
気づいている人は少ないかもしれないが、僕たちがよく目にするグラフィティというサブカルチャーの世界には、地域による「方言」のようなものがある。インターネットの発達は、グラフィティ人口の増加に拍車を掛け、今日のグラフィティ・ライター達は、その日に描かれたばかりのおびただしい数の世界中のグラフィティを簡単に目にすることができるようになってしまった。ネット上でそれを見るライター達は影響され、新たな作品を描いてゆく。グラフィティが国際化してゆく中で、裏側に隠れる問題。それは、グラフィティが持つ地域性がインターネットにより世界中に広がって、いつしか消えてなくなってしまうかもしれないということだ。
作: イアン・リナム
訳;チエミ
これが、ハンドセレクタの始まりだ。このプロジェクトのゴールは、グラフィティの「地域性」を集約した本の出版だけでなく、これらが消えてなくなってしまう前に、歴史やサンプルをファイル化し保護すること。

共にベテランのグラフィティ・ライターで、タイプ・デザイナーであるというクリスチャン・アッカーとカイル・タルボットにによって始められたまだ歴史の浅いこのフォント・スタジオは、表現豊かなグラフィティにインスパイアされたデジタル書体を作るため、アメリカのライター達と共に制作活動を行っている。
地元のグラフィティ・スタイルを手作り的なタイポグラフィーに変えるというプロジェクトで、何ができると感じていますか?
ひとつは、アカデミックな追求。グラフィティの有効性に、新たな可能性を与えようとしている。グラフィティを理解出来ない人間に、良いグラフィティを見極めさせるというのは、ほんの始まりにすぎない。僕達にとっては、歴史を寄せ集めてグラフィティからカリグラフィへのつながりを作っていきながら、さらにグラフィティとタイポグラフィの間につながりを作るというゴールに向かうことが、ものすごくエキサイティングなんだ。カリグラフィが過去にそうしてきたようにね。
今までに、どのようなフォントをリリースしてきたのでしょうか?また、特に焦点を当てようとしている部分とはどこでしょう?

1月にリリースした第一弾では、Joker (DC、CA、ポートランド)、Mene (NYC)、Mesk (DC、フィラデルフィア)、Mesh (AOK Crew, NYC)、そしてSabe (NYC)のハンドスタイルを掲載した。他にも、現在新しいフォントに一緒に取りかかっているアーティストは沢山いる。そっちも、そのうちリリースされるよ。

現在僕たちがフォーカスを当てているのは、ハンドスタイル・スクリプトだけど、後々は他のグラフィティのレタリングをベースにしたフォントの制作に拡大するだろう。ほかにも、進行中のプロジェクトやプロダクトがいろいろあるんだ。
どのようにライター達による手描きの文字を使って、フォントを制作を行っているのですか?制作の過程はどういった感じなのでしょう?
僕たちは、協力してくれるライター達にライティングの練習セットを与えている。主にパングラム(全アルファベット26文字で出来ている文)で出来ているんだけど、それが1ダースほどあって、ライターは大文字と小文字で、その文を書かなければならない。アルファベットだけじゃなくて、数字や区読点の提供も依頼しているから、僕たちが新たにデザインしたりする必要はないんだ。でも彼らは、ユーロや日本の円のマークすらもデザインしなければならないんだよね、今まで一度も使ったことのない文字かもしれないのに。

その後、文字のサンプルをスキャンして、ベクターアートを作りながら、手でトレースしていく。この段階では、大抵の場合、数種類の文字の繰り返しで終わってしまうんだ。そこからは、デザインの仕事というよりは、むしろ編集の仕事になっていく。ベースライン、xの高さ(平均的な英語の小文字の大きさの意味)、大文字の高さが決められて、クロスバーと軸が微調整されていく。それから最初に元となる文字の大文字と小文字を選ぶんだ。ライターとタイプデザイナーは、前後しながら作業を進めて行く。タイプフェイスの全体像と見比べて、それぞれの文字のどのバージョンが適しているかを決定してゆくんだ。
軸となる大文字と小文字が決定した後は、前の段階へ戻って、スウォッシュ・キャピタル(飾りのついたイタリックの大文字)として使用するもうひとつの大文字のバージョンに取りかかる。

レギュラー・バージョンとスウォッシュ・キャピタルの文字が終わると、次にフォントデザインのソフトにアウトラインを取り込む。そして、形を整えて、そこからライトやボールドのバージョンを作っていくんだ。
フォントファイルとして書き出す前の最後のステップは、フォントのカーニング。可能な限りのあらゆる文字の組み合わせを想定して、文字間のリズムや流れを作るように調整する。
文字の調節とデジタル化には、どのくらい時間がかかるのですか?
いつも違う段階で製作中のフォントがいくつかあるんだ。通常は、始まりから終わりまで、だいたい2、3ヶ月ってところかな。目標は、1年に5つか6つのファミリーを完成させることだね。
フォントを沢山作ることは、そんなに簡単じゃない。これは僕のフルタイムの仕事じゃないからね。僕は日中はグラフィックデザイナーとして働き、夜と週末は子供を寝かせた後でこの作業に取りかかってる。デザインには通常、数週間で終わるけど、カーニングは永遠に終わらない感じがするよ。ハンドセレクタのプロジェクトは共同作業なので、他のフォントよりも長く時間がかかるね。僕ひとりで決定できることは何ひとつないんだ。一緒に作業するアーティストとの間には、沢山のギブ・アンド・テイクがあるんだよ。



テキスト・セッティングのハンドスタイルを規定する時、どの程度オリジナルと違ってしまいますか?
アーティスト達が提供してくれるものに、出来るだけ近くしようといつも心がけている。僕たちが行う主な変更は、文字幅の統一、ストロークの太さ、大文字の高さ、xの高さ、ベースライン、そして文字のアングルだ。
throwie やpiece といったフォントの制作はどうですか?
throwie フォントは、つい最近終えたばかりなんだ。「Indie Fonts 3」で、シェアウェアとして無料で手に入れられるようになるよ。pieceは難しいね。


制作のプロセスを今だに模索中なんだ。もちろん、pieceは書体ベースだが、ここ30年でとても複雑になった。シンプルな、真っすぐの文字のスタイルは可能かもしれないが、「ワイルドスタイル」を繰り返すのはやり過ぎのような気もするし、自分が本当にやりたいかどうかも分からない。タギングは簡単にカリグラフィになるし、カリグラフィをベースにしたタイプデザインのモデルは、既にそこに存在している。pieceをタイプデザインに変換させるには、どのモデルを参考にすればいいのか分からないんだよ。

出来上がったフォントに対するライター達の反応はどうですか?
なかなかだよ。自分の名前が入ったフォントに対して、彼らはすごく誇りを持ってくれているね。ロウンチしてからも、続々と新しいライターから連絡が来ているんだ。いい感じのライターとスタイルが今後も登場するよ。
ハンドスタイルをデジタル・フォントに変換したライター達が、不安に思っていることはありましたか?
まず、街のスタイルに焦点を置くことが彼らを神経質にさせるみたいだね。自分自身よりもフォントが特別なものになってしまうことに神経質になるというライターもいた。自分の街のスタイルをうまく説明できるし、書けるけれど、個性的なものをやりたがる者もいるね。他にも、鍵となるものを含まずに書体がひとつの街を代表するのはフェアじゃないという意見もあった。ハンドスタイルは、本来パーソナルで、自分がどこ出身なのか、また自分がどこに所属しているのかに影響されるんだよ。
二つ目は、ハンドスタイルをデジタル化したり、調節したりすることが、手で描かれることの大切さを奪ってしまうということ。違いが分かるデザイナーにとっては、不安だよ。中には、プロジェクトに参加せずに、カスタム・レタリングだけをすることを望むライター達もいる。でも、参加しないことを選んだライターもプロジェクトには協力的だったよ。


「グラフィティ対カリグラフィー対タイポグラフィー」について、何か意見は?
タイポグラフィーと同様に、カリグラフィーも少し勉強したんだ。僕にとっては、その二つのつながりはとても自然だよ。僕がすごく興味を持っているのは、カリグラフィーの歴史では、国によって違った美的感覚を持つのと同じ様に、それぞれの国民的な特徴をみることができるんだ。ローマ人は「Quadrate」を与えてくれ、その後「Rustica hands」。そしてイタリア人が「Humanist scripts」に貢献してくれて、ドイツ人が「Gothic」を完成させた。そしてアイルランド人は「Uncial」で知られているって具合にね。
タイプデザインの技術の発達と同時に、沢山のカリグラフィーがタイプフェイスに発展し、そしてデジタル・フォントになった。僕たちも、グラフィティ・ライター達と一緒に同じことをしようと模索しているんだよ。タイプはカリグラフィーには代われない。タイプは違う技法なんだ。タイプ・デザインとは、各々の文字の理想的な形を見つけること。文字が置き代えられた時、それぞれのタイプフェイスにリズムを生み出すんだ。すごく興味深いのは、グラフィティとカリグラフィーの発達には類似点があることで、とりわけ、地理的なスタイルが発達したというところが面白い。グラフィティも、カリグラフィーも、それぞれの街にはそれぞれのスタイルがあるんだよ。


例えば、フィラデルフィアは、背が高くて、痩せているだろう。

NYスタイルは幅広く変化するけど、跳ね上がる傾向がある。また、大きさの変化と共に、タグの一番最初か最後の文字が大きめなのもひとつの特徴。南カリフォルニアに住むラテン系のライターによる「Cholo」ハンドスタイルは、それぞれの文字の書かれている場所と間隔の取り方に「unicase」のゴシックの影響が見られる。

古くからやってるライターに聞いたんだけど、昔はNYの区によってそれぞれ違ったスタイルがあったらしい。だから、彼らのハンドスタイルを見れば、どこの出身か当てることが出来たんだよ。
8 コメント
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こういうの好きな人達って、
世の中が落書きだらけになればいいと思ってるの?
Posted by: 落書ききらい @ 7月1日2006年
地域によってスタイルがある、ってのははじめて知りました。ただ真似っこスタイルで
http://ni9e.com/graffiti_analysis.php
これは良い
Posted by: Jeep @ 7月3日2006年
地域によってスタイルがある、ってのははじめて知りました。
http://ni9e.com/graffiti_analysis.php
街にもやさしいし、これは良いアプローチだと思います。
Posted by: Jeep @ 7月3日2006年
jeepさんのリンクしてくれたやつだと、
自分もいいなと思えます。
要は配慮だと思うんですが、おしつけがましく
自己主張を人の家やら公共の場にマーキングして、
かっこいいとか全く思わないし、ホントそういう
落書きには嫌悪感しか覚えません。
Posted by: 落書ききらい @ 7月3日2006年
二重書き込み失礼しました。。ウチの塀にもタギングやられ、アートにも昇華されないレベルの迷惑行為には私も嫌悪感を覚えますね。全然クールじゃないですな。
ちなみにグラフィティをフォントにして手軽に使えるのって本来のダイナミズムとか即興性に欠けて微妙だとおもうのですが。。
Posted by: Jeep @ 7月3日2006年
Cool site!
Posted by: Pasha @ 9月15日2006年
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Posted by: christian louboutin @ 11月10日2011年
グラフィティ・ライターによるグラフィティ・フォント good post1022
Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年