
ヘルシンキの通りは、ニューヨークや東京、ロンドンのような巨大都市ではないかもしれない。しかし、そこには熱い自転車便のコミュニティが存在し、それは今月ヘルシンキ市によって主催された、ヨーロッパ自転車メッセンジャー選手権(European Cycle Messenger Championship : ECMC)でも広く認知される事となった。4日間のイベント中、僕は、ジェレミア・テソリンというヘルシンキ大学工芸科の学生と出会った。彼は、「デザインとブランディングが、今後の自転車便業界でどんな役割を果たすか」を研究した修士論文を完成させたばかりなのだが、今回彼から、自転車便産業とその変化、そして自転車マニアの世界のアンダーグラウンド的なサブカルチャーが、どんな風に世界の若者たちの心を掴み、そのアイコンとなっているのか話を聞く事が出来た。
作:マット・シンクレア
訳:ジュンコ
初めに、どんな人たちが自転車便の仕事をしているんでしょう?
まず言えるのは、多くのメッセンジャーは、生活のためにその仕事をやっているのではないという事です。勿論、一部の人にとっては、自分が好きな事をやってお金が得られるという、パーフェクトな仕事みたいですよ。大抵のメッセンジャーが若いですが、中にはそうでない人もいるし、自分で会社を設立して、宅配やそれに関する仕事を始める人もいますね。
それから、メッセンジャーのスタイルについては、その手の本も沢山出ているので、多くの人が、例えばドレッドヘアとピアス、そして戦闘ズボンを膝までまくったような姿をイメージするんじゃないかと思います。でも、実はそういうのは1つの極端な例であって、その反対側には、実際まさに競輪選手に近いような服装をしてる人たちもいるんですよ。

「Messenger Style」より。完璧なスタイルのLeo © Assouline Publishing 2000

「Messenger Style」より。高価で、高性能なウェアを着たメッセンジャー © Assouline Publishing 2000
そういうウェアは凄く高価で、高性能で、メチャクチャピッタリした服なんですが。…で、この2つの極端な例の間に、色々な服装の中間の人たちがいるってわけですよ。だから、僕は、メッセンジャー達は外見上では余り共通性が無いと思うし、むしろ人生に対する内面の姿勢で結ばれるんだって思います。ほとんどのメッセンジャーは、勤務時間を選べて服装にも規制が無くて、オフィスよりもむしろ外で行動するような彼らの自由な仕事のスタイルを好んでいるし、それに、強く結ばれたコミュニティの一部でありたいと思っているんです。
彼らにとって、給料とかそういうものが仕事上のモチベーションになる事は滅多に無くて、その代わりに、街や通りがどうなっているのかを理解する事で満足感を得るんですね。スケートボーダーが建物を理解するのと同じような方法ですよね。

他より少し年上のメッセンジャー Photo © Tommi Hyvönen

夜になってやっとリラックスするメッセンジャー Photo © Tommi Hyvönen
物事に縛られず自由を愛するっていう所が、彼らが若者のアイコンとなる1つの理由なんでしょうか?
そうですね。お金ではなく自由や自己表現に関する事を大切にするっていう思想は魅力的ですよね。でも、今でも、ネクタイをして9時5時で働く事をしない人に対して良く思わない人がいるのは事実です。その上、無鉄砲で危険で、時には法律違反だって思われるような走りで沢山の人をイライラさせたりしてたら…ほら、これって若者の崇拝するアイコンの持つ条件がほとんど揃ってますよね!(笑)
例えば、メッセンジャーバッグが現在とても人気がある理由も同じような事でしょうか?
そうだと思います。でも、面白い事に、他のサブカルチャー同様、正統派の行動や感覚自体がきちんと理解されずに、勝手な解釈が一人歩きしている感も否めないですよね。例えばメッセンジャーバッグについて言えば、メッセンジャー自身は、それをただ単に機能的な面だけで見ているんですよ。つまり、彼らにとってそれは、書類を折らずに入れられる大きさで、荷物を取り出したり地図を見たりする時にグルっと身体の周りで回転させられるようストラップが1つで便利っていうだけなんですよね。(定期的に重い物を運ぶ人は、リュックサックのような重さを分配してくれて、肩への負担が少ない2本のストラップのバッグを使用する事も多い)

同じバッグの内側

同じバッグの後ろ側

「FIXIE KING」と削られたファーのメッセンジャー・バッグはイベントのトロフィー代わり Photo © Tommi Hyvönen
そういうわけで、当のメッセンジャーたちは、彼らのバッグをカッコイイなんて思ってないんです。彼らにとって、「スタイル」とは、むしろ自転車にどう乗るかに関してであって、どれだけ上品でスムーズに渋滞の中を移動出来るか、どれだけ自信を持って見通しのきかない曲がり角を曲がったり赤信号を跳ぶ事が出来るか、なんです。多くの人にとって、そういう事は実際見えてないですよね。自分自身でそれをやってみない限り、彼らが必要としている技術を完全に理解する事は不可能ですよ。

べテランメッセンジャーの技術と言えば、ECMCの話をすると分かってもらい易いと思います。これは、世界自転車メッセンジャー選手権(World Cycle Messenger Championship)などに近いイベントとして行われたもので、出場資格を賭けた予備レースで勝ち抜いた選手によるメインのレースと、多くの小レースで構成されたものでした。メインのレースでは2つの点がテストされますが…1つは自転車乗りの速度とスタミナ、それからもう1つは、スタート地点から目的地まで小包を配達するのに最も速い方法を考え出せる論理的思考です。

レースコースの地図

チェックポイント1のライダー
選手は、チェックポイントで、目的地を書かれたインストラクションと一緒に小包を回収します。ただ、それをまっすぐ目的地に届けるか、または途中で他の小包を回収するかを自分で決めることが出来るんですが、イベントによっては、鍵のかけられていない自転車を盗む“泥棒”なんて役も現れるんですよ。

明らかに、この手の競争は、同じ日に行われていたツール・ド・フランスに出場しているようなプロの競輪選手に憧れるメッセンジャーにとって、凄く魅力的ですよ。でも、全ての人が同じような考えというわけではないんですね。例えば、ある選手にとっては、一部の選手の様子が深刻過ぎると感じられて、彼らの事を「ピタピタパンツのジョッキー気取り」なんて風に言ってましたし。でも、彼は明らかに、猿の惑星のマスクと靴以外、完全に素っ裸でレースに参加していた選手を見なかったんでしょうね。(写真が無くて残念…)

メインレースとは違い、その他の小イベントは主にメッセンジャーのハンドリング技術をテストすることに関するもので、これこそが、あなたをを惹きつけるものだったということですか?
そうですね。選手たちが乗っているのは、タイヤやハンドルに手を加えたレース用自転車なんですが、そういったレース用自転車の主な特徴は、ギアが無いか、もしくは1つだけで、後輪の中心(ハブ)は固定されてるって事です。
坂を登ったり下りたりするので無い限り、これが一番効果的に、こぎ手の脚からパワーを伝え自転車を前方へ動かすんですよ。でも、固定ハブっていう事は、後輪が回ればペダルも同時に回るって事なので、惰性で走る事は出来ないって事です。それから、トラックで競争するのには必要ないから、ブレーキも無い。…つまり、それは街乗りには全く向かない、…っていうより、実際一部の都市では法律違反になってしまうような自転車に乗るってわけです。でも、メッセンジャーはそういう自転車に乗り、必要なスキルを身に付け、それを芸術的な形に変えているんですよ。

Photo © Tommi Hyvönen

Photo © Tommi Hyvönen
実際、イベントの大部分は、正常な自転車では不可能なものばかりですよ。固定ギア(メッセンジャー界では「fixies(フィキシーズ)」と呼んでいる)で乗らなければならないんですから。フィキシーだと、前進同様に後進も可能で、レースの中には、誰が一番バックで多くの円を作れるかっていうのを競うイベントもあるんですよ。

バックワード・サークル Photo © Tommi Hyvönen

BC Hellsinkiによって企画された前回のイベント「トラックスタンド」
赤信号で止まっているメッセンジャーが、足を地面に付けずに、ただ前後に揺れているのを見た事がある人は多いと思います。それもまた普通の自転車では出来ない事なんですけど、イベントの中では、トラックスタンドっていう競技もあって、誰が最も長い時間それが出来るかを競うんです。開始後3分経ったら選手は片手を離さなければならなくて、更に3分経過したら、もう一つの手も離さなければならない。そしてもう3分後には、片足を離すんですが、ここでほとんどの選手が倒れてしまいますね。

重心を後ろタイヤにかけないようにすると、前方にスリップしやすくなる Photo © Tommi Hyvönen

同じような体勢をとる他のライダー Photo © Tommi Hyvönen
ー レースを観戦しつつ、ジェレミアは、メッセンジャーの日常の仕事を追跡した研究結果について詳しく話してくれた。
ブレーキ無しで固定ギアに乗る事は、高速で街を回る事のクレイジーさの上を行く事ですよ。自転車とペダルを踏む動き…そのシンプルさが、それを特別なものにしているんですね。彼らが交通を縫って進む姿には流れるような動きがあって、それは、彼らの俊敏な判断力を表していると思いますが、これは残念ながら僕には無いものですね。自転車にはそこそこ自信がある方だったんですけど、メッセンジャーを追跡している間、常に僕は遅れ続け、惰性で走り過ぎ、ブレーキを当てにしていましたから…。
都市で自転車に乗る人は、よく、車そのものが個性で運転手の存在は無いかのように思えると言います。車には彼ら独自の規則や論理があって、メッセンジャーは、それらの動きを読めるから、どんな往来の中でもスピードを落とさずに滑り込めるギャップが必ず見つけられるんだと言うんですよ。彼らの直感的な自信には驚かされましたね。今までにヘルメットを着用して走った事があるかと尋ねたら、メッセンジャーの一人は、「僕らは事故を起こそうと思って仕事してないから」と答えたんですよ。
ー ECMCの数日後、僕は修士論文のプロジェクトに関する話しを聞くために、再びジェレミアと会った。
あなたの論文には、成長する産業において、デザインやブランディングがどんな風な役割を果たすのかという内容が書かれていますが、実際それってかなり難しいんじゃないですか?ほとんどのメッセンジャーは、個々のアイデンティティをとても重要に考えているように思えますよね。という事は、彼らが勤める企業が、例えばUPSやDHLのようになったとしたら、抵抗を感じるんではないでしょうか?
そうですね。実際、彼らの仕事において色んな矛盾がある点は興味深いですよ。彼らにとって普通の社会から飛び出すっていう事が大事なんですが、一方では、銀行、企業、弁護士事務所に書類を届けている…。実はそこには多くの問題も生じていて、例えばシカゴでは、多くの商業オフィスビル内で、ロビー以外にメッセンジャーが入るのを禁止していたりもします。

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ヘルシンキのイベントで会社のユニフォームを着る人達 Photo © Tommi Hyvönen
では、あなただったら、どのようにその矛盾を解決しますか?
実は、それは業界自身で解決しているんですよ。一部の大都市では、自転車便がドル箱産業になっているので、「クライアントが期待するイメージに合わせる事」で、更に多くの利益を得られるって事にメッセンジャー会社自身が気づき始めたんです。これは、会社のロゴを付けたバッグやジャケット、もしくは自転車そのものを社員に提供するような形を取るかもしれないですけど、それは同時に、メッセンジャーが交通規則に従うべきと主張するのを意味する事にもなり得ますよね。
メッセンジャー自身は、これらの変化に関してどのように感じているんでしょう?
もちろん、今あるライフスタイルを凄く気に入っている人は、会社のジャケットを着るのはユニフォームを着るのと一緒だと感じて反対してますね。でも、そういう態度は国によっても違うように思います。それに、実際、自分の仕事や勤務する会社に誇りを持っていて、会社によって供給された衣服を得だと考える人もいるんですよ。だから、リサーチをしていて、僕は彼らの衣服をデザインする事に焦点を絞る事に決めたんです。彼らの持つ機能上のニーズを満たして、着たがってもらえるような…と同時に彼らを雇った会社のアイデンティティも表現するような服です。
どういう経緯でコレクションをデザインする事にまで発展したんでしょう?
僕は自分自身でも自転車に乗る事が多いから、自転車用スポーツウェアで、既にどんなものが市場にあるのかって事は良く分かっていました。それから、メッセンジャーと話したり、働くのを追跡するうちに、彼らがどんな物を必要としているのかって事が分かりました。例えば、競輪選手と同じように、通気性が良く、彼らが汗をかくのを助ける衣服。でも彼らには、競輪選手が必要としないような、鍵や携帯電話、財布物を入れるポケットは必要ですよね。それに、あらゆる気象条件の中で移動する彼らには、気象変化に合わせて重ね着が可能な色んなアイテムが必要です。あと、勿論、肩の上にかかるバッグやチェーン。デザインには、これらを全て考慮に入れる必要がありましたよ。

Photo © Jeremiah Tesolin

Photo © Jeremiah Tesolin
では、そういう熟慮の結果、どんな物が出来たんですか?
大きな助けになったのは、「Halti」と共に働けた事です。アウトドアのギアを作るフィンランドの会社なんですが、彼らには、厳しい雨天を想定した衣服を作った多くの経験がありましたし、倉庫へ出入りする許可を与えてくれたお陰で、欲しいものは何でも使用することができました。それに、最新のハイテク技術で出来た織物を実験する事も出来たんですよ。

Photo © Jeremiah Tesolin

Photo © Jeremiah Tesolin
それから僕は、柄物を基本としたコレクションは作らないと決めたんです。なぜかというと、現在利用できるプリント技術は、どっちかというとグラフィック・デザインの実習になってしまいますからね。代わりに僕は、服のスタイルとカット、それから異なった織物を組み合わせる事に集中して、その後でステッチや反射的な材料を使って模様を作ったんですよ。ラッキーな事に、僕には始めから、街乗りする人たちが何に魅力を感じるか、はっきりしたアイデアがありました。でも、メッセンジャーというのは満足させるには大変な集団ですから、もし彼らの要求に応える事が出来たとしたら、それは、そこまで行くのにあらゆる可能性を考え抜いたって事を意味するはずですよ。
今回はメッセンジャーの世界を垣間見れて楽しかったです。有難うございました。Tommi Hyvönenさんにも感謝します。彼のウェブサイトでは、もっと沢山の写真を見ることができます。
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ヲヲ、これは自転車好きには嬉しいインフォメーションですね。ダンナサンにもお知らせしようっと。ところで、秋の東京で「2006東京シティサイクリング」というイベントがありますよ!http://www.tokyo-np.co.jp/event/sp/cycling/
Posted by: YO-CO @ 8月5日2006年
chromeのメッセンジャーバッグ、かっこいいですよね。愛用しています。
Posted by: hanai @ 8月6日2006年
ツール・ド・フランスにプロの競輪選手は出ないと思うのですが。
Posted by: Daisy-web @ 8月7日2006年
professional cyclists(原文)→プロの競輪選手(訳)デス
Posted by: no-one @ 9月15日2006年
[...] Posted in essay by kuma on the September 21st, 2006 PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » 自転車メッ
Posted by: ZeroMemory Bookmarks » PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » 自転車メッセンジャーのスタイル @ 3月27日2007年
メッセンジャーバッグならVAHOでしょう!!
Posted by: babaike @ 8月11日2009年
[...] 自転車メッセンジャーのスタイル – PingMag This entry was posted in Daily. Bookmark the permalink. ← [...]
Posted by: PingMag フィックス特集 | fixture.jp/blog @ 6月1日2010年