
コンピュータ・グラフィックス(CG)の修得は高度な技術で、畠井武雄が漫画の影響を盛り込んで近未来的な作風を与えるように自在に3Dアニメーションを操れる人間は少ない。本日は、ル・ピヴォの制作責任者で、パリ在住のその畠井武雄氏にお話を伺ってみた。「ピヴォ」とは、英語で言うところのピボット、もしくはMayaなどの3Dソフトウェア環境で物体を回転させる際の軸を指す。畠井氏は、これまでにもSony、Nike、Honda、資生堂やMTVなどの企業に素晴らしい3Dコマーシャルを提供し、その作品にはHonda ZOOMERのPRでも見られるように、砂糖のような甘さと漫画的なユーモアが同居している。また、PlayStation3のPR用に作られたトレーラーでは90年代風のレトロ且つテクノなスタイルを見せており、PlayStation世代の速度についていけない脳が断片化されるイメージを抽象的に描写している。とにかく、彼の3Dにおけるアイディアの源を畠井さん自身の言葉でお楽しみください!
作:ベレーナ
訳:山根夏実

パリを基点とするル・ピヴォの畠井武雄さん。
畠井さん、あなたとル・ピヴォについて、簡単な紹介をお願いします。それから、現在は何人のスタッフがいらっしゃるのでしょうか?
2000年~2003年まではフリーランスで仕事をしていて、2003年にル・ピヴォを設立しました。今は私を含めて3人のスタッフがいます。
フランスには移住されたのでしょうか?それともフランス育ちとか?
生まれは大阪で、日本の産業デザイン学校を卒業してから、10年間東京で勤務していました。アニメ制作自体は、当時の職場で身に付けたものです。

その後、イメージソフトのMayaを使用して3Dに。

脳の層を表すモジュールを格子状に構築していく。
日本の漫画やゲームと欧米文化では、どちらの影響がより大きいと思われますか?
勿論どちらもですよ!でも、日本の伝統文化に興味を持ったのは、日本を出てからでしたね。その一方で、漫画やゲームなんかの新しい文化やサブカルチャーにはもうあまり魅力を感じていません。


当時気に入っていたアニメや漫画を教えていただけますか?
FLCLと松本大洋が好きでしたね。90年代の作品ですから、もう今となっては古いんですが…。
パリに拠点を置かれていますが、日本の企業数社と密接に仕事をなさっていますよね。あなたの独特な日本的アプローチが求められているのでしょうか?

…全ての登場キャラクターのデザインを作っていく。

「特に日本っぽい」人よりはむしろ、日本の傾向から「外れる」人が求められていると思います。日本人はファッションの傾向やトレンドに本当に敏感ですからね。ディレクターとしての私は、良くも悪くも日本のスタイルから「外れて」いると思います。
ご自身のブログで、「フランスのかわいい古書を探しに」という書籍を影響を受けたものの一つとして挙げられていますが、それ以外ではどんなものが畠井さんのインスピレーションの源となっているのでしょうか?


HondaのPRに使われた画コンテ2枚。

3Dで動く小さな妖精とロボット。
この本は、私の妻が書いたものなので…ある意味宣伝ですね。影響という点では、「レトロフューチャー」な感じが好きです。60年代と70年代は本当に情熱的で、この当時はレトロフューチャーがファッション、車、インテリア・デザイン、建築、音楽など…全てに影響を与えていました。それ以外では、テクノ音楽から大きな影響を受けていますね。CGを始めたのも、イエロー・マジック・オーケストラのサウンドがきっかけですし。作業方法でも彼らを参考にしています。あとは、生物、自然科学、化学、医学や霊的な世界もアイディアの素になっていますね。
霊的な世界、ですか?
私の家は仏教徒なので、仏教の哲学…つまりポジティブな哲学と前向きな思考の影響を受けていると思います。

では、次は専門について聞かせてください。最初は産業デザインを勉強されたとのことですが、その知識が今の3Dアニメーション作業において、独特の建築的アプローチの下地になったということはあるのでしょうか。
全体の構造、それに背景の成形は、物体のデザインにおける重要な要素です。私が美術監督を務める時は、どんな細部のデザインも決めないと気がすまないんですよ。

次は畠井さんの素晴らしいクリップについてですが、最近の作品であるPlayStation3のトレーラーは、断片化を3Dで構築した、キャッチーな90年代のレトロ・テクノ風ですよね。細かく断片化された脳のイメージというのは何を意味しているのでしょうか。
それは簡単なことですよ。何かの記事で、PS3はPS2よりも「高い知性を持っている」というのを読んだんです。私は時々、機械を視覚化するときに人間の体に置き換えたりその逆の表現も使うのですが、このクリップでは、脳の51の部位が、お互いにコミュニケーションを取ることで活性化していくところを描いたものです。コミュニケーションの速度が上がると、PS3の所為で混乱してしまうと。
そういえば、畠井さんの同僚のトマス・ピリサーさんからこんなことを聞きました:「このクリップは、脳内の51の部位がPlayStation3と相互作用するところを立体的に表現したもので、人間の脳がPlayStation3の速度と知能に苦心している様子を描いている」。ということは、クリップ内で断片化された立体的な層は、抽象的な脳のイメージなのでしょうか?
このモデルは一見抽象的に見えるかもしれませんが、構成自体は医学的にも正確なんですよ。最新の学説では、脳はブロードマンの脳地図と呼ばれる51の部位に分かれているんだそうです。

このPS3のPRでは、51の「デジタル・ノイズ描写」が隠されているとも聞いたのですが、これはどういう意味なのでしょうか?
作品としての映像ではなく、壊れてしまったハードディスクからサルベージした51の動画作品を「ビデオ・ノイズ」としてコレクションしたものです。あのクリップを編集している時にサブリミナル的に組み込んでみました。
畠井さんのクリップには、どれも素晴らしいエレクトロニック、もしくはブロークン・ビートのサウンドが付いてきますが、どうやってPS3トレーラーのJunichi Oguro氏のようなミュージシャンを集めるのでしょうか?

彼とはイギリスのCinefeelの上映で会いました。聡明さと確固たる技術が均等に同居しているミュージシャンですね。一般的に、私は一緒に仕事をする音楽家に制限を設けることはしませんし、常に新しい才能を探しています。
日本の電子音楽シーンには関心を持っていらっしゃるのでしょうか?
日本では、サンプリングやリミックスと言った意味では様々なムーブメントがあると思いますが、音楽面においてはもう極め尽くしてしまった感がありますね。コンピュータでループさせて、それぞれのジャンルをリミックスすることが繰り返されるだけじゃないかと…。なので、私としては未来の電子音楽の方に興味があります。

次はHondaのNo Same Wayプロジェクトについて聞かせてください。まずは、このプロジェクトの詳細を説明してくださいますか?
このプロジェクトは、HondaのBUZZ(口コミ)プロモーションの一環として、デザイナー数人がそれぞれに割り当てられたモデルのバイクを題材に短いクリップの制作を依頼されたものです。私は運が良くて、50ccスクーターのZOOMER(ズーマー)が割り当てられました。実のところ、ロボット・アニメーションのアイディアはほんの5分で浮かんだんですよ。その後、このCMをラブロマンスのような形で終わらせようと思って、それで50ccスクーターに二人乗りできるように、女の子は小さな妖精みたいな感じになったんですね。このアニメーションでは、ロボットの上空からの視点や妖精の視点など、いくつものカメラ・アングルを使わなければでした。

こちらもMTVのDNA PATTERNより。
ホームページで拝見した絵コンテは本当に可愛いです!このクリップを制作するにあたって、難しかったこと、苦労したことはありますか?
勿論あります。広告である以上、クライアントからはスクーターを正確に、実物に近い形で見せてほしいと希望されたのですが、私としては喜劇的な演出をしたかったので、その匙加減が難しかったです。でも、最終的にはそのリアルとコミカルな部分の「ギャップ」が面白い結果になりました。
キャプチャリング:ラフ画からキャラクターやロボットデザインまでの全過程。3Dレイアウトとアニメーション作業はその後に入る。背景デザインのディテールや脇キャラの設定も忘れてはならない。

畠井さんのブログで拝見しましたが、フランスの Les Télécréateursプロダクションの新レーベルであるUFOと独占契約をされたそうですね。これについての詳細を聞かせてください。
このTVCMプロダクションは、フランスでも上位3社に入る会社です。大前提として、フランスの業界は、古い映画の技法を使うなど、とても古風な一面を持っていて、俳優や台詞のシナリオが短い映画のような構成になっているのが特徴の一つです。それでビデオ・アートのような新しい流行-とは言っても、これももう古いですが-が、こういった古い形式を破壊しつつあるのが現状です。この新レーベルであるUFOは、新しいスタイルを目指す監督の集団です。

なるほど、畠井さんの作品は昔ながらの物語的な要素と未来的なCGアニメとの間の中間点なのですね。素晴らしいです!お話をありがとうございました、今後の活躍を楽しみにさせていただきます!
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