灰から芸術へ:骨壺から考える死の美学

2007年2月21日 カテゴリー: イベント/展示会, インターナショナル, 民芸・工芸

灰から芸術へ:骨壺から考える死の美学

なんとこれも骨壷!最近では、遺灰をこのような壷に残しておくことが徐々に人気になってきている。トマス・ケリー作「Heechee」、2006年にフィラデルフィアで行われた「Ashes to Art」展より。

モリーン・ロマズネイが2001年にカリフォルニアで始めた少し変わった事業は、「死の美学」。彼女は、繰り返し行われているアッシーズ・トゥ・アート(Ashes To Art)展と、自身のギャラリー「フューネリア」を通じて、多彩なアーティストによる様々な骨壷を紹介している。こういったユニークなデザインは、近しい人の死後もその人の個性を反映するものであるべきだというのが彼女の主張。本日は美的な骨壷や葬儀がなぜ新しい流行になりつつあるのか、モリーンさん自身にお話しして頂いた。

作:ベレーナ
訳:山根夏実


奇抜すぎることはどこにもない。故人の大胆なユーモアが親族の目に見える形で残される:金属製のロケット型骨壷。クリストファー・M. リッツォ作「無題」#4、フューネリア。

棚に飾れる美術品というだけでなく、故人の遺灰も納めてくれる:アリスン・カウンセルの「ベッド・オブ・ローゼス」、アッシーズ・トゥ・アート展より。

昔から西洋では、死者は村から遠く離れた場所に葬られてきましたが、近年では、近親者の遺灰が居間の棚に置かれたりもしていますよね。最近では、その為の骨壷が美的にデザインされる時代になっているそうですが、私たちの死に対する概念は変わりつつあるのでしょうか?

もちろんそうでしょう。他の文化には毎年死者を弔う習慣がありますが、少なくともアメリカにおいては、これは比較的新しい風潮です。西洋人は物的志向が強く、同時に個人の嗜好が反映される物を好む傾向があるので、自身が生を終えたあとも自分を代弁してくれる美術品というものは、多くの人々にとって非常に魅力的に映ると思います。最近のデザイン性重視の再来によってこういった物にも影響が及ぶのは、とても自然なことではないでしょうか。

これらの芸術的な器は、死という概念に存在するある種の怖れを取り除き、人々の死に対する考え方を少なからず変えるものだと思います。とは言え、もう死を怖れないという考えは、大望であって保証ではありません。でも少なくとも、私たちが使うものにある種の特別さを取り入れて、人生を讃える後押しをしてくれるものだと思います。

それでも、火葬はまだそこまで一般的になっているわけではないと…。

未だに珍しいとは言え、火葬は新しい風潮となりつつあります。火葬は、少なくとも北アメリカ社会においては、20年前から増加の兆しが見られるようになり、ここ6年間はかなりのペースで急増していっています。1980年にはアメリカの人口の7%しか火葬を選ばなかったものが、現在の数字では31%にまで伸びています。

遺灰に色を添えるサニー・ヴァン・ザイストの手吹きガラス作品「アクア」。アッシーズ・トゥ・アート展より。

火葬が人気になった理由はどこにあると思われますか?

私たちの社会の移動性がとても高くなったからだと思います。子供が出身地を離れたり、親の方も退職後には温暖な気候の土地などに移住したりすることが今では珍しくはありません。ですから、現代社会では必ずしも先祖が埋葬されている土地の近くに住んでいるとは限らないのです。また今のアメリカでの一般的な埋葬費用はおよそ7500-8000ドル(85万円前後)で、金銭的な理由も一因ではあります。

独楽だと思ったら大間違い!ヤン・ヴィレム・ヴァン・ザイストとアンゲラ・ファン・ダ・ブークト作:小さな手吹きガラス製の「ヴェルトアイ」。アッシーズ・トゥ・アート展より。

ジェシカ・ファン・ネーステ作「アレキサンドラ」。エナメル、純銀、銀、アルゲンティウム、18Kゴールド製…。

ガラス・キャビネットで形見の貴金属と一緒に…。「アレキサンドラ」アッシーズ・トゥ・アート展より。

それは、骨壷が社会の移動性を映し出しているということでしょうか?

まさにその通りです。あと毎週教会に通う人も少なくなってきています。そういった人々の多くが、未だに大地との繋がりを持つ儀式のようなものを重要視するベビーブーム世代の人々なのですが、環境への配慮を深める人々も同じくらい多く含まれています。

なんて美しい!サリー・ケッチャムの「コンチ」、青銅製、フューネリアより。

サリー・ケッチャムの「ノーチラス」、青銅製、フューネリアより。

ということは、環境配慮のためにも生体分解性が重要になってきているということでしょうか…?例えば、「自然を愛する個人主義者向け」のツリー・ヴェッセルのような。

ええ、殆どの木製の骨壷は完全に生体分解されるので、そういった人々には非常に魅力的だと思います。また、アメリカでもイギリスであったような自然葬志向が生まれつつあります。まだ一般的とまでは言えませんが広まりつつある傾向で、事実手の込んだ棺ではなくシンプルな形で埋葬される方が増えています。その方が墓地の型にはまった環境よりもずっと自然な感じがしますから。

そもそも、最初にアッシーズ・トゥ・アート骨壺展とギャラリー「フューネリア」を始められたきっかけは?

1997年に火葬の割合が激増しているという新聞記事を読んで、人々が遺灰をどうしているのか不思議に思いました。どんな物に遺灰を入れることができるのかをインターネットで探してみたのですが、その時見つけたものは普通の金属の箱など、全然故人の個性を反映しないものばかりで、本当にがっかりしてしまって。何となく、故人を偲ぶ機会が奪われているような気がしたんです。それと同時に、アーティストが私たちの文化を記録する役目を取り戻す、大きな機会であるとも感じました。


完全に生体分解可能:ダグ・ハスラムの「シネレリー・ヴェッセル」、ブラックウォルナットに金箔、フューネリアより。

中はこんな感じ…同じく生体分解できるようになっている。

古代エジプトのサルコファガスを彷彿とさせるケリー・コーザートの「アリエス」、フューネリアより。

そして、エジプトのトート神の守護動物:「アイビス」、ケリー・コーザート作、フューネリアより。

それに対して、あなたはどういったアプローチをされたのでしょうか?

死という概念に美的な方法で向き合うことによって、人々が死や日常に伴う美しさ、人生や人間関係における美しさにも気付けるようになるのではないかと考えました。もしかしたら、自分自身の怖れを拭い去るために冷静に考えたかったのかもしれません。その時は美術展を企画する以外にどうすればいいのか、見当もつきませんでした。それでも最初の「アッシーズ・トゥ・アート」展では色々と考えるところも多く、即座に2点購入してしまったんです!

最初の「アッシーズ・トゥ・アート」展では、お客さんのリアクションはどんな感じだったのでしょうか。

訪れる方々は火葬用の骨壷についてだということは知っていましたが、実際に見るのは初めてなので、全く予備知識のない状態で見てみてかなりの驚きと喜びを覚えられたようです。何人かの方は、遺灰を文字通り厚紙の箱に入れて手元に置いたまま、これと思う器に出会えないでいたのだそうです。


「シガー・アフィシオナード・コレクション」:名前入りのオーダーメイド葉巻ケース(兼骨壷)、マイケル・クリード作、フューネリアより。

二つに分けられるようになっていて、ハンドメイドのシガーボックスにぴったり!

ですが、「シガー・アフィシオナード」のような個性的な骨壷(上記参照)を気に入る方というのは、実際にはどのような方なのでしょうか?

もちろんユーモアのセンスをお持ちの方でしょうね。この「シガー・アフィシオナード」用のシガーボックスは、葉巻ケースとしても使えるものです。最初の展示会で購入されたお客さんが実際に1人いらっしゃいましたね。実はその方とは個人的な面識があるのですが、彼の子供さんたちは、父親の遺灰をあの巨大なシガーに入れてどこかに飾っておくという考えに、むしろ呆れていらっしゃるようです。どう考えても子供さんたちの趣味には合っていないようですが、それでもあの骨壷は父親の一風変わっていながらも憎めないユーモアを反映したものなのです。お父様がどんな方だったのかを忘れることは、まずありえないでしょうね…。


クリストファー・モーンチ作「マニ車」、フューネリアより。

サリ・ケチャム作、「ワイルド・フラワー」

それでは、クリストファー・モーンチさんの「マニ車」の骨壷(上記参照)なんかはどうですか?これは、チベットのマニ車の風習とは何らかの関係があるのでしょうか。

あれは儀式的な器としても使えるので、本当に人気の高い骨壷ですね。願いごとを書いた紙や故人への手紙を中に入れることもできますし、お父様の時計やご両親の結婚指輪なんかも…。子供として、そういった思い出の品を入れるものが欲しいこともあるでしょう。私自身も、父のお墓の薔薇をドライフラワーにして持っています。


ローラ・ブルツェーザ作「アジアティック・フラワー」、フューネリアより、パート1。

パート2:同じくローラ・ブルツェーザの作品、フューネリアより。

どう考えても万人向けとは言いがたいけれど、飼い犬のダックスフンドを溺愛していた私の祖父ならこの美術品を気に入ったかも?:ジョイ・クルーガー・ベックナー作「オーバー・ザ・レインボウ」、ブロンズ製。

私達は「死」について目をそらしてしまいがちですが、限りある人生や日常の中で、どうやって死と向き合っていくかといった捉え方は初めてでした。モーリンさん、フューネリア・ギャラリーを通じて個性的且つ美しい作品で新しい考え方を提示してくださって、本当にありがとうございました!

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