
アーティストやプロダクト・デザイナーというかしこまった肩書きよりも、「ロマンを追い求める発明家」という呼び方の方がしっくりくる、石黒猛(いしぐろ・たけし)。空に高く上ってゆく煙を作るインスタレーション「スモークリング」に代表される彼の作品の数々には、子供の頃に見た夢の世界が見え隠れする。ベルギー、ロンドン、サンフランシスコと世界中を駆け巡り、今また日本で活動する彼が、暖かなある春の日、Pingmagにたくさんの素敵な作品を見せてくれた。
作:チエミ
まずは自己紹介からお願いします。
石黒猛と申します。育英工業高等専門学校(現・サレジオ高等専門学校)を卒業後、留学で来ていたベルギー人の方の事務所で半年間お世話になりました。その後、イギリスのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)でプロダクト・デザインを2年間勉強し、卒業研究がきっかけで、カリフォルニアのIDEOに3年半、東京の事務所に3年半勤務しました。現在は、プロダクトと言ってもアートよりのコンセプチュアルで、コラボレーションにテクノロジーを足したような作品や、作家として展示品、あとは思いついた面白い物を作っています。他にも、舞台演出などもやっています。
では、NY近代美術館のパーマネント・コレクションにもなったRCAの卒業制作の「ソルト・アンド・ペッパー」のお話からお願いいたします。

ちょうど外国の人に囲まれていた時期だったので、日本人であるという自分のアイデンティティを活かしたものを作りたいと思っていました。日本人って素材を大事にしますよね。例えば、木目を大切にするとか、麦わらでわらじを編んだりとか。その辺りの素材感を大切にしたかったのです。あれは、お米をペースト状にして作っています。米には吸湿性もあるんですよね。試作品はすぐに割れてしまったのですが、最終的にはこのようになりました。1994年くらいのことです。

白い方に塩、黒い方にコショウが入っています。これを折って使います。触った感覚は、マカロニに似ていますね。
お米で出来ているということは、環境にも優しいということですね?
捨ててもすぐに水に溶けますし、鳥が容器を食べてしまっても大丈夫ですね。ちなみにこれは別バージョンで、リフィルできます。

これは、アートとプロダクト・デザインの境界線上にある作品という感じがしますが、石黒さんは、アーティストでもありプロダクト・デザイナーでもありますよね。普段はその境界線をどのように考えていらっしゃいます?
境界線がなくなった方が、世の中が面白くなると思いますよ。その場合、いかに作品を日常生活の中に持っていけるか、というのがテーマになると思います。ただ、今はプロダクトに寄りすぎると、様々な障害が起こりますよね。せっかく面白くて、美しいものが出来ても、互換性とか、ブランドのイメージとか色々問題が発生してしまうのが残念です。
では、青空に大きな煙の輪を打ち上げるインスタレーションの「スモークリング」のお話もお願いできますか?
2002年に、六本木の国際文化会館の50周年記念のイベントのための作品の依頼を受け、会場を見させて頂きました。そこで、敷地の広さや、美しい日本庭園を目にした時に、人工的な物ではなく、何か場になじむような物を作りたいと考えたのです。当時、ちょうど秋空がとても美しい季節だったので、空の青さを強調できる物を作りたいと思ったのが「スモークリング」のきっかけです。

「スモークリング」箱からポンと出た煙

秋の空に向かって高く上ってゆく
秋空を強調したかったというきっかけは、とても素敵ですね。写真では拝見したのですが、実際その場で見るのはどんな感じなのでしょう?
広い庭に設置された60cm幅くらいの大きな箱から、ポンといって5分置きに自動で煙が上がる仕組みになっているのですが、煙は上がるたびに、風の強さなどによって真ん丸だったり、長細かったりと毎回形が違うのです。風のない場合は円を描いたまま、ゆっくりと空高く上っていき、やがて姿を消してしまいます。
東京の一角にある静かな庭園で、青空に向かってゆっくりと上る煙を眺めるなんて、とても贅沢ですね。
そうですね。周りの方は寝転がって、ずっと見ていましたね。
制作過程についてはどうですか?
子供の頃に父親がタバコで輪を作ってみせてくれていたので、煙で何かできたらいいなという感覚は常にありましたが、思いついてから自宅の外に小さな箱を置いて実験したらうまくいったので、徐々にサイズを大きくしていったんです。全て手作りで、箱の中にモーターなどが色々入っていて、時間が来るとそれが中で落ちる仕掛けになっています。すると内圧がかかり、穴の中にエネルギーが集約され、そして渦が出来て煙の輪ができるという仕組みです。
子供の頃の思い出が作品になったということは、いつもアイディアは貯めていらっしゃるのですか?
普段から、面白いなと思うとすぐにオモチャなどを買ってしまう癖がありますね。僕が物を作るきっかけは、物事の根本にある「ときめき」なんですよ。実際に制作に入る時も、始まりの段階では、結果的にどうなるかは全く見えていませんね。いつも偶然から生まれていると言っても過言ではありません。
現在、製作中のものはありますか?
つい一時間ほど組み立てたばかりのものがあります。これは、バックライトのないモニターなんですが、これを窓に付けて人工の光ではなく太陽光で見ると、キレイなんじゃないかなと思って。雲や雨が降ってる様子をここに映してみたいですね。何かできないかな?と、ふと思った次の瞬間には、もうコンピューターを買って来て、分解していました(笑)。
こっちは、水銀の噴水のプロトタイプです。水銀って粒になって落ちていくんですよね。波紋の感じが不思議で、この周りついているのも小さな粒なんです。前から水銀が好きで、キレイに見えるも物を何か作りたいなと思ったんです。これも、今後なんらかの作品になると思います。

組み立てられたばかりのバックライトのないコンピューター

銀色が美しい「水銀の噴水」
他にもいろいろな作品がありそうですね。
ええ、沢山ありますよ!いくつか紹介しましょうか。でもその前に、飲み物をどうぞ。
すみません、お気遣いいただいて。

(飲み物に触ろうとすると、キュイーン!という音がけたたましく鳴る)
…こ、これは一体何でしょうか?
これは楽器のテルミンと同じ原理で、缶がアンテナの役割を果たしています。このアイディアから「ラブソファー」という作品も作りました。

「ラブソファー」は、カップルでそのソファーに座ってお互いの体に触れると、その度に音が鳴るという作品ですよね。近づけば近づくほど、音が大きくなるという。
そうです。あっちは座る部分にアルミ板が入っていて、座ると“人”がアンテナになるんです。これも最初にこのキットを持っていて、色んな物を乗せて遊んでいるうちに、人にも使えるってことに気づいたんですよ。
やはりセンサーで感知する「エモーショナル・ツリー」という作品も作られましたよね。
木に4色のライトとセンサーがついている作品ですね。木には感情があるという説があって、それにしたがって信号を拾っているので、光らせ方は木が決めているんですよ。普段は青いはずなんですが、何かを察知したりすると赤や白になるんです。

「エモーショナル・ツリー」落ち着いている状態

人が忍び寄ってくると…

何かを察知して…

赤くなったり白くなったり
その反応っていうのは、温度を感知している訳ではないんですよね?
これは感情なんです。50年代ぐらいからアメリカなどで盛んに研究されていて、殺人事件の現場に植物があったとすると、そこに嘘発見機のようなものを取り付けて、容疑者を次々見せて反応を探ったなんていう事例もあるんですよ。脳波計と同じ仕組みで、体内に流れる微弱な電流を拾っているんですが、よく水をくれる人は分かるとか、火を近づけると反応が強くなるという説もあります。ちなみに、ずっと周りに人がいると反応は鈍くなります。慣れてしまうんでしょうね。
人間と一緒なんですね。これは何ですか?

これは本物の葉で作ったお皿です。キレイに成形できる方法をあみ出したんですよ、方法はヒミツですが(笑)。葉脈もきっちり取れていて立体的でしょう。強度も紙皿ぐらいあります。
葉の根元のとても細い部分まで使われているんですね。
この部分が結構重要かなと思って、付けたままにしてみたんです。ちなみに左の写真が元の葉で、右が出来上がったものです。色はなるべく変わらないようにしたんですが、完成品も1年くらい経つと、大気中の湿気を吸って徐々に茶色くなりますが。

でも、自然に風化していく感じが逆にいいですよね。これは何ですか?

「磁力カウンター」

文字が徐々に

浮かんでくる

そのスピードはかなり速い
これは磁力で動くカウンターです。茶色の部分は磁石を細かく砕いたもので、ポコっと浮き出るんですよ。元々は時計が作りたくて始めたものですけど、まだ進行途中です。特許はすでに取ってあるんですが。面白いでしょう。
先程からお話をうかがっていると、純粋に「面白さ」や「美しさ」をテーマにものづくりをされていることが多いようですね。
そうですね。純粋に根本にある「美しさ」を見つけられたらいいと思ってはいますが、まだ本当のメッセージは模索中です。もっと作品を作り貯めれば、その中から見えてくると思うんですが。そのメッセージも自分から探すよりは、ある時ふと見つけられればと思っています。
ところで、舞台演出も手掛けていらっしゃいますよね。それは、石黒さんの作品とパフォーマンスが組合わさるのでしょうか?それとも作品とは全く関係ないところでの演出ですか?
物と人との関係が面白いと思っているので、基本は作品を身につけて何かを表現するという形です。例えば、以前にヘリウムが入った3mの風船を作りました。その風船は30kgぐらいの浮力を受けることができて、ダンサーが身につけるとものすごく高くジャンプできるんです。

ヘリウムの入った風船

普通の風船でマネしないで下さいね
ちょうど宇宙遊泳と同じくらいの感覚になります。動きづらくはなりますが、高い所から飛び降りて失敗しても痛くはないですね。
これは、将来的には何か違うものになりそうですね。
そうですね。何か日常から逸脱しない物を作りたいと思っています。次は無重力のパフォーマンスで、飛行機をチャーターして行ったものです。内装もパフォーマンス用に作り変えました。衣装もこれ用にデザインされて、壁もこれ用に作り込んであります。

元々は宇宙ステーションで芸術活動をしたいというお話から始まったプロジェクトで、何か今できることをやってみようとことになったのです。宇宙開発事業部の協力も得て行ったので、かなり大規模なものになりました。銀色の紙は、普通はまくとヒラヒラと下に落ちますよね。でもこの場合はその場に留まってキラキラするので、不思議なものに見えるんです。
石黒さんの作品や演出には、どれもすごく夢がありますよね。子供の頃にみんなが夢見るものを実現化していらっしゃる感じがします。
そうかもしれませんね。昔のSFってすごく面白いじゃないですか。空に車が走っていたりとか、朝起きるとトーストが飛んで来て口に入ったりとか(笑)。最近の世の中って、なんか暗いですよね。だから、そういう楽しくなる物を常に作り続けたいと思っているんですよ。

今日は、素敵な作品を沢山見せていただいて、本当に有り難うございました!これからも、どんどん夢のある作品を作り続けていってください。
2 コメント
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あなたって人は本当に素敵ですね。
取り上げてある作品はすべて興味深いものばかりです。気になる!気になる!見たい!欲しい!
数字が浮かぶやつはどうなってるのでしょうか?
最高にかっこいいです。
ああ、知り合えてよかった。。。
Posted by: maco. @ 5月8日2006年
仕事でコンサルして頂いております。経歴/実力共にすごい方なんですが、それをおくびにも出さない人柄の良さも、またすごいです。
ああ、知り合えてよかった。。。
Posted by: isoamu @ 5月22日2006年