深澤直人:頭の中のチョコレート

2007年7月27日 カテゴリー: イベント/展示会, 国内, 特集

深澤直人:頭の中のチョコレート

セミスイートなオフィス街で、キングコングごっこはいかが?刀禰尚子+飯島敦義の作品―東京にオープンしたばかりの21_21 Design Sightで行われた「チョコレート」展より作品「都市チョコ」。

今年3月にオープンしたばかりのセレブなショッピング街、東京ミッドタウンの敷地内にある21_21 Design Sightは、建築家・安藤忠雄氏のお洒落な建物の中に出来た新しいギャラリー。そして、ここでの第一回目の企画展(最終日は7月29日!)のテーマは、なんとチョコレート!30人ものデザイナーやアーティスト達がこの茶色い魅惑的な物質について様々な思いを馳せ、作品を生み出すというもの。それにしてもなぜ「チョコレート」なのか?PingMagは、このチョコレート展のディレクションを担当した大物デザイナー、深澤直人氏に彼のこだわりについて伺ってみた。

作:サブリナ・モリソン&ディーン・ハウ
訳:山根夏実

石井洋二の作品「発芽」では、素朴なチョコレート豆から緑の新芽が顔を出している。「チョコレート」展より。

深澤さん、チョコレートの実から緑の新芽が生えた石井洋二氏の作品「発芽」は、新しい出発点を設け、チョコレートという方法で人々にデザインとの関係性をもたらす21_21 Design Sightの新しいギャラリースペースの象徴ともとれますよね。どのように三宅一生さん、佐藤卓と一緒にコンセプトを立てられたのでしょうか?

チョコレートというテーマの展覧会をやろうということになった時、どういった展覧会にしようというイメージは誰の頭にもなかったと思います。私がそれのディレクションをやることになってから、チョコレートというものに含まれる、人々が共有する無限の意味を、作家たちがどのくらい抽出できるかということを試したら面白いんじゃないだろうかと思い立ちました。共有していることを再認識するのは魅力的なことだと思ったのです。

肥田野永の「c.red」。「チョコレート」展より。

深澤さんも作者たちの準備段階のプレゼンテーションに立ち会ったと聞きましたが、彼らのそれぞれの作品に対して、深澤さん、三宅さん、佐藤さんの影響もあったと思いますか?

もちろんあったと思います。影響ということもできるけれど、活動が進んでいく方向のようなものだったかもしれません。それがないと、みんなテーマに対してバラバラの発想をしてしまいます。今回はみんなで同じテーマに取り組むということ自体が新鮮な活動ですからね。

ちょっと異様な眺め…。大友学の「大本命」。「チョコレート」展より。

私個人としては、ジェームズ・モリソンのコートジボワールのカカオ農場の労働者を撮った、発展途上国における生産の現実が垣間見える写真が印象的でしたが、今回チョコレート製造会社と密接に作業する中でもこのような陰の労働者達を表に出すことが重要だと思われましたか?

これについて知ってはいましたが、詳しくは、あるいは実感としては遠い感じでした。ジェームズ・モリソンの作品やトム・ヴィンセントの作品によって、チョコレートというリアルな世界観全体をカバーできるようになって、結果的にとても豊かな展覧会になったと思います。そしてこれはデザインの実験の場ですから、その背景となる要因の抽出に偏りがあってはならないと思っています。

国連難民機関のi-DやベネトンのCOLORS誌にも寄稿しているイギリスの写真家、ジェームズ・モリソンの生々しいまでにリアルな写真「カカオ農園の人々」は、カカオ農場で働く人々の僅かな賃金と厳しい環境に対するメッセージと共に展示されている。部屋いっぱいに溢れる魅惑的なチョコレートデザインと並ぶこの作品は、消費の人的な犠牲を指摘する痛烈なメッセージ。

この展示会であなたが一番気に入った作品はどれですか?そしてその理由は?

一つに特定することは難しいですが…「チョコレートそのもの」のデザインは、チョコレートというよりは、それと共にある生活や行為を抽出しようとしたものです。チョコレートは小さなものですから、それと私たちの関わりも小さく繊細なものでしょう。私はこのデリケートなものを抽出する感覚が美に繋がっていると信じています。これは会場を訪れた人たちの表情からもわかることでした。


ディレクター自らの作品。深澤直人の「Brown Chocolate」チョコレート色のチョコレート!

こんなアイディアはいかが?HIMAAの「412-810」は一つずつ個別に作られたチョコレート製の鍵。「チョコレート」展より。

深澤さんのデザイン感は誰しもに共通する経験です。チョコレートを媒体として選ぶことによって、普段デザインについてあまり深く考えない人々にもデザインへの興味を持たせることができたのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

デザインというものを理解しようとしていた感覚が意識を超えた身体的な機能として備わっている、あるいはその機能が情緒とも連動しているということを、多くの人が再認識できたのではないかと思っています。難しく考えず、理解しようとせず、素直に感じ取ることで共有する様々な現象が見えてくるということは、人間であれば素直に嬉しいのではないでしょうか。

「欲望とは、誰か、もしくは何か(チョコレート)を欲する、もしくは渇望する心」。マーカス・トムリンソンの「欲望」。「チョコレート」展より。

深澤さんのデザイン作品は世界的に有名ですが、人があなたの作品に触れる時、どんなリアクションを期待されていらっしゃるのでしょうか。それは人々のチョコレートに対するリアクションとも関係していると思われますか?それとも単にどちらも魅惑的というだけ?

「デザインは一の意識に触れる刺激のようなものである」という定義は一般的であると思います。しかし、私たちは物を使っている時、あるいは無意識で行動している時はその物や環境のことをあまり意識していません。そして意識していないということは、物や環境と自然に無理なくインタラクションしているということでもあります。意識しなくてもいい物をデザインするということは、物が行為の自然な流れに無理なくはまっている、もしくは環境に自然に溶け込んでいることを意味します。その存在を強く意識せずとも、ある時「あれ!これこんなところに…」とか「あー、そうだったのか」などと気付くことで繋がる感覚がいいと思っています。チョコレートもそうですが、最初から明白に分かるわけではなくて「???」から「……!」へと到達することが幸せなんじゃないかと思います。


遠山夏未の「コットン70% チョコレート30%」。思わず履いてみたくなるでしょう?チョコレート展より。

実際に動く小さな蓄音機とチョコレートでできたレコード。そこから響くのは楽しげな子供の声か、それとも悲しみの泣き声か。PingMagのプロデューサーでもあるトム・ヴィンセントの「チョコ音機」は、カカオの産地とそれを生産する人々の現状に疑問を投げかける作品。

チョコレートの持つ特質とは、深澤さんにとってどんなものなのでしょうか?

その味とそれを欲するタイミングが特殊だと思います。例えば、何かをしていて、あるいは何かを考えていて、たまたまチョコレートという物質がその行為や思考の流れを分断して差し込まれてきた時、つまりそれを口に放り込んだ時「あ、この場、この時にチョコレートがあってよかった」と思えてしまうような魅惑があります。

チョコレートというものは、確固たる形がありそうでない。これは、例えるなら「プラスチックとは何ですか?」とか「コンピュータとは何ですか?」というような質問を受けた時の感覚に似ています。頭に画像は浮かぶのだけれど、それはチョコレート全体を説明する象徴的な概念ではなく、単に一つの一般的な形にすぎない。形のない物の定義に合う顕著な形を想像することはあるけれど、それはその全部を言い当てるものではない、そういう感じです。


21_21 Design Sightギャラリーに足を踏み入れると、東京の真ん中で草の海原を漂う二枚のガラスの氷山を発見したかのような気分になれる。建物の金属的なアングルはギャラリー内の深淵にも反映されている。

普段はどんなタイプのチョコレートがお好きですか?

プラリネが好きですが、チョコと中身の相性が最も良いものを、その中身が好きだからと思い込んで選んでいるのかもしれません。バータイプのチョコレートは積極的に食べるという印象で、胃の奥が欲している感じがします。

口の中で広がるチョコレートの味をどう説明されますか?

口の中の表面や歯にこびりつくチョコレートという茶色の物質を、舌や口を動かすことによって除去していくプロセスでしょうか。掃除しながら楽しんでいるという感じですね。

今回の展示会を準備するにあたって、チョコレート工場の見学や試食も相当されたのではないかと思いますが、今でもチョコはお好きですか?それとも、もう飽和気味とか?

今でも好きですよ。でも、「好き」を表す単位が食べる量という意味であれば、そんなに沢山は食べません。とは言え、量は好きということとは関係ありませんからね。

正にその通りですね!次は展示スペースについて聞かせてください。21_21 Design Sightギャラリーは、文字通り階段を通して展示スペースに人を引き込むエレガントな空間です。デザイン過程では深澤さん、佐藤さん、三宅さんも安藤忠雄さんの作業に密接に関わっていらっしゃったのでしょうか?


展示会の準備の一環として、他の参加者と一緒にインスピレーションを求めて菓子職人の作業を見学する企画者/デザイナーの深澤直人さん。

三宅さんの「一枚の布」というコンセプトが安藤さんがこの建物をデザインする時のキーコンセプトと連動して、それが大きな一枚の屋根という形になったと聞いています。空間自体は安藤さんならではの巧みな構成の力によるもので、私たちはその部分にはあまり参加していません。ただ、展覧会の構成を考えるにあたっては、この空間を生かした展覧会をやろうという意志がありました。結果としては空間、建物、展覧会が一体化したものになっていると思います。

あなたの21_21 Design Sightにおける構想は継続的な取り組みだと思いますが、今後はどういったプロジェクトを考えていらっしゃるのでしょうか。

今まで認識していたデザインというもののイメージの枠の外にあるもの「あー!これもデザインなんだ」と認識できるような活動を提示していければと考えています。今度は落語や狂言、一人芝居なんかもやる予定です。

それは素晴らしいですね!深澤直人さん、チョコレート展についての魅惑的なお話をありがとうございました!

この展示会は今週7月29日(日)で終了しますので、興味のある方はお見逃しなく!
21_21 Design Sight 第一回企画展「チョコレート」
住所:東京と港区赤坂9-7-6
開館時間:11:00 - 20:00

3 コメント

  1. [...] PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » 深澤直人:

    Posted by: cocoa*life » links for 2007-07-28 @ 7月28日2007年

  2. This is exactly what I expected to find out after reading the title o.us poetry. Thanks for informative article

    Posted by: Jakob @ 7月29日2007年

  3. チョコ音機の音が聴きたい~
    でも食べると音が聴けなくなってしまう~

    Posted by: satoko @ 7月30日2007年

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