
濱甼高虎(はまちょう・たかとら)は東京の東側にある浜町界隈に佇む工房で、その歴史はこの近辺が職人の町として知られていた江戸時代にまで遡る。店主の高橋さんはのれんやハッピなどの様々な伝統的な商品を作っているが、商品の中で最も有名で人気があるのは、江戸時代の意匠を使った袋の数々。高橋さんは、江戸時代の素晴らしさは「日常のあらゆるものを美しく見せられること」と語る。今日は、高橋さんがこの伝統を現代でどのように活かしているのかを拝見しに、東京の東側へと出かけてみた。
作:レベッカ・ミルナー
訳:山根夏実

濱甼高虎の店内

浜町にある高橋さんのお店の一部

いのししがモチーフになったのれん。もちろん今年はいのしし年。

お祭り用のハッピ。
江戸時代から現代まで
現在69歳の高橋さんがこの仕事を始めたのは15歳の時で、高橋さんの父が先祖代々伝えてきた家業を継いで今に至る。ご先祖の歴史は、残念ながら故郷のルーツを捨てて江戸の暮らしを選ぶことが主流だった上京の過程で分からなくなってしまっているそうだ。

ハッピ姿の職人・高橋さん。キマってます。
高橋さんのデザインは、「公園での桜の花見、三味線の鑑賞、俳句を詠むこと、そして冗談を言ってみたり遊ぶこと」などのご自身の生活あってのもの。高虎は、この類いの商いを営むお店の数少ない生き残りの一つ。必然的に高橋さんはその筋ではちょっとした有名人であり、先日4月6日には、NHKのお洒落な江戸風デザインを特集した番組でも彼の工房が紹介されていた。PingMagでは、これまでにいくつもの雑誌で紹介されてきた高橋さんのお仕事を、初めて英語圏の読者にもご紹介します!

高橋さんの作品は、日本の雑誌でも度々紹介される。

.…外国雑誌に紹介される日も近い。
伝統的なモチーフ

こちらのカバンは、高橋さんのお祖父さんの物だそう。なんと100年もの。
高橋さんの袋は、江戸時代の労働者が実際に持ち歩いたものに倣って作っており、老若男女誰でも使えるデザインになっている。着物の袂には大きくかさばるものは入らないことを考えれば、日本で袋を持ち歩く習慣が深く根付いているのも無理からぬことだろう…。
高橋さんの袋には、江戸時代に使われていたものとそっくり同じものもあればファスナー付きのトートバッグや携帯電話、デジカメ、ペットボトルなどを持ち歩くのに適した現代風の形と大きさのものもある。商品は伝統的でも、現代人のニーズをよく理解して作っているのだ。

時には都会的なスタイルも必要とされるので、高橋さんはジッパー付きのバッグもデザインした。手前のポケットは携帯用。
どのような材料を使って、誰が商品を作るのか
材料のほとんどは広島にある製造者からのもので、縫いもの、染め、デザインとプリントはこの店の2階と3階にある工房で行われている。6人の職人が製造の様々な局面に携わっており、高橋さんがデザインと製造の監督を受け持っている。今では、高橋さんの工房は客が特別な注文をした時にだけ使われているそうだ。江戸時代には、袋は非常に頑丈な麻を縫い目ができないように筒状に織ったものを使って作られており、この作り方だと米のような細かいものでも縫い目に詰まったり、そこからこぼれたりせずに持ち運べる。当時の帯(足袋も同様)もこの筒方式で作られていたそうだ。しかし、今日ではそういった筒状の生地を作る設備を持っている製造者は少なく、この方法でしかも麻を作り出すにはかなりのコストがかかってしまう。高橋さんは、今でもこの昔ながらの袋を少しは作ってはいるものの、16,800円の高めの価格から買い手は少ない。代わりに、わき縫いの木綿の袋は2,100円からある。

こちらはヘンプのカバン。

…こちらはコットン。
色と技法

手の込んだ裏地にも注目。
袋には柿渋の温かい茶と日本の伝統的な藍の二色があり、同じものは二つとない。表側のデザインが同じに見えても、裏地の模様がそれぞれ違うのだ。高橋さんによれば、江戸時代にはこれが普通だったのだとか。「江戸中でその袋を持っているのは自分だけだから、盗んでもすぐに分かってしまいます!」

和紙に穴を開ける作業…
これらのデザインは、型抜き染め(ステンシル)の型紙と染料を使って描かれている。型紙は厚手で丈夫な和紙を重ねたものに、細工用の刃物で模様を刻んで作られている。古風なナイフは、先端部分の刃が取り替え可能になっている現代のものと違って、先端から柄の端までの全体に刃が走っている。この穴あけ器を使って、小さな円をあけていく。

こちらは型抜き染めの型を抜くのに使われるなナイフ。

…そして、その過程を経て出来た波形の模様。

ハンカチのテクニック: こちらは420円。
ハンカチなどの他の商品には、異なる染めの技法で染められている。最も安価で手軽にできるのはプリント。デザインは終始一貫しており、布地の片面だけが染められる。もう一つの技法は型抜き染めだが、こちらは同じ柄でも布地の両面が染められる。そして、最も高価で手間もかかるのが手染め。この模様の場合は、布を蛇腹式に折りたたんで、染料に浸した紐を布に通して染められている。できあがりはやや不規則なものの、高橋さんの言うところの「味のある」仕上がりになっている。これが最も価値のある種類。

型抜き染めのものは525円。

手染めのハンカチは少しお高めの1680円。
型抜き染めの技法

こちらは魚の模様。
高橋さんの彩り豊かなハンカチ、暖簾、垂れ幕などの大半は、網に貼り付けられた型紙を使って染められている。布地には型越しに防染性のペーストを塗っておき、型を取り去った後に布の適切な場所に染料をかける。最後に防染剤を洗い落とせば、残されていた白もしくは布の元の色が再び出てくるようになっている。従って、通常のステンシルができあがりの構図の陰画であるのに対して、ここで使われる型抜き染めの型は陽画になっている。

こちらは別の魚。手が込んでいる。
細かい線を使わないシンプルな型であれば、一時間とかからずに作り、何年も使用することができる。その反面で、手の込んだ型は作るのに何日もかかる上に一年ともたない場合もある。この複雑な鯉の型は作るのに三日かかったとか!
意匠の経緯
高虎の意匠は見事なのは勿論のことだが、単なる綺麗な絵というだけではない。一つ一つが江戸時代の人間―または日本の歴史と文化に少し興味を持っている人であれば即座に理解できるであろう何かの象徴や言葉遊びになっており、その大半のものには粋なユーモアが込められている。高橋さんのお話によれば、歌舞伎は江戸っ子の暮らしの一部だったことから、モチーフの多くは歌舞伎からとられているのだそうだ。 更に、同じ読み方でもまったく異なる意味を持った単語や漢字の幾通りもの読みを使った言葉遊びも多い。一部の意匠には、これらが全て込められているものもある。

同じバックにプリントされた二つのモチーフ。片側は「とんぼ」。

もう片側には「丸」。「とんぼ」と「まる」の二つを併せると「とんぼとまる」。とんぼがとまると縁起が良いとされていたことから、この袋も福をもたらしてくれるかも!

こちらの二つの袋は、歌舞伎で虎を表す化粧。ただ、その反対側にはお互いに全く異なる意味を持つ絵が入れられている。

一つは虎の子の絵で、これは可愛い我が子を大切にする母虎に因んで「大切」を表している。もう一つは昔ながらの竹酒を連想させるもので、こちらはなんとお酒を飲みすぎると虎になる人を象徴している!

こちらはヒツジ。

「No Sumo King」
高橋さんのお店では、時にこういったデザインを十分に理解できるほど日本語に堪能ではないお客が訪れる。高橋さんがそういった外国からのお客さんのために作ったのが、こちらの「No Sumo King」。描かれているのは、横綱までは上り詰めることができなかった力士だが、それが読めない人にも十分に伝わるジョークだ。

十二支の垂れ幕
高橋さん、貴重な知識と経験のお話をありがとうございました!もっと詳しく知りたい方は、浜町の高虎まで足を伸ばしてみてください。きっと気さくにお話ししてくださるはず!
濱甼高虎は都営地下鉄新宿線浜町駅のA2出口から出て曲がり、緑の通路を浜町公園に向かって進み、公園の前の通りを右に折れて2ブロック進んだ先の右側にあります。
濱甼高虎
住所:東京都中央区日本橋浜町2-45-6
電話:03-3666-5562
営業時間:月~金 9:00 - 18:00
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Posted by: Daily Links » Zazie@Tokyo @ 5月8日2007年
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Posted by: 濱甼高虎 備忘録 行きたいお店 | [win-SI]技術関係ブログ | 技術関係のニュースなどをご紹介 @ 4月21日2009年