
一人の人間が3ヶ月、場合によっては一年という歳月をかけて織る、美しいシルクの布たち。タイの東北地区でひっそりと作られているこの織物に出会った建築家の加藤喬と元会社員の三上香穂里が、日本の伝統文化”着物”という形式を借りてタイシルクを日本に広めようと決心したのは、たった1年前のことだった。
作:YO-CO
手織りの布の色染めには、「先染め」と「後染め」の2種類がある。先染めは、糸をあらかじめ染めてから織る方法。後染めは、白い布を織ってから生地を染める方法。日本では、印刷のように染める機械の発達もあり、後染めが主流となっている。先染めは、染める時も、織る時も常に気をつけなければならない為、大変な技術と労力が必要となる。先染めの織物は「絣」(かすり)と呼ばれ、昔の日本ではよく作られていたが、今では限られた地域のみで生産される貴重なものとなってしまった…。今日は、絣と同じように手間ひまかけて織られる美しい「タイシルク」に魅せられた加藤喬さんと三上香穂里さんの二人にお話を伺った。

ここは宝箱をひっくり返したようですね。まず目に付くのが鮮やかな色と光沢!なんだか着物にするのがもったいない感じもします。
でしょう。日本ですと、タイシルクはごわごわしていて、派手で、あまり品質が良くないっていうイメージを持たれがちですが、そういうイメージを持つ人に是非手に取ってもらいたいんです。名も無い人が織った本当に素晴らしいファブリックなんです。イサーンという呼び名で知られている東北地方の村々で織られているのですが、織る人によってもパターンが違うんですよ。

タイの蚕の繭はなんと黄金色!なので糸も黄金色

養殖の方法も日本と違ってユニーク

無名のアーティスト…まさにアルチザンの世界ですね。加藤さんは建築家だと伺ってますが、質実剛健なイメージの建築の世界にいながら、伝統的織物のもつ柔らかな世界をどのように発見されたんですか?
5年前タイで建築の仕事ををした時に、色柄や風合いのすばらしいタイシルクを三上さんに見せられたのがきっかけです。35年前に住宅用カーテンにタイシルクを使ったのですが、それとは全く違うので大変驚きましたし、同時に日本の織物に近い懐かしさも感じました。調べてみると、日本の織物も東南アジアとの交易から伝わったことがわかり、いろいろ見て行くうちに、多様な風合いや素晴らしい光沢に魅かれていったのです。そもそも、幼いころから家の中で和裁や洋裁をやっている母を見ていたこともあり、建築の道に進んでみたものの、結局布の思い出が蘇って来たということでしょうか。


着物は日本人でもなかなか不慣れな形式のものですが、タイシルクを着物に応用されようと思ったのはどうして?
美しい光沢と風合いという特色を生かすには、やはり身にまとうのがいいのではないかと思ったのです。ただし、ほとんどが一点ものな上、手仕事で時間がかかるので、大量生産には向かない。そうすると洋服という選択肢は消え、キモノに行き着きました。そう決めて、キモノについて勉強したり、自分でも着るようになりました。

タイシルクで着物という新しい試みですので、苦労もありますよね?
そうですね。まずは出来上がるまでに時間がかかること。しかし、織物職人たちを急かすことも出来ません。それと、呼び名の違いにも苦労しました。日本の着物も、タイシルクの伝統織物も、古い文化形成の上になりたっているものですから、技法の名前は一致しないことが多い。だからタイの職人に自分たちのイメージや、やってもらいたいこと、細かい要望やデザインを伝えるのが大変です。それから、布の巾の違い。日本でのキモノの反物幅は38cm×12m。タイシルクで着物を仕立てようとすると幅100cmの布だと最低6m必要ですが、場合によってはもう少し長く必要になる場合も。そもそも布の使い方が違うのです。日本の着物は布を縦に使うデザインが主で、タイシルクの場合は布を横に使う。それを念頭において布裁断柄を出さなければならないから、デザイン能力が要求されます。その上、着物は着た後にひもで縛ってみて、帯を巻くとまた全然ちがう表情になるので、タイシルクの生地のユニークな模様や部分を上手に生かすのはなかなか難しいことです。



目指すは現代のタイシルク王、ジム・トンプソンですか?
ジム・トンプソンはタイシルクに欧米の感覚を取り入れて本国で売って成功したけど、私たちはあくまでもタイシルクのもつ伝統的で豊かな特色を生かして加工したいんです。もっとタイシルクの良さを伝えていきたいので、着物という表現にはこだわってないんです。たとえば、インテリアとしてのタペストリーや照明のシェードなど、インテリア・ファブリックにも展開していきたいと思っています。他に何かいいアイデアがあれば、どんどん聞かせてください。

タイシルクの着物を着る三上さん

男性用着物を着る加藤さん


タペストリーのアイデアは素敵ですね!タイシルクに出会うまで、着物なんて着たことなかったお二人が、一年ちょっとでタイシルクの着物を粋に着こなして着物の個展を開催するまでのパワーが、このタイの伝統的織物の魅力を物語っていますね。ありがとうございました。
※タイシルクの着物に興味を持った方は、こちらにご相談くださいね。
kimono_thai@yahoo.co.jp
5 コメント
ウェブマガジン「PingMag」及び、姉妹サイト「PingMag MAKE」は、2008年12月31日をもって休刊いたしました。これまで応援して下さった世界中の皆様、またご協力頂いた皆様に、心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました。
PingMagの姉妹版、日本のモノづくり情報を世界に発信中!
PingMagから大切なお知らせ
2008年12月31日
板谷龍一郎:色鮮やかでユーモア溢れる世界
2008年12月29日
マギボン:YouTube発のネットアイドル
2008年12月26日
ベネデッタ・ボッロメティ:たくさんの元気をくれる不思議な絵
2008年12月24日
中銀カプセルタワービル:未来の建築
2008年12月22日
花村えい子:キュートでポップな60年代の少女マンガ
2008年12月19日
日本のハイテクトイレ事情
2008年12月17日
アミューズメント:アートやファッションと融合するゲーム文化
2008年12月15日
HIROCOLEDGE:現代に溶け込む新たな伝統
2008年12月12日
瀬戸正人:ビンラン売りの甘い誘惑
2008年12月10日










かおりちゃん、かわいい!
赤いお着物よくお似合いです!
加藤さんのブルーの羽織は、洋風のパンツルックの上に羽織ってもいいかも。
Posted by: にゃんぐさん @ 4月28日2006年
キモノ地は縦にデザインされ、タイ地は横にデザインされる。この違いをデザインの妙味で表現する技が新しく面白いですね。
私も着てみたい!!
Posted by: アウバ三貴 @ 4月28日2006年
わーほんと素敵。トロピカルな背景に赤いお着物がよく映えるねー。これはぜひ、タイ人にも着せてみたいね。
Posted by: Ngaam @ 5月1日2006年
これからも着物をはじめとする「日本の伝統」シリーズをどんどん掲載してきますので、お楽しみに。
Posted by: chiemi @ 5月2日2006年
タイシルクで作られる着物 good post992
Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年