
東京、日本橋にある三越本店の中の女性用靴売り場では、売り場の一部にそっと置かれたRFIDをベースとしたテクノロジーを利用して、ぴったりの靴を簡単に見つけ出すことが出来る。その技術は、国内7箇所で使われており、それ以来、靴の売り上げは13.3%増加している。また、現在9つのデザイナーズ・ジーンズ・ショップでも同様の技術を導入している。先日PingMagは、デジタル技術により拡張された小売空間をデザインするうえで重要となる詳細について学ぶため、三越におけるRFIDプロジェクトを率いた西田雅一ゼネラル・マネージャーにインタビューをする機会に恵まれた。
作:木實新一
訳:ジュンコ


西田さん、僕らがRFIDの技術に関して話すのも今回で2度目ですよね。前回は確か2月だったと思いますが…?あれから何か変化はありましたか?
RFID技術を使用するために我々が行った当初のアプローチについて前回どのくらいお話ししたか、はっきり覚えてはいないのですけど、元々、我々にとって重要だったのは、売り場の業務改善のために導入しようということだったんです。それが現在は、取引やマーチャンダイジングを変えることによって、いかに品切れしない仕組みを作ったりお客様をお待たせしない仕組みを作れるか、というような売り場基点になってきているということです。

婦人靴のフロアを見回すと、靴には、普通の値札の横にRFIDタグを付けられていることに気づきますが、技術の利用方法について伺う前に、まずはそれが純粋にどんな風な見た目なのかについてお聞きしたいと思います。

このタグは、特に注意深く見ない限り、大して意味を持たない普通のタグだろうと思うでしょうね。タグの形やサイズについて、実際かなり考えられたと思いますが、どうですか?
顧客は通常の値札のサイズに慣れていると思ったので、このサイズや形のタグが一番良いのではないかなと思ったんです。マスコミの方たちからは、よく、「これじゃあ普通の値札と見た目が変わらなくて面白くない」なんて言われますが(笑)、そうは言っても、我々はお客様のためにデザインしてるわけですからね。一部のマスコミ関係者では、透明のデザインの方が良いなんて方もいましたね、…もっと内部が透けてて配線が見えたりして、「メカニック」な見た目のものですよね。あるテレビ局の方なんかは、割ったらインレットを出せるのではと言って、サンプルタグを壊そうとしましたが、割れませんでしたね。実際かなりの耐久性があるんですよ。

チップを靴に取り付けるという考えの背後には、もちろんRFIDタグをスキャンして、製品に関する何らかの情報を得ることがあります。その靴が、特定のサイズや色で利用可能であるかどうかがスキャナの上のタッチスクリーンの上に表示されるわけですよね。以前はスタッフによってだけ使用されていたものでしたが、現在では顧客が様々な情報を見る事を可能にしています。彼らは、この技術を使用することで、どういう利益が得られるんですか?前回は確か、顧客はまだ売り場でコンピューターを使うことに慣れていなかったせいか、それほど端末を使用していないと言っていましたが、あれから約1年くらいになりますよね。現在ではどうですか?
今でもまだ、使用されるお客様は多くはないですね。どちらかというと日本橋店より銀座店での使用の方が多いようです。店舗によって違いはありますが、まぁ、どの店舗においても、コンピューターを使うのに列が出来るというほどではないということです。
ということは、その技術は、まだ人々が使用することができないくらい抽象的であると言うでしょうか? これからどんな風に変わっていく必要があるでしょう?
まず言えるのは、百貨店業というのは、まず接客が基本だということです。正に、それを多くのお客様が期待されているわけですから。とは言っても、今後待ちうけ画面に工夫があったりするといくらか効果があるかもしれません。また、異なった方法でお客様に動機づけをする事が出来ると良いのかもしれませんね。…でも、元々我々は顧客サービスを向上する事を目的に使用しているわけですから、例えばコンピュータの横で、販売員自身が靴を手に説明していたとしても、それもオーケーなんですよ。


ではここで、タッチスクリーンコンピュータのユーザーインタフェースについてお聞きしましょう。実際どんな情報を提供しているのか、そして、どうやってアイテムを探すことができるんでしょうか?
一般的に、デパートにおいては、お客様が何か探す際には多くのサポートが必要なのですが、探索のためのツールがないので、人は手動ですべてを捜さなければなりません。
このRFIDシステムを取り入れて以来、お客様に喜ばれている機能としては、「逆引き(検索)」があります。通常は、「この靴が欲しいんだけど、24.5cmの物はある?」というように検索しますが、この「逆引き」の場合、「24.5cmの靴を探しているけど、どんな靴がある?」という風に検索出来るんです。例えば、在庫を切らしがちなサイズのお客様の場合、「他にどの靴なら私のサイズがあるの?」というような質問をされる方も多いそうなんです。でも、それはさすがに人間(販売員)では即答出来ない質問なんですよね。

日本の顧客は、…三越のような場所では特に、最高のサービスを受けることに慣れています。そのような場所でも、顧客が自分自身で何かをするということに興味があるんでしょうか?
お客様の多くは、セルフサービスのような物を想定して来店されませんよ。勿論我々も、サービスのために十分なスタッフを配置していますし。でも、午後4時頃のような本当に忙しくなる時間帯などでは、販売員は複数のお客様の対応をせざるを得ません。このような場合には、このRFID技術はかなり便利なんですよね。お客様自身も、一度使用すればそのシステムを使うのに慣れるようですし。他の人が使っているのを見て、何人かのお客様が、「私も!使い方を教えて」とおっしゃるのを聞いた事もありますよ。

デザイナーズ・ジーンズ・ショップでも、この9月から同様のシステムの使用を開始しましたよね。確か、色んな状況を試した実験を2月にされたかと思うのですが。ではここで「スマートシェルフ」(商品にRFIDタグを取り付け、RFIDリーダを棚に埋め込むことによって、そこに何があるかを「知っている」棚を指す専門用語。欧米で「スマートシェルフ」と監視カメラやRFID顧客カードを連携するシステムが実験されようとした際に、プライバシーの懸念が高まったことがある。三越の「スマートシェルフ」実証実験ではカメラや個人を特定する技術を使用せず、国のRFIDプライバシーガイドラインに沿って運用が行われた。)についてお聞きしていいですか?…それらはどうなりました?
通常、他の実験で使用される「スマートシェルフ」は、商品を補充する販売員のために設計されますが、我々はお客様の利便性のために「スマートシェルフ」を設計しました。在庫情報を表示する電子ペーパーの装置を設置したんです。棚にはRFID読取機が埋め込まれており、アイテムには先ほどお話したようなタグをつけます。ディスプレイに見える緑や青のような色は「このアイテムは、棚の上にはありませんが、裏の倉庫に在庫がありますよ」というような情報を示しているわけです。

2月の実験期間では、RFIDリーダを備えた「インテリジェント」試着室も導入しましたよね。それについてはどうでしたか?
靴のフロアにあるような大きいコンピュータを置くには、試着室は狭過ぎますから、タッチパネルがついたシスコのIP電話装置を使ってみました。
それから、2万円から5万円(170USドル–430USドル)の価格帯の、いわゆるプレミアムデニムと呼ばれるジーンズにRFIDタグを取り付け ましたよ。こういったデニムは最近では特に良く売れるので我々も細かい情報を良く理解している必要があるんですよね。例えば、ブーツカットジーンズが欲しいと言わ れても分からなかったり、わざとダメージ加工したジーンズだとどんな種類があるのか答えられなかったりしても、困りますよね。それから、お客様の中には、 雑誌の記事情報を基にジーンズを買われる方も多いんです。でも、販売員がそれらすべての情報を頭の中にキープしておくのは、難しいですよ。そのような状況 のために、我々は、試着室で出来る様々な検索オプションを提供したんです。…もっとも、実際はお客様よりも販売員の方が断然システムを使用してたっていう…(笑)。

他の面白い技術として、「カスタマー・リレーションシップ・マネージメント」(CRM)のためのアクティブRFIDタグという物も試されましたよね。(バッテリーが内蔵され、10m~100mほどの遠方から交信することが出来るタグ)通常、CRMにそれらを使用する目的としては、店内にいる顧客を認識し、追跡することだと思いますが、実験の結果、プライバシー問題と技術的な問題のために、結局使用しない事を決めたそうですね。実験は上手く行かなかったんでしょうか?
あらかじめテストに参加するのに同意して下さったお客様には、読み取り範囲が10mほどの、メッセージを販売員のモバイル機器に送るようなタイプのアクティブRFIDタグを持って頂きました。お客様が青いボタンを押すと、販売員のところに「ちょっと来て下さい」というようなメッセージが送られます。でも、複数のお客様がいらっしゃる場合、どの方がボタンを押したのか特定するのが難しかったんですよ。全体的に見て、アクティブRFIDタグに関しては、事は簡単ではないようですよ。



テストの結果、「スマートシェルフ」はどうなりました?最終的に、それを設置する事を決めたんでしょうか?
「スマートシェルフ」の導入に反対していた人も実は結構いたんですよ。我々の手元に何があるか示す一方で、一部の商品に関しては在庫を切らしているという事を暴露しなければならないという事を嫌がったんですね。彼らの意見は、お客様が販売員と会話をする時、すなわち、ある物の在庫があるかどうかお客様から尋ねられる瞬間にビジネスが始まるのだという事なんですよ。例えば、もしお客様が在庫切れ商品を自分で知っていたら、どんどん帰ってしまうでしょうという事です。
でも結果的には、実験から「スマートシェルフ」を利用して在庫状況を明かしてしまった方が、購買の「ヒット率」が増加すると立証することができたんですよ。多分、買い物しやすいという事なんでしょう。ジーンズを一つ一つひっくり返してサイズを確認しなくても、自分のサイズがあるのかどうか、チェックすることができますし。それに、他の販売アイテムについても手軽にブラウズすることが出来ますからね。
そういう効果があったので、我々はそれらを使用したいなとは思ってるんですよ。ただ、我々は富士通さんのタイアップで実験を行ったんですが、彼らは まだ電子ペーパーは商用に出来ないという事なので、まだ付いてない状態です。ただ、婦人靴と同じRFIDタグ ベースのシステムを既に9つのジーンズ店に導入はしています。現在、この携帯RFID読取機を使用して、在庫状況をチェックすることができるんですよ。

靴売場のタッチスクリーンコンピュータと同様の機能を持った携帯RFID読取機。小さく軽量なこの読取機は、販売員によって使われている。

ジーンズタグをスキャンした直後の携帯読取機の画像。在庫があるサイズなどを示す。販売員は商品の状態をアップデートすることができる。
西田さん、今日はありがとうございました。 最後に何かありますか?
我々のしている事の規模は小さなものかもしれません。でも、我々のアイディアは、海外の人にとっては「新鮮」に聞こえるようです。我々のとこ ろには、ウォルマート、メトログループ、マークス・アンド・スペンサーなど海外から多くの視察団が訪れているんですよ。海外では、この技術をこういったき め細かいサービスへ使うっていう考えはまだまだ開発されてないようで、だから今後が面白いし楽しみだなと思っているんですよね!
最小のプライバシー・リスクで、顧客と会社の両方の利益のためにRFIDを使用する方法が探られているのは喜ばしい事である。靴やジーンズを販売する際、タグは(再利用のためにも)取外され、その情報は、人そのものよりも販売アイテムを特定する事に使用される。このシステム は、顧客の情報を集めるというよりも、むしろ会社の情報を顧客に対して明らかにすることに関するものなのだ(例えば、在庫レベルなど)。現在日本の社会では、個人のプライバシーについての関心が高まっているが、筆者の知る限り、この種のRFID用途に関する懸念は生じていないようである。
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