
ここ数年、イラン人グラフィックデザイナー達の活躍がめざましい。2002年冬、イラン人グラフィックデザイナーによる「Un cri persan(イラン人の叫び)」ポスター展が、フランスのグラフィック・デザイン月間の一部として南東部の街・イシロルにて開催された。展覧会は好意的に受け止められ、およそ20年間もスポットライトを浴びることがなかったその才能の豊かさを世間に見せつけた。以来、多くのイラン人グラフィックデザイナーが国際的に活動し、さらなるマジックを世界と共有し続けている。
作:ベルーズ
訳:ヤスエ
現在のイラニアン・グラフィックデザインを際立たせている理由の1つに、そのタイポグラフィーがある。イランはビジュアルアートに豊富な歴史があり、この大いなる恩恵を受けている分野がカリグラフィだ。歴史の中でカリグラフィは、発明、再発明を繰り返し、アートに影響を与えた。カリグラフィとイスラム建築物の混合がその良い例だと言えるだろう。
近年、画家や彫刻家、そして特にグラフィック・デザイナーはこのような美とハーモニーの宝に触発され続けてきた。ヨーロッパや北アメリカと比較すると、イランや周辺地域におけるカリグラフィはひとつの芸術として受け入れられ、イランのほとんどの家庭では、カリグラフィが少なくともひとつは壁に掛けられている。これほどポピュラーな理由は、どこからがカリグラフィで、どこまでがタイポグラフィかその線引きの難しさで説明できるのではないだろうか。イラニアン・デザインの傑作の1つに、デザイナーとカリグラファーとのコラボレーションがある。このようなコラボレーションの古典的な例が、レザ・アスィ・ミュージアムのロゴだ。イランポスターの確立に貢献したデザイナーのモルテザ・モワヤズは晩年、イランのカリグラファーの大家、モハメッド・エサエの美しいカリグラフィを使用して1976年にこのロゴを製作した。

モハメッド・エサエは様々な美学を用いて、数多くのロゴを制作した。そして彼の“カリグラフィ・ペインティング“は、その複雑な構図を高く賞賛された。多くの作品の中でエサエは、文字と伝統的な構図のエッセンスを抽出し、抽象的な作品、色調、特徴においてまぎれもなくイラニアンな作品を創り出した。

モハメッド・エサエのアブザ・パブリケーションズのロゴ

ロゴタイプ。アカデミー・オブ・アートより。(2000)

モハメッド・エサエのポスター。ボローニャのイラニアン・エキシビションより(1977)

モラバイの詩にまつわるカリグラフィー・ペインティング

宗教的なポスター(1999)

ボローニャのイラニアン・エキシビションより。(1977)
それでは、魅惑的なペルシャのカリグラフィについて、その筆記体系の概要を説明しよう。
秘訣は筆記体の仕組みにある。ペルシャ語、またはファルシ語の筆記体は、いわゆるアラビア文字で書かれる。アラビア文字は、イラン、トルクメニスタン、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、アラブ諸国、インドのパシュト語を話す地域にて使われる文字のことを指し、アタテュルクによる西洋化以前のトルコでは、アラビア文字は公式の場で使用される筆記体系として採用されていた。12カ国以上の異なる地域や言語を話す人々により筆記用に使われているため、当然ながらそれぞれの文化で独自のスタイルと特徴を発展させてきた。

イランのカリグラフィ

イランのカリグラフィ

イランのカリグラフィ

イランのカリグラフィ


イランのカリグラフィ

イランのカリグラフィ
イランの公用語はファルシ(またはパルシ)と呼ばれる言語だ。ファルシ語とアラビア語は似通ったアルファベットを使用するが、ファルシ語のほうが4文字ほど多い。アラブ語では、Pe、Che、Zhe、Geが存在しない。そのためUAEでは、”Pepsi”が”Bebsi”となる。歴史の中で、互いに相手の言語を取り入れてはいるが、ファルシ語のボキャブラリーと文法はアラビア語とはかなり差がある。
ファルシ語は32文字で構成され、右から左へ書く。ほとんどの単語がペンを持ち上げずに書くことができる。つまり、通常は何でも一筆書きで綴ることが出来るということだ。これがファルシ語を流動的で柔軟な筆記体としている要素で、これさえ把握しておけば筆記体の複雑性を理解しやすくなるだろう。説明を単純にするために、暫しカリグラフィのことは忘れ、日常使いにデザインされたフォントを見てみよう。

ひとつの文字は最大4種類の形をとる:
自由形: 他の文字と連結されない場合。
イニシャル形: その文字が単語の始めの文字の場合。そのため他の文字とは終わりのみ連結される。
中間形: 文字が他の文字と、始まりと終わりで連結されている場合。
ファイナル形: その文字が始まり部分のみ他の文字と連結されている場合。

右から左へ: 自由形、イニシャル形、中間形、ファイナル形
実際のところ、一つの文字の異なる形を表すのは1箇所で、その個所に到達する延長線の違いで、その文字についての特徴を表す。延長線は、ベースライン上、またはその下、もしくはベースラインより上で終わる。2つの文字を連結させる場合、延長線は必ずベースライン上で終わる。言い換えれば、2つの文字は常にベースライン上で出会うこととなる。
タイプするとどうなる?
ファルシ語フォントは”賢いフォント”でなくてはいけない。フォントはある文字が単語のどこに現われるかによってどの形として表示されるべきか決めなくてはならない。 オープン・タイプは文字の全ての異なる形と全ての例外や特別な連結法を許可することにより、その問題を解決した。これは3文字の単語をタイプした時の例だ。

それではカリグラフィについての話を再開しよう。お楽しみはここから。
14世紀後半にイランで発達したナスタリックは草書体で、とても緻密に出来ており、流動的で表現に富んでいる。ナスタリックはベースラインに束縛されず、文字はむしろベースラインから浮いており、一部の文字はベースラインの下へと続く。このことにより、バランスがとてもよくなり、通常文章の最後は上方向に跳ね上がる形で終結する。このバランスを理解しマスターするには、達人の下で数年にも及ぶ厳しい練習を積まなければならない。カリグラフィのピースは、アーティストがルールを曲げてユニークかつ、審美的にも美しい構成となったとき、最も美しくなる。

シェキャステ・ナスタリックは、ナスタリックから生まれたスタイルである。ナスタリックよりもシャープで、速記に適している。その長いストロークは、感情やリズムを表現する。

1800年代後半、二人のカリグラフィの達人、ミルザ・ゴラム・レザとミア・ホセインが「シア・マシュク」という作品で、ナスタリックのビジュアル面におけるクォリティを探求した。もともと「シア・マシュク」は、カリグラファーが訓練として文字の形を洗練させるために繰り返し綴ることをいう。そして、シア・マシュクを続けると、そのページは単語や文字で埋め尽くされる。それ故にシア・マシュクの直訳は、黒い練習だ。カリグラファー達がいくつかの作品の美しさに気づいた時、シア・マシュクは1つのスタイルとして発展を遂げた。アーティストの唯一の意図は、ビジュアル的に美しい作品製作だ。言葉や文字は意味などお構いなしに、構成と見栄えのために繰り返し綴られる。ある意味でシア・マシュクはタイポグラフィのコンセプトの下、さらに複雑な作法で模索された。

ミア・ホセインによる「シア・マシュク」(18世紀)

ミルザ・ゴラム・レザによる「シア・マシュク」

レザ・アベディニによるタイポグラフィーのポスター
レザ・アベディニはファルシ語タイポグラフィのさらなる可能性を探求する現代デザイナーの一人だ。多くの作品の中で彼はベースラインを分割し、個々の単語と文字を巧みに操ることで、独自のユニークなタイポグラフィスタイルに達している。アベディニは近代的な書体を使うが、彼はポスターの中に、彼の言葉を借りれば、ペルシアンカリグラフィの詩的クォリティを蘇らせようとしている。



メラン・モハイヤーとレザ・アベディニによる「フォト・アンド・グラフィック」展のレザ・アベディニによるポスター。
定評あるイラニアン・デザイナーのマジド・アブバシ、サイード・メシュキ、アリレザ・ムスタファ・ザデー、ビージャン・セイフォウリの4人で構成されるグループ「The 5th Color」は、2003年から、イランで3度のタイポグラフィ展を開催している。
「The 5th Color」のメンバーは、過去20年もの間、イランのグラフィック・デザイナー育成に貢献しているデザイナーの中でも代表的存在で、その中でもサイード・メシュキは、自らのデザインで、タイポグラフィーを楽器店や書店にまでも持ち込んだ。過去数年、サイードは書籍のデザインに焦点を当て、自らの出版物「メシュキ・パブリケーションズ」を始めている。

サイード・メシュキ

マジド・アブバシによる「40+40」ポスター。イタリアで開催されたThe 5th Colorのエキシビション用
同じくThe 5th Colorのメンバーであるマジド・アブバシは、テヘランにスタジオを持つ「Did Graphics」のクリエイティブ・ディレクターでもある。平和的なファルシのタイポグラフィーをフィーチャーすることの多い彼の作品は、文字の優雅さを強調している。


マジド・アブバシによる書籍の表紙

マジド・アブバシによる書籍の表紙

マジド・アブバシ

マジド・アブバシによるカバー・アート

アリ・ホルシードプールによるポスター。「盲目の梟タイポグラフィー」展より。
The 5th Colorによるタイポグラフィー展では、前途有望なデザイナーやデザイン学生、そしてイラニアン・デザイン界での大御所達が一挙に名を連ねる。初めてのエキシビションは、イラン人現代作家サーデク・ヘダーヤト (1903-1951)の生誕100周年を記念して開催された。そのイベントはヘダーヤトの一番有名な著書に因んで、「盲目の梟」と命名された。


マスウッド・ ネヤバティによるポスター。「盲目の梟タイポグラフィー」展より。

マスウッド・ ネヤバティによるポスター。「盲目の梟タイポグラフィー」展より。

2回目、3回目のエキシビションはモラビーとイレニアン諺という主題で、それぞれ2004年と2006年に開催された。
ファルザッド・アディビとイーマーン・ラードは、そのタイポグラフィーのアプローチの仕方がひと際優れた若手のアーティストだ。その月日の浅いキャリアにおいて、この二人は、魅力的で遊び心溢れる作品の数々を発表している。

イーマーン・ラードによるポスター

イーマーン・ラードによる作品
デザイナー達のエネルギーとその熱心さで、近い将来必ず思いがけない作品がイランから登場し、私達を驚かせるだろう。作品を送ってくれたアーティストの皆さん、本当にありがとうございました!
4 コメント
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Is there any way to buy paintings or posters by these artists?
Posted by: fc.yml@infinito.it @ 12月12日2006年
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Posted by: ん? @ 12月12日2006年
I enjoy reading a post that will make people think. Also, thanks for allowing me to comment!
Posted by: deck railing @ 11月9日2011年
イラニアン・タイポグラフィーの今 good post1095
Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年