ADAPTER:東京を刷新するデザイン集団

2006年9月25日 カテゴリー: イベント/展示会, グラフィック, 国内

ADAPTER:東京を刷新するデザイン集団

© Adapter

あらゆる情報の共有化が地球規模で進行し、ベッドルームと世界がつながったWeb2.0時代。急速な勢いで地球が縮まり続ける今(それこそGoogle Earthで、地球一周が数分で出来てしまう時代!)、「東京」という限定された一都市の意味を考えることはナンセンスなことなのかもしれない。でも、逆にこんな時代だからこそ東京でしか生まれ得ない感覚というものが、来たるべく次の時代のキーワードのようにも思えてくる。そして、その東京的感性を体現する若手クリエイターの筆頭株ともいえるのが今回紹介するADAPTERだ。8/19〜9/17までの約1ヶ月間、東京・渋谷のNANZUKA UNDERGROUNDで開催された「眩暈(めまい)」展によって、さらなる注目を集めるADAPTERの針谷建二郎氏に話を聞いた。

インタビュー:原田優輝

まずは自己紹介をお願いします。

デザイン集団ADAPTERを運営するアートディレクター/グラフィックデザイナーです。デザインワークのほかにも、ヴィジュアルレーベル「Public/image.」の企画運営、フリーマガジン「Public/image.magazine」の発行、アパレルを主軸としたアートプロジェクト「Vermilion」のクリエイティブディレクション、「NWBA」という展覧会のキュレーションなどもしています。

原宿のKDDI DESIGNING STUDIOにて開催された「Public/image.magazine Vol.3/Football Liberated」との連動エキジビション「60 Football Visions Exhibition」の模様。この展覧会では、60人のクリエイターがサッカーボールのデザインに挑戦した。 © Adapter

アートプロジェクト「Vermilion」© Adapter

では、早速ですが先日開催されたばかりの個展についてお話を聞かせてください。

昨年10月にパリの「SURFACE TO AIR」で「More than human」という小規模な個展は開催しているのですが、国内では’04年に「ROCKET」と「BEAMS-T」で同時開催した個展「CAMPAIGN」以来、約2年半ぶりのエキジビションになりました。

NANZUKA UNDERGROUNDで行われた「眩暈(めまい)」展より © Adapter

ちなみに、前回(2004年)の個展はどのような展示だったのですか?

自分が表現を志していた頃の一番ショックだった出来事が、やはり「9.11」だったんです。当時の熱気とか妄想みたいなものを自分なりに加速させていった結果が、あの時の展覧会でした。だから、偏執狂的なコラージュ作品が多かったんです(笑)。でも、そういうテンションが、当時の僕にとって“展覧会”と呼ぶにふさわしいものだったという感じはありましたね。


「Surface 2 Air」© Adapter

パリのSURFACE TO AIRで昨年開催された「More than human」展より© Adapter

その頃から現在までを振り返ってみて、何かご自身に変化のようなものはありましたか?

「9.11」から現在に至るまでに、アフガニスタンとイラクで大きな戦争がありましたよね。戦争反対を唱えて、多くのクリエイターも動いていたと思うんだけど、僕自身(戦争は)終わらないよなって引いて見ている部分があったんです。‘04年の個展の時に、僕が表現しようとしていたことも、(戦争に)つながりがあるのですが、戦争をやめさせようというアクション自体は、クリエイターにとって大事なことだとは思うんです。でも、実際それが、どこでどうやって役立っているんだろうという部分は、ずっと消化不良だったんです。

その感覚は今でもずっと持っているのでしょうか?

基本的にはそうですね。でも、僕の好きなアーティストにBANKSYという人がいて。彼は、パレスチナを囲っている隔離壁にペインティングをしたり、反戦をテーマにしたメッセージ性の強い作品など、彼だけにしか出来ない表現を数多く作っているんです。賛否両論あるんだけど、その姿勢はスゴくいいなって思うんです。クリエイターとして“Peace”を謳っていくことは当然必要なんだけど、もっとパーソナルな所に立ってやるということがポイントのような気がしていて。BANKSYの動きを見ていると、自分的にしっくりくる部分が多かったんですよね。

それが、今回の個展につながっていったということですか?

いや、BANKSYの作品なんかを見ていると、逆に中途半端に前回の展覧会の延長線上にあるような展示は出来ないなと思ったんです。自分の中で、それを題材にした時に新しく提案できる表現が今はなかったというか…。次のアクションとしては、もちろんそういった表現も考えてはいるけど、現時点でそれを自分がやることは違うと思った。そうなった時に、よりパーソナルな表現に立ち返ることを選択せざる得なかったんです。

そういう心の葛藤のようなものがあったなかでの今回の個展だったんですね。

パーソナルな表現方法で、自分がグラフィックが好きだという気持ちをどう世の中と接点を持たせつつ、発表していくかがポイントでした。自分の本質はコラージュだというのは昔から変わらずあったので、それを追求していくことにしたんです。ただ、僕らみたいに普段デジタルでやっているところだと、それだけで終わってしまいかねないので、フレーム自体を変化させたりとか、変わったアプローチで作品に落とし込むとか、データ上だけでは終わらない方向というのは追求していきました。それと、今回はある意味(受け手に)媚びない表現にしようという気持ちもありました。普段は女性アーティストとの仕事も割と多いので、わかりやすいモチーフを入れたりして、受け入れてもらえるようにデザインしている部分もあるのですが、今回は極力それを排除していきました。

「眩暈(めまい)」展では、変形フレームやシルクスクリーンを用いて、デジタル・アートワークの新しい可能性を追求した作品が数多く見られた。© Adapter

「眩暈(めまい)」展より © Adapter

「眩暈(めまい)」展より © Adapter

今回の個展にあたって、何かインスピレーションを受けたものはありましたか?

レイ・ハラカミさんの音楽をよく聴いていました。彼の作る音楽には基本的には歌詞はないんだけど、なんとなく雰囲気としての“言葉”があるんですよ。打ち込み音の連なりだけで構成されているんだけど、背景や言葉が感じられる。自分なりに何ができるかを考えた時に、彼の作品にすごく共感できる部分を感じたんですね。例えば、JPEGで集められたコラージュによるアートワークを、シルクスクリーンを使った表現で落とし込んだりという方法論は、彼の音楽性とも共通する感覚かなと思うんです。

デジタルとアナログの融合ということですか?

いや、僕らの少し前の世代だと、そういうことになるのかもしれないけど、僕らの世代にとって、デジタルとアナログが交差していることって当たり前のことで、それほど強く謳うほどのことではないと思うんです。いまやテクノロジーの影響を享受しているのは当然のことだし、デジタルとかアナログとかをあまり意識していない。ポイントなのは、それがもう表現のフォーマットになっているということかなと思っていて。これは、若い日本人のクリエイターたちに共通している独自な感覚だと思います。デジタルの意識の仕方が東京はこなれている感じがします。


「眩暈(めまい)」展より © Adapter

「眩暈(めまい)」展より © Adapter

昨年個展で初めてパリに行かれた時、そのような東京独自の感覚はどのように受け止められたのでしょうか?

今話したことは感覚としては、東京的なものではあるのですが、実は僕自身の話をすると、作風自体はヨーロッパのクリエイターにかなり近いんです(笑)。実際彼らの影響も強く受けてきているので。だからこそ、もう一度「日本」というアイデンティティを強く意識しないと、海外に出た時に彼らのなかに自分の作品が埋もれていくような気はしました。アウトプットが似ている分、差別化するためには作品の強度が必要というか。もっと“日本的なもの”を打ち出していった方がインパクトはあると思うし、その代表が例えば村上隆さんのような人なんだと思います。僕と同様に、日本人クリエイターには、ヨーロッパのデザイナーに影響を受けている人達はたくさんいます。でも、今では日本人が彼ら(ヨーロッパのデザイナー)を超えていこうとしているという一面もあります。ディテールを極めていくというのは、日本人の特性でもありますからね。でも、あの時点で僕自身は危機感を感じたんです。

パリのSURFACE TO AIRで昨年開催された「More than human」展より © Adapter

そうなった時に、その「日本的なもの」というのをどう捉えるのかが重要ですよね。それを、「古き良きニッポンの文化」として、ある種のオリエンタリズムを持って捉えるクリエイターも少なくないような気がしますが、その辺りはどう考えていますか?

それは違うかなと思います。「ニッポン!」「KYOTO!」みたいなものではないと思うんです。東京に関して言ったら、特徴的なのは“レイヤー感”なんじゃないかな。それと尋常じゃない情報収集力(笑)。例えば、宇川さんみたいに、素材を異常なほどアーカイヴして、並列に置いていく感覚とかは、海外の人が見ても新鮮な気がします。ある種のオタク的な感性というか。あと、マストワンとかもすごく東京的だなと思います。レイヤー感と複製感、そして肉体的なアクションが入ってる感じとか。

現在の東京を牽引するクリエイターたちが持っているそうした感覚に影響を与えてきたのが、彼らが子供の頃に享受してきた文化ということですよね?

そうですね。当然、時代はどんどん更新されていってますからね。僕らの世代って、例えば「ビックリマン」だったり「ファミコン」だったりするわけじゃないですか。そういうゲームとかをやってきた世代とそうでない世代って結構差があるような気がするし。僕自身もゲームなどの影響はスゴく受けてます。

具体的にはどのような面で、それらの影響を受けていると感じますか?

先ほども話したように、僕の作品はある種ヨーロッパのクリエイターに近い作風ではあるんですが、自分の国の影響を受けているのは、そういったアウトプットの部分ではなく、作業過程の面だと思うんです。例えば、素材の詰め込み方やコラージュ感。コラージュ自体は、昔からある手法ですが、昔の手作業で切り貼りしていたコラージュと、僕らのようにデジタルで画像をアーカイヴして作る感覚ってやっぱり違うと思うんです。今だったらPhotoshopで、コラージュした画像を、同じ質感にすることが結構簡単にできてしまう。完全にすべての素材が一体化するんです。その辺の違いを面白がってやっていく感覚が、僕も含め東京のアーティストに顕著なんだと思います。


「眩暈(めまい)」展より © Adapter

「眩暈(めまい)」展より © Adapter

「眩暈(めまい)」展より © Adapter

「眩暈(めまい)」展より © Adapter

その違いをわかった上で楽しんでくれる人は、海外にもいるんですか?

説明してあげれば理解してくれるし、好意的に受け取ってくれますね。この辺りは日本人のクリエイターとして、(海外クリエイターと)しっかり差別化していきたいなという部分ではあるんですよね。

海外において、日本のクリエイターの活動を認知してもらい、広めていくことは可能だと思いますか?

僕らがやっているようなことが好きな人は、世界中に少しずつはいるんです(笑)。だけど、海外で展覧会なんかをやったりしていくなかで、全面的にはなかなか(広めていくことが)難しいという感じも正直ありました。結局何でも受け入れてくれる土壌があるのは、日本なのかなとも思います。特に、日本のグラフィックのクオリティは今、異常なくらい高い所に向かっていて。数も多いし、レベルは高い。それに対して、「BEAMS-T」みたいなところが買ってくれたりもしているから、ある程度ビジネスにもなる。そういう意味で、やっぱり東京ってスゴいのかなって思いますね。

では、しばらくは東京を拠点に活動していく予定なのですか?

海外でやりたいという気持ちも当然あるんですが、現状だとどうしても東京がメインになってしまうというのはありますね。それこそ、海外で展開していくには、地元にエージェントを置いたり、事務所を構えたりしないと難しい。最近は、日本のクリエイターの作品が、海外の作品集に収録されていることも結構あるけど、ほとんどの場合、それはビジネスにはつながっていかない。やっぱり、その国に入っていって向こうの人間と直接戦っていかないとビジネスとは言えないと思います。まだ、今の日本のクリエイターの活動は、海外ではプロモーションでしかない場合が多い。次の段階では、ビジネスを真剣にやっていくという考えはあるけど、現時点では国内で足場を固めようと思っています。海外はその次ですね。

最後に、現在の東京のクリエイティヴシーンについて、どのように感じられているかを教えてください。

もっと、自分たちで立ち上げていく人がいないと厳しいなと思っています。ウェブとかもどんどん広がっていて、表現手段は整っているんだし。そういう所が少ないから自分たちでやっていかなきゃというのも正直あります。また、面白いことをやっている人たちも確実にいるんだけど、そこにはお金が下りてこないことがほとんどだし、橋渡しをするコーディネーター的な人も少ない。そういう意味で、今はだいぶシーンが落ち着いてしまっているように感じます。でも、その反動で3年後くらいにもっとヤバいヤツらが出てくることをスゴく期待しているんですけどね。

2 コメント

  1. 作品どれも、カッコイイと思いました!

    Posted by: taro @ 9月26日2006年

  2. やります!!!

    Posted by: Akagi @ 5月23日2008年

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