デビッド・イケダ:映画「300」をも支える3Dソフトウェア

2007年6月8日 カテゴリー: インターナショナル, テクノロジー, 映像, 特集

デビッド・イケダ:映画「300」をも支える3Dソフトウェア

LightWaveで作られた宇宙船。こちらは、モデラーから見た様子。彼は全てのオブジェクトをグリッド上で制作してしまう。

安さと品質は、必ずしも比例している訳ではない。少なくとも、3D特殊効果においては。高級3DCGソフトウェアのMayaSoftImageに続いて、より手頃な値段のソフトウェアが低予算映画で注目を浴びている。それが「LightWave」。特殊効果がふんだんに盛り込まれた映画「シン・シティ」や「パンズ・ラビリンス」、そして最新のものではフランク・ミラー原作のコミックを映画化した「300」など、LightWaveを使った作品名にピンとくる方も多いのではないだろうか?では一体、奇妙な言語でプログラムを打ち込んでいるのはどんな人なのだろう?日系アメリカ人のデビッド・イケダもその作業に従事する国際的なプログラマー・チームの一員で、しかも日本で唯一のLightWaveの専門家だ。本日のPingMagは、そのシャイなデビッドさんに上野でお会いして、コーディングやプログラマーの日常についてのお話を伺ってきた。

作:ベレーナ
訳:山根夏実


LightWaveのドラッグツールによって、マウスで点を動かすことができる。

この作業は、左右対称の星形が完成するまで続けられる。モデルの正面図を動かすこの時点では、まだ2次元の形。

斜めから見ると、どのように星が3D空間に現れるかを確認することが出来る。

Z軸に添って、ドラッグツールで中心点を引っ張ると、2次元だった星の形が3次元に!

まず、デビッドさんがここまで人気の高い3Dソフト「LightWave」の開発環境に携わるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

以前は遊びでプログラムを書いていたのですが、大学在学中に趣味で作ったPowerToolsのプラグインがこのLightWaveの仕事をするようになったきっかけですね。その後、2005年の5月からこの仕事を始めて、僕自身はC++でプログラムを書いています。これまでのLightWaveは、完全なC言語規格だったのですが、今では徐々にC++に移行し始めています。

えーと…今かなり難解な言葉が並びましたが、一体どんな作業をしていらっしゃるのでしょうか?

僕は主にモデラーの仕事をしています。これはLightWaveのプログラムの一つで、もう一つ別にレイアウトというプログラムもあります。どちらもに共通したコードもあるので、双方に跨る作業もないことはないですけど。

こちらはLightWaveで作った人間のモデル。違う角度からモデルを映し出す4つのスクリーンは、三次元でこのモデルがどのように見えるかをより想像しやすくしてくれる。

私にも分かる言葉で話して頂けますか…。

Mayaなどのパッケージとは違って、LightWaveはちょっと特殊なんです。例えば、LightWaveは、モデルを構築するモデラーと、そのモデルのアニメーションやレンダリングを担当する2つのアプリケーションに分かれています。それから、レイアウトを毎回インポートしないでもいいようにその2つを同調させるハブというアプリケーションもありますが、要は常に2つのアプリケーションを切り替えながら使います。このソフトではモデリングがレンダリングとは完全に切り離されているので、タイムラインやアニメーションとは関係なくモデリングに専念できるということが利点の一つです。

それは、かなり複雑なのではないですか…?どうしてそういう形態を取ることになったのでしょうか?

それは20年以上にも及ぶこのソフトウェアの歴史が原因ですね。1985年頃のAmiga時代のことです。このソフトは元々は二人のプログラマーによって作られたもので、スチュアート・ファーガソンがモデラーを、アレン・ヘイスティングスがレイアウトのプログラムを手掛けました。恐らくそれが理由で一つのパッケージの中の二つの個別のプログラムとして進化したのでしょうね。でも、今ではその二人も独立してしまっていて、「ルクソロジー」という会社を設立しています。

こちらはレンダリングされた後のバージョン。

なるほど、それでデビッドさんもモデラーの方を手掛けていらっしゃると…。でも、このソフトを自分で使用する機会はないと聞きましたが?

開発者の大半はコードの開発に専念するあまり、ゆっくりする時間なんて殆どないんですよ。実のところ、開発者の多くは3Dソフトと無縁だったりします。チームに参加するまで触ったことすらなかったという人もいますし、皆このプロジェクトに興味を持って携わっているだけなんですよ。それに加えて、グラフィック・パッケージを使うことはかなりの修練を必要とする作業です。個人的には、パッケージを使いこなすことはソフトのプログラム言語を覚えるのと同じくらい難しいのではないかと思っています。

プログラマー自身がソフトを使わないとなれば恐ろしい結果になりそうなものですが、経営陣がユーザーの要望を熱心に検討してくれるお陰でそうなることなく済んでいます。私からすれば、プログラムのコードも同じくらい巧妙で芸術的な気がしますが…それに単なる数学的な作業ではなく、クリエイティブな仕事であるとも思いますし。この世に純粋な科学というものは存在しませんよ。もちろん、別個に線引きすることもできませんしね。僕としては、芸術というよりも自分とコンピューターの対話ように考えています。とても原始的な言語での対話ですが、究極的な意味ではコンピューターに自分が何をしたいのかを伝える作業ですからね。コンピューター言葉での創作的な作文だと思うこともありますよ。

ピクセル・マジック」のモデラーは、Lightwaveを使って、水の中を動いているかのような十字を表現したことを説明する。クリップはコチラから。© NewTek

そしてこちらが、完成バージョン。© Warner Bros. Pictures

それでは、デビッドさんにとっては、どんなものが洗練されたプログラミングとそうでないものなのでしょうか?

僕の近頃の作業は、どちらかと言えば月並みの仕事のが多かったのですが、自分でも気に入った中心的な作業は…これまでは重複して使っていた機能があって、例えば頂点、エッジ、ポリゴンにそれぞれ同じ効果を施す機能があったとします。頂点は空間の一点を指し、エッジはそれを繋げるもの、ポリゴンはそれによって構成されるものです。普通は三つの異なる機能を設けるのですが、僕はそれを一つで済むようにしたんですね。でも、ユーザーには全く違いが分からないようになっています。

今「月並みの仕事」という言葉が出てきましたが、プログラマーにとっての月並みの仕事というのはどんなものなのでしょうか?

殆どの時間…90%くらいは、積み上げられたバグの修正に費やされます。要はメンテナンス作業ですよ…。

あなたにとってのプログラミングにおける挑戦や躍進といったものはどんなものですか?

今の時点では、速さと能率性が全てですね。今は昔とは全然違いますから。LightWaveが最初に考案された20年前には、何十万、ましてや何百万単位のポリゴンモデルなんて誰も想像すらしていなかったはずです。なのに、様々なソフトウェア・パッケージが開発された今ではそういった膨大なモデルや、更に相互作用やアニメーションまでが要求されています。ですから、ソフトウェアももっと大量の形状やレンダリングを速やかに処理できるようにならなければならないんです。

「300」も、フランク・ミラーのダークなコミックを映画化したもの。こちらは制作過程の様子として公開されているモデル。 © NewTek

こちらは完成した作品より。© Warner Bros. Pictures

それでは映画の方のお話に移って、そちらのホームページでLightWaveを使ったプロジェクトのリストを拝見したら、「シン・シティ」や「パンズ・ラビリンス」などがありましたが…

今週公開の映画「300」や「シン・シティ」の特殊効果の大半はLightWaveを使って作られています。こういった大型のハリウッド映画でここまで使われているのはかなり珍しいですね。スパイダーマン、指輪物語、マトリックスなどでも部分的には使われているのですが。それでも、こういった映画ではMayaなどの高性能ソフトが使用されているのが一般的です。

特殊効果に限定して言えば、LightWaveを使って実際にどんなことができるのでしょうか?

3D効果全般、スクリーン内での炎はもちろん映像です。でも緑のスクリーンの向こう側に作られた建物や弾丸などの3D背景は全てLightWaveを使って作られているんですよ。人気の理由には、まず予算の都合があります。それから、最近特撮会社のリズム・アンド・ヒューズに行った時にそこの方が言っていたのですが、LightWaveの作業は誰にでも扱える内容なので、ユーザーが万能型になる傾向があるそうです。そうなると、制作の全ての過程において全員が少しずつ参加できるので、小さなスタジオの締め切りにはより効率的になります。大抵はそう長い作業期間を貰っているわけではないでしょうし、モデラー担当者がアニメーション過程が終わるのを待っていたりしますからね。

映画「300」より。こちらは、LightWaveで作られた古代の寺院。制作過程より。© NewTek

次のステップでは、寺院の周りが制作される。同じく、制作過程の様子。© NewTek

でも、3Dソフトは大抵専門的になりますよね…

Mayaは特に多層的なパッケージなので、使いこなすにはある程度のスクリプト知識が必要になってきます。その複雑さから、一つの分野を覚えてスタジオレベルで使えるようになるまでにはかなりの時間が必要とされます。

なるほど。ちなみに、デビッドさんの会社では何人がLightWaveの作業をしていらっしゃるのでしょうか?

プログラミングというくくりでは、技術的な面では9人です。半数はアメリカにいて、残りは日本にいる僕と、フィンランド、スウェーデン、ニュージーランド、オーストリアに一人ずついます。

映画「300」のワンシーンより。© Warner Bros. Pictures

では、プログラマーのお約束らしく、一日中家でモニターに向き合ってチャットで連絡を取るとか?

ええ、僕たちはスカイプやゲームのプレイヤー同士が連絡を取り合うために開発された「TeamSpeak」というソフトで連絡を取っています。

それは正にグローバルな仕事場ですね!そうなるとかなりの時差があると思うのですが、締め切りなどはどうなっているのでしょうか?

本社が時差に関係なく会議の時間を設定します。例えば、中央時間帯18時という感じに。もしそれが誰かにとって夜中の2時だったとしても、まあご愁傷様ということで…。

それでも、2ヶ月おきにテキサス州のサンアントニオにある本社に顔を出さなければいけないと伺いましたが…?

ええ、2~3ヶ月ごとに、チームの関係者全員で1週間ほどミーティングを行います。プログラマー、コーディネーター、マネージメント、書記などですね。

「300」のような作品では、緑や青のスクリーンを広範囲に渡って使用する。最初は俳優と…。細作過程より。© Warner Bros. Pictures

…LightWaveのようなプログラムを使って3D技術で色付けされた後、ついに完成。映画「300」のワンシーンより。© Warner Bros. Pictures

そこで全員が何をやったかを報告し合うのですか?

どちらかというと、商品のデザインや将来的にどうしたいかを話し合いますが、大半は技術系のディスカッションです。直接会った方がデザインについて話しやすいというのもありますが、皆の顔をまた見られるのは良いことです。

それなら全員1ヶ所で、テキサスの本社で仕事をすればいいのでは?

その方が効率的だろうとは思うのですが、うちの会社の「NewTek」は何故かこのやり方が良いみたいです。単に自分の国を離れたがらないプログラマーが多い中で、欲しい才能が世界中に散らばっていたということだと思いますけどね。それでもこのインターネット全盛期には今のやり方で上手く機能しているようですし、おかげで僕も住みたい国に住めます。自宅でモニタに向かってインターネットでコミュニケーションを取るだけなので、時として孤独な仕事ではありますけどね…。

それなら上野でこうやって直接会うよりも、スカイプか何かの方が連絡を取りやすそうですね。

LightWaveのデビッド・イケダさん、今日はプログラマーの世界を垣間見せてくださってありがとうございました!

16 コメント

  1. この映画を見に行きたくなりました。ありがとうございました。

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