
ロス・ミクブライドは、おそらく、外国人デザイナーの中では、最も長く日本に暮らしているうちの一人である。彼がグラフィックデザインを手がける会社の社員として働き始めたのは、もう20年以上も前の事だ。現在、自身の会社である「ノーマル有限会社」を麻布十番に立ち上げ成功を収めている彼に、日本でビジネスを立ち上げるにはどんな事が必要なのか、市場はどう変化しているのか、そして、ノーマル有限会社の近況について聞いてみた。
インタビュー:ウレシカ
訳:ジュンコ

20年前の来日当時って、デザイン界はどんな風でした?
その頃、日本はバブル経済の真最中で、凄い金額を稼いでる外国人が沢山いたよ。もっとも、独立したデザイナーではなくて、皆、大手に所属する人ばかりだったんだけど。でも、彼らは皆、バブルがはじけた途端、さっさと日本を離れて行ったんだ!残ったのはたった5人ほどだから、全員が顔見知りだよ(笑)。カナダ人グラフィックデザイナーのダグラス・ドリトル、大阪にいるドイツ人…彼らは明らかに、日本での暮らしが気に入ったんだな。
バブルが弾けた後の2~3年は、経済的に厳しいだけじゃなくて、かなり退屈でもあったね。とにかく皆、何にでも凄く慎重になったからさ。まずデザインの予算!…それ以前は誰も失敗を恐れなかったんだよ。例えば、カタログを作る時、まず全体を印刷してみて、何か問題があれば単に印刷し直せばいいや、みたいな感じ。でも、バブルの弾けた後は、カタログを印刷し直すなんてあり得ない!っていう状態だった。とにかく全てに関して、安全過ぎるくらいにしないとって思ってたんだね。しばらくそういう状態が続いた後は、また色々とかなり面白くなったかな。世の中全体が新しい経済状態に慣れていったし。そんな中、バブルが弾けても日本を去らなかった外国人デザイナー数人は、しっかりと地位を築く事が出来たんだ。なぜなら、厳しい状態を皆で一緒に乗り越えられたからかな。NamaikiやKDaが出来たのはちょうどその頃だったよ。あれほど大成功して国際的になったのはKDaが最初だと思う。
なぜ、グラフィックデザインからプロダクトデザインに転向したんですか?それはどんな風に起こったんでしょう?
バブル経済が弾けた後も、しばらくはグラフィックデザインをやってたんだよ。そうだな、10~11年くらいかな。自分のオフィスを持って、基本的にはフリーランスデザイナーとして働いてた。でも、ある時、うんざりしてる自分がいたんだ。…デザインするのは好きだったけど、グラフィック・デザインのビジネス面が嫌いになり始めていたんだよ。クライアントとの関係に苦しんでたし、正直、アメリカに戻る事も考えた。でも、やめる前にちょっとだけプロダクトデザインをやってみようって思ったんだよね。専門知識は無かったけど、ずっと興味を持ってた分野だったし、自分が使うものだったら、色々作ってたからね。それで、手始めに時計(グリッド時計)を作ってみたんだけど、これが実際かなり売れたんだよ。

その成功体験が、2番目の製品を作る自信を与えてくれたんだ。…ま、結局それは完全に失敗に終わったんだけどさ(笑)でも、学ぶ事は多かったよ。
まず最初にノーマルブランドがあって、それから、しばらくポストノーマルの名の下で、他の人たちとコラボレートしてましたよね。でも、最終的に、ノーマル有限会社で、再び自身のデザインに焦点を合わせる事にしましたよね。実際、日本での生産活動って、どんな風なのかなって思うんですけど…例えば、どんな困難がありましたか?特に始めの頃とか?
実際にやってみると、思ってたよりは遥かに簡単だったよ。必要な物を揃えるのには大体1年を必要としたかな。工場を見つけて、製品を作ってみて、コストダウンを図るのにね。今ではすっかり良い友達になった、プロダクト・デザイナーの増田ハルコは、そういう全ての面で助けてくれたよ。僕らが必要とする人への連絡は、みんな彼女がやってくれたんだ。
それぞれの分野にぴったりの専門家を見つけたら、もう全て手に入れたのも同じ。重要なのは、コスト管理だけどね。最高の品質を得るだけじゃなくて、コストを下げる事が大事って事なんだけど、実際、日本で物を作った場合、日本国内だったらまだ売れるけど、外国では絶対売れないからさ。…値段を下げられないからね。そういう事を、長らくかかって学習したね。
では、製品が出来上がったら、そこでどういう手に出るんですか?日本では、どうやって売ればいいんでしょう?
僕自身びっくりしたんだけど、ショップに直接持って行って製品を見せるんだよ。もし彼らが気に入って値段的にも適当だと思ったら、それを買い取ってそこで販売してくれる。
とにかく、東京でいくつか“良い店”を見つける事だね。アクシス・ビル、原美術館、デザイン・ミュージアム、Cassina、Cibone… 後は全て勝手に進んで行くから。東京にはあらゆるメディアが揃ってるし、スタイリストもいる。それから、地方や近郊の街のショップは、常に東京で新しい製品を探してる。…もし自分の製品を良い店に置く事が出来たとしたら、それを見つけてくれる人がきっといて、ある日突然その製品が雑誌に載ってるのを発見するか、もしくは日本中の店から電話を受けるかする事になるんだよ。…そういう風に、全て自動的にうまく収まって行くものさ。
ラッキーな事に僕はグラフィックデザイナーだったから、ウェブサイトとか、そういった類の宣伝サイドの事に関しては、かなり簡単だったけど。

日本でビジネスを成功させるには、どんな事が必要だと思いますか?
謙虚になる事! もし元々日本の文化にしっくりくるような態度が身に付いているとしたら、頭に来ることや馬鹿げた事が色々あったとしても我慢が出来るし、日本での生活で出会うユニークで貴重なもの全てを楽しむことが出来るよね。…そういう事が単純に無理な人達も、中にはいるからさ!日本に来たばかりの外国人に会うと、その人がここで暮らせる人かどうかって事が、僕には数分で何となく見分けがつくね。
日本語が話せれば、尚よし! 当たり前だよね!もし日本語が話せないなら、その場合はいつも誰かに頼らなきゃいけないわけだから、とにかく本当に信じられて理解し合える人を見つける事だよ。僕自身、実際まだ自分で全てをこなす事は無理だし。ここで成功したそれデザイナーは、皆、良いビジネスパートナーを見つけてるよ。細々したコミュニケーションの壁を取り除いてくれて、お金に関する事にも対処してくれるようなね。
外国人って事は、ここ日本では自然にそれだけで人と違っているわけだから、自分自身を宣伝するのは楽なんだ。まずドアに一歩足を踏み入れるのはね。質の良いポートフォリオがあれば、仕事をもらうのは簡単かもしれないよ。“でも”、その後もクライアントと関係を保ち続けるプロセスは、他の国でのプロセスとはちょっと違うな。
仕事を得られたとしたら、それは外国人だから これは大きいよ。だって、日本人でも出来る事だったら、そりゃ日本人の誰か他の人に頼むだろうからね!
それぞれの国には当然それぞれ違ったステレオタイプがあるわけなんだけど、日本でもし仕事を手に入れたとしたら、各国のスタイルを出すというよりは、まずは“外国人”というカテゴリーの人間になりきる(ある意味、厳しい要求ではあるけど)事も手だろうし、と同時に、自分は全てを知っているわけではないって事を自覚する謙虚さも必要だと思ってるよ。
実際、日本に来る多くの人が、一般的な日本人デザイナーよりも自分の方が色々良く知ってるって思ってたりするんだけど、でも実は、それは単に異文化だっていうだけなんだよ。1つの文化の中で成長したら、1つの方法しか知らないわけだし、自国以外の文化を評価するなんて事は、その場所にしばらく暮らしてみない限り出来っこないはずなんだ。ある物を、その背景にある文化も含めて理解しないまま見た場合、それは馬鹿げた事に見える事もあるかもしれない。でも実は、その文化の中においては、とても有効な事なのかもしれないでしょ。自分には知らない事がたくさんあるんだって事を念頭に置いておく事、これはまず第一に必要な事なんじゃないかな。


私はいつも、日本って何にでも凄く時間がかかると感じてるんですが、それって、信用を確立するのに時間がかかるからなんですかね?
それは自分の姿勢にも依ると思うけど…人より早く出来る人もいるしね。例えば、Claudio Colucciの成功までの道のりは凄く速かったよ。
日本のプレゼンでは、どんな経験をされました?実は私自身、有名な日本の会社で初めて大きなプレゼンに参加した時、凄いショックを受けたのを覚えてるんですが。皆ブラウザーから直接プレゼンして、何枚かのフォトショップをいちいちクリックして変えてみたりと…。その頃の私は、超なめらかなFlashのプレゼンに慣れてたのに!…それが日本のプレゼンでの見せ方であって、まだ開発の途中なんだし仕方ないって納得するのに数年も要しましたよ。それに、まだなめらかでも完璧でも無いって事を知りながら、まるでそれが完璧に仕上がってるみたいなふりをする事は、不正直で、フェイクなんだろうなって思ってたし…。未完成のボタンがあった場合、西洋だったら、それについて言及するのを避けますよね。でも、ここ日本では、そのボタンは見せるためにわざわざクリックされるんです。…「まだこれは動作しませんが、我々は今これに取り組んでるんですよ!」って具合に…。
以前僕はグラフィックデザイナーとしてイガラシ・スタジオで働いてたんだけど、彼は、1週間でロゴのデザインをしたんだ。次に、僕ら他のデザイナーが、皆で出来るだけ多くの異なったバージョンをおよそ半年かかってデザインしてみた。最終的なプレゼンテーションの日、代表の五十嵐さんは、僕らがデザインしたロゴで埋め尽くされた壁を指して「我々がこの期間全てを使ってあなたのために行った仕事です。」って言った後、自分が1週間目にしたデザインを引き抜いて、こう加えたんだ。「これが一番理想的なものです…。」ってね。彼は先生だったから、どちらにせよ彼の意見に疑問を持つような人はいなかったんだけど、このプレゼンに注がれた全ての努力が、この一瞬でクライアントに与えた影響力はほんとに素晴らしいものだったよ。
あなたは「100% design」のパネルメンバーでもあり、「デザイナーズ・ウィーク」にも長年関わっていましたが、その仕事の内容とはどんな物なんでしょう?それから、今年の「東京デザイナーズ・ウィーク」では、どんな事が期待出来そうですか?
パネルメンバーの仕事は、陪審になるという事だよ。100%でプレゼンしたい人は誰でもポートフォリオを提出しなきゃいけなくて、毎月、僕らは会社やプロジェクトのリストに目を通して、イエスかノーの返事をするんだ。
IDEEとデザイナーズ・ブロックが去年姿を消して以来、彼らは「デザインタイド」とCiboneを始動したんだけど、Ciboneのヘッド(マサキ “マック” ヨコカワ)も100%のパネルメンバーだし、100%は「デザイナーズ・ウィーク」のサブ部門だし…って事で、最終的に、異なったイベントオーガナイザー間の全体の関係が大いに改善されたんだ。実際それまでは「デザイナーズ・ウィーク」と「デザインタイド」は全く別々のイベントだったんだけど、今では関係が深まって、情報を共有するようになったり、全体として調整されるようになったね。イベントの規模は大きくなったけど、より理解しやすくなったよ。
それから、今年の「デザイン・タイド」では、僕の新しい腕時計を紹介するつもりだよ。

実はちょうどその質問をしたかったんですよ!ロスさんは時計が好きなようですが、どうしてですか?
そうなんだよね…(笑)。最初の製品を発売する前の1997年の事だけど、自分がデザインした12個の時計の展覧会を開いた事があってね。中でもグリッド時計、ベートーベン時計(Beethoven Clock)がその当時の原型だよ。

「Beethoven Clock」

「Aitkenhead Clock」
これについて哲学的に語ることも可能だとは思うけど、実際はただ簡単に思いついたのが時計だったって事かな!


「Sinking Clock Horiz」

「Digital Dali」つい最近「Gizmodo」に取り上げられたロスの過去の作品
ノーマルの近況を教えて下さい。
ノーマルは、最近かなり注目を浴びてるんだ。「Gizmodo」や、台湾のウェブサイト(完全にクラッシュしちゃったけど)に取り上げられたり、僕自身はフジテレビの番組「ニュー・デザイン・パラダイス」でも仕事したよ。その番組は、「既存の、ある製品を再デザインしてみたらどうなるのか…」というテーマの内容なんだけど、本当に楽しい経験だったよ。
今現在、一番大きなクライアントの中には、INDIVI等のブランドを90も持っている株式会社ワールドもいて、Soupっていうブランドのインテリアデザインを任されてるんだけど、インテリアデザインの仕事は、まとまった利益になるし、評価を上げる事も出来るから良いね。もしインテリアで良い結果を出せたら、スタジオのイメージアップにもつながるし。それから、カフェをデザインする時にはライトもデザインする事があるんだけど、そういう場合は、それをまた新しい製品として販売する事にもなるんだ。
僕らは今、こんな感じで進んでるよ。
ありがとうございました!自分試しに東京へ来たガイジン・ニューウェーブが、あなたの経験を糧にしてくれる事を願います!
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Posted by: Nicolas Jagger @ 3月3日2012年
外国人が東京で会社を始めるということ good post1047
Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年