると、単行本と呼ばれる、1冊に一つのコミックだけが入った本を発行するのよ。だいたい、「Steel Ball Run」の場合は60ページのエピソードを3つ、「Bleach」は9か10のエピソードが1冊にまとめられるの。

では、1つの本まるごと翻訳するにはどれくらいかかりますか?
それは、文の量や、内容の難易度によるわ。「Bleach」は、古典的な日本のアクション・マンガで、190ページを翻訳するのにだいたい3日。他のものは、かなり時間がかかるかな。「エア・ギア」は、あらゆるタイプの違ったマンガを引用しているから、その冗談がどんなことなのかってことを知るために、沢山研究しなければならないの!「桜蘭高校ホスト部」では、言葉が多いし、ちょっと低俗なジョークが沢山あるんで、2倍は長くかかるの。このマンガは、日本の女子高生がくすくす笑えるようなちょっと下らないセンスのユーモアでポピュラーなのね。と言っても、イタリアでは同じようにはいかないのよ。その冗談って日本語でももう既に笑えない事も多いから、それを使ってイタリア人を笑わせたいとしたら、ちょっと知的にするか、もしくは違った形でもっとバカバカしくするか、しないとね。

シモーネの毎日の仕事の内の2つ。「Bleach」と「Nana」のエピソードの翻訳。
190ページの本を翻訳するのに3日?
そうよ。3日から1週間。1カ月あたりだいたい4つってことね。
えー!でも、生計を立てるためにはもっと沢山翻訳しなければならないんでしょうねぇ?
プラネット・マンガの良いところは、彼らが人をきちんと評価してくれるってこと。新人は基本料金のみを受け取るんだけど、実際良い仕事をしている人に対しては、もっと支払ってくれるのよ。だって、翻訳が良ければ編集者の苦労が減って、その分、他のことに時間をまわすことができるわけだからね。
マンガ全体を受け取るのはPDFがファイルとか?
この手のものの大部分は、まだ出版用にスキャンされていないの。だから、私達は赤いペンでふきだしに番号を書いて、本をコピーするの。そして、それが私たちのやり方よ。
本当ですか?世界中どこからでも仕事が出来ると言いつつ、まだそのコピーをとらなきゃならない!?
そうなの。でもきっと近々、変わっていくでしょうね。
遅かれ早かれそうなりそうですね。マンガを携帯で読める時代に、まだ翻訳のデリケートな仕事の部分はアナログな方法で行われているとは面白いです。シモーナさん、ありがとうございました!
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