
香港出身のチャン・カーヒンは、カナダでファイン・アートと映像を学び、2年前に北京にあるMTVチャイナのクリエイティブ・ディレクターに就任した。経済やアートなど様々な分野において、世界中から今最も注目を集める「中国」という国の中で、国際的なバックグラウンドを持つ彼はMTVを通して中国の映像シーンをどのように見ているのだろうか。PingMagは、先月静岡で行われたSCVFの為に来日したチャン・カーヒン氏に、MTVチャイナや中国の映像シーンの現在、そして未来について話を伺った。
まずは自己紹介をお願いできますか?
MTVチャイナのクリエイティブ・ディレクターのチャン・カーヒンです。元々、カナダでファイン・アートを学んだのですが、兄と一緒にLAに住んでいた頃、コンピューター・アニメーションの面白さに気づきました。92年頃のことです。それから再びカナダに戻り、筆をマウスに持ち替えて、コンピューター・アニメーションのコースを1年間受けました。そのコースを終えてから、今度は香港に戻ったのです。その後、香港のテレビ局、チャンネルVなどの様々な企業を渡り歩いて、2005年にMTVチャイナに就職しました。
MTVでは、具体的にどのようなことを担当されているのでしょうか?
MTVでは、オンエア・プロモ部門で、MTVで流される番組とミュージック・ビデオ以外の全ての映像を制作しています。30%は、MTVアイデント、プロモーション用映像などで、残りはコンサートやコンペティションのようなイベントのオープニング映像などですね。

世界中のMTVが行っているように、MTVチャイナでもステーションIDのコンペティション(Midコンテスト)を通して、新しい才能の発掘をされていると伺いましたが?
昨年、中国で初めてのMidコンテストを行いましたが、応募されてきた作品の総数は6本でした(笑)。コンテストのプロモート予算が全くなく、MTVのウェブサイトと口コミでしか宣伝できなかったのです。しかも6作品中の5作品は私の友人達からのもので、残りの一作品だけが純粋な応募者の作品でした。選ばれた作品に対しては特に副賞もなく、MTVで放映されるだけだったので、仕方ない結果だったと思っています。そんな中でのたった一人の本物の応募者は、かなり情熱を持ってくれていたようです。彼はテレビ局に勤めているプロだったんですよ。


その6作品をSCVFのトークショーで全て拝見しましたが、クオリティの高さに非常に驚きました。最近、中国のアートがメディアに取り上げられる機会が多くなりましたが、長編以外の映像作品については殆ど情報がないように思えます。国内の現状はどのようなもなのでしょうか?
映像関係の学校数は多く、大きな街であればどこにでもありますし、映像に興味を持っている人は多いですね。中国の人は長編映画が大好きですし、映画を見る目が肥えている人が沢山いるように感じます。
ショートフィルムなどの類いはどうでしょうか?
ショートフィルムなどは、まだまだ浸透していませんね。2002年にワンドットゼロが一度開催されたことがありますが、2日間だけだったと記憶しています。
中国の映像クリエイターのスタイルや技術面での特徴などはありますか?
技術面では、水彩画で描いたような作品を好む人が多いという点以外には特に思いつきませんね。スタイルは、長編映画なら中国のルーツを辿るような保守的なテーマが多いですが、ここ数年は文化革命をバックグラウンドとする映画が増えたように思います。

では、MTVは中国国内ではどのような位置にあるのでしょうか?
MTVは元々外国のチャンネルですので、放送地域は中国政府によってコントロールされています。地上波として見られるのは広東地区だけで、その他は全て衛星放送として受信でき、北京テレビジョンやCCTVの中に毎日30分ほどの番組枠を持っています。広東地区は外国チャンネルに対して非常にオープンですが、中国本土はそうではありません。
他国ほどは知られていないと理解してよろしいですか?
中国全体の広さに比べると広東地域は非常に小さいため、中国の総人口に対するMTV視聴者の割合は極めて低いのが現状です。当然、MTVの認知度は低く、大半の人はMTVが何であるかを知りません。広東地区以外の人は、MTVという言葉の意味がミュージック・ビデオだと思っているんですよ(笑)。
本当ですか?では、広東地域以外でミュージック・ビデオを制作している人は、「僕はMTVを作っているんだ」と表現する場合もあるのでしょうか?
そうです。本当に驚く程多くの人が勘違いしています。先日、某制作会社と打ち合わせをしたら、「MTVさんは業務内容を変えたんですね。」と言われました。聞き返したら、「MTVはミュージック・ビデオを作る会社でしょう?」と言われたんですよ!プロですら、それぐらい混乱しているんです。ビックリでしょう(笑)。しかし、この勘違いがMTVにとって完全に不利益かというとそうではありません。なぜなら、ミュージック・ビデオの話をする時には、誰もが必ずMTVという言葉を口にしますからね。良い宣伝ですよ。

ところで、少しデリケートな質問になってしまうのですが、今回カーヒンさんにお会いするにあたって、中国の音楽やクリエイティブ・シーンについて少しリサーチを行いました。そこで、昨年創刊されたローリング・ストーン誌の中国語版が、創刊と同時に停刊処分になったというニュースを知りました。なぜこのようなことが起こったと思われますか?
停刊処分になった本当の理由は私も知らないのですが、外国から輸入される全ての物は中国政府の検閲を受けなければなりません。彼らは隅から隅までチェックし、社会のバランスに影響するような部分がないかを確認します。ですから停刊処分になったということは、その号の中に中国政府や、現在の中国社会、または中国という国の価値に対する挑戦的な要素が含まれていたのではないかと思います。
インターネットではあらゆる物が閲覧可能なのに、そのような検閲をすることに意味はあるのでしょうか?
インターネットも中国国内では100%閲覧可能ではありません。中国政府は、問題のあるサイトをブロックすることが出来ます。日によっては、Yahooや香港のラジオ局のサイトすらアクセスできないこともありますよ。でも、中国政府にはそれをする権利があります。
検閲には様々な規則があります。これは一例ですが、以前私は普通のテレビ局で放映するためのNokiaのテレビCMを2本作りました。しかし、1本は登場人物が警察官の制服を着ているという理由で、放映禁止処分になりました。しかも、それは中国警察の制服ではかったのにです。彼らに言わせれば、どこの国の警察でも関係なく、警察官をネタにすることは許されないのです。ちなみに、もう1本は、登場人物が女装をした男性であるがために、やはり放映禁止処分になりました。若者に悪い影響を与えるからだそうです。

チャン・カーヒン氏が監督したNokiaの作品。そんなに害があるとは思えないけれど…?
それは随分厳しいですね…。
でも、このようなことは特にテレビに対して多く起こることなのです。中国ではテレビが最大のメディアに値しますから。このような内情は、他の国の人が聞いたら少しショックかもしれないですね。
ちなみに、放送禁止処分になったCMは、最終的にMTV内では放送することが出来たんですよ。中国には沢山の決まり事がありますが、そこには必ず何かしらの打開策もあるんです。
その辺の状況は、今後変わっていくと思われますか?
思えません。なぜなら、それが中国という巨大な国のバランスをとるための方法だからです。こうしないと中国はおかしくなってしまうでしょう。これは、ゲームをプレイするのと同じなんです。なんのルールもないゲームをしても面白くないでしょう?ルールがあるからこそ見えてくる楽しさもあるんですよ。
非常にポジティブな考え方ですね。素晴らしいと思います。では、そのような状況の中で、中国の映像シーンは今後どのように成長していくと思われますか?
ものすごい速さで変わっていくと思いますし、その変化はもう始まっていると感じています。80年代後半に生まれた若者達は、伝統に対する執着心がなく、新しいものをものすごい速さでスポンジのように吸収していきます。80年代に起こった文化革命の後、中国は非常にオープンになりましたよね。生活の水準も上がりましたし、親達が子供達に少しでも、自由で幸せな人生を送ることを望むようになりました。90年代に入ってからは、規制はあれど、インターネットによって他国の情報も多く入ってくるようになりました。ですから、私達の次世代の若者達はすでに、考え方もインターナショナルですし、自己表現という術を知っています。それまでは、一人だけ意見が違ったり、他の人と違った服を着る事は、非常におかしなことと見なされていました。でも、今は皆が特別な存在になりたがるんです。

ここ4年ぐらい、中国の映像シーンは急激に伸びて、国際的なレベルまで達してきたように感じます。ですが、今回このフェスティバルに参加して、様々な国の人に出会って、皆口を揃えて言うんですよ、中国の映像作品を見るのは初めてだと。私達はインターネット上で外国の作品を見ることができるのに、中国の作品は全くと言っていいほど見られていないことに気づきました。
実は今回、MTVチャイナの他のスタッフも同行させる予定だったのですが、ビザが下りず、来日はキャンセルとなりました。私はカナダのパスポートを所持しているので来日できたのです。ビザが下りなかった理由は聞かされていませんが、これは政治的な問題で、おそらくどんな目的で国外に出たいのかということは関係ないのだと思います。そうやって考えると、自由に国外に出られる私が中国のクリエイティブを紹介する役目を担うべきじゃないかと思っています。

そうですね。こうやってあなたが来日したことで、多くの人が中国の作品や現状について知ることができたのですから。では、MTVのクリエイティブ・ディレクターとして、今後やりたいことはありますか?
中国国内の新たな才能をもっと発掘して、世界に送り出したいですね。彼らの中には、どうやって作品を発表したらいいのか分からない人が多いのです。そんな人にはぜひMTVを発表の場として利用してもらって、外に飛び出して欲しいと思っています。そして、その手助けをするのが私の役目だと感じています。
それと、MTVがミュージックビデオではなく、クリエイティブな物を提供する場であることも沢山の人に知ってもらいたいですね(笑)。
最後に、中国の映像クリエイターの皆さんにメッセージをお願いします。
自分自身であること。そして、自分に誇りを持つこと。

カーヒンさん、今日は貴重なお話を有難うございました。これから出て来る中国の映像作品に本当に期待しています!
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わくわくするアイデアですね
パーツを組みかえて、オリジナルデザインがつくれたらもっと
Posted by: 山本 @ 3月22日2011年