
レイチェル・トーマスは、約1年半前にイギリスのクリエイティブ・スタジオ、ビッグ・アクティブに所属したセット・デザイナーだ。現在来日中の彼女が、仕事や彼女の愛するものについてのお喋りをしにPingMagオフィスに来てくれた。
インタビュー:ウレシカ
訳:ジュンコ
レイチェルは、写真家から始めて、セット・デザイン(舞台デザイン)の世界に移行したのよね?その辺りをちょっと教えてくれる?
私はずっと写真を撮りながら、同時にセット・デザインもやっていたのよ。頼まれてショーのセット・デザインをしたり、ウィンドウ・ディスプレイとかそういうものをやってたわ。でも、それを自分のメインの仕事にするとは真剣に考えていなかった。だから、ビッグ・アクティブに加わるまでにも沢山仕事をしてたけど、ちゃんと作品として記録されたものが一つも無かったの。ファッション・デザイナーのキム・ジョーンズの為に作った大きなセットも、本来すべきような方法で記録していなかったのよね。


でも、私が作ったキムの作品を見たジョー・アン・ファニスから、セルフリッジズマガジンの、“幸福”をテーマにした号への制作依頼があったの。それがとってもうまくいったんだけど、とにかく、自分のセットデザインが印刷されているのを見ることに本当に興奮したわ! そのことが、“もっとこういう仕事をやってみたい”と思ったきっかけになったの。それに、ビッグ・アクティブに加わった時、彼らも、私がセットデザインに集中することを強く勧めてくれたしね。


〜ポートフォリオをめくりながら、女性のシルエットの作品について話し始めるレイチェル〜
これはすべて紙なのよ。ちょうどフォトグラファーのダン・トビン・スミスと一緒に終えたばかりのプロジェクト。エム・リアルっていう、フィンランドの製紙会社の ジョン・ブラウン・シトラス・パブリッシングが事業の紹介をするために発行している雑誌の表紙の仕事よ。

雑誌「M-real」のカメオのシルエット

「Head, Heart and Hips」用のカメオのシルエット
彼らは、セルフリッジの私の仕事を見て、気に入ってくれたらしいんだけど、更に、私がビッグ・アクティブの本ヘッド・ハート・アンド・ヒップス」のために作った、女性がモチーフの作品を希望していたの。しかも、そのもっと奥行きがあって紙のヴァージョン!…でも実は、最初ちょっと気が進まなかったの。だって、新しい試みではなくて、もう既にやった事だったし。でも、紙を触って思考錯誤しているうちに、とても大好きな作品になったわ。

〜ページをめくり、今度はピーター・サヴィル・スタジオとのコラボレーションの話になる〜
これは、ザ・ミュージックっていうバンドの仕事で、ビッグ・アクティブに入る前にやったプロジェクトの一つよ。プロジェクトのテーマは、形に出来ないものを創る、だったんだけど…

…それからちょっとテーマが戻って、作る経過を見ることになったの。

大抵はこういったポリウレタンでセットを作る事が多いみたいだけど、それが一番好きな材料?
私は色んな材料を使うけど、確かにこれまで沢山のポリウレタンを使ったわね。
誰がそういう物をあなたのために作ってくれるの?
ある時シンプルに電話帳で調べていたら、「トッピング・ポリスチレン」ていう会社の人を見つけて、以来、彼と一緒にずっと仕事をしているの。これまで一度も彼の仕事場に行った事が無いんだけど。…っていうか、彼は私を仕事場に入れてくれないの!ポリウレタンは、意外と皆が気づかないような所で使われてるの。例えばタワー・レコードの巨大文字とか。ともあれ彼は素晴らしい職人よ!

あなたが彼の仕事場に入る事を許さないなら、どうやって2人はコラボレートするの?
図面と制作方法の長い指示を彼に渡すの。それに、私はとてもグラフィックの形に執着しているの。すぐ分かると思うけど、私はラメをよく使うわ。私のデザインは、グラフィック的なものを前に押し出すこと によって、一番良く見えるの。もし何かを実際に彫刻のように彫って作ろうとしたら、大抵見栄えが悪いものが出来るでしょ。…下手な彫刻っていうか…。でも、それをとってもとってもグラフィックな感じに保てたら、ものすごくいいものが出来ると思うわ。長く手を加えれば加えるほど、より奇妙になって、鮮やかさを写真に与えるのよ。
ということは、レイチェルはただ単に構図を描いて、いつも同じ人に「こういうの作って!」って言うと、彼は出来上がりを送ってきてくれるっていうわけ?
その通りよ!

素敵な届け物は「トッピング・ポリスチレン」から

ハンガーの蝶。レイチェルは様々な素材を使いこなす
こういうのって、絶対物凄く高いんでしょ!?
ううん、凄く安いの!そうでなければ、あんな大きなセットをキム・ジョーンズのために作るお金の余裕は無かったわ。ちなみにそのマッシュルームは約5.5mで、たった4万円だったのよ。
ポリウレタンの色付けはどうしてるの?自分で塗るの?
私がすることは、色がマッチするパントーンカラーを彼に渡す事だけよ。彼は完全に色を合わせる事は出来ないけど、そういう事を理解していれば、どうやってそういう人と仕事をすればいいか分かるし。時々ね、…例えばセルフリッジズの時とか、片側が黄色でもう片側を緑色にする必要があったんだけど、その時は彼にやってもらえなかったの。さすがに指示が細かすぎると思って、結局自分達でやったのよ。

じゃあ、やっぱりゴールドフラップのピーチのラメも、自分でやらなきゃいけなかった?
ううん。私はただ確実に自分が欲しいラメを彼に渡すようにしただけ。ちょうどこういうケーブルみたいにね。本当に凄い長さのケーブルなのよ!想像してみて!すっごく長いケーブルを、ラメでカバーしなきゃいけない作業…どんなに周りが汚れるか…(笑)。

実はね、いつか彼が「あっちへ行け!そんな事、自分で出来るだろう!」って言うと思ってたの。でも彼は黙ってやってくれたわ。…でも何と、撮影の間にヒビが入って完全にバラバラになっちゃったのよ!(笑)

もし本当にそういうラメのケーブルを作るなら、そんな安い費用では出来っこなかったのよね。
どうしてこういった作品を3Dにする事よりも、今のような手法で作る事に惹かれるの?
私が持ってる沢山のアイディアは、3Dのものが多いの。でも3Dだと、本当に得るものに凄い質の違いがあるのよ。だからこそ、私の作品が面白いんだと思うし。私の作品を見た人の様子を見て欲しいわ。「うわぁ!これは凄い!!」ってね。これって、凄い違いを生んでるって事だと思わない?
それから、どうして何でもこんなに大きくするの?例えばこのプラグとか…。物凄く巨大よね?

夫がいつも私をからかうわよ。「うーん、今度の作品がどんなものか当てさせてよ。巨大なものだな!?」って。
多分、私が受けた影響によると思うのよ。1930年代のミュージカルが好きだし、こういう大きな物を含んだ舞台の舞台制作についてのストーリーが好きなの。それはファンタジーと目に見えることとの融合で、日常のものを取り出すことよね。それって、ある特別な形の愛についてだとも思うの。例えばプラグのようなね!毎日使っている美しい形のものが、ただ大きくなっただけで、魔法にかかって、畏敬まで得られるようになるのよ!

撮影が終わったら、そういうものはどうなるの?何か他の事のために取っておくとか?
う〜ん、ゴールドフラップの撮影を終わった後、彼らは全部を持って帰ったわ…。

ゴールドフラップとの仕事はどうだった?それから、そもそも誰がこの男根マッシュルームのアイデアを思いついたの?
アリソン(ゴールドフラップのシンガー)が私のスタジオに来て、彼女が好きなもの全てのコピーを見せてくれたの。そのうちの一つが、オーブリー・ビアズリーの絵だったんだけど、私が初めて見たその絵は、本当にすばらしい線画で、私が作った男根マッシュルームにそっくりのきのこが生える庭を跳ね回る女性の絵だったわ。いくつかのきのこは曲がってたけど、でも全部本当に美しい形だった。心が込められた豪華なバージョンね。

アリソンは私に聞いたの。「私たちのステージでこれをするべきだと思う?」って。そこから、私たちはただ前に進んで、結局実行したのね。私は、形と光彩こそが、最終的に私たちのイメージを完全にするのに絶対効果的って知っていたわ。ただ残念ながらアリソンは、男根マッシュルームを凄く怖がって、最後には近寄りもしなくなっててね。唯一持ってた写真さえ、編集の過程に入ったら、全部切り取っちゃったんだけど。
面白いわね!なんで彼女はそれを切り取っちゃったんだろう。私はそんなにこれが挑発的だと思わないけど…。とにかく私は凄く好きだわ!
そうなの。その作品は本当に上品に出来たと思うのに、アリソンが好きになれなかったのは本当に残念よ。彼女の音楽はグラムロックで、キラメキがあって、それは本当に輝かしいのよ。私たちは、彼女がピーチの衣装で男根マッシュルームの中に横たわる写真を撮ったの。

男根マッシュルームの詳細

「Goldfrapp」ジャケット
もしかしたら、彼女は「あぁ、君は大きくて黒くて光ったアレが好きなんだね」とか、人が言うのを恐れてたのかもしれない。私的には、挑発的な意味で作ろうとかそういうのは全く無かったんだけど。ただ、それが本当に美しい形だと思ったし、ちょっと面白いかなぁと思って。ね、私たちはもう大人でしょ?
レイチェルの作品を見ると、全体的に、女性的でセクシーで誘惑的だと思うの。シンボリズムをテーマに仕事してるとも思う。自分では、美意識について、どういう風に思ってる?
私は本当に古典的なものに興味を持ってるわ。あなたがすぐに理解したように、シンボルとか…。例えば、この唇は、決してピンクでもオレンジで も紫色でなくて、絶対赤じゃないといけないの!

私は、なんとなく20年代、30年代、それからそれを伴う全てのものが好きなの。鏡と組み合わされたパースペックス、電子技術の始まり、さらにはもっと前のメトロポリスのようなものとか…。そんな風な当時の未来イメージを、綺麗に工芸化したものに惹かれるわ。
レイチェルのイメージって、凄くシンプルであって、なめらかよね。
…それは、魅惑的な物への愛から来てると思うわ。これらのイメージに関しては、私がアイデアすべてを描いて、その後フォトグラファーのダンと一緒にやることが決まったの(以前、The Musicで一緒にやってたし)。その作品では、光と影、つまり30年代のフィルム・ノワールのような、劇的な照明が欲しかった。私の英雄は「ショッキング・ピンク」や、黒いスウェードと赤のワニ皮、爪を使ったsurreal glovesを生んだエルザ・スキアパレリなの!とてもシックなものと何か破壊的な物とを合わせて、何てグラマラスで、美しいものを作るんだろうって思うわ。
私は何か美しい中にも、ファンタジーの要素と破壊分子を含んだものを作りたいと思ってるの。上位ファッションにおいてね。例えばシャネルみたいに!

子供がするような事にも刺激を受けるって聞いたんだけど?
そうなの!絵や彫刻…それから、インターネットで子供を対象とした凄く面白い事やプロジェクトを見つけるの。私は、手作りのものや工芸品に本当に惹かれるのよ。この仕事の選択では、あんまり表れてないかもしれないけど。
ううん!とんでもない!(笑)
でも本当なの!私は、多少間違った…っていうか、きちんとしてない物が好きなの。風船のオブジェとか。そう言えば、オズの魔法使いのあるものを見つけたのよ。それがすごいの!風船で作られた虹の前に雲があって、虹の間から町が見えるの!

そんな物凄く巨大なものなのに、オフィス・スペースで作成されていたなんて!?正直、おかしいでしょ。私が関わるどんなプロジェクトも、この風船のオブジェのウェブサイトのように見えてるって自分で感じるわ。でもまだ風船は私の作品に出てきてはいないけどね。
昨年末に、コカコーラのプロジェクトのプレゼンがあったの。それは風船を使ったものだったんだけど、残念ながらダメだったわ。
私は、いつか子供達と一緒に世界を創設して物づくりをするプロジェクトをやる夢があるの。
新婚さんだし、自身の子供を作る事も可能ね☆

そうよね。
ありがとうレイチェル!あなたと話せて凄く嬉しかった!
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はじめまして!僕はファッションにおけるセットデザイナーを目指している者です。今回のレイチェル女史のinterview大変興味深く読ませて頂きました!日本でセットデザイナーとして活躍するためにはまずどういった場所への就職先がありますか?結構真剣に探してます。でも、今の僕の情報網だとどこで創られているのかよく分かりません。どうか糸口となるようなコメントいただけないでしょうか?
Posted by: まないた @ 9月9日2009年