アトリエ・ワン:構造的実用主義

2007年3月5日 カテゴリー: 国内, 建築

アトリエ・ワン:構造的実用主義

アトリエ・ワンによるホワイトリムジン屋台:路上に展開された昔ながらの移動式飲食店。大型の家具のような移動式の構造によって、町中に独自の「マイクロ・パブリック・スペース」(極小公共空間)を作る試み。

塚本由晴と貝島桃代が15年前に設立した建築事務所アトリエ・ワンは、都市の極小のスペースに、ペットのように小さくユーモラスな建物「ペット的建築」の概念を打ち出しただけでなく、遊び心を残しながら東京の狭い空間を極限まで活用する建築物を紹介している。また二人は、複数の用途に使われる複合型空間の詳細な分析などに見られる鋭い観察力で多数のコンセプトを提示する傍ら、様々な国際的研究室で教鞭をとり、上海の街の生活にヒントを得た自転車と家具の融合「Furnicycle」などの愉快なアプローチで高い知名度を得ている。今日のPingMagでは、アトリエ・ワンの「いきいきとした空間の実践-グローカル・デタッチド・ハウスとマイクロ・パブリック・スペース」展の開催に合わせて、四谷にある塚本由晴氏の住居兼仕事場で、そのテーマについてお話を伺った。

作:ベレーナ
訳:山根夏実
 


アトリエ・ワンの貝島桃代さんと塚本由晴さん。(写真:アトリエ・ワン)

塚本さん、この展示会のテーマである「いきいきとした空間の実践」について教えてください。

「いきいきとした空間の実践」とは、ヘンリ・レベーブレ著書の「ザ・プロダクション・オブ・スペース」で述べられた概念です。彼は社会における空間作りに関して、昔から、利用者の立場からくる「表現の空間」と「空間の表現」の対立があると述べています。

「表現の空間」というのは、誰かによって計画されたり、デザインされた空間のことです。それに対して「空間の表現」というのは、人が住んでいる空間を指し、その本質はそこに居住している人に依存しています。レベーブレの言うところによれば、20世紀における建築の全体計画の歴史はこの対立が基盤になっていて、それは永遠に解決されるものではないのだそうです。そこで彼は、第3の視点「空間の実践」による空間作りの見方を提案しています。彼にとっては、この3つの視点の全てが空間作りに必要なものなのです。

「空間の節約」の話に進む前に、ここでもう少しこの視点について説明しておこう。レベーブレの作品は、都市空間の配分の可能性に関係しており、空間自体への異なるアプローチを生み出そうとしている。Levèbvreは「社会」と、「制作」という過程を関連させて空間を見ており、空間は社会によって定義付けられるからこそ、その制作過程に関わった人々の産物であるとしている。

アトリエ・ワンの「複合的空間」の研究。このスーパーマーケットは、屋上に自動車学校があり、複数の機能を持っている。(写真:アトリエ・ワン)

スーパーマーケットや自動車学校など、様々な用途を示す基本構想。

では、建築上の「3つの視点」の話に戻ってみよう。最初の視点は全体構造で、特定の意味を空間に強いることによって、何の為の家なのかという一種の定義として機能するもの。2つ目の視点は、人々が実際にどのようにその空間を使うか、そこで何を行うか。それで、その3つ目は何でしたっけ?

3つ目の空間の実践は、他の2つを観察して、その両方への反応を一種のフィードバックとすることです。「表現の空間」は、建築家がその作品を利用者、つまり新しい居住者に引き渡した時に終わりを告げます。

もっと実際的な面について聞かせてください。塚本さんは、Levèbvreの理論を自身の設計デザインにどのように当てはめていらっしゃるのでしょうか?

私たちは、依頼人のこれまでの生活、引越し前の経験や思い出などを、新しい建物の将来的な計画に組み込みます。ですので、職業・趣味・住居がどのように組み合わされて現在の依頼人の生活スタイルや人格が形成されたのかを、できるだけ事前に予測しようと試みます。私たちがクライアントと何回も話し合って、お宅を訪問させていただくのはそのためです。


土地がほとんどない空間での家の建て方。東京青山の不動産会社の設計草案…

…と完成作品!(写真:アトリエ・ワン)

クライアントから依頼を受ける時は、どのような家に住みたいかという希望が初めからあるかと思うのですが…。

その場合は、想定シナリオを作ろうとします。例えば、東京の山側にある秩父で、「詩の朗読ができる喫茶店」を造りたいという男性からの依頼を受けました。彼は副業の詩が原因で仕事をクビになったばかりで、出身地に戻って父親の書店を継ごうと思ったのだそうです。この彼の場合だと、想定は非常に分かりやすいですね。彼は詩の朗読喫茶の構想を持っていて、来月結婚するそうです。そうなると、私たちの役目はこの問題を空間的なものとして解釈して、特定の予算内に収めることです。

頭の中ではもう構想が出来ていらっしゃるのでしょうか?

彼のお宅に伺っていないので、まだ構想は出来ていません。基本的に、現在は会話しただけの段階です。彼のお宅と言えば、実家の古い書店は角地にあるので、通りに面した窓のある外壁が2面あるそうです。あと、その角には電信柱と観光案内用の、小さくて変わった外見の記念碑もあるらしいんです。これは角面のデザインには難しい条件なので、1つの建物に書店と喫茶店の2つの入口を持たせたらどうかと提案しました。つまり、外から見ると2種類の建物があるように見えて、中では繋がっていることになります。

「上海で、家具と自転車という2つの物体と、人々のライフスタイルの間に、非常に興味深い糸口を見つけたんです。このライフスタイルは、社会主義体制下で近代化された伝統的な中国の表れであると同時に、「社会主義的資本主義」による表れでもあります。」その後、アトリエ・ワンは自転車と家具が融合された「Furnicycle」を上海市民に改めて紹介し、その結果を見守った…。(写真:アトリエ・ワンより)

他にも、依頼人の問題の多くを家庭内で解決したいというケースがありました。依頼人夫妻が2人とも物書きで、子供は3人。両親に家事をしている余裕がないので、子供が自分の面倒を自分で見られるようになってほしいという要望でした。そこで、特別な空間配置によって、子供をスムーズに家事に参加させられるのではないかと考えました。要するに、家事のプロセスに遊びの要素があれば、子供たちも料理、掃除、洗濯や洋服を畳んで仕舞うといった作業を楽しめるだろうということです。また、私たちは依頼人の本などの持ち物を使って、特有の雰囲気を作ることから始めました。この場合の空間配分は簡単です。例えば、お風呂に入るのに服を脱いだら、その服を洗濯機に入れて、あとでベランダで乾かして、タンスに仕舞う。それから、ご主人は自宅勤務なので、家の玄関は書店か図書館、または事務所のように、一般の人に公開することもできるようにと考えました。

個人のお宅を公開ですか?

これは大事なことですよ!近代化の過程で住居と仕事場が区別されるようになって以来、日本の住宅は閉鎖的になり、家族にしか開放されなくなりました。今日では、新興住宅街を見て回っても、各家庭に庭やベランダはあるものの、外に生活感が全くないせいで、居住区の活気は非常に限られています。余裕が足りていないのですよね。

余剰土地の実用的な利用法。四谷の住宅に挟まれたアトリエ・ワンの住居兼仕事場。塚本:「今では、この建物にはいつも必ず誰かがいるので、24時間建物になってしまいました。」(写真:アトリエ・ワン)

面白いですね!それでは、展示会の別の点について聞かせてください。既存の公共空間の中に新しい空間を作る「マイクロ・パブリック・スペース」(極小公共空間)というコンセプトだそうですが、東京では特に、全ての土地が既に利用し尽くされているのでは…。

そうであるのと同時に、人々もその空間を活用する権利がないと思い込んでしまっています。例えば、外で物を食べないのと同じことですね。「公共の場だから」という理由で、子供が外で遊ぶのを見ることも少なくなりました。この場合の「公共」とは、「行政的」な意味での公共を指します。


アトリエ・ワンの仕事場に置かれていた建築模型。

上の階は、塚本さんと貝島さんの住居になっている。

外でよく見かける、喫煙所のような公共の灰皿についてはどう思われますか?

これは、個人が空間を維持するためのマイクロ・パブリック・スペースです。とても良い日本の感覚だと思います。コミュニティの目があるから、人々は自宅の前を掃除する。この習慣は、羞恥心からきているものです。他人が必ずしも受け入れない訳ではないだろうけれど、自分自身満足ではない、いわゆる「みっともない」という感覚ですね。

シンプルで洗練されたコンセプト。事務所は、上に行くほどプライバシーの度合いが高まる。地下と1階、2階が仕事場で、その上にキッチン、一番上が塚本さんと貝島さんの自室になっている。(写真:アトリエ・ワン)

人は、不快に感じたりイライラするから公共の空間を気にかけるということでしょうか?

これは、妄想上の世間が自分を観察することによって成り立っています。マイクロ・パブリック・スペースは、規模としては文字通り極小ですが、同時に世間という感覚が一人ひとりの中に存在しています。「マイクロ・パブリック・スペース」は、公共空間の変形性、可変性、多様性や相違に富んだ様を喚起する役目を果たしています。

沢山の意図が込められているのですね!このまま何時間でもアトリエ・ワンのコンセプトについてお話ししたいところですが…。塚本由晴さん、今日はありがとうございました!展示会でまた後ほどお会いしましょう!

お知らせ:
アトリエ・ワン「いきいきとした空間の実践-グローカル・デタッチド・ハウスとマイクロ・パブリック・スペース」展
会期:3月8日〜6月15日
住所:ギャラリー・間(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)
開館:火曜〜土曜
開館時間:11:00〜18:00(金曜のみ19:00まで)

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