
1998年の春、ショーン・タジャラチのスタジオに初めて入った瞬間、私の目に飛び込んできたものは壁だった。狂気とも呼べる、複写されたクリップアートの集合体。幅約3メートル60センチ、高さ約2メートル40センチの壁が、幾千もの小さなクリップアートで埋め尽くされているのを想像してみてほしい。彼の雑誌「クラップ・ハウンド」は、DIY的に沢山の素材の中から選ばれたクリップアートの、狂気に満ちた(いや、失礼。病的に取りつかれた)ユニークなコレクションだ。
作:イアン・ライナム
訳:半澤未奈子

雑誌「クラップ・ハウンド第3号」の表紙

雑誌「クラップ・ハウンド第4号」の表紙

雑誌「クラップ・ハウンド第5号」の表紙

雑誌「クラップ・ハウンド第6号」の表紙
「クラップ・ハウンド」は、あからさまに政治的とされてきた刊行物だ。著作権で保護された作品は、幾度も繰り返し利用者に複写され、政治的に物議を醸し出す様なイメージが常に含まれている。他のアメリカのグラフィック作品とは違い、クラップ・ハウンドはそれを公然と確信犯的にやってのけている。どのページにもひけらかすかのようにそんな作品を載せているのだ。例をあげれば、最新号の「教会と国家」では、アメリカのグラフィック業界に溢れている星条旗のモチーフと聖餐式のイメージが凄まじいほど繰り返されている。

最新号「クラップ・ハウンド第7号」のサンプルページ

最新号「クラップ・ハウンド第7号」のサンプルページ
クラップ・ハウンドのプロジェクトは、1998年から2005年まで半休止状態だった。しかし、ポートランドの有名な書店「Reading Frenzy」のクロエ・ユーダリーがそんなクラップ・ハウンドの亡骸に再び息を吹き込む事を決意したのだ。
クラップ・ハウンドは、個性的なグラフィックで構成された印刷物の出版を目的としていて、彼女が新しく設立したショー&テル・プレス社にとっては、今までにない新しい試みだった。現時点でショー&テル・プレス社は、この改訂版2冊を世に送り出している。それが、各5000部印刷済みの「クラップ・ハウンド#5」と「クラップ・ハウンド第6号」だ。ショー&テル社の素晴らしい点は、自ら流通をこなし、個人経営の店や卸売業者にしか売らないこと(ここで一言アドバイス。日本の業者さん、ブレイクする前に手に入れるチャンスです!)


ショーンさん、クラップ・ハウンドはどこで手に入れられるのでしょうか?
クラップ・ハウンドは現在のところ、アメリカとイギリスで入手可能です。
どなたか著名人でクラップ・ハウンドのファンの方を知っていますか?
そうですね、ファンにはマット・グレイニングやバンクシー、ボイン・ボインのコリイ・ドクトロウがいます。
それでは、この美しく切り刻まれアレンジされた、貴重なクリップアートのコレクションについて話し始める前に、クラップ・ハウンドの復活と、著作権に保護されているアート作品についていくつか質問してみよう。

ショーンさん、クラップ・ハウンドは当初、どのくらい発行されたのでしょうか?そしてどんなビジュアル・テーマを扱っていたんでしょう?
第1号(1994)は「死、電話とはさみ」
第2号(1995)は「セックスとキッチン器具・パート1」
第3号(1995)は「セックスとキッチン器具・パート2」
第4号(1996)は「王冠、悪魔と誘惑」
第5号(1998)は「手、心臓と目」
第6号は、「死、電話とはさみ」 (No.1の改訂版)
そして、
再版の第5号と第6号
現在製作中の#7と#8が「教会と国家」のパート1とパート2です。
第8号を出した後は、ロサンジェルスの出版社「Feral House」のためにクラップ・ハウンドをまとめて一冊の本にします。タイトルは「不幸な人々のクラップ・ハウウンド・ブック」です。すごくイマジネティブなタイトルでしょう。文字は一つも入れない事にしました。線画のスタイルで、めくってもめくってもうっとうしく続く感じです。

クラップ・ハウンド第6号より、「7月4日のイベント」サンプルページ

クラップ・ハウンド第4号より、「虫だらけ」のサンプルページ
そもそも何がクラップ・ハウンドを生み出す要素となったのでしょう?
ポートランドで数年間、安っぽいロックのポスターを作る仕事をしてたんです。どのバンドがどのバンドと出て、どの日にどこのクラブで、っていう感じの内容です。それで、ある日ポスターを作っている時に、デビルのモチーフの切抜きがほしいなと思ったんです。それもある特定の、以前に見たことのあるデビルで、頭にははっきり浮かんでいるんですけど、肝心な時にそれがどこの何だったかが思い出せない。それで、数年間集めてきた切抜きをちゃんとまとめて、いつでも必要な時に使えるようにしようと思ったんです。
それから、そういうコレクションを親しい友人の間でシェア出来たら便利だと思ったんです。コントラストの強いアート作品を一つのトピックに絞ってアレンジしていって。そのすぐ後に、雑誌にして知らない人たちにも使ってえれば更に良いだろうと思いついたんです。グラフィックデザイナーぐらいしか欲しがらないとは思いましたけどね。


どのようなプロセスでクラップ・ハウンドを作り上げるのですか?コレクションしたものを集めて、スキャンして、貼っていく感じでしょうか?
常に古本や古雑誌に目を通して、いつか使えそうだと思ったものは切り抜いて分類するようにしています。他にもクラップ・ハウンドの読者の方々から寄せられた素材や、たまたま見つけたもの、ネタになる本やカタログがメモしてある紙なんかも取っておきます。トピックが決まってまず辿り着くのは、この切り抜きだらけの引き出しですね。
次に全ての素材をモノクロにします。その切抜きが本にある状態の時に、すでに奇麗なモノクロだったらいいのですが、もし色味や灰色がかった部分がある場合は、スキャンして線画にします。それからそのモノクロのコピーの裏にワックスをかけます。それでワックスされた紙から絵を切り抜き、手持ちのスクラップ・ブックにプレスします。スクラップ・ブックに似たような絵をまとめて整理していくので、自分では大体どんな素材があるのかを把握しています。

そこから白いカード用紙にページを作り上げていきます。ワックスをかけると、レイアウトした切抜きをしっかり固定してくれる上に、もう一度動かしたい時は剥がしてやり直し出来ます。一度レイアウトが終わったら、細いペンを使って薄まった黒い部分をくっきり書き直したり、修正液でカットラインを消すという作業をします。
そして最後に、出来上がったページをスキャンして、インデザインに落とし込み、はしがきとクレジットと一緒に編集します。

何がきっかけでクラップ・ハウンドを再編、そして発展させようと思われたのですか?
理由は2つほどあります。1つは手持ちのバックナンバーがずっと在庫切れ状態だったこと。比較的初めの発行部数も少ないので、何年も「すみません、もうないんです」って言わなきゃならなくて。「Reading Frenzy」のクロエが増刷の話を持ちかけてくれなかったら、再編はできなかったかもしれませんね。自分では印刷代を賄えなかったんじゃないかと思います。
今回の改訂版の良い点は、頻繁に必要になると思えるようなイメージが目に付く所にあるということです。もちろん、今も登場を待ちかねているイメージも沢山ありますよ。例えば「王冠、悪魔と誘惑」といったような。昔のクラップ・ハウンドには「セックスとキッチン器具」など、精細を欠くレイアウトも結構ありました。あの頃は、僕が全力を尽くしきれていなかったなと思います。

クラップ・ハウンド第3号より、「行儀の悪い」ページ

クラップ・ハウンド第5号より、手と目のページ
その使っている絵の著作権に関してはどう思われますか?「公平な使い方」の線引きは、どの辺りにあるのでしょう?
僕は、クラップ・ハウンドはある種の専門的なアート・プロジェクトだと捉えています。毎回完成度を上げることで、僕たちのカルチャーの理想を提案できたらと思っているんです。すごく楽しいし、ワクワクします。でも、「公平な使い方」っていう話になると、専門的なアプローチと、芸術的なアプローチのどちらにも当てはまるような気はします。だからこういう風に考えています。どこかの企業がある種のイメージや広告を世に送り出した時には、僕はそのイメージを再生することができる。自分がそこに届きたいと願えば、それは向こうからやって来る。これが公平じゃないでしょうか。

イメージの素材はどこで見つけるんですか?
個人的には中古品店やガレージセール、eBayのオークションで探しています。寄稿者の方々にも本当にお世話になっています。今でも会った事のない方々から切り抜きやコピーをもらっているんです。特にアメリカとイギリスの方が多いですね。全く知らない人たち、寄稿者の方々がクラップ・ハウンドの活動範囲をどんどん広げていってくれたんです。僕だけでは到底できませんでした。
90年代の辺りで、あなたの作品の中に“ある特定の”傾向が見られたように思います。アート・チャントリーとチャールズ・スペンサー・アンダーソンが主流となっていたような流れです。何かあなたたちが3人とも、同時期に似たようなビジュアル領域を探っていた理由というのは見当たりますか?
素晴らしい質問ですね。でも、そんなに良い答えはないんです。アート・チャントリーにはクリップアートへの情熱や手法などで、かなり影響を受けていると思います。チャールズ・スペンサー・アンダーソンの作品は、クラップ・ハウンドを始めてから目にしました。全体的には、おそらくポストモダニズムに対する意識があったんじゃないでしょうか。安っぽいモノクロの切り抜きアートなんて、明らかに皮肉がこもっていたと思います。こういう話はあまり好きじゃないんですけど、言えるとしたらこんなところでしょうか。

クラップ・ハウンドで繰り返し使っているような、お気に入りのイメージはありますか?
おぉ、いい質問ですね。今頭に浮かんだのは、怒った女の人の視線がナイフになって、小さい男の人に突き刺さっているイメージです。第5号の「手、心臓と目」からのものです。

あなたやアート・チャントリー、チャールズ・スペンサー・アンダーソンが数年前に磨き上げた美学が、特に何の貢献もしてないような人たちに真似されて、何回も複製されていくのは変な感じがします?
そんなに変な感じはしないですね。ポップカルチャーにある、排除していくプロセスの中で、その流れは見えましたけど。グランジ的なものもきたし。シアトルのロックシーン、安っぽい感じ、DIY的なもの…こういった全ての要素が合体したんです。
そのスタイルっていうのが、特に自分のものだとは感じていないんです。むしろすぐにでも盗めてしまうようなものに感じますね。ただ言えるのは、僕がそのアートを愛し、自分の手で行っていたということです。そんなことを言ったら、僕がアート・チャントリーやクラッシュ・デザインから盗んだっていう話にだってなると思います。クラップ・ハウンドに関しては、オリジナルが誰の所有物かっていう概念は一切取り払うようにしています。僕は巷にあるものを複写して使っているわけだし、それは特にクリエイティブと呼べるものではありません。

ハート!

キッチン道具
本当にそう思いますか?
ただ、レイアウトはクリエイティブです。あれは子供を生むようなものです。クラップ・ハウンドは、巷にだいたい何があるかが分かる「カタログ」のようなものでしょうかね。僕はそう思っています。面白いのは、もし誰かが、僕がクリエイティブワークとして捉えているもの、例えばレイアウト1ページを「盗んだ」としても、やっぱり僕は怒れる立場にはないということです。僕だって他の人のイメージを沢山複写して使っているんですから。もう気分を害す権利すら放棄してしまったという感じです。
くすねる、借りる、盗用する、どんな呼び方をしてもいいと思います。でも、それを自分のオリジナルとして発表するのは問題ですね。

現在、他にはどのようなプロジェクトをやってらっしゃるんですか?
今はここロサンジェルスの出版社「Feral House」のために製作中です。あと、オリンピアの友人、ステラ・マーズのためにポストカードも作っています。去年の夏にはネガティブランドっていうバンドのために、すごく良いCDと書籍のパッケージを完成させました。今でもフリーランスの仕事は受けていますが、時間がある時はクラップ・ハウンドの作業に集中するようにしています。
ショーン・タジャラチさん、今日は時間を割いてクラップ・ハウンドの歴史を語ってくれて、本当に有難うございました!そして、ショーンからPingMag読者にプレゼントです!長い間、絶版となっていたクラップ・ハウンドの高画質画像を3枚いただきました。(ダウンロード!)
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very cool! great to know the updates on CRAP HOUND…when i was in art school, the library had most of issues of Crap Hound and i remember that they kept them like a treasure! we only could check one issue at a time for only an hour and could browse them at the library…
Posted by: aya @ 12月21日2006年
日本語で読めるクラップハウンドの最良のテキストにめぐりあえてうれしいです。とても興味深いです。ありがとうございます!
Posted by: HOWE @ 7月18日2007年