トラック・フェスティバル:牛と過ごす最高の夏

2006年8月15日 カテゴリー: イベント/展示会, インターナショナル, 環境・福祉デザイン, 音楽

トラック・フェスティバル:牛と過ごす最高の夏

イギリス・オックスフォードをベースにするトラック・レコーズ主催の「トラック・フェスティバル」より。

夏と言えば野外フェス!フジロックサマーソニックメタモルフォーゼetc…。今夏も多くの野外フェスティバルが行われる中、先月末イギリス・オックスフォードの農地で小規模なあるフェスティバルが行われた。発売からたった10日でチケット5,000枚を完売したというUKロック中心の「トラック・フェスティバル」は、その収益の多くを世界40以上ものチャリティに寄付している。今日は、今年で9年目を迎えたこのフェスティバルを運営するインディペンデント・レーベル「トラック・レコーズ」の創始者のひとりであるP-Cラエ氏に、彼のレーベルとフェスティバルについて話を聞いてみた。

作:チエミ

トラック・フェスティバルのオリジナル・メンバーが、イギリス国内で行われた大規模な某野外フェスティバルに失望し、地元オックスフォードに戻ってきたのはおよそ10年前のこと。それがきっかけで98年の夏に始められた当時のトラック・フェスティバルは、バンド20組と来場者700人という少し大きめのクラブ・イベント程度の規模だった。


トラック・レコーズのP-Cラエ。渋谷にて。

トラック・レーベルのロゴ

まず、フェスティバルでレーベルの名前でもある“トラック”という名前の由来から教えてもらえますか?

“トラック”という名前は、フェスティバルのメインステージが車のトラックで出来ているとこからから来ている。レーベルはフェスティバルが始まった後に設立されたので、そのままその名前を使っているんだ。

レーベルの規模としては、どのくらいのですか?また、どのようなアーティストがいらっしゃるのでしょう?

入れ替わりはあるけれど、だいたい6、7組は常に所属している。リリースしているレコードは、1999年のレーベル設立から、もう50枚以上になるかな。アーティストは、ザ・エレクトリック・ソフト・パレードパイニー・ガーゴールドラッシュ、あとはチックス・オン・スピードのアナ・ベン・デイビッドなど。アーティスト達とは、フェスティバルに参加してくれたことがきっかけで繋がっていく感じだね。レーベル自体も友達関係で構成されているんだ。


ザ・エレクトリック・ソフト・パレード (Photo by Merv)

パイニー・ガー (Photo by Joe Dilworth)

ゴールドラッシュ (Photo by Tom Brown)

チックス・オン・スピードのアナ・ベン・デイビッド (Photo by Miles Walkden)

では、フェスティバルについて質問させて下さい。どのような形態で行われて、どのようなアーティストが出演するのですか?

今年の「トラック・ナイン」(“ナイン”は、9年目の意味)は、7月22日と23日の二日間にオックスフォードの農場で行われて、来場客は5000人、入場料は2日間で40ポンド(約8700円)。チケットは、毎年開催前に完売している。今年の出演バンドは計147組で、飲み屋で知合ったバンド連中からNMEの表紙を飾るようなバンドまで様々だ。内訳はオックスフォードのローカル・バンドが、全体の約3分の1、イギリス国内のバンドが約3分の1、インターナショナルなバンドが約3分の1。ステージは全部で6つ、メイン・ステージが3台のトラックから出来ている。次に大きな二つのステージは牛小屋で(笑)、残りの3つは小さなテント。「小さすぎる」って文句もあるけど、小さいからいつも混んでて、それが逆にいい感じなんだ。

確かにテントは熱気溢れる様子!ちなみに今年のラインナップは、The Futureheads, Mystery Jets, Hundred Reasons, Battles, Regina Spektorなどなど.. (Photo by Miles Walkden)

147組のアーティストが出演して、40ポンドというのは破格ですよね。チケット発売後たった10日で完売しているという事実をふまえて、来場者をもっと増やそうと考えたりはしないのですか?

このサイズは、自分達でマネージメントできる一番心地よいサイズだと思っているし、これ以上大きくなってしまえば、全てを知り尽くして操作することは不可能だろう。だから、俺たちはこのサイズでこれからもやっていくつもりだ。


トラック・フェスティバルのウェブサイトより

フェスティバルのウェブサイトを見て気づいたんですが、出演バンドのラインナップがアルファベット順にズラリと並んでいて、さながらイエローページのようですね…。あの意味は何でしょう?

イエローページか!(笑)確かにそうだよね。普通のフェスティバルだと、ヘッドライナーが大きく書かれて、そこからどんどん名前が小さくなっていくだろう?でも、若くてすごく才能のあるバンドも沢山いるのに、そんなの不公平じゃないか。だから、アルファベット順でみんな同じ大きさで紹介しているんだよ。

それってある意味すごく勇気がありますよね。ヘッドライナーにはなんて説明するんです?

悪いけど、君たちの名前は大きな文字で載らないよ、って(笑)。でも、それがトラック・フェスティバルなんだ。

それだけでも十分他のフェスティバルとは異なりますが、フェスティバルを通していくつか興味深い活動をされているようですね?

フェスティバルの敷地内に「トラック・スタジオ」というレコーディング・スタジオを設けている。ゴールドラッシュが本当に自分達の手で建てているんだけど、スタジオは期間中、全てのバンドに解放しているんだ。あと、フェスティバルの利益はチャリティに寄付している。昨年分は、40以上ものチャリティに1000万円以上を寄付したよ。

昨年、英音楽誌NMEはトラック・フェスティバルについて「もし仮にグラストンベリー・フェスティバルが無くなっても、トラックという後継者がいるから大丈夫」という意味合いのコメントをした (Photo by Isla Miskelly)

野外フェスティバルというと、日本もそうですが、イギリスのものなんかは年々商業化が進んでいて、最近ではチケット代も海外旅行並みですし、敷地内は企業のロゴで埋め尽くされていますよね。そんな中でなぜ利益を寄付しようとお考えになられたのですか?

それは、一言で言えば、俺たちよりももっと金を必要としている人達がいるからだよ。俺たちだって金はない。だけど今生きていくだけの金はあるし、世の中には今金を必要としている人達が沢山いる。その人達を音楽で救えたら、それほど素晴らしい音楽の在り方はないじゃないか。

音楽を聞きながら過ごす友達との楽しい時間は… (Photo by Isla Miskelly)

自分達だけでなく、最後は誰かのためにもなっている。(Photo by Isla Miskelly)

すごく素敵なことですね。ちなみに実際の運営はどうしていらっしゃるのですか?また寄付しているチャリティ団体は、どんな方達なのですか?

最初は10人くらいで企画なんかを立てて、準備には約1年かかる。今年も、もう少ししたら来年の準備を始めるよ。開催日が近づくにつれて、スタッフの数は何倍にもなっていくんだ。みんなほとんどボランティアで、電気技師が電気関係をやったり、大工がステージ周りをやったり…。出演者もローカル・アーティストはボランティアだったり、遠くからくるアーティストにも最低限の出演料とガソリン代でやってもらっている。そうやってみんなの力でフェスティバルは作られていくんだ。

裏で助けてくれる沢山の人達もフェスティバルを運営する上で重要な要素 (Photo by Miles Walkden)

寄付している団体は世界中にあるけれど、例えば、メインのひとつは「マリ・デヴェロプメント・プロジェクト」というアフリカの内陸部、マリ共和国にある団体だ。寄付金は、HIVの拡大を防ぐための子供達の教育プログラムに使われている。他のチャリティ団体に関しても、ウェブサイトで紹介しているので、興味があれば見て欲しい。

トラック・レーベルはフェスティバル以外でも「トラック・クラブ・ジュニア」という青少年用のプロジェクトもやっていると伺いましたが?

月に一回ぐらいやってるプロジェクトで、地元オックスフォードの18才以下の子供達を対称にしている。トラックは、自分のレコーディング・スタジオを持っているんだけど、それを一日無料で貸し出して、レコーディングを手伝ってやるんだよ。最後は、何枚かのCDに焼いて渡し、彼らに「それを持ってレーベルにコンタクトしたり、ライブのブッキングをしてこい!」って背中を押してやるんだ。自分達も昔そうだったように、子供達が一生懸命貯めたおこづかいでは、レコーディングひとつするのも大変だ。だから、そんな子供達を大人の俺たちがサポートしているんだ。

今までそのプロジェクトに参加した子供達はどうなりましたか?

連絡がなくなる場合がほとんどで(苦笑)、すごく大きくなったバンドはまだいないけれど、地元オックスフォードでは成功しているバンドはあるかな。オックスフォードだけでも、かなりの数のバンドがいるから、それだけでもすごいことだよ。

今後のトラック・レコーズの予定を教えて下さい。

まず、日本のレコード会社と契約を結びたいし、沢山の人達に俺たちのことを知ってもらいたい。日本のバンドを俺たちのフェスティバルに呼びたいね。ASA-CHANG&巡礼の大ファンなんだ!あとは、フェスティバルは今が丁度良い規模だと思っているから、あのままで内容のクオリティを上げていきたい。ノルウェーやカナダなんかにも、ものすごくいいバンドがいるから、そういう人達にもっと参加してもらえれば最高だね。

左がアラン、右がトラック・レコーズのP-Cラエ。(Photo by Richard Cave)

今日は、お話を聞かせてくれて有り難うございました。私もいつか必ず、トラック・フェスティバルに参加しますね!

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