キュレーターという仕事

2006年8月18日 カテゴリー: イベント/展示会, インターナショナル, 国内, 特集

キュレーターという仕事

デザイン・ミュージアムで行われた「デザイナーズ・オブ・ザ・イヤー2006」より、ゴリラズのビジュアルを手がけるジェイミー・ヒューレットのインスタレーション(Photo by Ed Reeve)

現代美術の展覧会が好きな私には、ここ数年気になっていたことがあった。それは展覧会の構成に“編集”を感じること。展覧会である以上、編集が存在するのは当然だが、最近は目的やメッセージなど、展示空間の中で何かを意図的に考えさせられる展覧会が多くなったように思う。それと同時に、最近よく耳にするようになった“キュレーター”という職業。キュレーターとは何をする人なのか。いつもユニークな編集をみせてくれる日本と英国の学芸員/キュレーター5人にお話を伺った。

作:村上千博

美術館のキュレーター・学芸員とキュレーティング

1:水戸芸術館 現代美術センター 学芸員 高橋瑞木さん


水戸芸術館の外観

水戸芸術館の高橋瑞木さん

今年で開館16年目になる水戸芸術館は、財団法人水戸市芸術振興財団によって運営されている茨城県水戸市にある現代芸術の複合文化施設。都心から離れているにも関わらず、質の高い現代美術を紹介する国内のトップレベルの美術館のひとつとして、最近では市民参加型の企画展「カフェ・イン・水戸」や、市内16箇所に作品を展示したグラフィティの展覧会「X COLOR:グラフィティ in JAPAN」などで注目を浴びている。


日埜直彦「セントラルビル」(2004)
「カフェ・イン・水戸 2004」より(撮影:斎藤剛、 写真提供:水戸芸術館現代美術センター)

「SCA (=PHIL, FATE, KRESS, BUTOBASK, MAKE」「X-COLOR/グラフィティ in Japan」(2005)より(撮影:斎藤剛、写真提供:水戸芸術館現代美術センター)

高橋さんは以前、森美術館でもお仕事をされていたそうですね。7月から始まった「ライフ展」は、高橋さんが水戸芸術館で初めてキュレーションされた展覧会だそうですが、注意された点などはありましたか?

「ライフ展」では、水戸芸術館のこれまでとこれからの役割、現在のアートをめぐる環境からどんなメッセージをキュレーターとしてどう打ち出すべきなのかを考えて、多様なバックグラウンドをもつ作家による様々な作品を一緒に展示し、この日本における美術の定義を問うと共に、新しい美的体験を提示すること必要だと考えました。そこで、現代美術のアーティストだけでなく、マンガやHIV予防運動に取り組むアクティビスト、障害を持ちながら制作活動を行う作家などを取り上げたのです。なぜ人は表現するのか、という素直で根本的な疑問を呼び覚ます作品を選びました。また、水戸芸術館は公立の美術館ですから、公立の美術館で今何をすべきかを考えました。

今村花子「ライフ」展(2006)水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示風景(撮影:富田里美)

ギャラリーでおこなわれた西村猛+yumによるダンスパフォーマンス「ライフ」展(2006)(撮影:富田里美)

では、水戸芸術館のキュレーターには何が必要だと思われますか?

水戸芸術館は自主企画がメインなので、企画書から交渉、移動、お金集めまで、すべてキュレーターが行いますし、企画力と行動力が問われます。あとはどの職業にも言えると思いますが精神力と体力ですね。キュレーターは社会的な状況、美術の状況、その中で自分や自分の所属する美術館の立ち位置との距離感を測りテーマを見出さなくてはいけないのです。そのためににはいろいろな作品や展覧会を実際に見ていないと分かりません。展覧会や展示、イベントを通して作家のメッセージを伝えてゆく、コミュニケーション能力が必要でしょう。



2:原美術館 教育プログラムディレクター・学芸員 青野和子さん


原美術館外観

原美術館の青野和子さん

1979年に東京・品川に開館した私立の財団法人原美術館は、常に独自の審美眼をもって現代美術を紹介する日本を代表する美術館のひとつ。最近では、世界中から注目されているオラファー・エリアソンの日本初の個展「影の光」を開催し話題となった。現在はアニメーションを用いたインスタレーションの「ヨロヨロン」束芋展を開催している。

原美術館が目指しているもの、青野さんのこだわりである「原美術館でしか出来ない展示」とは何かを具体的に教えて頂けますか?

原美術館は設立当初から現代美術を扱うことを掲げていました。現代美術は同世代を生きる人たちの表現であり作家の顔がみえるもの。当館はその作品を公開することで、世代や価値観、国籍の違ういろいろな人が集い、交流していく場になることを目指してきました。「原美術館でしか出来ない展示」というのは、邸宅として建造され、美術館に再生したこの空間にどう関わるかを意識し、この空間と対話ができなければ実現しない展覧会を作ることです。

束芋「ギニョラマ」(2006)「ヨロヨロン」束芋展より(撮影:米倉裕貴)

青野さんにとってのキュレーターという仕事は、何であると思われますか?

私達は、次々に生まれてくる同時代の表現を自分の目で検証しながら、何を取り上げるべきか否かを判断します。現代美術はまだ価値が決まっていないものですから、今後どれが伸びていくのか分からない。ですから「これを選びました。どうですか?」と、皆さんにお見せするのが仕事だと考えています。そして今後“原美術館で展覧会を開催した作家”と言われることに対する責任を、作家とオーディエンスに対してもきっちり取らなければならないと思っています。中途半端な形で展示をするのは、誰に対しても失礼だし、納得いかないものは出したくない、と常に思っています。



3:デザインミュージアム・ロンドン キュレーター リビー・セラーズさん


デザインミュージアムの外観
© Jefferson Smith

デザインミュージアムのリビー・セラーズさん

テムズ川沿いに立つロンドンのデザイン・ミュージアムは、1989年に設立されたモダン・デザインをリードする世界有数の公共施設。デザインについて、あらゆる人々を刺激することを使命とし、展覧会だけでなく、情報発信や教育活動なども行っている。現在は、フォミューラワンの「ザ・グレイト・デザイン・レース」展などを開催している。


デザイン・ミュージアムのリサーチ・アーカイブでは、APPLEのデザインチーム・リーダーJonathan Iveと、彼のデザインへのアプローチの仕方を学ぶことができる。

リビーさんはどのようにキュレーターになられたのでしょうか?

私の場合は美術史とデザイン史の両方を学びました。大抵のキュレーターはそれに相当する学位や、ファッションやグラフィックデザインなどプロとしての経験を持った人もいます。現在はキュレーションの学位も取得可能なんですよ。他の職業もそうだと思いますが、新しくこの世界に入ろうとする人には厳しい状況ですね。この仕事を望む人は沢山いるのに、実際の求人は少ないですから。

デザイナーの見つけ方、アプローチの仕方はどうでしょうか?

デザイナーを見つけるためには、常にデザインの動向に目を向け、雑誌や新聞を読み、他の展覧会に足を運ぶなどしています。デザイナーへのアプローチは、彼らが誰でどこをベースにしているかにもよりますが、展覧会やデザイン・フェア、卒業制作展などで巡り会うこともあれば、メーカーを通してコンタクトすることもあります。

キュレーションとは何だと思われますか?

キュレーションとは単に施設のために展覧会のオーガナイズではなく、コンテンツの提供とそのマネージメントとして捉えられるべきだと思います。それは書籍でも、記事でも、カンファレンスでも同様。つまり、ディスカッションの為の様々なトピックを集めることだと思っています。



美術館をもたないキュレーターとキュレーティング

4:特定非営利活動法人 アーツイニシアティヴトウキョウ AIT/エイト
小澤慶介さん


Panasonic&AIT共同企画「12時間美術館 ART×COMMUNITY×ECO」(2006)撮影:木奥恵三

アーツイニシアティヴトウキョウの小澤慶介さん

AITは2002年に東京都から認可を得た非営利団体。様々な人が現代美術に関われるプラットホームを作っていくという目的を持ち、ギャラリースペースを持たずに教育プロジェクトや展覧会プロジェクトを行い、また教育プログラムMAD(Making Art Different)では、キュレーションに関するコースも開講している。

設立時から続いている「エイト・アワー・ミュージアム」展。第一回目は、“美術館の経験の全て反対をいく”ものだったそうですが、どんなものだったのでしょう?

美術館に入った時の、話もせず腕を組んでうーんとなる状態が本当に作品を鑑賞する理想の状態なのかと考えたんです。もっとリラックスして、寝転んだりお酒を飲んだりしながら作品を鑑賞したらどうなんだろうって。それで、昼間なのに暗くしてラウンジっぽくしたり、ビーンバッグを置いて寝転がれるようにしてみたんです。また、美術館の展示は結論を導くように構成するけれど、こちらはテーマもなく、展示物は全て見えているので、能動的に見ていかないと何も得られないようにしました。第3回目は今年3月に、12時間に増えてパナソニックと一緒にやりました。コミュニティをつくる、環境を整える、という共通テーマが見出せたので、それを元にしたインタビュー映像の紹介や、ポスタープロジェクトの展示をしたんですよ。

Panasonic&AIT共同企画「12時間美術館 ART×COMMUNITY×ECO」(2006)撮影:木奥恵三

小澤さんにとって、キュレーションとは何でしょう?

表現されたものと社会の関係性をどこでとるか。消費されるだけの展覧会と、専門家にしかうけない展覧会の間のどこにポジションを置くのか。それから、キュレーションには、もっとパフォーマティヴなものがあってもいいと思う。差し迫った社会状況になった時、アーティストや思想家はすぐにアクションが起こせるけれど、キュレーターはアーティストのアクションを待って何かするから遥かに遅い。2003年のイラク戦争の直前に、低予算、短時間でビデオアートの展覧会をやったんですが、そういう身軽さがあるべきだと思います。僕達は、美術館が提供するものとは違う美術の楽しみ方を提案する方法を探しているんですよ。



5:スカーレットプロジェクツ ディレクター クレア・カタロールさん


スカーレットプロジェクツのクレア・カタロールさん
©Elisabeth Scheder-Bieschin

スカーレット・プロジェクツは2000年にロンドンで誕生したクリエイティブ・エージェンシー。デザインや建築の展覧会、イベント、企業のコンサルタントやマネージメントなどで様々なクリエイターを起用し、一般的な美術館やギャラリーとはひと味違う新鮮なアプローチで企画から提案、運営までをこなしている。

スカーレット・プロジェクツと他のギャラリーのキュレーションの違いは何でしょうか?

“ひとつの団体”に所属していないので、自由で柔軟性があり、広い視野を持って活動できるところですね。ミュージアムやギャラリーといった大きな団体は、内部での政治的、組織的、内向的な見方などの問題に縛られていると感じます。私達は小さな規模で様々なクライアントと仕事していますので、キュレーションをもっと違った側面からアプローチできるのだと思います。建築、デザインの世界で今何が起こっているのかについても、私たちはもっと自然に捉えることが出来るのです。

キュレーションのコンセプトは、どのように浮かんでくるのでしょうか?

クライアントがアイディアを提案する場合もありますし、私達が持ち込む場合もあります。例えば、V&Aの「ビレッジ・フェイト」プロジェクトは、V&A側から若い客層を得るために若手デザイナーを起用するアイディアを持ってきました。彼らはトークショーの企画を予想したと思うのですが、私達は一般市民に馴染みのある英国の伝統的なフェイト(日本のお祭りのように屋台のような店が並ぶ)を思いついたのです。フェイトでは、まずデザイナーと知り会うところから始まり、一緒にゲームをし、そのデザイナーの作品を貰って帰る。各々のデザイナーは、個性的なスタイルでお店を出しているので、参加する一般の人達も彼らがどんな人であるかを深く知ることが出来るという訳です。


「ビレッジ・フェイト」で行われた仮装大会。子供達は、“デザイン・アイコン”として、キャンベルのトマトスープやコーラの瓶、スイス・アーミーナイフ、i-PODなどに変身した。

グラフィック・デザイナーのGTF(Graphic Thought Facility)は、自家製ジャムを販売。

イラストレーター集団・ピープショーは、記憶力ゲームを制作した。

デザイナー・Unity Pegの店でティー・タオルをデザインする人たち。年齢層も様々。

地域的に見てもオーディエンスは様々だと思いますが、キュレーションにあたって、その点が何か影響することはありますか?

展覧会やイベントの成功の鍵はオーディエンスが握っていると思っています。私達が企画するイベントのオーディエンスの層は毎回異なります。オーディエンスを具体化するのはとても大切ですが、私達はいつも彼らに新しい何かを見せて、インスピレーションを与えること、そして、なんだろうこれ!って驚かせることを目的としています。

キュレーションで一番大切なことは何でしょうか?

企画する、セレクトする、プロジェクトを管理する以外に、芸術面と知的面の両サイドから構成することです。芸術面から構成された展覧会やイベントは、心の底からわき上がるような感動を経験としてともないます。ですから書籍やカンファレンスのように受け身で知的レベルだけの経験とは違ってくるのです。キュレーティングは、あるアイデアを、感情的な反応や身体的な空間を通してコミュニケーションする機会を作ったり、あるいはただシンプルに、人々に“驚き”を提供することができます。「壁に掛けられた書籍」よりは少しましな程度の展覧会が面白みに欠けてしまうのはそういう理由なのです。

アートは常にその時代の社会情勢やその時代に生きる人々の思想を反映し、その方法やメッセージは年々多様化してきた。そのため編集者であるキュレーターは、ただ集めた作品を保管・管理し、並べ・展示することだけでなく、その作品をより理解するために“編集”の意図を問われるようになったのだろう。また、“編集”が展示場所、目的、オーディエンスの全てに関わるため、キュレーターはその展示方法をより深く考えなければならなくなった。優れた展覧会は、作品の魅力を芸術面、知的面から伝えるだけでなく、見る人の感情を揺り動かす大きな力を持っている。だからこそディレクターとしての「キュレーター」の活躍に、現在大きな注目が集まっているのではないだろうか。

21 コメント

  1. 私も美術館、博物館展示における「編集」の大きな可能性を感じてきました。それはキュレーターのひとつの表現であるとともに、情報化社会をむかえた現代において最も貴重な側面であると思います。この記事で「編集」というキーワードでキュレーションが語られていることにとても共感します。

    Posted by: MIZUUCHI @ 8月23日2006年

  2. [...] ようはこういった方たちです。 by 村上幸司 | Posted in Diary | No Comments » | コメント [...]

    Posted by: Koji Murakami Weblog » キュレーター @ 10月9日2009年

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