
晴れた朝、渋谷での朝食を共にしたのは、バーバー・オズガビーという名の、才能とユーモア溢れるイギリス人デザイナーの二人。意外なことに、二人はとても控えめな上、作品に関しても非常に謙虚な話しぶりで、初作品の「Loop Table」がロンドンのV&A博物館の常設コレクションに留まらず、ニューヨークのMoMAにも展示されたことや(V&Aではその他にも2つの作品がクラフト・カウンシル・コレクションとデザイン・ミュージアムに取り上げられている)、2004年9月には栄えあるジャーウッド・プライズを受賞したこと、今年6月にはDesign/Miamiで家具ブランドのエスタブリッシュド・アンド・ソンズと共同で「未来のデザイナー」の称号を受けたことなど、一度たりとも仄めかすことはなかった。
作:ウレシカ
訳:山根夏実
バーバー・オズガビーの一人であるエドガー・バーバーさんに「デ・ラ・ウォー・パビリオンチェアはもう見ましたか」と聞かれたけれど、勿論知っていたから問題なし!6週間前に発表されたばかりのこの椅子は、既にV&Aの常設展示の仲間入りを果たしている。PingMagでは、この創作チームの二人が次に何を世に送り出すのか、そして次から次へと時代を感じさせない斬新な作品を作り続けられる秘訣、さらに数々の常設展示に取り上げられるような椅子の条件とは何か?など、様々な話を沢山伺ってきた!

エドワードさん、ジェイさん、わざわざデザイン・ウィークのバタバタの後に日本に来られた目的は何なのでしょうか?
エドワード:いや、デザイン・ウィークの後の方が、皆さんも時間に余裕があって合理的だということに気付いたんです。今回は、Issey Miyakeと21_21 Design Sightの打ち合わせをして、販売者のSempreやCiboneなんかにも顔を出す予定です。
これまでにも数多くの作品を手がけられたと思いますが、お二人にとって最も難しかったプロジェクトは何でしょう?
ジェイ:多分、最近デ・ラ・ウォー・パビリオンの為に作った椅子だと思います。このプロジェクトは、あらゆる面で複雑に入り組んでいたので。それまでの僕たちの家具は基本的にとてもシンプルだったのですが、難しいけれどやりがいのある作業でした。

赤いデ・ラ・ウォー・パビリオン・チェア

黒いデ・ラ・ウォー・パビリオン・チェア
差し支えなければ、この椅子の何がそんなに特別なのか教えて頂けますか?それから、この椅子が発表後、即座にV&A博物館の常設展示に指定された理由は何でしょう?
エドワード:V&Aが興味を持った理由の一つは、あの椅子がデ・ラ・ウォー・パビリオンのためにデザインされたものだからでしょう。特に新しい素材を使ったわけでもなく、ただ形が気に入ったようです。この写真だと何の変哲もなく見えるかもしれませんが、この椅子には2つの全く異なる形が使われています。一つは、なだらかな脚へと繋がる平たい背もたれの部分で、もう一つがこの前面の、対象を成すような細い筒状のパイプです。実際、この2つを一緒に見てみると、結構奇妙な感じがしますよ。


このような名誉あるコレクションに展示されるような家具には、何が必要なのでしょうか?
エドワード:まあ、新しい素材や技術、制作過程…特別な理由で依頼された作品であるとか、周囲で進行しているものとは極めて異なっている、何らかの理由でデザイン史上に足跡を残すような作品ではないでしょうか。
僕たちの「ループ・テーブル」が良い例だと思いますが、今あのテーブルを見てから、ここ10年ほどの欧州でのデザインを振り返ってみると、何も特別なことはないと思うでしょう。あの曲線のスタイルは、今でこそ世界中のどこにでも浸透していますが、96年に僕たちが最初にデザインした時にはかなり新鮮な感覚だったと思います。当時の僕たちは、他の家具デザイナーよりもグラフィックに影響されていましたからね。

えーと、これはちょっと間抜けな質問かもしれませんが、なぜいつも“椅子”をデザインされるのですか?
エドワード:それは、椅子というものがデザイン作品の中では最も難易度が高く、表現力豊かなものだからです。そこに座る人間が転んでしまったり、背中を傷めたりしてはならないし、更には強度の問題も考えなければならないから…本当に難しいんですよ!座り心地が最悪な椅子をデザインするのはとても簡単なことですし、事実沢山のデザイナーはそうしていると思いますが、僕たちはやらない。それだけのことです。
ジェイ:あとデザインを始める時に、紙に正しい比率で椅子の絵を描くと、すごく格好悪いんです!取っ掛かりの比率は良くないのですよね。

エドワード:ランプの場合、ただ電球を入れればお終り!それだけで動いてしまう。(笑)

物作りをする時は、自由度の高い依頼の方がやりやすいのでしょうか?それとも、要求の多い困難な仕事の方がやりがいがありますか?
ジェイ:指示や注文を考える必要のない仕事も良いのですが…。
エドワード:時々、「バーバー・オズガビーの作品が欲しいんです。何でも好きなようにやってください!」と言ってくる家具会社もあるんですが、こういうのが一番難しいですね。何を作って欲しいのか、テーブルなのか椅子なのか?どんな場合でも、まず取っ掛かりがなければ無意味だと思います。でも、Levisやコカ・コーラのような大企業と作業する時は、大勢の人間を納得させなければならないので、ある意味最も困難だと思います。

「Ipsei」のボトルデザイン:無添加無着色の赤ブドウジュース入りルイボス茶。オランダとドイツでコカ・コーラ社が販売している。

奇抜な形のボトルデザインが製造過程の可能性を押し広げる。ジェイ:「最終的に出来上がった完成品はかなりシンプルですが、このプロジェクト自体は大きな挑戦でした。」
エドワード:Levisのプロジェクトも、これまた素晴らしかったです。Levisのエンジニアード・ジーンズのためのハンガーの依頼で、Levisの世界中に散らばる9000箇所もの店舗に発送できること、それから送るのに楽なだけでなく、現地の店員の手で組み立てやすいもの、という条件が重要な要素となっていました。あと、コストも抑えなければならなかったし、積み重ねやすくて使い勝手が良いことまで求められていましたね。

Levisのエンジニアード・ジーンズ用のハンガー。バーバー・オズガビーは、Levisにこのハンガーにジーンズを掛けるためのリングをジーンズ自体に縫い込むように説得した。

Levis用に作られたもうひとつのハンガー
エドワード:当時Levisでは、エンジニアード・ジーンズ・シリーズの新作を開発していて、そのジーンズを立体的に見せられるハンガーを求めていました。 僕たちがサンプルを受け取った時、ジーンズが着用されているかのように見せるためには、中に何かを入れる必要があると言われたんですが…ハンガー200本を箱詰めして発送するとしたら、こんな大きな詰め物はまず無理だ!と思いましたね。その後、色々と実験しているうちに、ジーンズを前と後ろそれぞれ別に吊るせば結構立体的に見えると気付いたんです!そこでLevisに連絡して、ジーンズに吊り紐を縫い込んでもらえるように説得したら、先方もジーンズの歴史の新しい次元となり得るその案を気に入ってくれたようでした。

では、あなた方が実際にデザインしたのは、ジーンズの方だったのですね!
ジェイ:そうなんです(笑)!確かに僕達も多少デザインしました。Levisのエンジニアード・ジーンズ部門はブリュッセルにあるんですが、そこの方々とは本当によく連絡を取り合いましたからね。あれは楽しいプロジェクトでした。
あなた方のもう一つのハンガーも素敵です。つい立てとしても使えそうですね!

ジェイ:ステンシルですね!あれは抽象的な形や、それに伴う機能性で何ができるかという、非常に興味深いプロジェクトでした。
エドワード:実は、このプロジェクトは、僕たちがLevisの仕事をしていた時のものなんですよ。先方は何か吊るせるものが欲しいと言ってきたので、僕たちは最初に「ハンガーはあからさますぎて駄目だろう!」と思っちゃったんですね。それでこういう形で挑戦してみたんですが、先方は気に入ってくれたものの、9000店に配布するには製造費も輸送費も高すぎて無理だと言われました!
では、結局どなたがこれを作ったのでしょうか?
エドワード:最終的には僕たちが自分で作って、カッペリーニが製作しました。
いつも疑問に思うのですが、製作者がデザインに変更を入れる場合、どの程度の変更を要求して、どれくらいの範囲なら単純にデザイナーの作品にOKを出すのでしょうか?(勿論、コストが異常に高いとかいう場合を除いて)
ジェイ:それはその時々ですね。カッペリーニはすごいですよ。僕達はジュリオ・カッペリーニと、とても良い関係を築いていますし、向こうもほぼ僕達がデザインするままのものを製作してくれます。一方で、フロスやマジスは特定の指示があったりするので、何回もミーティングを行って細部を詰めていきます。僕としては、それも良いんじゃないかと思いますね。

コラボレーションなんかはどうなのでしょうか?去年のニューヨーク・デザイン・フェアでは、パントンをメインスポンサーに、100人分の座席を中央エリアに作る依頼がありましたよね。あの素晴らしい「パントン・チェア」の発想は、どこから来ていたのでしょうか?
エドワード:まあ、あの時の予算はそう大きなものではなかったので、あの期間中に全く新しい椅子をデザインするのは無理でした。頑丈で生産コストの低いフライト・スツールは既にできていて、あとはどうやってパントンの色を見せるかという問題だったんです。最初は様々な色の椅子にしようと思っていたのですが、それもありきたりだと思っていたところでパントンのカラーチップを思いついて、全てが上手くいきました。

本当の色を見せたオリジナルの「フライト・スツール」。2005年ニューヨーク・デザイン・フェア会場用の「パントン・チェア」

「パントン・チェア」展示会用の紙製模型。パントン48色、各色2個ずつ。グラフィックはパントンのカラーチップを元にしている。
ジェイ:色は本当に綺麗に出てくれました!ロンドンに戻った後、売却用に個展を開いたんですが、全部売れてくれましたしね。しかもすぐに!これは、パントン48色×2の限定版だったので、もう二度と買うことはできないんですよ。

あら、残念。私も一つ欲しかったです!パントンの全色の中から家具が選ぶことができたとしたら、なんて贅沢なんでしょう!
ジェイ: そうですね、誰もがそう言います。(エドワードさんに向かって)あれはまたやるべきかもしれないね!
エドワード:………(無言で首振り)

実際のところ、二人一緒に仕事をするというのはどんな感じですか?ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで出会って、バーバー・オズガビーを始めて、ユニバーサルデザインスタジオも作られて、それでもまだ友人でいらっしゃる!(笑)どうやって一緒にデザインするのでしょうか?
ジェイ:確かに僕たちの場合は、1人と話すのとは少し勝手が違うかもですね。2人だと常に会話があって、掛け合いが絶えることがない。2人で歩き回れば、どちらかが何かに気付いてもう片方と分かち合いますから、目が倍あるようなものです。
エドワード:どのみち、表向きには1人で作業しているデザイナーの知り合いも、全員いつだって誰かと合同で作業しているか、スタジオの他の人たちに意見を聞いているか…もしくは、自分自身でデザインすらしないとかね!(笑)
あなた方の設立したユニバーサルデザインスタジオは、コラボレーション企画のインテリアと建築部門だそうですね。現在、こういったプロジェクトにはどれだけの時間を割いていて、今はどんな作品に取り組んでいらっしゃるのですか?
ジェイ:今の時点では、大した活動はしていません。以前はバーバー・オズガビーとユニバーサルデザインスタジオで半々くらいだったのですが、今は完全にバーバー・オズガビーに重点を置いています。現段階でのユニバーサルデザインスタジオ側の動きは、主に海外のものですね-韓国のデパートや香港のお店、それとニューヨークで色々かな。

ジェイ:建築の仕事は多大な時間を必要としますし、僕たちが一緒に仕事をする相手-ステラ・マッカートニー、ダミアン・ハーストやポール・スミスなど-は、要求もとても厳しいものです。完成した作品からは「彼ら」と「僕ら」が見てとれますが、バーバー・オズガビーとして作業する時はそれとは全く違う、純粋に「僕ら」だけの世界です。そういった理由で、別々にしているのですよ。

色々な素材や新しい技術には、どれほどの興味を持たれますか?まず形ありきで、こういった要素はその後に来るものですか?
エドワード:もしそこに役立ちそうな新しい技術があれば、そんな良いことはないですが、現実はいつもそうとは限らないんです。でも、世の中には既に十分素晴らしい素材が溢れてますから。
今、珍しい技術を使って行っているプロジェクトは2つあって、一つは「ゼロ・イン」テーブル。これは元々はエスタブリッシュド・アンド・ソンズの依頼で、研磨したアルミでデザインされたものでしたが、今ではランドローバーのバンパーを作る会社によって、非常に硬度の高いプラスチックでも作られています。この技術が家具に使われたのは初めてだそうで、殆ど壊れることがないだけにとても良い素材だと思いますね。
環境を問題を除けば、良さそうな感じですね。

ジェイ:僕たちにとって、同じ物体を二つの異なる素材で作るのはこれが初めてです。いつもなら、僕たちの作るフォルムが作品を制作する過程を表しているので。

エドワード:それから、今はスウェーデンの会社と、圧縮したフェルトを使った椅子に取り組んでいます。この技術が家具に使われたのはやっと2回目だと思いますね。フェルトの毛布を型にはめると、本当に硬く、とても薄くなるのですが、これを使って椅子の外郭を作るんです。今は内側の作業をしているところですが、模様を弄るのは楽しいですね!この椅子は、ネジや金属を一切使わず、100%布だけを使用して作られる予定です。

スタジオで、現在日用品ブランド「マジス」の依頼で制作している「フックス・オン・レイル」の、フック。鉤の要素について話し合うジェイとエドワード。4年前のアイディアをベースに、学校や事務所、家庭などを縫って走る、ハンガーや鏡、レター・トレイや携帯、鍵束などの要素を含む一本のレールを改造した。
最近ですとウォールペーパー誌の「最も影響力の強い40歳以下の創作家40人」の特集などのように、お二人の作品は多くの雑誌や本で取り上げられていますが、これはお二人にとってはどんな意味を持つのでしょうか?
ジェイ:それは、そういう本に二度と登場しなくなるまであと3年ってことですね!(笑)
エドワード:ある意味光栄なことなんでしょうが、実際にはあまり大きな意味はないですよ、ただすべきことをしているだけで。
では、近日中に発表されるバーバー・オズガビーのデザインには、どんなものがあるのでしょうか?
エドワード:今年は、ポートランド・プレイスにある王立英国建築家協会の玄関用の家具デザインを依頼されました。それから、クラシコムの依頼で作ったこのコート掛けもお見せできますが、これは来年発売予定なので、まだ発表できない段階なんです。
素敵ですね!
最後に、以前からヨーロッパの-そして特にイギリスの-製品デザインは群を抜いていると思っていたのですが、アジアのデザイナーはあまり注目を浴びることはありませんよね。これについては、お二人はどうしてだと思われますか?
ジェイ:こちらでは、アメリカと同様に専属デザイナー業界が主流だからではないでしょうか。個人で立ち上げて作業をする人が少ないように思えます。深澤直人氏が良い例ですが、IDEOに所属していた頃は全くの無名でした。それが独立すると、すぐにあの深澤ですからね!
大企業に囚われている有能なデザイナーは沢山います。イギリスでは、特にRCAを卒業していたりすると、自分の事務所を持つことを強く勧められますから、そこが大きな違いだと思いますね。
エドワードさん、ジェイさん、朝食中の素晴らしいお話をありがとうございました!今後の新しいプロジェクトが成功するよう祈ってます!
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あえて形をシンプルにすることで、色彩を際立たせたバンドンチェア。顧客のニーズに見事に応えた、デザイナー冥利に尽きる作品ではないでしょうか。
バーバーオズガビーがループテーブルの先駆者であることにも納得です。時代の先を行く曲線の魅せ方を、そこに見た気がします。
Posted by: Ig Nobel @ 12月31日2006年
Aw, this was a very nice post. In thought I want to write like this – taking time and precise effort to make a very good article is very rare…
Posted by: ford hats @ 11月12日2011年