南アフリカの工芸品:スタイルと社会への投資

2006年7月21日 カテゴリー: プロダクト, 民芸・工芸, 特集, 環境・福祉デザイン

南アフリカの工芸品:スタイルと社会への投資

創造性の重要性ってスゴい!世界中の国が、芸術産業のもたらす経済、文化、社会への莫大な活性化効果に注目する中、最近の南アフリカの成功には特に拍手を送るべきだ。毎年行われているデザイン・カンファレンスの「Design Indaba」が、この類いのイベントとしては世界でも最高水準のものになった以外にも、南アフリカでは様々な改革が草の根レベルで行われてきた。ケープ・クラフト&デザイン・インスティチュートは、地元の工芸家や職人の出会いや知識の交換、新商品の開発、そして何よりも、地元や国際市場に参入する為の足がかりとなっている。

PingMagでは、この団体の理事であるエリカ・エルクさんから手作り製品の人気の理由、地元の芸術産業をいかにして伸ばすか、そして新しく設立されたセンター・オブ・イノベーションについてお話を伺った。デザインって本当に重要ね!

文:ウレシカ
訳:山根夏実

エリカさん、あなたご自身としてはケープ・クラフト&デザイン・インスティチュート(CCDI)の活動をどのように説明しますか?


「Design Indaba Expo 2006」でのCCDIスタンドに立つエリカ・エルクさん

私達は工芸品産業の成長促進や事業の維持を支援する団体です。様々な分野の事をやってはいますが、基本的には事業の運営向上の為の研修プログラムに重点を置いています。その他にも、新しい商品を継続的に開発・考案できるように、デザインの成長やトレンドの理解を助けるプログラムも実施していますね。

その反面で、人々がより市場に参入しやすくなるように援助したり、新しい市場を開拓したりもしています。私達の目的は主に、人々のネットワークや機会に関する情報の配布を支援し、このセクターとそこに従事する人々の一般的な認識を高めることですね。基本的には、消費者基盤を育てています。

CCDIは、どのような面で工芸にとって最も役立ったとお考えですか?また、どういう方法で工芸家の作品を紹介する機会を作っているのですか?

一番重要なポイントは、窓口が出来た事によって、今では沢山の問い合わせや人々の要求に実際に対応がされている事だと思います。分かりやすい例を挙げれば、ドイツのワールドカップでは、南アフリカが次回開催国である関係で、南アフリカの観光を宣伝するスタンドの手助けをしました。その際に何人かの工芸家が、ビーズ、ワイヤー、紙などの様々な素材で巨大なサッカーボールを作る依頼を受けたのです。私達が基準点として存在する事によって、人がどんなクラフトを求めているのか分かりやすくなりますし、工芸家も個人では遭遇しようもない機会を探しやすくなるので、必然的にこういったケースが増加します。


ドイツW杯期間中に次期大会を推進する目的で、南アフリカ独特の素材で作られたサッカーボール(この場合はビーズ)

ペットボトルで作られた別のサッカーボール

私としては、私達は全員が心地良く感じる空間を作れたと思っています。私達は工芸家達に何が可能なのかを示し、その過程で彼らは専門化して、次にどこに向かいたいのかを選択します。工芸家の一人は、黒人居住区の一つにギャラリーを開いて地元の職人と仕事をするのが夢だと言っていました。

イベント・マネージメントの事務所を開きたいと言った別の女性の方もいました。

手が届きやすく、すぐにお金になる工芸を選ぶ方が殆どですが、他の様々な機会に繋がるということが分かってもらえる環境も作れたと思っています。


「ノキア・ケープタウン・ファッションショー」は、服飾学生と工芸家のコラボによるもの

同じく「ノキア・ケープタウン・ファッションショー」より。

CCDIのデータベースには工芸事業680社以上と、300社ほどの工芸小売店の名があるそうですが、展示会やショーで誰に参加させるかはどのように決めているのでしょうか?きっと全員が参加したいと思っているでしょう?

確かに支援中の企業600社以上の情報を持ってはいますが、全員が同じ成長段階にあるわけではありません。なので、クラフト・マーケットからどちらかと言うともっと消費者寄りのショーであるケープタウン国際ジャズ・フェスティバル、その他にもニューヨークでの見本市やフランクフルトでのアンビエンテまで、全員の需要に応じた様々な機会を探します。私達がまずそれぞれの機会を特定して、それからその情報をデータベースに載っている全員に知らせます。要は、そのイベントに応募する権利は全員にあり、私達がそこから選考する形ですが、私達の仕事から全員が何らかの利益を得られるように、平均的に分配する事を心がけています。


SARCDA。南アフリカ有数のギフトと玩具の見本市。

見本市?

多くの人々にとってはほんの小さな事がプラスになりますし、もっと材料を買って更に商品を作る、次の一歩の助けになるのですから、本当に素晴らしい事です。私達の仕事は人々に影響を与え続けるし、それが楽しさを持続させるのだと思いますね。

あなたの書いた南アフリカ・クラフト・セクターについてのレポートでは、クラフトをもっと持続出来るものに変えてゆくというプレッシャーがある、と語っていましたよね。それは、とても野心的な感じがするのですが、本当でしょうか?

5年前に私達がこれをスタートさせた時、一生続けられるクラフトビジネスができるんじゃないかという非現実的な期待がありました。しかし私が思うに、現在では人々はこれが手間のかかるゆっくりとしたプロセスであることを現実的に理解しているのです。クラフトという分野が初めに支持された理由のひとつは、この分野の敷居が低いことでした。つまり、ビーズのブレスレットを作るのに、高い技術や大学の学位は必要ないのです。だから、これほどまでに沢山の人が生計を立てるためにクラフト作りを選んだのです。この仕事を始めるのに巨額の資本金だって必要ありませんから。

土台となる布に木綿生地の切れ端を引っ掛けるように作られるMIELIE。違ったサイズ、デザイン、さらに家具用のアイテムまでもが、この技術で作られる。

もうひとつ分かったことがあります。それは、ビジネスをすること、そしてそのビジネスで利益を上げるには、かなりハイレベルな技術が必要だということです。そしてそんな技術は、3ヶ月や半年で得られるものではありません。技術を向上させることは出来ますが、もっと現実的になって、そこまで辿り着くには2、3年はかかるということを忘れてはならないのです。

その記事では、商品を地元と国際市場に売り込むには今がチャンスとも仰っていますよね。今、なぜ手作り商品に人気があるとお考えですか?

理由の一つとしては、これは個人的な意見ですが、先進国の方々は手取り収入が多いのと同様に、その収入を自分がどうやって使いたいかをちゃんと分かっているんだと思います。もし人々が商品を購入して、同時に一つの成果を応援できるとしたら…もし購入した商品にまつわる物語があったら…気分がより良くなる!これは一種の社会への投資です。

ここでは、ソーダ缶や再生プラスチックなどの面白い材料で作品が作られていますが、その素材の組み合わせにも南アフリカ的な美学があって面白いんです。作品は革新的且つ風変わりで、時にちょっと変だったりもするのですが、そういう物が人々に気に入られるようですね。


VOGELSの再生バッグ(オーストリッチ、その他の皮やデニム等の端切れを使用)

プロフェッサー・ペドロ(本名)によるビン蓋のバッグ

個人主義の増加もあるのかもしれません。今やブランドも一般的になって、皆が同じブランドの物を身に着けていますから、自分を目立たせてくれるような他の物を探すのではないでしょうか。そして、一風変わったビニール袋や、新聞紙で作ったハンドバッグがそういった物であるのかもしれないですね。

では、よくある作り手の顔の見えない商品ではなく「手作りと人間の暖かさ」に関わる場合、そちらの工芸品は限定的で生産量も比較的少なくなると思いますが…低価格帯を目指すよりも、長期的にはどちらかと言えば高級志向をターゲットとする戦略なのでしょうか?

ええ、もちろん!私達は、価格や生産量の面でインドや中国と競争する事はできません!労働力の観点から言えば私達の物価は高すぎますし、試みるまでもなく無理だと思います。それに、高級品市場の方がやる人にとっても利益が高いと思います。あと、労働のコスト面以外でこのような戦略を選んだ理由の一つに、私達の独特な文化がありますね。沢山の人が発明や創造をしていますが、複製や同じ物を繰り返し何回も作る事はあまり好まれません。当然ですよね、そんなのは退屈ですから(笑)

MIELIEのバッグは木綿生地の切れ端で出来ている

私達はただ仕事を作りたいわけではなく、良い仕事を作りたいのです。きちんと報酬が支払われる、面白い仕事をね。理想主義と言われるかもしれませんが、皆が仕事を楽しんで、そこから喜びを得られるべきだと思います!

再生素材を使って新しく綺麗な芸術を作る事は年々浸透してきていると思いますし、アフリカの工芸品はその面ではとても有名ですよね。これまでは必然的な理由だったと思いますが、今ではその必然性が美的観点における選択になったと思われますか?もしくは、環境の為の根強い再生意識とか?

ええ、今では確かに美的、そして消費者観点における選択になったと思いますし、私達の商品が関心を持たれる理由の一つには環境保護があると思います。

KUNYEによる端切れを使ったデザイン・制作。枕にしてみたくなるフワフワの美しいハンドバッグ。

今後の大きなプロジェクトの一つは、原材料の問題に取り組んでいく事です。工芸家が新しい商品を作れるような、他の材料源や別の素材の廃棄物(鋼鉄業界の切り屑とか)を、都市部でどのようにして安く入手できるようにするか。こういった事もここ数ヶ月以内に取り掛かれるようになると思います。私達は、第三国の生活の質を変えるようなデザインを目指しています。

次は、今年の6月12日に始動したセンター・オブ・イノベーションについて聞かせて下さい。このセンターはどういった点で、何を創ろうとされているのですか?

私達のモチベーションは、人々が遊べるスペースを提供すること。“遊べる”という意味は、本当に遊ぶってことですよ!商品開発は全ての企業にとって、費用も時間もかかる投資だということは分かっています。より小さなビジネスは、もっとダイレクトに損得に繋がりますよね。ですから、私達はビジネスを一刻も早く先に進めさせるためにその過程をサポートしたいのです。

陶芸家に思考玩具や道具を見せる産業デザイン学生

ここには、レーザーカッターやビニールカッター、フライス盤などの卓上ベースの製造機器を一式の製品に纏めて、オープンソース・ソフトウェアにリンクした製造ラボがあります。実は、マサチューセッツ工科大学によって開発されたモデルなんですが、工芸家がサンプルやプロトタイプを作るのに必要な機械を、安く簡単に使うことができます。

センター・オブ・イノベーションの内部:製造ラボのコンピュータ・ステーションや製造機器で作業する学生や工芸家達

それ以外にも、例えばデザイナーとワイヤー職人を1週間同じ部屋で作業させて、どんなものが出来上がるかを見るような、ワークショップの開催なんかもやっています。

貴方の工芸家の集団を見て、今の時点で「熱い」のは誰だと思いますか?例えば、「アンビエンテ」や「ニューヨーク国際ギフトフェア」などの大きなフェアで一緒に出展したのはどういった方々ですか?

発展途上エリアの産業開発を支援する団体エイド・トゥ・アーティザンズと共同プロジェクトをした時には、工芸家が新しい商品を考案する助けになるように、あちらがアメリカからデザイナーを連れて来てくれました。

商品開発に励むスティーブン・バークとデリック・センテニ

ウィラード・ムラルルワが良い例ですね。彼は元々、ワイヤー細工の小さなキーリングなんかを作っていたんですよ。でも、あのプログラム中にこのようなワイヤーテーブルを考案して、それ以降はスタジオを借りたり、世界中にテーブルを売り込みに行ったりと、今や完全に別の次元にいますね。今の時点ではテーブル1個だけですから彼もまだまだ前途多難ですが、以前と比べれば全く異なった立場にある事は確かです。


ウィラード・ムサルルワのワイヤーテーブルで作業する工芸家

ウィラード・ムサルルワの元祖・赤いワイヤーテーブル。現在では国外でも売られている。

他にも沢山いますよ。マンデラ・パーク・モザイクというグループもありますね。この女性グループは黒人居住区の一つで活動しているのですが、柔らかい、洗練されたタッチの、シリコンモザイクの綺麗な花瓶なんかを作っています。


スティーブン・バーク。マンデラ・パーク・モザイクの商品開発。

マンデラ・パーク・モザイクによるソフトシリコン・モザイクの花瓶。

ルヴヨ・ニャティ(ルヴヨ・クラフト)とデリック・センテーニは二人とも再利用されたソーダの缶を使って帽子やバッグ、箱、ペンギンなどを作っているんですが、今は巨大なランプを作っていますよ…。


ルヴヨ・ニャティによる再生ソーダ缶の巨大ランプ

ソーダ缶ランプの一部拡大

今後、特に実現して欲しい事などはありますか?

私が見たいのは、私達のデータベースにある600もの企業が全部、彼らなりのやり方で成功してくれる図でしょうか。そこそこに収入を得て、人材を雇用して。

端的に言ってしまえば、すべき事は達成してしまいましたから、私達のような団体の必要性はもうないのですよね。

実現して欲しいもう一つの夢は、世界中の人々が商品を手に取って「これは南アフリカ製だね」と言えるような、南アフリカ製の商品に対するブランド認知力ですね。

エリカさん、お話ありがとうございました!

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3 コメント

  1. [...] お話をうかがっていると、何か教育に関する使命を受けたデザイナーとしてご自分を見ているようにも聞こえます。工芸家を教育して伝統工芸品を次のステップまで持っていこうとするケープタウンのCCDIがやろうとしていることにも少し似た感じがしますね。 [...]

    Posted by: PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » ヒース・ナッシュ:ゴミから生まれるプロダクト @ 9月9日2006年

  2. [...] 確実にその芸術と工芸に高い評判を得ている南アフリカ。ケープ・クラフト& デザイン・インスティチュートの記事で書いたように、そこでは本当に沢山の出来事が進行中。CCDIは、MITの最新ファブラブ技術とチームを組み、地元の工芸家やデザイナーを奨励している。産業レベルの組み立てや、一つのデザインを世に送りだす前にテストできるような電気機械へのアクセスを提供することによって、彼らを支援してるのだ。 [...]

    Posted by: PingMag - 東京発 「デザイン&ものづくり」 マガジン » Archive » カンファレンス・デラックス#2:デザイン・インダバ国際見本市 @ 3月16日2007年

  3. 南アフリカの工芸品:スタイルと社会への投資 good post1030

    Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年

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