
都市でのサバイバルをコンセプトにしたファッション・ブランド「FINAL HOME」のデザイナーとして知られる津村耕佑(つむら・こうすけ)。その津村氏が9人の女性達との対談から妄想を膨らませ、自ら彼女達に服を作らせて下さいとお願いするという、雑誌ART iTによる摩訶不思議な企画「妄想オーダーモード」が、今月初めから中目黒のミヅマアートギャラリーで展覧会として始まった。パンクな津村氏が一体なぜ妄想族になったのか?どんどん広がった津村氏の妄想の世界を覗きに、PingMagは津村耕佑氏本人を訪れてみた。
作:チエミ
まずはじめに、津村さんはファッション・デザイナーとして知られていますが、ファッションという表現を使う現代アーティスト、という呼び方の方が正しい気がするのですが…?
確かにそうかもしれません。というのは、ファッション・デザイナーってアーティストにとても近いと思うんですよ。プロダクト・デザイナーや建築家は、ある種オファーがあってデザインしていくと思うんですが、ファッション・デザイナーは、自分の思いから始まったものを不特定多数の人に向かって発表しますよね。つまり、主観的なお客さんの捉え方をしていて、それはかなりアートに近いんじゃないかなと思いますね。
では、今回の企画「妄想オーダーモード」は、津村さんの思うファッションの真逆のところにある「特定の人に服を作る」というコンセプトですね。なぜ、そのような企画に挑戦されようと思われたのですか?
誰からもオファーされない中でファッションをやっていると、逆に誰かからオファーを受けたいとか、特定の誰かを対象に作ってみたいという気持ちが出てくるんです。
では、津村さんが選ばれた9人の皆さんは全員女性ですが、それは何故でしょうか?
まず妄想を抱きたい。そうすると、女性は限りなく謎なんですが、同性に対してはあまり妄想が広がっていかないんですよ…。
確かに(笑)。皆さんを選ばれた基準はどうですか?
既存のイメージを壊して、フレッシュな切り口を見せたい女性達。なおかつ、こっちからこれを着て欲しいというある種暴力的な要望に対して、受け入れられるだけの心構えがある人じゃないといけない。そうするとやはりアーティストが多くなってしまいますよね。
では、この9人の女性達の印象を一人ずつお聞かせ下さい。まずはモデル、パフォーマーの山口さよこさんから。(タイトル画像参照)
さよこさんは、目と口とヘアスタイルが印象的なんですよ。だから、そこだけを切り取ったものを作ったんです。彼女は三宅一生さん達が初めてパリコレに出た時に一緒にコレクションに参加していたので、「同士」という感じもしますよね。彼女が着ると日本人のデザイナーの服が生きた。ですから、ただのモデルじゃなく、アイコンなんです。ヘアスタイルも絶対変えずに、常に彼女は彼女という感じがします。
ビジュアル的な部分から入ったという感じですね。では次に、女優の鶴田真由さん。
鶴田さんは、旦那さんがアーティストの中山ダイスケ君なんですが、中山君のデビュー当時の作品には暴力的なものが多かったので、おとなしい雰囲気の彼女とパンクな彼の一体どこに接点があるんだ、と…。
そのように妄想が広がっていくんですね…。ですが、完成した服にはその部分は反映されていないようですが?
彼女は色々な所を旅した経験の中で、文明と自然との折り合いの付け方みたいな部分に非常に憤ることがあるようなんです。また、現代社会に関して怒っているところもあって、それが大地とかインドの神々みたいに思えたんですよね。
なるほど。次は、随分違う雰囲気のタレントの佐藤江梨子さん。
佐藤さんは、前にフィギュアのモチーフとして村上隆さんの作品に登場していたので、現代アートに関わりのあるタレントなんだろうと、参加して頂きました。その時は、アキバ的な雰囲気で露出していたので、全く違うシックなモード的なものを着せてみたいと思ったんです。彼女は非常に頭が良く、話すとテレビ番組のリアクションのようにポンポン返してくるんですよ。それで、思いついたのが鏡だったんです。つまり、反射によってプロテクトされている。この鏡はアクセサリーだけじゃなくて、プロテクターなんです。また、彼女はきりっとした部分も持っているのでハート形だけでなく、ドクロもある。

書籍「ファンタジー・モード」より、鶴田真由さん。(写真:松蔭浩之)

書籍「ファンタジー・モード」より、佐藤江梨子さん。(写真:松蔭浩之)
次は、弱冠23歳の小説家の金原ひとみさん。

書籍「ファンタジー・モード」より、金原ひとみさん。(写真:松蔭浩之)
「蛇にピアス」という小説で芥川賞を受賞されましたよね。内容的には少し怖い小説で、会った時も全身黒で、黒いマニキュアをしていたんです。ところが、話すと割と普通の女の子だった。メディアに影響されやすい日本の若者達の、それでいて色々な情報が混乱して名てうごいるような感覚を、セーラームーン、キティ、ディズニーという、あり得ないキャラクターのミックスにしてみたんです。でも、ドレスの下のクチュールは、蛇の抜け殻みたいなものにして。
幽霊画で有名な日本画家の松井冬子さんは、どうですか?
松井さんは、メディアで見る印象と幽霊画の印象が合致していると思いました。また、彼女は最近のホラームービーや、日本のメディアを通過したモダンな感性で幽霊画を描いているような気がしたんです。このドレスのポイントは足が見えないところなんですよ。松井さんの作品を拝見して、この世のものじゃない感じを演出する為に足を隠したかった。また、使用したファブリックは形状記憶素材なので、自由に変形させられる特徴を活かし、捉え所がない感じも表してみました。

確かに神秘的な感じのする人ですよね。次は、ダンサーの康本雅子さん。
康本さんは、ダンスを始めたきっかけがクラブ通いだったというところにも親近感が湧くし、男性に近くて仲間みたいなんですよ。あとは、本人の動きを見てインスピレーションを得ました。どこを見せて、どこを隠すかを動きの中で変化させていくのがいいだろうと思って。また、手足の先端の表現が緻密で、アジア的なんですよね。ですから、ヨーロッパ、アジア、東京が混ざった感じにしました。
次は、文筆業の工藤キキさん。
キキちゃんはとてもお洒落で、どんなものでも着こなせる。だから、完成品を見て何を言うのか楽しみだったんです。ところが、彼女はオーダー通りに作って貰えると勘違いしていて、海賊みたいなものがいいって言っていたんです。ただその時、行ってきたばかりのインドの話もしていたので、僕の中でインドとパイレーツ・オブ・カリビアンが混ざったんですよ(笑)。

書籍「ファンタジー・モード」より、康本雅子さん。(写真:松蔭浩之)

書籍「ファンタジー・モード」より、工藤キキさん。(写真:松蔭浩之)
なるほど(笑)。以前、芸者さんだったアーティストの花代さんは?
花代ちゃんは芸者から現代アーティストまでの、そのギャップがスゴイじゃないですか。でも、あえて花代ちゃんの最近の写真作品から妄想を広げていったんですよね。作品は内面を表しますから。すると雲や空とか、なんとなく宗教的な部分を感じた。ただ、花代ちゃんのアナーキーな印象から、服はゴールドのメッシュを裂いたやや乱暴な作りで、王冠もあえて手作り感溢れるようなものにしてみたんです。
苦行を終えた女神みたいですね。
女神風ではあるけれど、危険な女神ですよね(笑)。
最後の児嶋サコちゃんは、ハムスターの着ぐるみを着て、大きなひまわりの種を食べるパフォーマンスなどを行う人ですが、最初はパフォーマーに対して服を作ると、その服もその人の作品の一部に思われるんじゃないかと、疑問に思っていたんです。だから、全く印象の違うものにしました。また、彼女の作品には、小動物に針をさしたような痛々しいものが多い。だから、動物達に懺悔する意味で、白い服を着て化身になって、動物を天国へ導いて自ら神になる、という印象ですね。…あれ?そうやって話してみると、そんな雰囲気ばかりですね?

書籍「ファンタジー・モード」より、花代さん。(写真:松蔭浩之)

書籍「ファンタジー・モード」より、児嶋サコさん。(写真:松蔭浩之)
雲の向こう系が多いですね…。出来た服に対する皆さんの反応どうでした?
皆、胆が座っているので全然オッケーですよ。そうくるんだ、みたいな(笑)。
制作後に、アーティストの松陰浩之さんが撮影されましたが、そこで何か新たな発見はありましたか?
違う側面も見ることができましたが、同時に被写体のキャラクターも反映させた上である瞬間を切り取らないといけないという一番辛い仕事をさせて申し訳ないという気持ちもありました。僕自身は服を着させて立たせれば、仕事は終わりですから。しかも、この企画にはクライアントがいないので、OKの基準が何となくしか分からない。ですから、何かを作ろうみたいな気持ちでやらないと完成しないという、かなり苦行的な作業でもありましたよね。
ちなみに、もし外国人の女性で同じ企画をするならどんな方にお願いしたいですか?
アーティストのジェニー・フォルツァーがいいですね。雰囲気は割とワイルドで、ヘルムート・ラングなどと一緒にやっている人です。あと、シンディー・シャーマン。シンディー・シャーマンは、自分自身を加工しているので、自分を加工する人を加工することに興味はありますね。

では、近年世界から日本のファッション・シーンに注目が集まってきていますが、さらに盛り上げるためには、今何が必要だと思われますか?
さらに盛り上げようとして業界のシステムに翻弄されては意味が無い。パリやニューヨークと対抗するのではなくて皆で良いアイディアを出し合えば他にも重要なテーマが見えてくると思うんですよね。大人が盛り上げようとすると、若者は引くものじゃないですか。

三宅一生の事務所を経て、FINAL HOMEのデザイナーになった津村耕佑氏。現在は妄想族でもある。
では最後に、津村さんにとって「ファッション」とは何でしょうか?
簡単に言うと…妄想。絶対答えが出ないもの。ファッションって、服じゃなく、ライフスタイルなどを全部ひっくるめた空気感だから、捕まえることはまず出来ないものなんでしょうね。追うと逃げるもの。捕まえたいけど、捕まえられないもの…。まさに妄想。
なるほど!上手くまとまりました!津村さん、今日は本当に有難うございました。
【お知らせ】
現在「妄想オーダーモード展」を開催中のミヅマアートギャラリーにて、明日6月23日(土)、津村耕佑、松陰浩之の両氏によるトークショーが行われます。ご本人達の生の声が聞けるこの機会、お見逃しなく!
日時:6月23日(土)15:00-17:00
出演:津村耕佑、松陰浩之
ゲスト:佐藤直樹(ASYL)
司会:小崎哲哉(ART iT編集長)
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