
イギリス版「Vogue」のアート・ディレクター、ドイツ版「Vogue」、ドンナ・マガジン、スポーツウェア・インターナショナルのフリーランス・アート・ディレクターの経験持つテリー・ジョーンズは、1980年に雑誌「i-D」を立ち上げた。彼が当時興味を持っていたパンク、テディ、ニューロマンティックといったサブカルチャー・シーンに焦点を当てたその独特なスタイルは、見かけ倒しのファッション誌から一線を画し、i-Dの存在は瞬く間に確立していった。
作:イアン・リナム
訳:チエミ
1980年に創刊された第一号は、わずかな色数で印刷されたA4の紙をホチキス留めしたものだった。印刷はテリー・ジョーンズ本人の自宅で行われ、この印刷方法も予算上の都合によるものだったという。伝統的な雑誌のレイアウトと真逆をいくこのi-Dスタイルは、見る者に衝撃を与えた。


初期のi-Dは、テープで貼付けられたポラロイド、写真の上に糊付けされたタイプライターのテキスト、2色のオーバーレイ、スナップショットなどを寄せ集めた、手作りで荒削りな切り貼りベースのデザインだった。
i-Dは斬新でクールだった

しかし、今年の香港インターナショナル・フィルム・フェスティバルにおいて、世界に誇る艶やかなUKスタイルとファッションの達人であるはずのi-D誌の「i-DENTITY」展の失敗は、この物足りない初期のコレクションから始まった。(今年の初めにNYのチェルシー・アート・ミュージアムで行われた「i-DENTITY」展のリンクはこちら)

イギリスの情報誌「Time Out」のトミー・エリオットがやって来た1985年までの初期の数少ないコレクションは全て、2つの小さなディスプレイケースの中に押し込まれていた。そしてボードに貼付けられているのは、カニエ・ウエスト、トップレスのモデル、ミニマルなタイポグラフィ、そしてすでにこの世に存在しないラッパーなど。


iDの過去25年間の輝かしい瞬間を、特大のインクジェット・プリントがキャンバスに映し出す。
展示さていている写真の数々は、全体的に平凡なものから衝撃的なものまで、全てのレベルをカバーしていると言えるだろう。しかし、刺激がない。ハイクオリティなのに、刺激がないのだ。展覧会のデザイン自体も、全体的に怠惰な感じがする。頭からつま先までを覆うような展示用ボードは見る者を息苦しくさせ、天井から吊るされているのは、ただ単に拡大された雑誌のカバー。やたらにごついビデオ・ラックではプロモーション映像が幾度となく流されている…。


おそらく、最大の問題は展覧会が行われた場所にある。なんの配慮もなく展覧会が設置された香港文化センターの入口では、センター内で上映中の映画を見に来る人や、メイン通りへと抜ける近道として会場内に入ってくる一般市民の流れが止まることはない。それなのに、展覧会との隔たりを作るものも一切ないのだ。
会場の中心部分からは見えないテレビには、何かのショートフィルムが流されている。そして、それがたとえオラファー・エリアソンやテリー・リチャードソン、フセイン・チャラヤンなどの有名どころの作品が並んだビデオであろうとも、どうも今イチパっとしない。
なんでも、この展覧会用に特別に制作されたサウンド・トラックは、ジェームス・ラベル、パブロ・サイコナッツなどが手がけているとか。しかし、展覧会の入口に貼られた読みにくいイントロダクションに目を通さない限り、それに気づく事もない。そしてさらにその曲のどれもが、スーパーで流れる音楽のように、会場のスケールに負けているのだ。

街の書店でのi-Dの影は、序々に薄くなっている。そして、その存在は年々「VOGUEの青写真」的カテゴリーとなり、悲しくもこの展覧会はその証しとなってしまった。

イントロダクションには、こう綴られている。「i-Dは、“スタイル・マガジン”という雑誌のジャンルのテンプレートを作ったと言えるだろう。」…確かにi-Dは何年もの間、そのシーンを引っ張ってきた。しかし、残念な事に自らが作り上げたテンプレート自体に溺れてしまっているのも事実のようだ。
2 コメント
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表参道のスパイラルでもやってるね。
パっとしない印象だったけど…
明日また見に行こうかな。
Posted by: Naotake @ 4月29日2006年
東京の方のご意見もお聞かせくださいね。
Posted by: chiemi @ 5月2日2006年