
先日、公園を横切るとたくさんの子供と大人達が何かを囲んで、楽しそうに笑っている光景を目にし、気になって近くに寄ってみた。すると、そこにはなんと、あの街頭紙芝居師がいた!紙芝居に向ける子供達の眼差しは真剣で、燦然と輝いている。私もまた、初めて見る紙芝居師の抑揚のある声やその貫禄、胸に迫ってくるような紙芝居の絵にすっかり夢中なってしまった。それに何よりも印象的だったのが、懐かしさのあまりか、大人達の顔が子供達よりも嬉しそうに見えたこと。今回は、そんな人々を惹き付けてやまない、魅力溢れる紙芝居屋さんをご紹介します!
作:リョウコ
街頭紙芝居師
街頭紙芝居師の存在を知らない人のために、最初にその紙芝居師について、簡単に説明しておこう。まず紙芝居とは、一人の人が、聞き手に物語の絵を見せながら、台詞を言ったり、説明を加えたりして、物語を進めるていくパフォーマンスのこと。その紙芝居を仕事とし、路上で行う人を街頭紙芝居師、または紙芝居屋と呼ぶ。もとは大道芸人(ちんどん屋)の流れから来たそうだ。

永田さんと子供はとても仲良し

紙芝居を始めた当初の様子
今回、私はラッキーなことに、もう今では風前の灯火といわれる街頭紙芝居師に会うことができた。東京・江戸川区の鹿骨(ししぼね)に在住する永田為春(ながた・ためはる)さん78歳は、この道52年になる街頭紙芝居師。紙芝居師をする傍ら、家では駄菓子屋を開きながら、奥さんのよしさんと二人で睦まじく暮らしている。そんなほのぼのとしたご夫婦に、永田さんが若かった頃の写真を拝見しながら、紙芝居にまつわる話を伺った。

昔の子供達

拍子木を貸してとせがむ子供
紙芝居は昭和初期の日本で誕生した。紙芝居屋さんの全盛期は昭和二十年代。この時期、紙芝居は児童文化の中心であり、東京には紙芝居屋さんが3000人位いたそうだ。しかし、昭和30年代半ば頃からの急激なテレビの普及、子供達の塾や習いごと通いの増加で、子供が外で遊ぶということが減少し、紙芝居は年々下火になっていった。今となると、紙芝居師を見かける機会は殆どない。

街頭紙芝居師の活動時間は子供達が学校から帰って来る夕方頃。その時間帯になると、30キロほどの紙芝居道具を自転車の荷台に乗せて、自転車を走らせ子供達の集まる場所へと向かう。多い時には一日に五・六ヶ所ほど廻っていたようだ。そして、目的地に着いたら、拍子木を「カンカン」と打ち響かせて町内を徘徊り、子供達を呼び集める。すると、どこからともなく紙芝居に思いを馳せた子供達が集まって来る。


こちらの菓子名は“パンダ”。為春さんが生み出したお菓子だとか

水飴の原液が引き出しの中に用意されている

紙芝居箱に入れられたメニュー
子供達にとって、紙芝居のもう一つの楽しみは、安くて見た目も面白い駄菓子である。駄菓子には、味の違う何種類かの水飴やら、動物の形をした煎餅などがあり、今ではあまり味わえないものばかり。

こちらは“型抜き”。うさぎや、傘の線が薄らと見える。その線を綺麗に型通りに抜けたら、もう一枚貰えるのだとか

べっこう飴に麩菓子、ラムネやうまい棒!どれも、30円から100円以内で買えるものばかり

ある程度子供が集まったら、そこで紙芝居を始める。一人で子供の声や女性の声と何役もこなす永田さん。その喋り口調や身動きは、躍動感に満ち溢れている。

昔からずっと変わらぬハンチング帽スタイル。因みに、こちらは永田さんが大切にしている写真の一枚だそう。

永田さん曰く、東京の紙芝居師は永田さんぐらいではないかという。永田さん自身も体力の衰えもあって、街頭で紙芝居をする回数は昔に比べると、随分減ってしまったようだ。それでも時々、祭りや学校の行事などには参加しているらしい。
紙芝居の絵

永田さんが保有する紙芝居の絵はおよそ700巻。街頭紙芝居師の扱っている紙芝居の絵には、戦闘ものが多い。中には、殺し合いをするシーンが存在するため、一時は紙芝居の物語を批判する声もあったそうだ。また、全盛期にはもちろんのこと、紙芝居が衰退していく中でも、永田さんは折りにつけその絵を買い集めてきた。どの作品も全て手書きで、同じものは一つとない。そのひとつひとつが、永田さんの商売道具であると同時に、今では消えゆく文化を残す貴重な資料となっている。今回は特別に、その大切な紙芝居を何巻か見せて頂いた。
「黄金バット」

紙芝居といえば「黄金バット」といわれるくらい、これは大変有名な作品。黄金バットは金色の骸骨の姿をしており、悪役の黒バットを倒す正義の味方。

悪者に攫われた女の子

女の子を助けにゆく黄金バット。ヤァー!!!

超スーパー怪力!

ヒーローが骸骨だなんて、なんて奇天烈な発想だろう
「鉄の爪」
永田さんいわく、この作品のヒーローが、あの月光仮面のヒーローモデルになったそうだ。

白いマントに黄色い縁のサングラス…

あぁぁ!!突然のピンチ!!!

助けてー!!

絶体絶命!
紙芝居の手法は、今でも漫画を通じて日本のアニメに引き継がれているそうだ。あの「カムイ伝」の白土三平や「げげげの鬼太郎」の水木しげるも漫画を描く前は紙芝居の画を書いていたらしい。印刷技術が進んだ現在、複数に刷られた印刷物でもその質感はオリジナルのものとほとんど変わらなく、再現されている。しかし、やはりオリジナル(原画、肉筆)の絵には、その絵に吸い込まれそうな魅力がある。その絵具のひとハケひとハケに、書き手の空気や魂が込められていると思うと、そのライブ感に感動を覚えずにはいられない。それに、たった一つという特別感もその魅力の一つなのだろう。
「鉄の爪」

九尾の狐はウィキペディアでも紹介されている有名な妖怪である

尻尾が9つある
「変幻蛇道丸」

主人公・蛇道丸は蛇に変身して、悪者達を退治する

さすらい人


蛇に変身した邪道丸

邪道丸に助けられた娘さん
「昔は今のように、テレビや洗濯機などの便利なものはなかったし、もちろん子供の娯楽なんぞも数えるくらいだった。けれども、大人も子供もみんな優しくて仲がよかった。近所付き合いや挨拶もちゃんとしていたし、子供達は大きい子も小さい子もみんな一緒に外で元気に遊んでいたもんだ。」と永田さんは語る。現代では生活する上で便利なものが増え、世の中の暮らしは豊かになったが、人の心は貧しくなってしまった。今の時代をよりよくする為には、一体どうすればよいのだろう。タイムスリップすることは出来ないが、人の心が豊かであった時代からヒントを得られるのではないだろうか。
今回、その時代を代表するものの一つとして紙芝居、街頭紙芝居師をご紹介しましたが、ここから何かを感じ取って頂けたでしょうか?永田さん、奥さんのよしさん、ご協力して頂き、本当にありがとうございました!
永田さんからのお知らせ♪
永田さんが本日紹介したものやその他の紙芝居を大切にしてくれる方に譲りたいそうです!値段交渉等は、直接永田さんにご連絡下さい。TEL:03-3679-5911
5 コメント
ウェブマガジン「PingMag」及び、姉妹サイト「PingMag MAKE」は、2008年12月31日をもって休刊いたしました。これまで応援して下さった世界中の皆様、またご協力頂いた皆様に、心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました。
PingMagの姉妹版、日本のモノづくり情報を世界に発信中!
PingMagから大切なお知らせ
2008年12月31日
板谷龍一郎:色鮮やかでユーモア溢れる世界
2008年12月29日
マギボン:YouTube発のネットアイドル
2008年12月26日
ベネデッタ・ボッロメティ:たくさんの元気をくれる不思議な絵
2008年12月24日
中銀カプセルタワービル:未来の建築
2008年12月22日
花村えい子:キュートでポップな60年代の少女マンガ
2008年12月19日
日本のハイテクトイレ事情
2008年12月17日
アミューズメント:アートやファッションと融合するゲーム文化
2008年12月15日
HIROCOLEDGE:現代に溶け込む新たな伝統
2008年12月12日
瀬戸正人:ビンラン売りの甘い誘惑
2008年12月10日








この前、横浜ラーメン博物館で
久しぶりに紙芝居を見ました。
あそこ、1日3回やってるんですよね。
小さい頃は純粋に楽しんでいたのですが
大人になってから見ると
「静止画をずーっと見ているだけなのに
喋り手だけでこんなに動きがつくんだ!」と
違った視点で楽しめますね。
こういった文化、残してほしいなぁ。
紙芝居の引き受け先が早く決まるといいですね^^
Posted by: バッテキ @ 11月8日2006年
コメントありがとうございます。
私も、このような文化が残ればよいなと切に願います。
Posted by: ryoko @ 11月9日2006年
はじめまして。偶然こちらのサイトを拝見しました。新横浜ラーメン博物館で紙芝居をやっている者です。もう十年くらいになりますが、今ではライブハウスや商店街のイベントでもやるようになりました。街頭紙芝居のネタや印刷紙芝居、オリジナルのクイズなんかをとりまぜてやっております。
個人的に当時使っていた肉筆紙芝居をいくつかもていますが、今後もいろいろな作品を上演したいと思っているので、一度永田さんにお話を伺ってみたいと思っています。
今回はこのような熱のこもったレポートを読ませていただき、そのお礼とご挨拶まで、長々と書き込ませていただきました。
それでは、失礼いたします。
Posted by: 廣島屋 @ 1月31日2007年
今日、ちい散歩という番組で、紙芝居と駄菓子について、触れられていました。そこで、紙芝居のキーワードでここのページを見つけることができました。このページ、紙芝居の様子が良くわかっていいです。まだ、紙芝居をやっている方がいらっしゃるのですね。伝統芸能のようにずっと、残って欲しいと思いました。
さて、今回は、この記事を私のブログのページでご紹介させていただいたお知らせも兼ねて参りました。もしも、このご紹介について不都合があれば、お詫びを申し上げると共に、その旨、私のページの最新のコメント欄にご一報下さればうれしいです。確認でき次第、紹介の方はとりやめさせていただきます。もちろん、リンク継続OKということであれば、ご一報下さる必要はございません。今後ともよろしくお願いいたします。http://sapuri777.blog31.fc2.com/<–最新のページ
Posted by: テレビなコラム @ 4月4日2007年
嬉しいコメントを、ありがとうございます。勿論、ブログで紹介して頂けると光栄です。
Posted by: ryoko @ 4月4日2007年