
少し前の事になるけど、キョウコと一緒に文化庁メディア芸術祭のオープニングに行った。当然のごとく面白い人が山ほどいてワクワクしたけど、Pingでおなじみの顔ぶれも見かけた。審査委員の一人としてステージに上がっていた明和電機の土佐信道さんや、Hifanaのミュージック・ビデオで優秀賞を受賞したクルーズ(+cruz)など、いろいろな人と話が出来て楽しかった。
作者:ウレシカ
訳:キョウコ
そんな風にたくさんの人に出会ったこの日だったけど、メディア・アーティストの宮原美佳と杉本達應の二人組が特に私の関心を引いた。そう、二人が作り出したMovie Cardsという映像編集への新しいアプローチが!映像編集というと、昔はもちろん実際にフィルムに触れながらカットしたり、はりつけたりの手作業だっただけど、それはもう遠い話になった。今やフィルムなしで、コンピュータ・スクリーン上で出来てしまうこの作業だけど、あまりにも抽象的になりすぎて今度は「編集の作業とはなんぞや」という編集の本質が、分からない人が結構いるようだ。

たしかに iMovieなどのソフトウェアを使えば、映像編集は、これ以上ないってくらい簡単で、説明を読む必要がないくらいだ…でも、自分をだますのはよそう!私は、すでに長い事コンピュータに慣れ親しんできたし、それにFinal Cutなどの本格的な編集ソフトの講義だって受けた。だから、「タイムライン」とか「ムービークリップ」とか「ライブラリ」などの言葉には慣れっこだし、何より、実際のフィルムを使っての編集をしていた時代の事をはっきり覚えている。でも、今の子どもたちはどう?きっと「フィルム」って言葉に対する感覚が私たちと違うんじゃないかな?きっと、録音ボタンを押したあとに一体何が起こっているのか理解できないだろうし、どうやってクリップをつくって、どうやって「場面」の順番を変えるのか、分からないんじゃないかな。

そんなわけで、以上がデジタル世代の子どもたちが直面するかもしれない問題だ。一方で、映像編集の話をするとき、私のかわいそうなお父さんの顔が思い浮かぶ。彼は、子どもの頃からSuper8カメラ(8ミリカメラ)で撮影を続けてきた。そして、自分の作品を完ぺきに編集するために本当にながーい時間を、暗室で過ごしてきた。これらの作品を見るたびに、「昔の編集技術はなんて優れていたんだろう」と毎回びっくりさせられる。そしてなにより、胸が痛む。だって、お父さんは撮影も編集もあきらめてしまったから。理由はデジタルカメラでは、実際にフィルムに触れないから、だった。
そこで、宮原美佳と杉本達應が作り出したMovie Cardsの存在が私の胸を躍らせた。独立行政法人情報処理推進機構「未踏ソフトウェア創造事業」の支援を受けて開発されたこのプロジェクト、きっと両方の問題を解決してくれるに違いない!このプロジェクトでは、デジタルになって曖昧だった”フィルム”が、もう一度、手で触れる事ができるものになっていた。そう、紙のカードに!

どのようなコンセプトか説明してみたい
- なんでも好きなものを、デジタルカメラで撮影する。
- カメラをMovie Cardsのソフトウェアがインストールされたコンピュータにつなぐ。
- Movie Cardsのソフトウェアで、撮影した映像をカードとしてプリントできる。(そんなわけでプリンターは必要)このカードには、撮影した場面場面の一番最初の画像があわられる。

カードを印刷

カードを、正しい順番でスキャンする
- カードをつかって、物語を作りたい順番に並べ替える。
- カードにはそれぞれ小さなQRコードかバーコードが付いており、スキャナーかバーコード・リーダーを使って、カードを順番に読み取っていく。
- モニターで試写。出来た!(…もしくは、もう一回アレンジのしなおし)

楽しそうでしょ?え、まだ編集ソフトとしては満足できないって?おっしゃる通り。
確かに、カードをつくって遊びながら映像を完成させていくのは素敵な考え方だと思う。でも、実を言うとちょっとまだ複雑な気がする。だってたくさんの機材がいるんだもん。(カメラでしょ〜、プリンターでしょ、スキャナーでしょ、そしたコンピュータも!紙とインクだって必要だし。)

このカードをつかったアプローチは、子どもたちが「過程」を理解する手助けにはなると思う。クリップをアレンジしたり、順番を変える事で、物語の印象ががらっと変わったり…。

でも、今までの編集ソフトに代わるものとは言いがたい。だって、Movie Cardsでは順序は変更できるものの、実際にこまかく場面を「カット」して行く事が出来ないからだ。チッチッ、これが出来ないんじゃ、「映像編集」とは呼べないな。
そう思ったあなた、心配しないで!別バージョンがあるんだから。Movie Cardsの進化した形、それは映像を全部フレームでプリントできちゃうというものだ。(実際に、一秒間に何フレームぐらいの割合で印刷されるのかはちょっと分からないんだけど、でも、普通の人が映像上で何が起こっているのかを知るのには十分な数がプリントされる。)
みて!まるで本当のフィルムを手にしているみたい!

印刷されたフレームには、フレームごとにバーコードがプリントされているので、好きな部分だけスキャンすればフィルムを実際に切る必要もない。
うむ。これで、本当の編集行程に近づく事ができた。でも、ここでまた反対意見を差し挟ませてもらうならば、ちょっと紙がもったいないな〜、と(だって、多くの紙がゴミ箱行きでしょ?)

それに、自分の使いたいフレームを全部切りとって、「フリップブック」つくって観察する事をおすすめしているようだけど、子どもにとっては楽しそうなこの作業も、長く映像編集を続けて行きたい人にとっては、問題解決になっていないような気がしちゃうんだよな〜。

あ、でも開発者の二人の目的は、優れた映像編集ソフトを作る事よりも、いろんなところでワークショップの開催をして子どもたちに「映像とは意図的に編集できるものなんだよ」という事を教え込む事だから、私の不平は的外れかもしれない。それに、もし、私が今子どもだったら、こんな風にして映像編集について学べたらどんなに楽しいだろうと思う。

常日頃感じているんだけど、デジタルの時代になって、いろんな物事が「オリジナル」の形から離れて行き、どんどん抽象的なものになって来ている。そのうち「もともとのやり方」がどんなものだったか、みんな忘れてしまうだろう。
世の中には、デジタルでテクノロジーよりの人間(生まれながらにして、デジタルという抽象的なものを理解できる頭をもつ人種)とアナログで触感を信じる人間(何かを理解するためには、最初に実物をみたり触ったりする事が必要な人種)が存在すると私は思う。お互いの間には暗くてふかーい溝があり、それが年々大きくなっているようだし、この違いというのは、単なるジェネレーションギャップではない気がする。
「ああ、このままでは人類は2つに分裂してしまうわ!」とまでは言わないにしても、「触らないと理解できない人種がいる」という事に、もっと注目があつまってもいいんじゃないかなぁ、と思うのだ。体と感覚をつかって覚える事が好きな人だっているんだから!
デジタルの製品によって作りだされたこのギャップをなんとか埋める事に、もっとたくさんの人が働きかけたらいいのになぁ。例えば同じデジタルでも、もっと手を使って編集できる製品があれば…私のお父さんも、もう一度カメラを手をのばすかもしれない!
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Posted by: goruntulu sohbet @ 7月22日2011年