
日本に短期滞在するだけの人も、必ず「プロダクト・ポエトリー」に遭遇するはず。これは様々な商品に“外国語”で記された、まるで詩のような短い文章のこと。サンドイッチやビール、栄養ドリンク、お菓子、化粧品、文具、家電、Tシャツなど、あらゆる商品で目にすることができる。私たちが敬意を持って「プロダクト・ポエトリー」を取り上げるのは、この独特の存在感を主張する、日本独自のパッケージ・デザインの細部に光を当てるため。この記事では、1. 「プロダクト・ポエトリー」が与える洋風の印象について、2. それがどうやって製品に関連した不思議なおとぎの国を作っているのか、3. この奇妙な数行の文章の配置にどのようにして本当の美しさが宿るのかを見ていきたい。
作:ビアンカ・ボイテル
訳:山根夏実
プロダクト・ポエトリーは、おそらく日本在住の外国人にとって、最も興味深い題材の一つだろう。膨大な量の日本語と、それに対する理解力の欠如の中で、アルファベットで書かれたものは何であろうと即座に目に飛び込んでくる。その反面で、元々こういった言葉の大半は、まず真剣に読むことはないであろう人々を対象に書かれている。そこで浮かぶ疑問は……なぜ?


この記事では便宜的に「プロダクト・ポエトリー」と呼んでいるものの、ホームページ、旅行案内のパンフレット、インテリア・デザイン、レストランのメニューなど、これはそれこそ“どこでも”目にすることができるもの…。
私の想像では、デザインの過程はこんなものだろう。若手のグラフィック・デザイナーが、レイアウトに適当な(主に英語の)単語を並べる。デザインが仕上げの段階に入る前に、英語を母国語とする人がチェックしてあちこち訂正すれば、消費者に笑顔とおおむね「温かくふわふわとした感じ」を与える、製品についての美辞麗句が完成。この詩自体のタイポグラフィは、読みやすさよりも装飾性に重点を置いていて、フォントサイズが小さい場合はレイアウトのバランスを取るためだけに使われていることもある。



これらのビールに書かれた文章をじっくり読めば、どれを選んだにしろ、それが求めうる最高のものだと確信するかもしれない。しかし真ん中の商品を選んだ方は、それがビールではなく、酒税法対策として麦芽の含有率を減らした「発泡酒」だという事には気付かないかもしれない…。
こういった文章は客観的な製品案内でもなければ、外国人を助けるためのものでもなく、ジェームズ・スタンローが著書「ビューティフル・ヒューマン・ライフ」の中で使った言葉を借りれば、むしろ日本の消費者のためだけに作られた、外国語からインスピレーションを受けた日本語なのだそうだ。
日本人とこのプロダクト・ポエトリーについて話すと、これが単なる雰囲気作りのためのものだということがよく分かる(真剣に読んでいる人はまずいないので…)。この場合のアルファベットは、商品をより洋風に見せるための一種の飾りとして機能している。よって、おにぎりのパッケージに英語の詩が入れられるようなことはない。まあ、トマトとバジル味のイタリア風の新商品おにぎりでもなければ…。
そこで行き当たる興味深い疑問は、誰も真面目に読んでいない美辞麗句に、なぜここまでの労力を割くのか?
時にスペリングミスの一つや二つはあるものの、ほとんどの「詩」はよく考え抜かれていて、単なるでたらめではない。装飾目的であれば、それらしい文章で十分なのに、どれも商品が使用される状況と気分にも関連していて、商品に対する消費者の期待や姿勢を表しているようだ。

プロダクト・ポエトリーは、言葉によるイラストレーションとも言えるもので、俳句のようなほんの一握りの単語で、受け取り手の頭の中に独自の世界を展開させてしまうことを考えれば自然な流れなのかもしれない。
よくあるTシャツに書かれたメッセージとは対照的に、プロダクト・ポエトリーは着用している人の姿勢を対外的に表すことよりも、消費者の心にもっと親密にメッセージを囁きかけることで感情を刺激することに重点を置いている。
こういった装飾性の強い文章が平凡な商品と関連しているという事実だけで、プロダクト・ポエトリーは一考に値するだろう。これらの「詩」の多くは、宣伝用のキャッチコピーの延長線上にあるようで、商品の信条を説明してポジティブな感情を「誘い」、消費者の関心を集めるもの。これは、消費者の厳しい要望に常に応えるための惜しみない努力を強調する日本企業のルーチンに、非常によく当てはまっている。
思いがけない手段でお世辞や約束を表示することによって、プロダクト・ポエトリーは商品と喜びに関する驚くほど新鮮な視点を作り出す。


一方ですぐに捨ててしまうパッケージ以外にも、もっと長期間に亘って手元に残り続ける類いの「プロダクト・ポエトリー」もある。魔法瓶、照明のスイッチ、トイレ用品、マグ、タオルなどの日用品の多くに「詩」が書かれている。

それでも、「プロダクト・ポエトリー」を目の当たりにする絶好の機会は、間違いなく文房具だろうと思われる。
プロダクト・ポエトリーでは、最も高い理解度を持つ英語が一般的に使われているものの、デルフォニックスやハイタイドのようなメーカーは、ドイツ語、フランス語、イタリア語など、様々な言語のタイポグラフィも使用している。
読む側は、内容までは理解しないにしても、それぞれの言語特有の文字(ドイツ語の「ü」「ö」「ä」のようなウムラウトやフランス語の「é」のアクセント、北欧言語の「ø」など)を見分けて、国際的な空気やそういった国々の魅力的な雰囲気に触発されている。

文房具(ファイル類が特に多いように思われる)では頻繁に見られるドイツ語の使用は、同時にこの国の人々の抱いているイメージ-こういった商品を使うことによって、作業がより「きちんと整理され」「効率的」になるかもしれない-を表しているように思われる。


システム手帳に書かれた、時間の節約や効率的な使い方についての文章。

Bleistiftfall-「鉛筆の自然落下」という意味の造語。ただの筆箱なのにとっても詩的。

「プロダクト・ポエトリー」は、その商業的な目的との密接な繋がりから、空約束で購入意欲を刺激すると責められることもある。しかし、「プロダクト・ポエトリー」は文学と同様にフィクションと見なすこともできるもので、言葉で遊びながら新しい経験を模索できる不思議な場として、純粋な真実のみであってもいけないのだろう。それに加えて、幾通りもの解釈の余地があるのも事実だ。

時には皮肉との境界線が曖昧で、制作者がそのメッセージを真面目に語っているのか、それとも消費者主義の不条理さを証明しようとしているのか、判断に迷うものもある。そういった場合には、「プロダクト・ポエトリー」はシステムの中での破壊、誇張された情念の中の、外国語というクッションによってソフトに隠された批判となる…。

未だに理解できずに首を傾げる方も多いだろうが、日本で大人気のTシャツブランド、グラニフの例を一つ挙げてみよう。非常に力強く大胆なグラフィックに、時にはタイポグラフィも絡めるこのブランドは、とてもお手頃な価格のTシャツを大量に販売している。そしてそこに記されている文章の多くはドイツ語のようだ。興味深いことに、東京のインターナショナル・コミュニティを見回すと、多くの外国人がグラニフのTシャツを愛用しているように思われる。さて、その理由は何なのだろう?
私の考えた説は以下のとおり:
プロダクト・ポエトリーは、元々が日本人消費者を対象にグラフィック面でのバランスを取って空白を埋め、製品の質を伸ばしながら消費者に期待感を抱かせるものだったのが、今ではその域を超えてしまっている。
グラニフの東京のオフィスのスタッフにはドイツ人が一名含まれているのに、なぜかこちらのTシャツには奇妙なドイツ語が多いように思われる。そしてその他のおかしな英文も。私自身が感じたところでは、こういった少し風変わりなプロダクト・ポエトリーの書き方にこそ、その独特の魅力があるのではないだろうか。完璧ではないことが、日本人と外国人に等しく夢を与え、そこにある言葉の断片から、自分だけの物語を創る楽しみを与えてくれるものなのだろう。一方ではちょっとした情報を含む装飾的な飾りであり、もう一方では「外国語を理解する人」にとっての不完全な楽園プロダクト・ポエトリーとはそういうものなのかもしれない。

「プロダクト・ポエトリー」は日本のあらゆる場所で目にすることができるので、皆さんもお気に入りを探して楽しんでみてください!
39 コメント
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プロダクト・ポエトリーについての紹介と考察、とても楽しく読ませて頂きました。
こう見ると、日本のあらゆるプロダクト…というより日本人を取り巻く環境には本当に多くの言語が飛び交っているのだということをとても興味深く感じました。
日本人は漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットと言葉のやり取りに関しては実に多くのツールを持っていると思います(インドとかもっとすごい国もありますが…)。
タイポグラフィやエディトリアルデザインだとオール欧文のデザインでは生まれない日本独特のタイポとエディのデザインが存在する所以ですよね。こういった背景があるからこそ、プロダクト・ポエトリーの存在があるのではないでしょうか。プロダクト・ポエトリーはひとつのジャンルとして非常におもしろい存在ですね!
Posted by: HARUSAMI @ 3月23日2007年
以前ドイツに留学して日本に帰国したとき、日本のデザインが主に文字・文章で構成されていることに気付きました。ヨーロッパでは文字よりも写真やグラフィックによってそのコンセプトを連想させるものが多いですが、日本のデザインはコンセプトを直接(または間接的に)言葉で表記しているものが多いと感じました。それでプロダクトポエトリーが重要視されるのかもしれませんね。
Posted by: gldi @ 3月24日2007年
非常に興味深い内容でした。
ものすごく参考になりました。
Posted by: den @ 3月26日2007年
以前からずっと興味を持っていた内容なので、非常に楽しく読ませていただきました。
根っこには日本人の外国語コンプレックスも関連している気もします。かつて舶来品がもてはやされた時代からの…。
読まないけれど、雰囲気を演出するのに必要な外国語…。
色々研究すると面白そうですよね。
プロダクト・ポエトリーとは素敵なネーミングですよね!
Posted by: 703 @ 3月26日2007年
中国や韓国で日本語を使うとその商品が格好良く見えると言う感覚と似ているのでは無いでしょうか? 僕たち日本人の西洋文化に対しての憧れが上手くきれいに表現されていると思います。でも個人的には日本語でもっと色々表現されて行って欲しいと思います
Posted by: moto @ 3月30日2007年
今でも覚えている。
”男は女から生まれた” 大きな白黒写真 裸のエドィンの広告。
”少年の目には、線路の彼方にマンハッタンが見えた。” キューピー マヨネーズの広告。もう、15年位前の日本語のプロダクト ポエトリー。覚えている方いらっしゃいますか?
Posted by: nobuko @ 6月28日2007年
とても面白く読ませていただきました〜。デザインのバランスをとるための単なる装飾。。。確かに(笑)。安易と言えば安易な動機で使ったりしますが、結構まじめに意味やスペルの検証はします。それが当たり前だと思っていたけれど、海外で目にする装飾のための日本語は結構堂々と間違えてますよね〜。飾りなんだから、あまり気にしないというおおらかなスタンスなんでしょうね。日本の場合、間違っていたらハズカシい、という「恥」の文化にも関係するのかもしれないし、今時は結構消費者からクレームとして、メーカーサイドに突っ込みが入ったりするので、トラブルにならないように制作側もある程度気を遣うという側面もあるでしょうね。ポエトリーなんて素敵な名前で語られると、何だか嬉しいですね〜
Posted by: majalis_k @ 10月4日2008年
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